第8話 娘


 リグレットは、デウスギアの居城、エデンズ・アークへ向かうバス型宇宙船に乗っていた。

 そのバス型宇宙船には、チラホラとデウスギアが発展を遂げたレイノ町の人達も乗っている。

 男女混合の町の人達は、キレイなドレスやスーツを纏い、その服には様々な機能が備わっている。所謂、システム式洋服でデウスギア達がいるエデンズ・アークへ行く。


 町の人達は、エデンズ・アークへ行くのが当然という雰囲気だ。

 エデンズ・アークへ行き、様々な物資交換や技術の交流、政治管理に関する提案。

 デウスギアは、威圧的な支配者ではない。

 人の話を聞いて合理的に判断する。

 人々が求めているモノやシステムを、糸も簡単に作り出し提供、そのデータのフィードバックを行い、効率化する。


 更にこれから、レイノ町は発展するだろう。それをベースに、他の町までその手段を伝えて生活をこのレイノ町のように超未来都市にさせる。


 リグレットは圧倒的なデウスギアの手腕に、尊敬の念が沸き起こる。

 そして、そんな殿方の傍に入れるなら…。


 リグレットが窓の外を見ると、青い空を抜けて大気圏の遙か上、宇宙に鎮座するこの世界を覆い尽くす程に巨大なデウスギアの城が見えた。

 世界を支える程の天蓋を広げるエデンズ・アークを見て、リグレットは

「始めから…存在している世界が違っている」

と、ますます尊敬の念を強める。


 広がるコロニーの一つにバス型宇宙船が到着して、巨大な宇宙港に入る。

 バス型宇宙船から、リグレットが下りると、頭上からミラエルと同じ大天使族が降りて

「リグレット様。お待ちしておりました」

と、大天使族の彼女達二名は微笑む。

 リグレットが戸惑いを見せ

「お待ちしていたとは…?」

 大天使の彼女達は

「はい、リグレット様がこのバイパスシップに乗って、こちらに向かっているのを、こちらで確認していましたので…。恐らく、何か我々に救援の要請があるのでは…と」

 もう一人の大天使の彼女が

「それと、我々からのリグレット様にお話しがありまして…」


 リグレットは肯き

「そうですか。丁度良かった。こんな大地より大きな城では迷ってしまいますので…。案内があって助かりました。そちらの言う通り、我らサマリア王国の支援に関してのお願いと…個人的な要望がありましたので」


 大天使の彼女達は微笑み

「よかったです。では…」

と、頭上から一台の八人乗りの無重力車が降りて

「これにお乗りください」

「はい」

と、リグレットは乗車すると空を飛び、それに大天使の彼女達が付き従って飛翔する。

 時速としておそらく…数百キロは出ているだろう。それでも、まるで地面にいるかのように安定した動きをする。

 揺られているのがウソに思えてしまう。


 リグレットは無重力車に運ばれる最中、エデンズ・アーク内を見る。

 広大な敷地、そして、巨大な質量を持つ巨神の兵器達。

 レイノの火山を圧倒的に制圧した時に、バエルが言っていた。

 この程度は、我々にとって僅かである…のが過ぎった


「はぁ…」とリグレットは溜息を漏らし

「直ぐにでも、我々程度の世界なら取れる御方達か…」

と、皮肉交じりで告げた。



 そして、リグレットはデウスギアがいる王座のホールに来る。

 そこには、巨大な王座に座るデウスギアと、その忠臣バエルに、ダイダロス、ミカヅチ、アミトにセト、デウスギアの両脇には右にミラエルと左にルシスが立っている。


 デウスギアが王座から立ち上がり

「いや…リグレット王女、ご足労感謝する」

 リグレットは直ぐに、デウスギアの前に来て跪き

「いいえ、こちらこそ…突然の訪問をお許し頂き感謝します」

 デウスギアが、リグレットに近付き肩に手を置いて

「おいおい、君と私の仲じゃあないか…。形式的な挨拶は止めてくれ」

 リグレットは項垂れ

「そういう訳には参りません」

 畏まるリグレットに、デウスギアは王座近辺にいるミラエルとルシスに、バエルとアイコンタクトをする。

 四人は、何か大事でもあったのか…?とミカヅチを見る。

 世界の情報収集は、ミカヅチ達雷神族の担当だ。

 ミカヅチもそれに気付き、首を横に振る。

 重要な情報はない…と。


 デウスギア、ミラエル、ルシス、バエル、ダイダロス、ミカヅチ、アミト、セトの八人はアイコンタクトを取り合い、意思を一致させる。


 我々の力が及ばない、非常に危険な事態がある…と。

 

