第7話 火山制圧


 ヴェルトールであるデウスギアは、ギルドからモンスター退治を請け負う。

 貧民のスラム街を苦しめるモンスター退治を受けるのは、お金にならないので、ギルドの者達は、あまり受ける事はない。

 が…件数は多い。

 数十件分をデウスギア達は、一斉に請け負った。


 そして、それに王狼という老戦士を筆頭にしたチーム、アースドラゴンが加わっている。

 アースドラゴンのチームを後ろに、ヴェルトールであるデウスギアとミラエルにルシスの三人が先を進む。

 ミラエルが

「アナタ…後ろの人達は…」

 デウスギアはヴェルトールの装甲鎧の奥にある瞳を鋭くさせ

「おそらく…実力を確かめるつもりだ」

 ルシスが

「どうしますか? もしも場合は…」

 デウスギアが

「いいや、止めて置け。どうも…知っているようだ。我々の事を…そうなると、もしかしたら…リグレット王女の…」

 ミラエルとルシスが鋭い顔をして

「後で、ミカヅチ達に…」

と、ミラエルが告げると、デウスギアは肯き

「頼む」


 デウスギア達から離れて付いていくアースドラゴン達は、王狼に部下の人族の男アリドが

「王狼様…奴らは…」

 王狼は肯き

「焦るな。おそらく…リグレット嬢ちゃんが言っていた連中だ」

 部下のエルフの男エリシュが

「では…魔皇国マーロリスの…サモンキングの軍団を」

 王狼はニヤリと笑み

「ああ…あの美人に挟まれている男、レベルは65だと…」

 部下でドラゴンハーフのハルゴアが

「はい…両脇の女達は100という」

 王狼はニヤニヤと笑み

「お前等、見ておけ。真の強者ってのは自分の実力をワザと低く見せる。レベルの偽装なんざ。アイテムを使えば幾らでも出来るぞ。あの身のこなし、そして…纏っておる質量の気配、おそろしい…。今まで見た事がない」

 部下のオーガのダンガが

「でも、リグレット王女様の報告とは…容姿が…」

 部下で獣人族の女性の双子、アルとレル、アルが

「多分、姿を変えていると思う。どこか、窮屈そうな動きだから」

 レルが

「やけに、周囲に対して大きく範囲を取っている。つまり、本当の形態じゃない。おそらく…本当の形態は3メグ半三メートル半だと思う。そのぐらいで周囲に反応していたし、偶に掴む距離感が違っていた」

 王狼はニヤニヤと笑みながら

「成る程、リグレットのお嬢ちゃんが言っていた大きさと同じじゃな」


 ヴェルトール達が貧民街に来る。

 そこは夜の風景とは違っていた。

 娼婦街と思われた華やかな明かりの街は、静かな町並みで、向こうに城壁がある。

その城壁の外にある土壁だけの住宅達、そこが貧民街だ。

 おそらく、千数人はいるだろう土の家々。

 その貧民街から、娼婦達が生まれていると…容易に想像ができる。

 そして、貧民街の向こうの遠くには、火山が見える。

 

