第6話 外遊


 デウスギアは、人型になり…まあ、機神人類になってそれを銀色の装甲鎧で身を包む。

 それはさながら、中世風ロボコップのようでもあるが、まあ…良しとしよう。

 ルシスとミラエルは、翼を収納して貰い、ルシスは面が割れている可能性があるので、赤い髪をピンクにして貰い、ミラエルは…そのままだ。

 三人の鎧を纏うチームは、近くの港町に行って、予め入手して複製した魔導金貨を元に、船に乗る。

 船は、アーティファクトの力によって航行する。

 潮風がデウスギアの鎧へ当たると、少し冷たいのが伝わり

「ああ…潮風の冷たさが…」

 両隣には、ルシスとミラエルがいて

「温めましょうか? デウス」

と、ミラエルが言うとデウスギアが

「今は、ヴェルトールだ」

 ミラエルがハッとして

「はい。ヴェルトール様…」

 デウスギアは、兜のバイザーを上げて微笑み

「直ぐにはムリなのは、分かっている。ゆっくり慣れていけばいいさ」

「はい」とミラエルが嬉しげに笑むと、デウスギアの左にいるルシスが嫉妬して

「ヴェルトール様、この船の行き先は…どこでしょうか?」

「ああ…」とデウスギアは、二人の前に立体映像の画面を出して

「なんでも、ここから百キロ先の大きな港町らしい」

 ミラエルが、その立体画面に雷神達が獲得したデータを重ねて

「人口は二万人程度、近くには大きな火山があり、それが…現在、活動中です」

 ルシスもデータを重ね

「その火山の影響にて、死傷者が発生、更に、火山の力によって活性化したモンスター達が跋扈して、その火山の側にあるスラム街には、幾度となく被害が出ているそうです」

 デウスギアはそのデータを見て

「そうか…」

と、何処か悲しげだ。

 日本出身で、地震災害が多い事もあって、そういう被害があると心が痛むというか…複雑な気持ちになる。

 デウスギアが、サマリア王国全体の情報を投影させる。

 サマリア王国は、この火山の影響によって幾度もなく食料が不足して、餓死者が多く出ている。

 現状では、この火山に対して有効な手段は、魔法がメインの世界でさえ存在しない。

「やはり、自然を相手に…」

と、デウスギアが落ち込むも、不意にエデンズ・アークにあった様々な機器の一覧をロードする。

 それには…テラフォーミング・システム群という部類がある。

 デウスギアは顔を引き攣らせる。

 マジで、荒野や凍土の惑星を地球化できる機器をエデンズ・アークは持っている。

 全長十万キロの超巨大建造物だ。持っていても不思議ではないが…それは自分が作った仕様ではない、が自分が望んでいた仕様でもある。

 複雑な気持ちを抱えていると、ルシスが

「あの…ヴェルトール様…。わたくし達の目的は、あくまでも現地を感じる事が目的ですから…」

 ミラエルも

「そうですよ。ヴェルトール様」

 デウスギアは肯き

「そうだな、ありがとう」


 そうして、船に揺られていると、遠くの方に煙雲が見える。

 それが、火山から吹き出ているを遠くからでも分かる位に、火山は巨大だった。

 おそらく、標高は500メートルを超えているだろう。

 周囲には、連なる連山が見える。

 その一つ頭を抜き出ている所に火口が赤く光っているのが夜でも見えた。


 夜の甲板で、デウスギアは遙か遠くにある火山連山の赤く光る頂上を見て、両脇にいるルシスとミラエルが

「相当に凄まじい火山ですね」

と、ミラエルが

「何かあったら、直ぐにご帰還を…」

と、ルシスが

 二人に挟まれるデウスギアは肯き

「分かっている」

と、答えた。

 そして、目的の港町レイノに到着する。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 変装しているデウスギア達は船から降りると、町を歩き教会に向かう。

