第4話 召喚獣


 召喚王(サモンキング)ニルバルは、五千の魔皇国軍隊を率いている。

 ニルバルの目的は、現在侵攻中のサマリア王国の第三王女リグレットの捕縛だ。

 要するに、サマリア王国に対する人質にする為だ。だが…他の目的もある。

 思惑の一致というヤツが色々とある。

 とにかく、今回の国境沿いのサマリア王国の村々を襲撃して住民を虐殺、火を放って蹂躙したのも…そういう事情があるからだ。


 そのニルバルの五千の兵士が駐屯している夜の国境の平原、多くの軍テントが並び、そこに兵士達が過ごしていた。

 そして、その一角に、戦利品のテントがある。

 その中には…泣いている娘達がいる。

 今回の村々を蹂躙した際に、手にした…いわば、戦利品という事だが…。

 娘達三十名近くが入った檻のテントに、数人の兵士が近付く。

 要するに、味見というゲスをやる為だ。

 実際、娘達の数人は、少し前に兵士によって穢された。

 穢された後、また、檻のテントに戻された。両手足に拘束の鎖輪をされて…。


 兵士が2人、入ろうとしたそこへ

「何をしている!」

 止めた者がいた。アルファードだ。

 兵士2人が渋い顔をして

「いいだろ。少し、気晴らしをしても…」

 アルファードは、入口に立ち塞がり

「これは、リグレット王女を捕まえる為に、使う人質の筈だ。手荒な事をするな!」

「なんだと! お前だって無抵抗な村人を殺したクセによぉ…偉そうな事を言うんじゃねぇよ!」

 兵士が声を荒げる。

 アルファードは右足をケガしている。

 兵士2人は腰にある剣を手にする。

 悪い状況であるが…。


「おい、何やってんだ!」

 ニルバルが来た。


「あ、ニルバル少将…」

と兵士の2人が怯む。


 ニルバルが

「鬱憤を晴らしたいなら…ここから十数キロ先にある町で。この任務が終わったら、その金をやる。それでいいか」

 兵士2人は渋い顔をしつつ「はい」と肯き、その場を離れた。


 アルファードが

「ありがとうございます。ニルバル様」

 ニルバルが額を掻き

「オレにも娘がいる。40歳で生まれた子でなぁ…。今年で15だ。年いっての子供だから…眼に入れても痛くない」

 アルファードも

「自分にも娘がいます。だから…こういう事は…」

 ニルバルが肩を叩き

「こういう事をやるのは、一部のヤツだ。大体、どの隊でも問題があるヤツらだがなぁ…。それでも、今は同じ大隊の仲間だ。止めてやるのが、仲間ってヤツだろうよ」


 アルファードが檻のテントを見て

「リグレット王女が抵抗した場合に、使うのですよね…」

 ニルバルは笑み

「ああ…あの正義感強い王女様なら、絶対に応じるだろう」

 アルファードが渋い顔をして

「もし、仲間が…抵抗したら…」

 ニルバルは肩を竦め

「その時は仕方ない。オレの召喚獣(サモン)達が火を噴くだけだ。お前等を襲ったヤツも…あっという間さ」

 アルファードは

「神の眷属である召喚獣に勝てる存在なぞいませんからね」




 ◇◆◇◆◇◆◇


 デウスギアは、リグレットを左隣に事を話す。

 リグレットは俯き

「私を捕まえる為に…村々を…」

 リグレットの左横にいる親衛隊の副隊長アリアスが

「リグレット様、逃げましょう。貴女が捕まると…サマリア王国は」

 デウスギアが

「ああ…その…王女様が…こうして出向いているのは分かっているようだぞ」

 リグレットはデウスギアの高い顔を見詰め

「どうして…は、まさか…裏切り者が…」

 デウスギアは肯き

「その可能性が濃厚だ」

 アリアスが

「尚更! 逃げた方がいいです! リグレット様」

と、逃げる事を促す。

 だが、デウスギアの背後に、雷神族の1人が稲妻瞬間移動で来て

「デウスギア様…使者という者が…」

 デウスギアは立ち上がり

「ほう…何かの交渉か?」

「こちらです」と雷神が誘導する。

「私も!」とリグレットが出ようとすると、アリアスが

「なりません! ここは私が…」

 リグレットが