 デウスギアはヴェルトールの装甲鎧のバイザーから苦しい顔をする。

 ここは打ち捨てられてしまう。人界の外。

 かつて、精神障害者だった自分が過ぎる。

 両脇にいるミラエルとルシスが、デウスギアの様子がおかしい事を察して

「大丈夫ですか?」

「アナタ…」

 声を掛けてくれた二人に、デウスギアはハッとして

「ああ…すまん」

 貧民街に入ると、そこの家の一つから女性が姿を見せる。

「アンタ…」

と、その女性は近付く。

 デウスギアがその女性を見詰めると、化粧気のない顔をだがミランダだと分かり

「ああ…ミランダさん」

 ミランダが近付き

「何をしにここに来たんだい?」


 そこへ「あれ? デウスギアのおじちゃん!」とジャンヌも来た。

 ジャンヌの後ろには、4人の幼い子供達がいた。


 デウスギアは跪き

「やあ…ジャンヌ…元気か?」

 ジャンヌは笑み

「ああ…おじちゃんがくれた食べ物のお陰で、昨日の夜はみんな、腹一杯だった。ほら、みんな、お礼を言ってな」

『ありがとう』と幼い四人の女の子達は微笑みを向けてくれた。

 その頭をデウスギアは撫で

「良いんだよ」


 王狼が近づき

「知り合いかい?」

 デウスギアは立ち上がり

「この現状…何とか出来ないんですかね…」

 王狼は厳しい顔をして

「難しいのぉ…。ここ最近、あの火山も合わせて多くが噴火した。その影響だろうか…夏が来ない年が続いて作物の取れ高も少ないのじゃ。どこもギリギリなんじゃよ」

 デウスギアは固く拳を握る。

 王狼は、その様子を見て

「お主、以外と甘い男なんじゃなぁ…」

 デウスギアが

「色々と…ありましたから」

 と、デウスギアはジャンヌに

「ジャンヌ、今日は…ここに発生しているモンスター達の退治をしに来た」

 ジャンヌが驚きを向け

「本当に! 村長がギルドに頼んでも誰も来なかったんだ。こんな少ない金額じゃあ…って」

「現状を教えてくれないか?」


 ジャンヌから話を聞くと、この貧民街から百メートル離れた森からモンスター達が出て来るそうだ。

 モンスターは主に、火山から出て来る高密度の魔力結晶が何らかの作用でモンスターとなって、この貧民街を襲っているらしい。

 その時、この港町は隔てる城壁を閉じるらしい。


 村長もミランダに連れられて来てくれた。

「本当にですか?」

と、村長は驚きを向ける。

「ああ…」

 デウスギアは頷く。

「一体でも退治してくれるだけでも…」

 そう告げていると、村人が走って来て

「大変だ! 村長、モンスターが」


 デウスギア達が近くの森に来ると高い木々の間から高さ四メータ前後のベヒーモスという獅子のようなモンスターが森を通り過ぎる。

 モンスターは森の中へ消えた。


 共に来た王狼達、王狼が

「御仁、どうするかね?」

 