 バエルが眼鏡を押さえ

「リグレット王女様、貴女様がどんなに重大な案件を持ってこようとも、我々は協力する体制があります。ですから…どうぞ、お話しください」

 ミラエルが、リグレットの傍に来て手を取り

「リグレット様、大丈夫です。我々、エデンズ・アークは貴女様の味方です。どうぞ…その悩みをお話しください」


 リグレットは再度を頭を下げ

「ありがとうございます」


 それ程にリグレットが追い詰める程の案件に、デウスギア達は真剣が眼差しを向ける。

 リグレットは立ち上がり、デウスギアの手を握る。

 デウスギアが優しく、握り返すとリグレットが

「わたくしを…デウスギア様の側室にしてください」

 

 暫し、間を置いて『はぁ?』とデウスギア達は困惑の声を放つ。

 

 デウスギアは、開いている左手の一つで額を押さえ

「ええ? もしかして…何か強制的な事での婚姻が…起こっているのですか?」


 つまり、知らない最低野郎に嫁がされるかもしれないから、助けて欲しいとデウスギアは判断した。


「いいえ」とリグレットは否定して

「デウスギア様のお話は聞いています。ミラエル様とルシス様は、デウスギア様の伴侶であると…。わたくしは…正妻の地位は望みません。ですから…側室で構いません。デウスギア様の元へ置いてください」

 

 バエルが苛立ちを向けて近付き

「何を愚かな事を言っているのですか? 意味が理解できません」


 リグレットは苦しい顔で

「確かに、ご尤もな意見です。ですが…これしか、わたくしにはありません。わたくしをデウスギア様に捧げます。ですから…このサマリア王国を、デウスギア様の手腕でレイノのように豊かにしてください」


 要するに自分の身を捧げて、自分の国の為にデウスギア達の力を欲しているのだ。


 何とも太古の昔のような考えだ。


 デウスギア達は頭が痛くなった。

 バエルが「はぁ…」と溜息を漏らし

「リグレット王女、貴女様がそんな愚行をしなくても…我々は貴女様に協力するつもりでしたよ」


 リグレットはハッとする。

「ええ…ええ」

 デウスギアは、立ち上がって背筋を伸ばし

「我らエデンズ・アークの目的は、システム…世の中の機構として世界に広がる事だ」

 リグレットは困惑を浮かべ

「それがどのような…利益がデウスギア様にあるのですか?」


 デウスギアは多腕の一つを組み

「我々、エデンズ・アークは、このように世界を開発するのは、一度や二度ではない。今回は初めて…君達のような知的生命体がいる世界に、何らかの事故で来てしまった。今現在、元の場所には戻れない。だが…我々のやるべき事は変わらない」

 バエルが

「我々、エデンズ・アークは、この世界に生きる知的生命体達と共に、この惑星…この世界を開発、そして、この世界の住民達と共に宇宙へ羽ばたき。また同じように惑星を開発する。世界を開発する宇宙民という存在なのです」

 ルシスが来て

「ですが、元の場所とのリンクが切れて、我々は限られた人数しかおりません」

 セトが

「だから、この世界にいる人達と共に、一緒に宇宙民になるんですよ」

 アミトが

「アタシ達は、強引な手段で、世界を変えようとは思っていないよ」

 ダイダロスが

「納得の得られない事は、多くの争いや問題を生む。それは貴公達の重々承知なはず」

 ミカヅチが

「まずは、大きな街の一つを、そこに住む住民の合意の元で、開発に成功した。次は…このサマリア王国全体に広げて、そして…さらに隣国といった諸外国にも開発を広げる予定だ」

 ミラエルが

「ですから、政治的な繋がりの為にリグレット王女様に我々が出来る支援をさせてくれと…頼もうとしていたのですよ」


 リグレットがハッとするも頭を振り

「ですが…私には、デウスギア様に見返りを提供できる自信がありません。ですから」


「だから」とデウスギアは呆れ口調で

「自分の身を捧げると…」


「はい」とリグレットは肯き

「どうぞ…わたくしを…」


 デウスギアは渋い顔をして額を多腕の一つで押さえ

「リグレット王女。そういう話は止めて欲しい」


「ですが!」とリグレットは喰らい付くと、デウスギアが鋭い目をして

「騒がないで欲しい。ミラエルとルシスのお腹には…私の子達がいる」


 リグレットはハッとして、近くにいるミラエルを見て

「申し訳…ありません」

 ミラエルは微笑み、デウスギアの子がいる腹をさすり

「大丈夫ですよ」

 