「私が発端なのだ。無関心なぞ出来ない!」

 強引に通して、デウスギアに続く。


 デウスギアの肩から閃光がライトのように広がり、道を照らして進む。


 デウスギア、案内の雷神、リグレットと親衛隊のアリアスと他二名は、小高い平原で鎧馬に乗っている数名の兵士達の前に来る。

 その兵士達の正面に、雷神達が構えて稲妻の武具を握って構えている。

 鋼色の甲冑、そして、肩には魔皇国マーロリスの旗が靡いている。


 魔皇国の兵士が

「汝が、デウスギアか!」

「いかにも」とデウスギアは頷く。

 魔皇国の兵士達は戸惑いを見せる。

 魔族やエルフでもないオーガでもない、獣人でもない。ましてや、竜人でもない。摩訶不思議な者を見て困惑するも任務を果たす。

 鎧馬の脇の収納袋に入った書簡が入っている筒を投げ

「それが、我らの将、ニルバル様の手紙だ」

 空を舞う筒を、デウスギアは三対ある腕の右腕の一つの一差し指を親指で抓みキャッチする。

 一メートルサイズの装甲手には、書簡の筒が小さかった。

 

 魔皇国の兵士達は、渡し終えると一目散に、その場から脱兎した。

 雷神達が

「追跡しますか?」

 デウスギアが

「不可視で追え」

「は!」と雷神達は、光を曲げて隠れるステルスに身を包み、稲妻の移動で兵士達から少し離れて追跡する。

 デウスギアは、右手の一つに収まる小さな…デウスギアのサイズでは玩具のように小さいが、普通サイズの両手で握れる程の筒を、上手く指先を使って開けて、中の書簡を手の上で広げる。

 デウスギアは、書簡を見詰める。

 無論、言語は違うが、エデンズ・アークの者達が調べ取得したこの世界の情報には、勿論、言語の情報は入っていて、文字を読めるようになっていた。

「成る程ね…」

と、デウスギアは呟く。

 リグレットが

「デウスギア殿、見せてくれ…」

 デウスギアは大きな手を下ろしてリグレットに手の中にある書簡を見せた。


 それには…。


 我は、魔皇国マーロリスの少将ニルバル・バルハルンである。

 今回の国境を巡る戦争で、そちらの民を少数、こちらの監視下に置いている。

 民を返却したくば、国境のアルカツ平野にて、交渉を行う。

 明日の朝、にアルカツ平野へ来る事を願っている。

 もし、交渉に応じないのなら…我らの手にある民達は、残念ながら戦利品という扱いになるのをお忘れ無く。


 リグレットが書簡を取り握り締めて

「何が、戦争か! 一方的に蹂躙して…忌々しい!」

 苛立っているリグレットを見詰めるデウスギアの後ろに、ミラエルが空から降り立ち

「デウスギア様…」

 デウスギアは振り向き

「周辺の情報は?」

 ミラエルがお辞儀して

「ここより、北に二十キロの平原に五千程の大隊兵団がおります。反応から、デウスギア様がメタルコアを植え付けた男も、その大隊のテント群の中に反応があり、調べた所によると…いました」

 デウスギアは上を見上げて

「そうか…それがニルバルの兵団という事か…」

 そこへ更に、雷神が稲妻となって現れ

「デウスギア様、追跡していた者達ですが。ここより北二十キロにあります。平原に駐屯している兵団テントに戻りました」

 デウスギアは目元を渋め

「あの鎧のような馬の速度を見るに、それ程、早く着けるとは思ってもいなかったが…」

 雷神が

「途中、ドラゴンのワイバーンの運搬が来て、運ばれました。恐らく、追撃を考えての事だったと…」

「そうか…」とデウスギアは顎に手を置く。

 そこへリグレットが

「翼竜(ワイバーン)の運搬があったのですね」

 デウスギアはリグレットに

「リグレット王女。ワイバーンは兵力に…」

 リグレットは肯き

「はい、空戦に置いて最強の兵器です」

「成る程…」とデウスギアは考える。

 恐らく、大隊の規模は、軍隊でいう所の旅団クラス。陸軍でいうなら千数人から六千人で編成される特殊作戦を行える規模なのだろう。

 それで少将クラスが出てくるのが不思議だが…。その将クラスの師団と同等の戦力があると仮定した方が無難か…。

 