 ヴェルトールのデウスギアが一歩前に出て

「ルシス。森にいる依頼を受けたモンスターを発見して、マーキングしろ」

 ルシスが

「了解であります。アナタ」

と、告げた瞬間、片手を空に伸ばして装備を召喚する。

 それはルシスとドッキングして戦闘機となった。

 紅蓮の三対の鋼の翼を持つ三メートルサイズの戦闘機が、一斉に森の上空を旋回、持っている探査レーダーで目的のモンスター達をサーチする。

 それをデウスギアの右にミラエルが来て、立体のデータ画面を取り出し

「アナタ…20体ほどの大型をルシスが補足して、マーキングデータを送信しています」

「よろしい」

と、デウスギアは背中に背負う全ての巨剣、セブンソードを投擲して放出する。

 そのソード達が翼のよう刃を展開、森を疾走する。

 デウスギアは、両手を広げるとその両手からガトリング状の四連砲身が伸びる。


 それを見て、周囲は驚きに包まれる。


 デウスギアは告げる。

「まずは…20体を始末する」

 両手の四連ガトリング砲身に光が集束、激しい連射をする。

 幾つも光弾が森の中へ消える。

 その光弾を、投擲して飛翔する剣達が反射、マーキングした大型モンスター達を殲滅する。

 森の中で幾つものモンスターの断末魔と、爆発が轟く。


 森をガンシップモードで飛翔するルシスが

「マーキングした20体の殲滅確認。ですが…小型の…一メートルから二メートルの標的は…」


 連絡を受けたデウスギアが

「ミラエル。私をガンシップモードで接続、ルシルと共に小型サイズの殲滅を行う」

「はい!」

と、ミラエルが答えると片手を空に伸ばし、空間転移ゲートを開き、ルシスと同じくエデンズ・アークからミラエルのガンシップを転送させた。

 ミラエルのガンシップは翼がないロケットエンジンの集合体だ。

 ミラエルはそれとドッキングすると、ヴェルトールであるデウスギアの背面へ接続のリフトを繋げ、デウスギアを連れて飛翔して森へ向かった。

 二機のガンシップが次々と森の中にいるモンスター達を殲滅する。

 閃光と轟音、二機のガンシップによる一撃必殺によって、モンスター達は真っ二つになって転がる。


 その場景に、王狼達や村長とミランダは唖然とする。

 ジャンヌだけは「すげーーー」と喜んでいた。


 全ての殲滅、依頼された60体近いモンスター全てをデウスギア達は一時間半程度で終えた。


 王狼の部下エルフのエリシュが

「そんなバカな。ベヒーモス級が一撃って…。それに60体の魔物を…」

 その頬を王狼が抓み

「信じられんか? だが、現実だ」

 摘まれたエリシュは、頬を押さえていると、デウスギア達が目の前に帰還する。

 デウスギアが村長に近付き

「ご依頼されたモンスター達を狩り終えました」

「ああ…うむ…」

と、村長は呆然としていた。

 ジャンヌがデウスギアの足に飛びつき

「すげーー おじちゃん、何者なの!」

 デウスギアはジャンヌの頭を優しくなで

「ちょっと戦える程度の人さ」


 デウスギアの所業を見ていた全員が思った。

 ちょっと戦えるレベルを遙かに超えている。

 さながら、槍と鎧に魔法の中世の時代に、宇宙世紀のサイコミュ兵器搭載のΝガンダムが出て来たような、圧倒的な戦いだった。


 そして、ギルドに報酬を貰う。

 金貨20枚である。

 その金額は、小型の五体程度なら請け負う値段だ。

 お金がない貧困ゆえに、それしか…お金を出せない。

 大型は、金貨60枚から70枚。値段的に6000万円くらい。

 中型で、金貨30枚から50枚。値段的に1000万円くらい。

 そのぐらい、モンスター退治は危険と隣り合わせだ。


 だからこそ、大型を含めた60体のモンスター退治では金貨20枚では割に合わない。

 本当なら、金貨500枚から1000枚のレベルだ。


 だが、デウスギア達は、その低価格で請け負った。

 そして、全てを倒した。

 それを見ていたアースドラゴンのチームが、他のチームに教える。

 デウスギア達が並大抵ではないバケモノの集団だと…。


 そんな噂を余所にデウスギアは、再び貧民街、スラムに来ると、そのお金を村長に返した。

「これは…」

と、村長は受け取ると直ぐに分かった。

 金貨には見慣れた汚れがある。これはギルドに渡した自分達の報酬だ。

 デウスギアは

「一生懸命に集めたお金なのでしょう」

 村長は首を横に振り

「いけません。これは…貴方達の報酬です。ですから…」

 貧困に喘いでいても、チャンと人の道は通す村長に、デウスギアは

「村長、この村をスラムを、何とかしませんか?」

 村長は驚きを向け

「それは…どういう事でしょう?」

 デウスギアは、鎧のバイザーを上げて

「我々に、ここを救う協力をさせてくれませんか?」



 ◇◆◇◆◇◆◇


 同時刻、リグレット王女達の一団がデウスギアがいる港街レイノへ到着する。

 彼女達の目的は、スラムを襲うモンスター達の討伐だ。

 その現状を聞いてリグレットが親衛騎士隊を連れて来た。

 