 デウスギアが鋭い口調で

「妻達、ミラエルとルシスは…そう言っているが…。二人とお腹の子達の為に負担をかけたくない。そういう負担を掛ける発言は…しないでくれ」


 リグレットは項垂れ

「申し訳ありません」


 デウスギアが頭を悩ませ

「リグレット王女…君のような素晴らしい女性は、何時もそうやって自己犠牲をする。確かにそれは、尊いかもしれないが…。君が自分の価値を下げるという事は、君を慕っている彼女達親衛隊や、家族まで、君が卑下されたして悲しむぞ! 私はそれを認める事は出来ない。

 もっと、自分の身を大切にしたまえ!」


 リグレットは項垂れつつフッと笑んでしまう。

 まるで、自分を大切にしてくれる父、サマリア王のようだった。


 デウスギアは背を向け

「リグレット王女…少し、頭を冷やして来たまえ…」


 リグレットは肯き「はい、失礼します」と水晶の王座から去って行った。


 リグレットが去った後、バエルが頭を抱え

「何ですか? あのような原始時代的な考えは…」

 呆れているとミラエルが優しく

「それ程に、この世界は追い詰められているって事よ。バエル」

 ミカヅチが厳しい顔で

「ミラエルとルシスが、デウスギア様の妻となり、デウスギア様の子をご懐妊して、さらに今回の都市部開発まで順調という時に…。一番に驚いたわ」

 ダイダロスが目を閉じ瞑想する感じで

「だが…覚悟は感じた。それ程までにデウスギア様のお力と手腕が欲しかったのだろう」

 ルシスが微笑み

「でも…それ以外もあったかもしれませんね」

 デウスギアが顔を引き攣らせ

「ええ…つまり…好意があったと? そういう事か? ルシス…」

 ルシスは満面の笑みで

「はい! デウスギア様は優しいですから」

 デウスギアは顔を引き攣らせ

「いや…それは…ないと思うなぁ…。このゴッツい体で好きになってくれるなんて、ミラエルとルシス以外、あり得ないだろう」

 

 ミラエルとルシスは互いに視線を合わせてフッと笑み、ルシスが

「そんな外見なんて男女の関係では、意味ないですよ」


 デウスギアは脳裏に、中山 充時代の外見で差別されていた人間時代が過ぎる。

 人間は、残念な事に外見で全てが判断される。

 どんなに優秀な人間だって外見が悪いと、使えない人間として判断される。

 どんなに能力がなくて性格が最低でも、外見が良いと優秀で人格者に判断される。


 だから、外見で判断しないエデンズ・アークの彼らを見て、デウスギアは常々、人間の外見だけで判断する愚かさを思い出す。

 そして、そういう事を言ってくれるミラエルとルシスを妻にして本当に良かったと…今日も二人に感謝する。

 まあ、エデンズ・アークでは様々な種族がいるので、外見での判断に意味は無い事もあるが…。


 デウスギアは首を残念で傾げ

「バエル、少し…散歩してくる」

 バエルは、デウスギアが先程の事で頭を悩ませているのを察して

「分かりました。どうぞ…気晴らしをしてください」

 デウスギアが、ミラエルとルシスの妻達を見て

「一緒に散歩しないか?」

 ミラエルとルシスは、フッと笑み

『はい、行きましょう』

と、デウスギアは妻達を連れて、レイノの街中を歩く事にした。



 頭を冷やせと…リグレットは、再びレイノ街へ戻ると、バイパスシップの駅に王狼がいて

「どうじゃった?」

 首尾はどうか?と


 リグレットは苦笑いをして

「もっと自分を大切にしろって怒られました」


 王狼はフッと吹き出し

「はははははは、そうか…自分を大切にしろか! 全く、リグよ。お前と同じ甘ちゃんな連中じゃなぁ…」

 