 考え事をしているデウスギアにリグレットが

「デウスギア殿、お願いがあります」

 リグレットは、とある望みをデウスギアに託す。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 朝のアルカツ平野、ニルバルの旅団の陣地が並ぶそこへ、とある一団が近付く。

 リグレットとその親衛隊四十名が、魔導の鎧馬に乗って現れる。

 それの連絡を受けてニルバルは、兵士達を伴って近付くリグレットの正面に出る。


 総勢五千の旅団のニルバル、対するリグレットは四十名の部隊。

 言わずと知れたニルバルの旅団は、訓練された軍隊である。

 無論、リグレットの親衛隊も訓練はされているが…その絶対数が違う。そして、何より実戦経験が違う。

 リグレットの親衛隊のレベルは40から42

 ニルバルの旅団の兵員のレベルは39から50

 レベルの高い数でも、ニルバルの旅団が上なのだ。

 地の利は? ここのアルカツ平野はニルバル達、魔皇国の領土。地の利まで上。

 リグレット達が勝てる見込みは、数百万に一。神の気まぐれがあれば勝てるが、そんな気まぐれは、起こらないのが世の常だ。


 ニルバルの部隊が、ニルバルを先頭に、リグレット達の前に来る。

 五千の軍隊は、キレイに割れてニルバル達の道を作った。

 練度が違い過ぎる。

 リグレットはヒシヒシと感じた


 ニルバルが鎧馬に跨がりつつ

「久しいですなぁ…リグレット王女様」

と、真っ直ぐとリグレットを見詰める。

 リグレットは忌々しげな顔で

「ええ、本当に…召喚王(サモンキング)ニルバル少将」

 ニルバルは笑みながら

「二年前の停戦交渉パーティーの時だったでしょうか…」

 リグレットは厳しい顔で

「ニルバル少将の召喚獣達による盛大な花火が今でも、思い出されますね」

 ニルバルは首を傾げ

「思い出話は後にして…知りませんかなぁ。私の部隊を一つ壊滅させたヤツを…」

 リグレットが睨むように見て黙っていると

「それは、私の事かな」

と、リグレットの頭上、空からデウスギアが降臨する。

 ニルバルが鋭い顔でデウスギアを見詰める。

 人族でも魔族でもエルフでもオーガでも竜人でもない。見た事がない装甲に包まれたデウスギアにニルバルが

「私の名は、ニルバル・バルハルン。この軍団の将だ! 汝は!」

 デウスギアは三対ある腕の一つを組み

「デウスギアだ」

 ニルバルがフッと笑み

「神の機械、機械神か…」

 デウスギアは首を傾げ

「どうにでも取れ」

 ニルバルが

「汝は、デウスギア殿はどこから来た?」

 デウスギアは腕の一つで空を指差し

「こことは違う別世界から、この世界でいう異界渡りというヤツらしい」

「成る程」とニルバルは納得した。


 ニルバルが

「どういう目的で、ここにいる?」

 デウスギアは右の眼を曲げる。

 なんだ? やけに…話を聞くなぁ…。

 そう思っていると、脳内通信で雷神のミカヅチが

『デウスギア様…連中の軍隊の中で、こちらの状態を探っている者が…』

 デウスギアは眉間を寄せ

 探りか…なら、レベルと偽った方がいいな。

 デウスギアは、レベル∞を、レベル65と偽る工作を発動する。

 

 フェイク・ディメリット(レベル偽装)


 レベルと偽りつつ、デウスギアはニルバルのレベルを調べる。


 ニルバル レベル75

 体力 6000

 攻撃力 1000

 防御力 1100

 魔法攻撃力 1300

 魔法防御力 1200


 戦闘が満足に出来る兵士が大体、レベル40から45 それより強い戦士クラスがレベル50から55、ニルバルは大きな軍隊を任せられる人物だ。それなりに高レベルであると考える。

 それにあの口を滑らせた隊長ネルソンが、魔皇国マーロリスの四騎士と言っていた。

 つまり、最強とされる一角と思える。

 まあ、考えようでは、レベル75はイチ種族としては上位レベルだ。

 自分の作ったゲームでは、イチ種族、レベル上限が80までだ。

 レベル200近くにいくまでは、最低でも三つの種族に転位する必要があるが…システムの制約で、一つのキャラクターには二つの種族まで転位できないとしている。

 もし、他の…法則が絡んでいるなら、この世界で、レベル300になる者も…。

 だが、良いのか? 強さ的に見てレベル100は米軍の持っているMOAB(大規模爆風爆弾)くらいで、レベル200は米軍の核兵器B83くらい、レベル300MAXはロシアが作り出したツァーリ・ボンバくらい。