 リグレットが港へ降りると

「おお、リグレット嬢ちゃん。元気かい」

 リグレットは声で分かった。

「王」

と、口にしようとしたそこへ、シーと王狼が指を立て

「ここでは王狼じゃ」

 リグレットは肯き

「はい、王狼様。お元気で何よりです」

 王狼は微笑み

「何をしに来たんじゃい?」

 リグレットが苦しい顔をして

「この街の外れにあるスラムを襲っているモンスター達の…」

 王狼はニヤリと笑み

「それなら全て退治されたぞ」

「え!」とリグレットは驚きを向ける。

 王狼が背を向け

「ついて来い。それをやったヤツに合わせてやろう。多分、スラムに行くと言っていたから、途中で合うじゃろう」



 デウスギア達が、スラムから午後の日がある半ばの娼婦街を進んでいた。

 隣には、スラムの村長がいる。

 これから、この娼婦街を収める女性貴族の元へ行く途中で、見慣れた者達が来た。

 デウスギアは直ぐに分かった。

「あ…」

と、告げて近付く者達が、デウスギア達を見て同じ、あ!という顔だ。


 ミラエルとルシスは微妙な顔だ。

 近付くのは、リグレット達だ。

 リグレットがデウスギア達に近付き

「ええ…ミラエル様と…。髪の色は…違いますが…ルシス様?」

 ミラエルとルシスは微妙な笑みをする。


 リグレットは二人に挟まれる人物を見る。

 デウスギアは、ヴェルトールのバイザーを上げると、リグレットは直ぐに分かった。

「な、なぜ…デウスギア様が…」

 デウスギアが

「今は…ヴェルトールとして通っています。リグレット殿」

 リグレットはハッとする。

 身分を隠して旅をするのは良くある事だ。

「申し訳ない。で…いえ、ヴェルトール殿…」

 一緒に来た王狼が笑み

「やっぱり、知り合いか…」

 リグレットは眼を泳がせ

「その…まあ、色々と…」

 王狼は屈託のない笑みで

「話したくなった時に、聞かせて貰えばいいさ」

「すいません」とリグレットは告げ、デウスギアに

「どこへ向かうのですか?」


 デウスギアはスラムの村長を見て

「村長の紹介で、この街を収めている貴族の屋敷に向かう途中だ」


 デウスギア達が向かう貴族の屋敷は、そんなに豪勢ではない。木で建てられた二階建ての屋敷だ。

 村長が門番に告げて通して貰おうとすると、門番が険しい顔をして

「本当に信用できるのですか?」

 村長が

「ですから…レイミリア様に…」

 門番は疑っていると、そこへ王狼が来て

「通してくれんかのぉ」

 門番は王狼を見て

「王狼様…」

 リグレットも来て

「私からもお願いします」

 王狼が

「このお嬢ちゃんは、サマリア王の第三王女なんじゃが…」

 門番が驚きを向ける。

 リグレットが

「サマリア王家、リグレット・ラーナ・サマリアのお願いだが…」


 門番は、屋敷に伝えると、直ぐに連絡を受けて門を開き、一同を通した。


 そして、屋敷の書斎にいるこの娼婦街の統治をしている女領主レイミリアがリグレットと王狼を見て

「久しいですね。お…いえ、王狼様。そして、リグレット王女様」

と、挨拶をした後、後ろにいるデウスギア達を見て

「後ろの方が…ご案内にあった」


 デウスギアは兜を取り、素顔を見せて

「初めまして、ヴェルトールと通っていますが…。その実は、異界渡りでこの世界に来た。エデンズ・アークの主、デウスギアと申します。両脇にいますのは、わたくしの妻で、ミラエルとルシスでございます」


 レイミリアが

「どんなご用件でしょうか?」


 デウスギアが

「単刀直入に申し上げます。ここにある火山の制圧、及び、スラムを含めたこの街の発展のお手伝いを願いに来ました」


 レイミリアが困惑の顔をして

「はぁ? 何を言っているのですか?」

 デウスギアは襟を正し

「ここを苦しめる火山の制圧、そして、この地域の発展の寄与です」


 レイミリアが頭を抱え

「何を世迷い言を…」

 リグレットが

「領主よ。世迷い言ではない。この方なら絶対に出来る。私はそれを目の当たりにしている。本当の事なんだ」


 レイミリアは火山が見える窓から

「あの火山には…」

と、告げた次に微細地震が生じて、火山が小規模噴火、その噴火口から巨大な怪獣が出現する。

 レイミリアは、その出て来た怪獣を見て

「見てください。アレは魔王級とされる巨大モンスターです。アレに勝てるのは二千年前に出現した勇者の一団だけでしょう。それに貴方達が見合うとは思えません」


 リグレットが

「だが、ここまでは…街が…」


 レイミリアが

「今は…サマリア王国のどこもかしこも大変なのです。夢のような事を信じる余裕はありません。それはリグレット王女のサマリア王家でも…そうでしょう」


 ここに暮らしている者達は皆、状況に絶望して諦観していた。


 デウスギアがフゥ…と息を吐き

「では、わたくしが対処しても何の問題もありませんね」


 レイミリアは冷たい眼で

「やれるならね」


 デウスギア

「では、何とか出来た暁に、スラムから火山までの領域を貰っても」


 レイミリアはフッと悲しげな笑みをして

「ええ…出来るならですけど…」


 こうして、レイミリアはデウスギアと書面と地図で、何とかした場合の領地の分配を約束した。

 そして、それは他の三つの領主達にも約束させた。三人とも

「できるならね」

「やれるものならね」

「できるはずないでしょう」

 投げ捨ての答えばかりだった。


 リグレットは現状を見て俯いていると、デウスギアが

「約束を取り付けた。これで…思いっきり出来る」

 リグレットが願う視線で

「出来ますか?」

 ミラエルが

「全く、舐められたものだわ」

 ルシスが

「我ら、エデンズ・アークの力を知らしめるチャンスですわ」

 デウスギアは

「明日、直ぐに行う。連絡を頼むぞ」

『はい』とミラエルとルシスは、嬉しげに告げた。


 