 リグレットは笑みつつ

「怒られた時に、お父様のような感じを受けました」


 王狼はニヤニヤと笑み

「そうか…なら、少しは考えんといかんのぉ…」

「はい」とリグレットは頷いた。


 同時刻、別の場所ではとある貴族の一団がこのレイノ街へ到着する。

「なんだと…」

と、その貴族の一団にいる主の貴族の男性は、驚愕に包まれていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇


 未来都市になったレイノ街に来たのは、サマリア王国でも大きな派閥の一つに属する大貴族の一人、レイヴァン侯爵だ。

 レイヴァン侯爵は、連れて来た部下達と共に、通り掛かる周辺農場を見て驚愕する。

 見た事もない巨大な農業機が広大な畑を管理している未来農園に、度肝を抜かれる。

 農園を管理している作業者が、右腕にある立体映像端末を操作して、農園の状態管理と、今後の気象コントロール衛星アマテラスの日程を確認して、最適な肥料や植え付け、水の管理を行い、収穫時期まで算出して行動する。

 巨大な農園を、一人が幾つもの巨大農業機器と、ロボットスーツを使って管理する様相は、まるで…ここが火山で貧困に困っていた港街とは思えなかった。


 そして港街レイノへ入ると…そこは未来都市だった。

 無質量化フィールドを発生して空を飛ぶ車両達。

 キレイな外壁とデザインの清潔な街。

 地面は柔らかい陶器調のセラミック道路。

 街の人々の様相は、様々な情報システムや機能が整った機能服を纏う洗練されたデザイン。

 大貴族の一団である自分達がみすぼらしくなる程だ。

 街に入り、喫茶店に入る。

 近代的で清潔な店内、どれもこれも置いてある品々の技術力が桁違いに高い。

 レイヴァン達は戸惑いつつも、レイヴァンが

「すまん、注文を…」

と告げた瞬間、テーブルの一人一人にメニューの立体画面が出る。

 おおおおおおお!

と、レイヴァン達が声を上げていると、店員が来て

「もしかして、街の外から来ました?」

 レイヴァン候が肯き

「どうすればいい」

 店員は微笑み

「そこに出ている映像を触ってもらえば、注文の品が届きますよ」

 レイヴァン達は戸惑いつつ、立体映像をタッチして1分後に円盤型の浮かぶテーブルロボットが来て、注文した品々をタッチした者達の前に置いて、円盤から立体映像の店員が出て

「どうぞ…ごゆっくりと…」

と、お辞儀した。


 レイヴァン達は驚愕に唖然とするも、注文したコーヒーやケーキを口にすると

「うまい…」

と、全員が驚きを告げる。

 レイヴァン候が

「信じられん、宮中でもこんなにうまいモノを食べた事がない」

 

 食事を終えて、レイヴァン達は帰ろうとする。

 うまかったので高いと思っていたら、普通の店と同じ値段だった。

 そして、会計にも驚く。

 会計は、住民が何かの装置にタッチして、出て行く。


 レイヴァン候が会計する店員に

「あの男性は貴族なのか? お金を支払わないで会計をすませるなんて…」

 店員が首を傾げた後、ハッとして

「ああ…街の外の方ならネットワーク通貨管理を知らないのですね」

 レイヴァン候が戸惑いを見せ

「んん? ねっと…んん、管理」

 店員は微笑み

「この町の人達は、街の通貨を管理するバンクシステムに自分の個人情報を登録しているんですよ。そのバンクからお金が支払われるので、お財布なんて持っていませんよ」

 レイヴァン達は、またしても驚愕する。

 

 そして、通貨しか持っていないレイヴァン達は、困っていると店員が

「通貨でも支払えますので…」

 金額がレイヴァンの前に立体映像で投影されて、レイヴァン達が払うと、取り込んだ機械から正確なお釣りが出て来た。


 レイヴァン達は外に出てキョロキョロする。

 本当に街が別物に変貌してしまった。

 だが、僅かだが…街の雰囲気が残っている所もあるので、レイヴァンの部下が嘗ての貧困の女性達が売春宿をしていた市街を通ると、そこには売春宿の店はなかった。

 花屋や、スーパーに書店、そして、機械製品を置く大型店舗。

 もう、売春街は存在していない。


 レイヴァンの部下が

「ここが、本当に魔王級のバケモノが住む火山に悩まされて苦しんでいた街だったんですか?」


 レイヴァンは困惑しつつ

「とにかく、レイミリア殿がいる屋敷へ向かうぞ」


 