 その最中、地震があった。

 震度3程度だろう。町の人達は、少し耐えるも、何時もの事だ…という風に日常へ戻る。


 デウスギア達は戸惑う。

「これは…」

と、デウスギアは困惑する。

 ミラエルが

「度重なる弱い地震の繰り返しで…感覚が麻痺しているかもしれませんね」

 ルシスが

「一番、怖い状態ですね」

 デウスギアは肯き

「ああ…変化は微妙だが、突然に爆発する事がある。そこが地震の恐ろしい所だ。ミラエル、ルシス、エデンズ・アークの地殻深部探査装置で、この火山の状態を逐次チェックするようにバエルに伝えてくれ」

『はい』とミラエルとルシスは答えた。


 デウスギア達は、教会に到着する。

 そこには、二十代後半のシスターがいた。

 デウスギアがそのシスターに手紙を渡す。

 その手紙の主は、復興を手伝っているエイソル村に来たシスターが書いてくれたモノだ。 修道女司祭レミアからの手紙にここのシスターが

「ああ…レミア様から」

 デウスギアが

「あの…レミア殿とは…」

 シスターが微笑み

「申し遅れました。わたくし、ここの司祭を任されています。ディナと申します。よろしくお願いいたします」

 デウスギアはお辞儀して

「どうも…その…ヴェルトールです。両脇にいるのは…」

 シスターディナがミラエルとルシスを見て

「レミア様の手紙だと、ヴェルトール様は相当な位の方だと…書いてあります。お二人はもしかして…ヴェルトール様の…妾…で?」

 