 ◇◆◇◆◇◆◇


 翌日、デウスギアの噂を聞きつけて多くの町民がスラムの入口にいた。

 本当にそんな事が出来るのか?

 野次馬の大半は、冷やかしだった。


 デウスギア達がスラムに来る。

 スラムの住民達が集まり。

「本当に」

 デウスギアは肯き

「大丈夫だ」

 そこにはジャンヌがいて

「おじちゃん」

と、心配げな顔だ。

 デウスギアは優しく頭をなで

「心配ない」

 

 スラムの住人達は、デウスギア達が火山に向かって行き、あの火口から出て来る魔王級を倒すと思っていた。

 リグレット達部隊も、王狼達チームのスラムに来ていて

「デウスギア様…」

と、リグレットが

「わたくし達も討伐のお供に」

 

 デウスギアが首を傾げ

「え? お供?」

 リグレットが

「討伐に向かうのでしょう」

 デウスギアが、人型モードを解除して、あの巨大なデウスギアに戻る。

 周囲が驚きに包まれる。

 両脇にいるミラエルとルシスも元に戻る。

 多翼の天使と大悪魔の二名に、周囲は驚愕する。

 王狼はそれを見て

「やっぱりか…」

 リグレット達は慣れたものだ。

「では…」

 リグレットが親衛騎士隊に指示を出そうとしたが、デウスギアが

「待ってください。私の部隊で攻め落としますので…」


 デウスギアの右にいるミラエルが

「デウスギア様、バエルより…そろそろ到着すると」

「そうか…」

と、デウスギアが告げた次に、周囲が微細震動に包まれる。

 また、地震かと周囲は思ったが、王狼が空を見上げ

「これは…」


 そう、震動の原因は、空から降臨する千メートル級の超巨大戦艦の艦隊である。

 そう、デウスギアのエデンズ・アークの一部の艦隊がこの港街レイノの空を覆い尽くした。


 街の人々が驚愕で空を見上げていると、全長200メートルの機神達が火山の周囲を囲むように千メートル級超弩級戦艦から降臨して着地する。

 その着地だけで地面が軽く地震に揺れる。

 そして、さらに超弩級戦艦から、多くの部隊輸送艦が周囲へ着地、あっという間に火山の周囲を何十万という戦車サイズの機神達が覆い尽くす。


 王狼達やリグレット達は呆然としていると、デウスギアの傍に50メートルの陸戦用戦車戦艦が着地する。

 その陸戦用戦車戦艦の甲板には、機神のダイダロスと雷神のミカヅチ、悪魔族のバエルがいた。

 バエルがデウスギアの前に着地して

「デウスギア様。お待たせしました」

 デウスギアは笑み

「予定時間通りだった」

 バエルは笑み

「ありがとうございます」


 デウスギアにリグレットが

「この大軍隊は…デウスギア様の全て…ですか」

 バエルが不快に眉を寄せ

「はぁ…こんなの我らエデンズ・アークにとって数千万分の一程度でございますが…」

 リグレットは驚き過ぎて…呆然とするだけだ。

 ダイダロスも降りて来て

「デウスギア様、あの火山を完全に破壊してもよろしいのでしょう」

 ミカヅチも来て

「陸地も変えても良いと…」

 デウスギアは肯き

「ああ…あの火山にいる魔王級の本体を露出させろ」

 バエルが

「火山を完全に粉砕した後に発生する粉塵は、アミトとセト達、魔神族達が気象を制御して、粉塵をエデンズ・アークへ回収するそうです」

 デウスギアが

「あのマグマ資源コンビナート、ラピュータの用意は?」

 ダイダロスが

「整っています」

 デウスギアは肯き

「よろしい。では…早速、始めるとしよう」

『は!』と全員が答えた後、行動が開始した。

 