 レイヴァン候はレイミリアの屋敷に来るとホッとする。

 それは…今までの木造の屋敷なのだ。

 未来都市の街に困惑していたレイヴァン達は、何故か…安心してしまった。

 そして、門の前に来るとレイヴァン候は周囲を見て

「門番は…」

と、告げた前に立体映像の女性が現れ

「どちら様でしょうか?」

 

 おおおおおおお

 何度目かの驚きを向けるレイヴァン達に、立体映像の女性は苦笑して

「あの…どちら様で…」

 レイヴァンは踵を正し

「ご連絡をしたルディン領地の一団です」

 立体映像の女性はハッとして

「はい、今、玄関を開けますので」

と、オートで玄関の門がスライドして開く。

 外見は変わっていないが、中身が全く別物になっていた。

「どうぞ」

と、立体映像の女性が呼び掛けて消え、開かれた門の先に行くと、道の両脇に誘導するようにライトの昇る点滅が玄関まで続く。


 レイヴァン達が玄関に来ると、自動で開き広間には先程の女性とレイミリアがいた。


 レイミリアが微笑み

「ようこそ、レイヴァン侯爵」

と、レイヴァンと握手して

「何が起こったのですか? レイミリア子爵」

 レイミリアは微笑み

「素晴らしい方のお力をお借りしたのです」



 レイミリアの屋敷の応接室に通されたレイヴァン候はソファーに座り、顔を驚きで拭った。

 今までの説明が受け入れられない。

 魔王級がいる火山を、魔王ごと粉砕、その後はその火山跡から取れる資源を使って、このレイノ街を未来都市化して、現在に至る。

 遠方で話には聞いていた。

 信じてはいなかった。

 だが、こうして来て見るとそれが本当であると…。


 レイヴァン候が

「つまり…デウスギア殿は…このレイノ街のような機能都市の機構を広めて、世界を発展させ、後々にこの世界と同じ規模の別の未開世界へ渡り、開発を行う者達をこの世界の住民から構成させる…」


 レイミリアは肯き「はい」と告げた。


 レイヴァン候は信じられないと頭を振り

「そんな強大な力を持っているなら、世界を取れば早いはずだ」


 レイミリアは悲しげな顔で

「レイヴァン侯爵。それが一番の愚行なのです。世界を力で統一しても…結局は暴力の連鎖は止まらない。その事をデウスギア様は重々承知なのです。力ではなく自分達の生活、環境を変えて進歩させる事こそ、一番に世界を平和にして繋げるのです」


 レイヴァン候は苦しい顔をして

「そんなの理想だ!」


 レイミリアはレイヴァン候の隣に座り

「レイヴァン侯爵、このレイノの事は現実です。デウスギア様は強大なお力を持つからこそ、それが一番の合理的な方法であると、分かっているのです。どんなに力で押さえ付けようとも、どんなに崇高な教えを唱えようとも、世界は変わりません。苦しんでいる我々の生活を、環境を変えなければ…世界は救われないのです」


 レイヴァン候は頭を抱えた次に

「レイミリア殿、デウスギア殿と話がしたい」


 レイミリアは肯き

「その方が良いでしょう」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 デウスギアはレイノ街に降りてセラミックの道路をミラエルとルシスに妻達と共に歩く。

 地面がセラミックの道路のお陰で沈まない。

 いや…最高!

と、嬉しさを噛み締める。

 土の大地だと、確実に数センチは自重で沈むから、自分って太っているのか?と悩んでしまう事もあったが、やはり、セラミックの道路、強い!