 その言い方、気に入らない。なんか女性を下に見ている感じがして嫌だ。

 だから咄嗟にデウスギアは

「妻達だ」

 両脇にいたルシスとミラエルが驚愕の顔で、挟んでいるデウスギアを見詰める。

 二人の反応に、なんだ?と疑問符のディナ。


 デウスギアが堂々と、右にいるミラエルと、左にいるルシスの肩を抱き

「二人とも正妻だ。神の右席と左席と同じく、二人とも平等だ」

 ディナが肯き

「そうですか…では、ご夫婦なら、同じ部屋でも」

 デウスギアは肯き

「ああ…頼む」


 ディナが三人を部屋に案内して先導していると、デウスギアの両腕にミラエルとルシスが抱き付いてウットリしている。


 そして三人の部屋に入ると…。

 デウスギアが両腕に抱き付いてるミラエルとルシスに

「すまん。事情を説明する厄介だったから…」

 そう、色々と説明すると面倒な事この上ない。

 だから、妻という事にすれば、大抵の事は道理に納得してくれるのを利用してしまった。

「気を悪くしたなら、謝る」

と、デウスギアが告げるが

 ミラエルが

「全くです。寧ろ嬉しいです」

 ルシスも

「私もです」

 二人は全く腕から離れない。

 二人の好意は、自分が創造主だからこその事だ。

「二人が私に対して好意を抱くのは、私がその設計者だから」

 ミラエルが

「かもしれません。でも…この気持ちは…。だってデウスギア様に、こうして触れているだけで嬉しいのです」

 ルシスが

「分かっています。デウスギア様が説明を省く為にそうしたのをわたくし達は理解していますが…。ですが、デウスギア様が…ウソでも言ってくれただけで…」

 腕から本気の温もりが伝わる。

 ヴィクトールのデウスギアは、鎧の仮面を上げて

「その…なんだ。二人が望むなら…そうなっても」

 ミラエルとルシスが涙して

『本当に!』

 デウスギアは肯き

「ああ…そういう傍にいてくれる人を…伴侶がいた方がな」

 そう、今後、こうしてデウスギア…超位現人機神として生きるなら、人としての執着は必要だ。

 その最もは、大切な誰かがいる事だ。

 ミラエルとルシスが

「はい。わたくしは…伴侶となりとうございます」

「ルシスも…同じです」

 デウスギアは肯き

「分かった。だが…結婚式が…」

 ミラエルが

「ここで、三人だけですが。上げましょう。私達の門出を記念して」

 デウスギアは肯き

「分かった。そうしよう」


 ヴェルトールのデウスギアは、教会の修道女司祭のディナに頼んで、簡単な結婚式をお願いした。

 まあ、言い訳としては、色々な事があって三人一緒になって真面な事をしていなかったという事で、ディナの祝福を受けて三人だけの結婚式を挙げた。


 そして、三人だけの祝いの為に、食堂へ食事に行く。

 その道半ば、子供がヴェルトールのデウスギアの鎧の太ももに触れて

「お兄さん…少しだけ…」

と、小さな器を翳す。

 物乞いだ。

 ヴェルトールのデウスギアは跪き

「ぼく、両親は?」

 子供は、笑みを作り

「いない。母さんは、前の噴火の時に現れた魔物に殺されちゃった」

 もの凄く辛い気持ちになる。

 自分は、人間だった時に、精神障害になって誰も助けてはくれなかった。

 それぐらい、世の中は人に対して無関心な社会だった。

 何となくそれが過ぎって、懐から魔導金貨十枚が入った小袋を取り出し、その器に置いた。

「これしか上げられないが…」

 子供は、その魔導金貨十枚を見て目を輝かせ

「ありがとう! おじちゃん!」

と、微笑んで手を振ってくれた。

 それを背にデウスギア達三人は去る。

 ミラエルが

「で…いえ、ヴェルトール様は、お優しいですね」

 デウスギアが

「おいおい、もう敬称は必要ないだろう」

 両脇にいるミラエルとルシスが、ハッとして頬を染めて

『はい、アナタ』

と、夫の呼び方をする。


 そして、三人して店で豪華な食事をする。

 

 その帰り、デウスギアは路地から出て来た男達に注視した。

 それは…あの子に渡した魔導金貨の反応を持っていたから。

 そして、路地からボロボロのあの子が出て来て

「返せよ!」

と、男達に飛びついた。

「うるせーーー」

と、男にしがみつく子を、男は殴り飛ばして外し

「ガキが、こんな高価な物を持って何になる! オレ等、貴族様が」


「おい!」

 怒気が荒くなったヴェルトールのデウスギアが目の前に来た。

 三人は、ヴェルトールのデウスギアを見て

「な、何だよ…」

 ヴェルトールから凄まじい殺気が醸し出され

「その金貨は、その子に、オレが上げたんだぞ」

 男の一人が舐められた威勢を張って

「うるせ」

と、威嚇した瞬間、デウスギアが顔面を掴みボロクズのように周囲の壁に叩き付けた。

 半殺しの仲間が足下に転がった瞬間、デウスギアは、両手で残りの男達の顔面を掴み同じくボロクズにように周囲の建物に叩き付けて半殺しにした。


 周囲は呆然と、ヴェルトールのデウスギアがやった事を見詰めた。

 ミラエルとルシスが、子供に近付き

「大丈夫?」

と、ミラエルが

「ああ…ケガが…待ってね」

と、ルシスが回復薬を塗る。

 子供は、ヴェルトールを見上げて

「すげ…」


 周囲にいた者達の一人が

「アンタ…なんて事をしたんだ」

と、ヴェルトールに告げる。

 ヴェルトールがその声を掛けた人物を見て

「どういう事だ?」

 その人物、男は

「コイツ等は、貴族の息が掛かった連中の破落戸ごろつきだ。アンタ達は酷い目に遭うぞ」

 デウスギアはヴェルトールの顎を擦り

「成る程…アンダーグランドの人間か」

 ルシスが

「どうしましょう。アナタ…始末しますか?」

 ちょっと怖い事を言っている。

 確かにルシスの力なら破落戸を肉塊に変えて海に捨てるのは簡単だ。

 デウスギアは、ヴェルトールの鎧顎を擦り

「こういう情報は…」

 ミラエルが

「バエルより、周辺調査をしているミカヅチ達、雷神達の方が…詳しいはず」

 