 陸戦用戦車戦艦から通路が降りて

「デウスギア様は、ここでご観覧ください」

 デウスギアが通路を進むと、リグレットに振り向き

「ご観覧希望の方もどうぞ」

 リグレットと王狼達がデウスギアの後に続く。


 そして、デウスギア達が乗り込んだ瞬間、全てが始まった。

 それは世界の終わりのような制圧だった。

 全長200メートルの機神達から、数メートルサイズのミサイルと、光線が火山に降り注ぎ火山全体が大爆発する。

 それに逃れてきたモンスター達が周囲を囲んでいる。デウスギア数十万の機神達の砲撃に殲滅、空を飛んで逃げるモンスター達には、雷神達が操作する数多のステルス爆撃のような戦闘機達が、千メートル級超弩級戦艦達から発艦して、空を飛ぶモンスター達を逃さない。

 火山を粉砕する爆発で生じた粉塵は、遙か上空にいる魔神族達、アミトとセトの部隊が、粉塵を回収、エデンズ・アークへ送る。


 近くにある港街レイノは、人の声さえ掻き消される砲撃と大爆発に驚愕する。

 世界が破滅する程の怒濤の攻撃で、火山にいる魔王級が出現する。

 蛇のような形態だが、表面は歪で、顎門は凶悪だ。

 それは、さながらゴジラ映画のヴィオランテのようだ。


 それをデウスギアが見て

「おお…出た出た」

 隣にいるミラエルが

「どう処分しましようか?」

 ルシスが

「わらわ達が一撃で」

 デウスギアは顎を腕の一つで擦り

「そうだな…ここは一つ、私に格好つけさてくれないか?」

 ミラエル、ルシス、バエル、ダイダロス、ミカヅチは笑み

『お気に召すままに』

と、答えてくれた。

「よし」とデウスギアは腕の一対を握り合わせて指を鳴らし

「では…いくぞ! ギガンティス・ドッラークレス」

 デウスギアの背面から一筋の光が昇る。

 それは遙か空、アミトとセトがいる高度10キロまで到達。

 その光の筋から、巨大な鉤爪が出現する。

 その光の筋を門として全長10キロ級の機神の超龍が出現する。

 その機神の超龍は巨大な腕を持っていた。

 そのサイズは五キロ級だろう。

 その大地さえ作り替える超大陸級の龍の剛腕を振り上げ、デウスギアが腕の一つを掲げ

「潰れろ!」

と、振り下ろした瞬間、空が堕ちてきた。


 機神超龍の大陸級巨腕が破壊された火山地帯を覆い尽くし、魔王級のモンスター事、圧し潰してしまった。

 巨大な数キロサイズのクレータが誕生した。

 役目を終えた機神超龍…ギガンティス・ドッラークレスは、光の門の向こうへ帰って行った。

「終わったな」

と、デウスギアが告げた。

「はい」とミラエルが嬉しげに微笑む。


 そして、ここから、この世界では信じられない事の連発だった。

 火山資源コンビナートのラピュータが五機も降臨して、元火山だったクレータに降り立つと、火山跡地から溢れるマグマを資源や動力源として活用、あっという間に莫大な資材を産み出す。