 まさに三桁になるレベルの世界は、大量殺戮兵器と同等の力がある。ゲームではね。

 だが、今は、現実だ。果たして…

 

考えているデウスギアのニルバルが

「デウスギア殿…」

と、呼び掛けると、デウスギアはハッとして

「ああ…すまない。少し考え事をしていて…」

 ニルバルがフッと笑み

「強者の余裕ですか?」

 デウスギアがニヤリと笑み

「ニルバル少将程ではない」

 ニルバルが鋭い顔をすると、ニルバルの後ろにいる兵士の一人が、腕を組み六回ほど、組んだ腕の上にする右腕を叩き、すこし間を置いて五回叩いた。

 ニルバルは表情を崩さない。

 デウスギアの調べたレベルを腕の叩きで知らせたのだ。

 つまり、レベル65と…。


 ニルバルは堂々と

「デウスギア殿、汝は我らと敵対している。だが…もし、ここで我らに恭順するなら、それを流しても良いと思っている」

 デウスギアは「ほぅ…」と呟く。

 ニルバルが

「デウスギア殿、幾ら異界渡りには強力な力を持つ者がいるとはいえ、この世界にも強者はいる。その対価を身をもって知るかもしれんぞ」

「へぇ…」とデウスギアが頷いた後

「では、もし、そちらに恭順するとしたら…」

 リグレット達が驚きの視線をデウスギアに向ける。

 ニルバルが

「汝の隣にいるリグレット王女を捉えよ。そうすれば…」

 

 リグレットが右にいるデウスギアを心配げに見る。

 ここで裏切るのか? そんな不安に駆られるが…。

 デウスギアは項垂れ

「残念だが、私はそれ程、恥知らずではない」

 ニルバルが皮肉な笑みで

「そうか。残念だ。汝の初めてのこの世界の冒険は、ここでついえるという事だ」


 リグレットが

「ニルバル少将! 捕まっている娘達の解放をお願いしたい!」

 ニルバルが

「では、その対価は?」

 リグレットが自分の胸に手を当て

「私の投降と引き替えだ」

 リグレットの周りにいる親衛隊の殺気が強くなる。

 そう、リグレットの引き替えを前に出して、人質の娘達を用意させ、リグレットと引き替えをしつつ、リグレットも人質の娘も助けるつもりだが、それは一つの作戦でしかない。

 

 ニルバルは、その親衛隊の殺気を察し

「リグレット王女、君のお付きの者達はもっと殺気をしまう訓練をした方がいい。明らかに、王女を差し出しつつ、人質達も王女も助けるつもりだろう。残念だが、王女が我々と帝都に来た暁に、人質の彼女達を解放しよう。無論、手厚い護衛も付けてね」


 デウスギアは「チィ」と舌打ちして「だよなぁ…」と呟いた。

 リグレットが「ぐ…」と上手く行かなかった事に苛立つ。

 デウスギアが

「では、リグレット王女、確定という事で…」

 リグレットは肯き

「すまない」

 デウスギアが

「やれ! ミラエル! ルシス!」

と、声を張った次に、ニルバルのテント達の一角が爆発した。

 そこは人質のテントだ。

 

 舞い上がるテントの大幕、そして、そこから、ミラエルとルシスを筆頭に数十名の天使族と悪魔族が人質の彼女達を抱えて空へ飛び去っていた。

 そう、交渉にならない場合に備えての、もしも人質救出だ。


 人質の救出が行われたのを見たリグレットの親衛隊副隊長アリアスが

「全員、王女様を護衛しつつ撤退!」

 リグレットの鎧馬の手綱を反転させたアリアスが

「さあ、王女! 急いで逃げます」

 アリアスの合図の後、一斉にリグレットを中央に置く布陣で、リグレット達が退却する。


 ニルバルの兵士達は戸惑っているが、ニルバルが全ての状況を察し

「全軍、リグレット王女を捕らえよ!」


 だが、その前にデウスギアが立ち塞がりニルバルが

「止まれ!」

と命令を叫んだ次に、デウスギアが右腕達を上げて

”インパクト・ウェーブ”