「よし」とデウスギアは、懐から急速回復薬を取り出し、半殺しにした三人に掛ける。

『ぎやあああああああああ』

 急速回復の激痛で、三人が目覚めると、一目散に脱兎して

「おぼえてやがれーーー」

と、何とも当たり前するぎる台詞を吐いて消えた。

 デウスギアは、あの三人の顔を鎧のカメラシステムで押さえ、ミカヅチ達に調査を依頼した。

 そして、子供に近付き

「大丈夫か?」

 子供は微笑み

「ありがとう。おじちゃん」

「いいさ。それより、帰れるか?」

 子供は嬉しげに

「平気、へっちゃらさ」

 夜の帳がある町で、デウスギアは心配で

「心配だから。家まで送るよ」

 子供は、複雑な顔をして

「おいらの家にくると…みすぼらしいから…」

 デウスギアは子供の頭を撫で

「私も、ここでは借宿だから、気にしない」

 子供は照れくさそうに微笑み

「おいら、ジャンヌ」

「へぇ…ジャンヌか…。ん?」

 デウスギアは首を傾げる。

 女の子みたいな名前だ。格好は男の子のズボンの様相だ。

 まさか!とデウスギアは、探査でジャンヌを調べると、女の子だった。

「おいおい、女の子があんな目にあって…」

と、デウスギアは心配げに告げると、ジャンヌは

「女の子のフリをすると舐められるからよ!」

 逞しかった。


 帰り道、デウスギア達はジャンヌに食料を沢山買って与え、夜道を進むと、ジャンヌは娼婦街を通り抜ける。ジャンヌを知っている娼婦が

「ジャンヌ…その人達は?」

 ジャンヌが胸を張って

「助けてくれたんだよ。それにこれ…」

と、一杯の食料が入った袋を見せて

「買ってくれた!」

 娼婦がデウスギア達に頭を下げ

「ありがとうございます」

 デウスギアは、ヴェルトールの手を振り

「いえ…良いんですよ」

 ジャンヌが

「じゃあ、ミランダ姉、後で皆で分け合おうよ」

と、先を進む。

 そして、辿り着いたのは町から外れたスラムだった。

 そのスラムは、火山に近い側だった。

 そこは、娼婦や貧しい人達が暮らすスラム街だ。

 デウスギアが、ジャンヌに

「もしかして君の父親は…」

 ジャンヌは平然とした顔で

「おいらの母さんは、さっきの町で商売していてね。父親は…分かんないや。一応、母さんがこの人だって…小さな絵は…ね」

 デウスギアは俯き

「そうか…」

 そして来たのは、一人だけが住める小さな家だった。

 文明レベルで言うなら、中世前の土壁の家だ。

 ジャンヌが笑み

「ありがとうおじさ…名前…」

 デウスギアは肯き

「ヴェルトール…という名で通っている」

 ジャンヌは満面の笑みで

「じゃあね。ヴェルトールおじさん」

「ああ…」

 

 凄く感傷に漬った夜だった。


 その帰り道、ミカヅチからの通信が

”デウスギア様、ご依頼された三名の調査が終わりました。どうやら、この港町を仕切っている四つの群体の末端のようです。始末しますか?”


”いや、待て直ぐに過激になるな…それより…報復はありそうか?”


”はい、その三人の兄貴分であります。ラダット・オルズという魔導騎士の落魄れが…”


”どこで遭遇する?”


”おそらく…通過した女人の街中だと…”


 デウスギアは考え

”では、その者達の組織と、娼婦街は…関係あるか?”


”いいえ、別の群体の管轄らしく、お互いに衝突しないという…不文律があるようです”