 その資材を元にスラムの再編を始める。

 土壁の家々が、あっという間に近代的なタイルの機能住宅街へ変貌。

 無料医療所や、学校、公園、各種の公共施設達、工学産業の工業地帯を作り出す。

 僅か、一週間で港街レイノの隣に、地球でいうなら22世紀のような未来都市が完成。

 スラム街の住民は、あっという間に、未来都市の住民となった。

 そこへ、娼婦でしか収入を得られなかった女性達も来る。

 その女性達を全て受け入れて、教育を施し…この新都市グランの住民としての生活が約束された。

 もう、娼婦として生きて行く必要はなかった。


 誰しもがこんな事になるなんて予想できなかった。

 僅か一週間で、こんな機能都市が生まれるなんて、この世界では想像できなかった。


 だから、機能都市の調節をしている中央室にいるデウスギアの元へ、四地区の四人の領主達が頭を下げる。

「申し訳ありませんでした」

とレイミリアが頭を下げると、他の三人も頭を下げる。

 その一人の領主が

「どうか…デウスギア様のご手腕をレイノにも…」

 デウスギアは調節する手を止めて

「まあ、こちらも自分の手の内を見せていませんでしたから…。皆さん。共にやって行きましょう」

 デウスギアの大きな手に四人の手が包まれて握手をした。


 それから怒濤だった。

 まずは、合体した港街レイノと機能都市グランの遙か上空、静止衛星軌道上に気象コントロール巨大衛星を配置して、街周辺の気象をコントロール下に置いた。

 そして、パワードスーツ型農業機を使い、農地を開発拡大して、食料生産を増やす。

 気象コントロールと、火山からの資源を使った肥沃な土を投入、更に、周辺海域へ肥料生産用のタンカー漁獲船を運行させ、大量の肥料を作り出し、作物の増産を後押しさせる。


 その全てをリグレットは見詰めていた。

 呆気にとられている二週間の間に、火山で苦しんでいた港街は、見た事もない未来都市に変貌してしまった。


 リグレットは、信じられないと…街を歩き公園へ来てベンチに座る。

 目の前には、子供達が遊具用の噴水で遊んでいる。

 この子達は、スラムで貧しい生活をしていたはずだった。

 だが、今は…どうだ?

 キレイな服を着て、美味しい食べ物を得て、両親は生活が良くなって優しく子供達を見守っている。

 かつての極貧のスラムなんて存在していたのがウソのようだ。


 そこへ王狼が来て

「リグレットお嬢ちゃん、どうした?」

 リグレットが

「信じられません。こんなあっという間に…」

 王狼が笑み

「確かにワシ等にとっては信じられん。だが…あのデウスギアにとっては当然らしいなぁ…」

 リグレットがベンチから立ち上がり

「デウスギア様の手腕を、父に王に伝えます」

 王狼が

「信じてくれるかのう…」

 リグレットが真剣な眼をして

「サマリア王国には、前の港街のような場所が幾つもあります。その現状を変えられるなら…」

 王狼が

「そうかい…覚悟がいるぞい」

 リグレットが自分の手を見詰め

「この国を良くできるなら…私の身を捧げても…構いません」

 リグレットは、自分を手土産にしてデウスギアに協力を仰ぐつもりだ。

 それ程までの力をデウスギアは持っているのだ。


 当のデウスギアは、エデンズ・アークに戻り今回の成果を皆で検証する。

 水晶の王座で、バエルが

「現在の食料生産ですが…300%に達しました」

 ダイダロスが

「エイソル村との直通の街道の形成が終了しました」

 アミトが

「気象コントロール衛星、アマテラス。順調です」

 セトが

「不確定の気象発生を探知して、修正するシステム、万全です」

 ミカヅチが

「今回の成果に関しての宣伝を周囲の街や領地に拡散させています」

 ミラエルが

「現在、移民を求める住民が多数来ております」

 ルシスが

「増える移民に対しての新たな機能都市構築、問題ありません」


 王座に座るデウスギアが笑み

「順調だ。だが…これによって周辺の国々や、政治勢力の警戒が増える可能性が…」

 ミカヅチが

「それに関する情報の収集も、我ら雷神は怠っておりません。今の所…半信半疑の者達が多いようです」

 バエルが

「いっそうの事、国をとりますか?」

 デウスギアが渋い顔をして

「それが一番簡単だろうが…止めて置け。強大な支配者という汚名ほど、使えないモノはない。我らはシステムとして広がるのみ」

 バエルが肯き

「確かに、面倒なサル山の如き政争には辟易しますから…」

 ミカヅチが

「では、誰か…政治と通じている人物の後押しという感じで、繋がった方が…」

 デウスギアが

「いるではないか…」

『ああああ!』と守護神達が肯きの声を漏らす。

 デウスギアが背筋を伸ばし

「あの甘ちゃんの彼女ほど、我らに適任はいないだろう」


 全員の会議の場へ執事の幽玄が現れ

「デウスギア様…先程、リグレット様が…」

 

 バエルが

「何とタイミングが良い」

 デウスギアが王座から巨体を起こして

「分かった。向かおう」


 そう、今度はサマリア王国の中枢、王家政治への…。

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