と、満悦で妻達と共に散歩していると、孤児院の教会に来る。

 その教会には、ジャンヌ達孤児が保護されている。


 デウスギアが

「ジャンヌ。いるかなぁ…」

と覗くと教会に数名の教会関係者達が玄関先でいるのが見えた。

 デウスギアは、誰だ?とデータチェックすると、何と!教会の教皇の一団だった。


 ピンとデウスギアの通信にバエルから

「デウスギア様、孤児院教会よりお呼びが…」

「ああ…今、目の前にいる。向かう」

と、デウスギアが孤児院教会に来ると、教皇の老女が近付き

「デウスギア様…おおお」

と、手をさし向けるので、デウスギアも多腕の一つを差し出し

「どうも…初めまして…エデンズ・アークの主、デウスギアと申します」


 教皇は尊敬の眼差しで

「わたくしは、このサマリア王国があるレールピア大陸一帯の教会達のまとめをしている教皇のヨハンナ・マインツと申します」

 デウスギアは高すぎる頭を下げ

「初めまして、ヨハンナ教皇様…」

 ヨハンナ女教皇は

「この度は、デウスギア様にお礼を申し上げる為に来ました」

 デウスギアが困惑を見せて

「いや、お呼び頂ければ…そちらへ…」

 ヨハンナ女教皇は首を横に振り

「我らカロック教会に多大なる支援、こちらこそがお礼に参るべきです」

「はあ…」

と、デウスギアは困惑する。

 そんな多大な支援したっけ?


 デウスギアは分かっていない。

 このサマリア王国があるレールピア大陸の教会全体に、潤沢な程の援助物資を送っているのは、自分達が生産する余剰分を分けている程度なのだ。勿体ないから使って貰おうと…。

 まあ、余剰分だけ、レールピア大陸にある国の七つくらいは、余裕で維持できるから、相当な余剰である。


 デウスギアが

「まあ…ここではお話は何でしょうから…」

と、孤児院を運営するディナを見ると、ディナは微笑み

「どうぞ…中へ」

 察してくれた。


 その後、中の礼拝堂で色々な事を話し合う、今後の支援に関しての物資の事、その運用の事、多岐に渡って話す。

 デウスギアにとって、その話し合いは想定内の部分が多かったので、一種の確認作業のようにこなし、最後は、教皇と手厚く握手を交わして終わった。

 共にいたミラエルとルシスに

「今の会話は…」

 ルシスが肯き

「録音して、文章にしてあります」

 デウスギアは肯き

「そうか…」

と、ジャンヌに会いに来たのに仕事をしてしまった。

 

 デウスギアは、同じく傍にいるディナに

「ジャンヌは…」

「ここだよーーー」

と、ジャンヌは柱の陰に隠れていた。

 デウスギアがニコニコと笑っているジャンヌに近付き

「遊びに来たぞ…」

 ジャンヌは嬉しげに「うん」と頷いた。

 ジャンヌの格好は、あのボロボロの少年ではない。

 キレイなドレスの少女だ。

 キレイな顔立ちだったので、やっぱり女の子らしい格好をすると、かわいらしさが倍になる。


 デウスギアは、ジャンヌと一緒に会話をしたり、チェスをしたり、時間を過ごす。

 とても贅沢な時間だ。

 孤児院のブランコ式チェアーに座るジャンヌと、それをゆっくりと押すデウスギア。

 それは…見方によっては…巨人が小さな子供と遊んでいるシュールな光景だが…デウスギアにとっては幸せな時間だ。

 デウスギアが周囲を見渡し

「そう言えば…子供達は?」

 ジャンヌが俯き加減で

「みんな…貰われて行っちゃった」


 ジャンヌが面倒を見ていた孤児達は、この新設された孤児院に引き取られ、面倒を見ていたが…そこへ、多くの夫婦達が来て孤児達を引き取っていた。

 23世紀の未来都市化して生活が安定し、余裕が生まれた夫婦の脳裏に過ぎったのは、口減らしに為に手に掛けた我が子達だ。

 それが罪に問われると…言えば微妙だ。

 それ程までにデウスギアの手腕によって未来都市でなかったレイノ街は困窮していたのだ。


 その困窮の心配が消えて、生活に余裕が出て来ると、どうしても…自分達が育てられなかった赤子達が過ぎるらしい。

 そんな時、孤児院の子供達が公園や色んな所に来て遊んでいるのを見ると、無性に…惹きつけられるようだ。

 何度も何度も孤児院にお願いしては、引き取ろうとする夫婦が現れ、それに関してどうするべきか…住民の意見を元に、審査という形を取り、虐待の心配がないと判断され、更に月に数回の面談や調査を受け入れるという事で、孤児達の引き取りを開始した。

 それに…沢山の夫婦達が応募して、孤児が新たな両親の元へ行った。


 街の医療は、無料で完全にデウスギア達が管理している。何か虐待の兆候があったら…対応をするし、新レイノ街の様々な街灯や、街角には、多数の探査カメラが設置されて治安は維持されている。