 その通信はミラエルとルシスにも届いている。そして、デウスギアの後ろにいるミラエルとルシスが、デウスギアの背中を触れ

『アナタ…前に』

と、二人して連絡があった人物と、さっきの三人がいた。

 黒髪浅黒のラダットが舎弟三人を連れて

「お前か…オレの弟達を可愛がったのは…」

 デウスギアは冷静に

「どういう状況か…聞いているのか?」

 ラダットが

「ケチ付けて、殴り飛ばしたってなぁ…」

 デウスギアが鎧の額を掻き

「まあ、君のようなタイプは、私の言う事なんて」

「待ちな! ラダット」

と、呼び掛ける女性がいた。さっきのジャンヌと話していたミランダだ。

 ラダットがミランダを見て

「なんだミランダ…」

 ミランダが腕を組み前に出て

「その人は、アタシ達の身内を助けてくれんだよ」

 ラダットが眉間を寄せて

「なんだと…」

 デウスギアが

「説明すると、その後ろにいる三人が、私が子供にあげたお金を子供から奪ってね。それに私はカッとなって、今に至るという事だ」

 ラダットは舎弟達を睨む。

 舎弟達は「兄貴、オレ達をウソなんていってねぇ!」と告げる。

 ラダットは苛立つ。舎弟達の悪さを知っているからだ。おそらく、ミランダの言う通りが合っている。

 ラダット自身、舎弟達がそういう事をしているので、諫めた事もあったが…やはり…。

 だが、舎弟を持つ犯罪集団の性質上、引き下がる訳にもいかない。

 それをデウスギアは察し

「分かった。これで詫び金として」

と、魔導金貨十五枚が入った袋を空間収納から取り出して、ラダットへ渡す。

 ラダットに近付くデウスギア、ラダットは受け取った次に当ている左手で、デウスギアの右頬の鎧を殴った。

 大げさなガシャンって音はしたが、デウスギアにダメージはない。

 そして、ラダットは、デウスギアのレベルを調べた。

 デウスギアは、偽装のレベル65のままだ。

 ラダットのレベルは、40だ。相手にしても勝てなかった。

「この一発と手切れ金で勘弁してやる」


 何となく面子は立った訳だ。


 ラダット達四人は去って行く。バカな舎弟は勢いづいている。流石、ラダット兄貴とかゴマをすっている。その背をデウスギアが見つめ。

 両隣にミラエルとルシスが来て

「どうして、あのような事を…」

 ミラエルは、デウスギアの自身を下げた事に苛立つ。

 ルシスが

「今なら…」

 デウスギアが

「良い。人の命を奪って自ら人以下になっている者ではない。それに、ここで騒ぎを起こせば、あの子…ジャンヌにも被害が出るだろう」

 ミラエルが

「いっそうの事、全ての四つの群体のトップを我らが取りますか? 今すぐにでも…」

 デウスギアは、後ろにある火山を見詰め

「それでは、解決にならない」


 ミランダが来て

「ありがとう。泥を被せてしまったね」

 デウスギアは首を横に振り

「いいさ。相手もそれを察して収めてくれた。バカではない」

 ミランダが微笑み

「お礼をするよ」

と、ミランダがデウスギアの腕を取るも、それをルシスとミラエルが離して

「けっこうです」

と、ミラエルが突っぱねた。

 ミランダが笑み

「ああ…そういう事か…」

 まあ、三人がそういう関係であると察した。

 ミランダが

「まあ、取っちゃかわいそうだもんね」

 ルシスとミラエルがミランダを睨んでいると、デウスギアが

「そうだな…じゃあ、三人だけになれる男女のキレイな部屋ってあるか?」

 ルシスとミラエルはキョトンとなる。

 ミランダが噴き出して

「こっちだよ」

と、キレイで良い部屋がある高級な娼館へ連れていってくれた。


 その一部屋は、お風呂まで付いているかなりの高級な部類の部屋で、三人はゆったりと過ごして、三人だけの馴れ初めの交わしをした。


 翌朝、三人して朝帰りをする修道女司祭のティナが呆れた顔をして

「まあ、夫婦仲が良いのは良い事ですが…。朝帰りするなら、言ってくださいね」

「すいません」

と、デウスギアはヴェルトールの頭を下げる。

 ティナが

「今日はどうしますか?」

「街の情報が分かる場所に行きたいですね」

と、デウスギアが告げると、ティナは

「では、ギルドなんてどうですか?」


 ギルド、正にファンタジーにあるモンスター事案を専門にしているハンター組織だ。