 犯罪率は激減し、上手く行っている。

 本当に街は変わりつつある。


 ジャンヌのデウスギアが

「ジャンヌは行かないのか?」

 養子に…と

 ジャンヌは首を横に振り

「アタシは…」

 ジャンヌを引き取ろうとする夫婦はいる。だが…ジャンヌは断っている。

 ジャンヌがデウスギアを見上げて

「……おじちゃん…が…何でもない」

と、言葉を遮った

 デウスギアは察した。

 自分の所へ行きたいのだ…だが…と、デウスギアは口に出来ないでいると、二人を見ているルシスとミラエルが微笑んだ顔を合わせて、ミラエルが

「ジャンヌ…ルシスと私のお腹には…デウスギア様の子供がいるのよ」

 ルシスが

「でね…この子達の為にも。上に優しいお姉さんがいたらなぁ…って思うのよ」

「え…」

と、ジャンヌは少し嬉しげな顔をする。


 ミラエルが

「アナタ…ジャンヌの事…自分の子供のように好きでしょう。私達の家族になって貰えないか? 聞いてみて」

 デウスギアは、フッと微笑む

 察してくれた。言えないお互いの事を二人は分かってくれた。

 デウスギアが

「なあ…ジャンヌ。君みたいな良い子が、私の娘になってくれると…ありがたい。私はこんな存在だ」

と、自分の片方の多腕を見詰める。

「機械的な冷徹な部分がある。だが、人だった頃の暖かい部分を忘れてはいけない。ジャンヌがそれを私に与えてくれると…感じる。だから…私の娘になってくれないか?」

 ジャンヌは、ブランコ式ベンチから飛び降りて、デウスギアに抱き付く。

 それをデウスギアは優しく抱えた。

 ジャンヌが大きすぎる胸に飛び込む

「アタシのお父さんになってください」

「こちらこそ…よろしく頼む」


 ディナはそれを見て貰い泣きしていた。


 こうしてジャンヌはデウスギアの娘になった。


 さっそく、エデンズ・アークへジャンヌを招き入れ、ガーディアン達に顔見せすると、バエルが嬉しげな顔で

「そうですか…娘に…。いや、めでたいことです」

 ミカヅチは格好いい笑みで

「よろしくお願いしますぞ。ジャンヌ様」

 ダイダロスは肯き

「よろしくです。ジャンヌ様」

 セトとアミトが気軽に

『よろしくーーー』

と、ジャンヌに抱き付いた。

 バエルが

「折角の娘なのですから…デウスギア様の因子を授けては…」

 デウスギアは自分の多腕の一つを見詰めて

「ええ…デウスシリーズの因子を…」

 

 デウスシリーズ…デウスギアのように高次元とのゲートを内包して機神となる超位現人機神の事だ。


 デウスギアが微妙な顔で

「いいのかなぁ…こんなゴッツい体になるぞ…」

 バエルが苦笑いで

「大丈夫ですよ。女性なら女性らしいデウスシリーズになるはずですから」


 ジャンヌは察する。

「父さんみたいになれるの!」

 デウスギアは娘に

「いいのか? 私のようにゴッツいになるぞ」

 ジャンヌは嬉しそうに

「いいよ! やってーーーーー」

 デウスギアは何とも言えない顔で

「じゃあ…右手を出して」

「はい」

と、ジャンヌが右手を出すと、その袖を捲ってデウスギアがシールのような金属を握り、それをジャンヌに張る。

「少し、一瞬だけ痛むぞ」

と、シールをジャンヌに張って、デウスシリーズになるナノマシンを入れる。

「う…」と少しだけジャンヌは痛みを感じるも直ぐに消えて

「これで…お父さんと同じ」

「ああ…多分…数週間後には、発露するはずだ」

 それを見ていたバエルが、不意に資料の端末を落とす。

「あ!」


 それを受け止めようと、デウスギアが腕の一つを伸ばす前に、ジャンヌの背後から機神の腕が伸びてそれをキャッチした。

 デウスギアは唖然とする

 ウソ! 早い!

 ジャンヌはそれを見て

「やったーーー もうお父さんと同じ腕が生えてきた」

 バエルがニンマリと笑い

「流石、デウスギア様が選んだ方です。デウスギア様のデウスシリーズとは相性がいいのは当然ですね」

 ミカヅチが嬉しそうに肩を回して

「これなら、武術のお手前を授けるに…早く出来そうですな。なぁ…ダイダロス」

「うむ」とダイダロスは頷く。


 デウスギアは、苦笑いだ。

 多分、バエルの行動も…ジャンヌの適合が早いと見抜いての事だ。

 

 にくいことする連中ばっかりだなあ…とデウスギアは思う。


 そこへミラエルが再び、リグレットを連れて来た。その隣には王狼がいる。


 デウスギアは、リグレットとそのまま面会して

「リグレット王女…気持ちは?」

 リグレットは躊躇い気味に

「落ち着きました。先日は…本当に申し訳ありませんでした」

 リグレットの王狼が

「のぉ…デウスギア殿。アンタ達が途轍もなく頭が良い連中だってのは分かった。だが…アンタ達以外のこの世界の住人のそこまでの頭の良さを…理解できるまでには、時間が必要じゃわい」


 デウスギアが渋い顔で

「つまり…我々の考えは理解できないから…そちらの流儀に従えと…」

 王狼がノラリクラリした笑みで

「郷に入っては郷に従う。形だけでも良い。それで十分じゃ」

 デウスギアが嫌そうな眼をする。

 王狼はそれを見て

「本当に…アンタ…デウスギア殿は良い人じゃ。人の道理ちゅうもんを理解している。賢君という器じゃ。だが…いや、だからこそ…リグレットはそんなアンタに惚の字なんじゃよ」

 頭が痛くなって来たデウスギアは額を抱える。

 ジャンヌは事態が分からないでいると、セトが耳打ちして教えた。


 ジャンヌは、お淑やかにしているジャンヌを見て

「ねぇ…お父さん…私、良いと思うな…」

「え!」

と、デウスギアは驚きの顔を娘ジャンヌに向けた。

 ジャンヌが

「だって父さんは凄い人なんだもん。それにもの凄く優しいし、好きになっちゃう人なんていっぱい、いるよ」


 えええええええ! この巨大なロボットの体を持つ、巨大ロボットのような自分のどこに惚れる要素があるのだ?

と、デウスギアは驚愕と困惑していると、ミラエルがリグレットに

「リグレット王女、わたくしとルシスは、お腹に夫の子がいますので、公私共に夫の傍にいられません。そうですね…安心できるヒトが傍にいて欲しいですね」


 え!とデウスギアが困惑の?が浮かぶ。


 王狼がニヤリと笑み

「と、奥方達も同意しているようだし…どうかのぉ…」


 全員がデウスギアに視線を集中させる。

 後は、デウスギアの判断に任される。


 デウスギアは顔を引き攣らせる。

 怯えた眼をリグレットは向けている。

 これで断ったらリグレットが傷つくのが目に見えている。

 

 クソ…このジジイ…と王狼を恨めしげにデウスギアは見ると、王狼は確信犯の笑みをした。

 デウスギアが腕を組み渋る顔で

「いや…だとしても、だとしても…王族の娘を貰うとして、その辺りの色んな貴族とか王族のしがらみとかあるでしょう。こんな、妖怪ぬりかべみたいな男と結ばれていいのか?」


 王狼がニヤリと笑み

「その辺の後押しは問題ないぞ」

と、告げた次にルシスが

「アナタ…別の領地の方が…面会を…」

 ルシスが連れて来たのは、レイヴァン候達だ。

「初めまして…敬愛なるデウスギア様にお会い出来て光栄にこざいます。わたくしは…サマリア王国北部のルディンより来ました。レイヴァン・アルトス・リーディ・ルディンと申します。ルディン地方の領主で…」

と、デウスギア達を見ると、リグレットと王狼を見て驚きを見せ

「リグレット? それに…オルウ」

と、王狼の本名を告げようとした瞬間、王狼がシーと指を立て口に当てる。

 レイヴァンは踵を正し

「ああ…んん、リグレット王女、それに王狼殿…。どうしてここに?」


 王狼がレイヴァンを見て

「レイヴァン侯爵は、リグレットの母親の腹違いの兄が父親じゃ。まあ…親戚のようなもんじゃ」


 王狼がデウスギアに

「という事で、その貴族の面倒なしがらみの担当を、レイヴァン侯爵がやってくれる。問題ないぞ」


 レイヴァンは戸惑いを見せている、デウスギアは頭を抱えると、リグレットが

「デウスギア様…」

と願うような純真な瞳を向ける。

 

 もう…ダメだこりゃ…

「分かった」

と、デウスギアは全てを受け入れた。

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