 初心者から上級者まで、依頼にあったモンスター、魔物を狩り報酬を受け取る所だ。


 さっそく、三人してギルドに入ると、ホールには沢山の装備を抱えた者達がいた。

 全員が、新参者のデウスギア達を見詰める。

 三人とも、全身フル装備だ。

 デウスギアは、銀色の全身鎧に巨剣を七本も装備しているヴェルトール形態。

 ミラエルとルシスは翼をしまって、ミラエルは白い装甲に包まれる騎士型、ルシスは赤い騎士鎧だが、身長と同じランス、大槍を背負っている。

 端からみれば、完全武装の怪しい三人だ。

 デウスギアが、カウンターに来る。

「モンスターの依頼を受けたいが…」

 受付嬢が

「ではこれに氏名、及びチーム名をサインしてください」

 意外と簡単な登録だ。

 デウスギアは考える。

 あんまり、凝った名前も短時のチームだからバカらしい。不意に鏡に映った自分の姿が、νガン○ムに見えたので

「じゃ、Ν(ニュー)で…」

 チーム名Νになった。

 受付嬢が

「では、ギルドの説明を」

と、始めた。基本的には良くあるギルドだ。張り出された依頼を受けて、達成する度にランクが上がり、上位ランクになると大きな仕事が貰える。

 ホントに定番のギルドだった。

 

 じゃあ、依頼へ…とデウスギアが掲示板に来る。

 沢山のモンスター討伐依頼を見て、ミラエルが受付嬢に

「この全ての依頼を頂けますか?」


 えええええ!

と、ギルドが騒然となる。

 そんなバカな話、聞いた事がない。

 

 ルシスが依頼の掲示板を叩き

「これ全部、アタシ達に掛かれば、一日で終わりますが…」


 ギルドにいる戦士達が、訝しい顔でデウスギア達を見る。その中でレベルを測れる者がデウスギア達のレベルを見ると愕然とする。

 デウスギアは偽装でレベル65だが、ミラエルとルシスは偽装レベルを100に設定している。

 本来はMAXのレベル300だが、三分の一にしている。


 レベル65でさえ、上位戦士レベルだ。

 それに加えて、今まで見た事もないレベル100なんて信じられない。

 だが、よく観察すると彼らの装備を見て、全員が息を呑む。

 恐らく金属なのは間違いない。

 鎧ならつなぎ合わせの関節が存在しているが、デウスギア達の鎧にはそのつなぎ合わせの関節部分がない。

 そう、つまり、今までに見たこともない金属で出来ている。

 見ている者達で、老年の戦士が近付き

「なぁ…アンタ等…もしかして…異界渡りかい?」

 それは長年の勘だった。


 デウスギアが老年の戦士を見詰める。

「んん…何か…知っているのですか?」

 老年の戦士は笑み

「色々とな…」

 デウスギアが老年の戦士を見詰める。

 二人が視線を交わした後、老年の戦士が

「急いでランクも上げると足下を掬われる。まずは地道に行った方がいいぞ」

 デウスギアはその忠告は受け止め

「そうでね。じゃあ…」

と、掲示板を見るとスラムで襲ってくるモンスターがあり困っている応募が大多数あるのを見た。それを見て、スラムで暮らしているジャンヌを思い出して、その応募全部を手にしてカウンターへ持って来る。


 その数、数十件だ。

 

 受付嬢が困惑して

「ええ、こんなに…でも…」

 デウスギアが

「受けられないのか?」

「いいえ、でも、こんな数…」

と、受付嬢が困っていると、老年の戦士が

「ワシ等、アースドラゴンの加わる。問題ないじゃろう」

 受付嬢が困惑しつつ

「分かりました。王狼様達が加わるなら…」

 デウスギアは、老年の戦士を見て

「王狼…」

 老年の戦士は肯き

「そう皆から呼ばれている」

と、頷くとテーブルから六名の戦士達が来る。男女三人の男性は人族にエルフとオーガ族、女性は獣人族が二名と一人は頭からかぶり物をして顔を隠しているが、大きな爬虫類の尻尾がある。


 デウスギアが顎を擦っていると、ミラエルが

「邪魔ではありませんか?」

「いや、ここは依頼を受けられるようにするべきだ」

と、デウスギアは王狼に手を伸ばし

「では、混合のチームという事で」

 王狼はデウスギアと握手して

「よろしく」

 そう、これは…デウスギア達のレベルを探る目的だった。

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