 三つの右腕に衝撃波の力が集中し、それを放った。

 強烈な空気の暴威が、進もうとする数百の鎧馬部隊の前に衝突して吹き飛び、進軍が止まった。

 その後ろにいたニルバルは無事だった。

 ニルバルは、転げ回った兵士達を見詰めて

「ほう…なかなか…」

 デウスギアが見下すように左に首を傾げ

「ここで下がるなら…見逃すが…」

 ニルバルはフッと笑み

「舐められたモノだ。真の強者の力、見せてやる」

 ニルバルが右腕を上げ

「来い! バルハラート!」

 上げた右腕から光が空へ昇り雲が渦巻き、そこから巨大な六つの翼を持つ黒きドラゴンが出現する。

 召喚獣、殲滅のバルハラートだ。


 デウスギアは、全長15メートルの巨大なドラゴンを前に眉間を寄せる。

 ええ…あれ、ファイナル・ストーリーに出てくる定番の召喚獣、バルハラートだよね。

 マジで!


 ファイナル・ストーリーとは、デウスギアがゲームを運営していた以前から有名なオープンワールドだ。

 そのゲームの召喚獣が目の前にいる。

 自分もやった事があるので、多分実物だろう。感慨深いモノがあった。

 ヤベー この世界ってファイナル・ストーリーも合わさっているのね。


 デウスギアが感傷に耽ってバルハラートを見ているのをニルバルは、驚愕していると勘違いして

「はぁ、今更、命乞いなんて無駄だ」


 デウスギアは「ああ…」と戸惑いつつ、バルハラートのレベルを察知する。


 レベル120

 攻撃力 3000


 え? これだけ? ああ…何というか、攻撃する力が集まったエネルギー体だから、攻撃力とレベルだけなのね。

 ええ…3000って、エデンズ・アークにいる戦闘向けキャラ達の誰一人も倒せないじゃん。

 まあ、ファイナル・ストーリーって、レベル上限が99で、後は装備とか召喚獣に魔法とかで倒すのがメインのゲームだったからな…。

 まあ、その規模の大規模爆風爆弾(MOAB)が上限だったなぁ…。


 ニルバルがデウスギアを指差し

「地獄で後悔するんだな!」

 バルハラートの顎門が開き、そこから強烈な閃光が噴き出し、デウスギアを襲った。

 100メートル四方を吹き飛ばす大爆発。


 リグレットは逃げている背後で、巨大な爆発を見て、苦しそうな顔で

「デウスギア殿…」

と、口惜しそうに呟く。

 アリアスが

「王女様、今は、逃げるの先決です。でないと盾になってくれたデウスギア様に申し訳ありません」


 そう、実は…ニルバルと交渉する時に、デウスギアと話し合っていた。もし、人質が直ぐに解放されない場合は、デウスギア達で助けて欲しいと。

 デウスギアは了承し、リグレットのもし、最悪のそれがなった場合は、自分が逃がす盾になると…。




 ニルバルとは、キノコ雲に前方を見る。

 バルハラートのブレスで、破壊出来なかった存在なぞない。デウスギアも粉微塵になったと確信して、爆煙が収まった後にリグレット達を追いかけようと…だが。


 爆煙が真っ二つに裂けた。


 裂けたそこには、平然とするデウスギアが腕の一つを組んで仁王立ちしていた。

 

 ニルバルが驚愕を見せ

「そんな! バカなーーーーー」


 デウスギアは左腕の一つで頭を撫で

「少し、ホコリが掛かって汚れたなぁ」


 デウスギアは三対ある右腕の一つでニルバルを指差し

「ニルバル殿。残念ながら…この程度では私は倒せない。今度は…私の番だ」

 デウスギアは、三対ある両腕の左腕の一つを握り、己の内から巨大な存在を召喚するコアを握る。

 デウスギアは、神下ろしのコア。ネオデウスのコアを握りそれを上げて

「出でませ。ヘリオス」

 ネオデウスのコアが空へ昇り、巨大な爆発となって、その威力で五千の兵隊の内、二千が吹き飛ばされる。

 ニルバルは

「出でよ! リヴァス。アグニ。シェラード。ティポン」

と、全ての持ち召喚獣を全て召喚、五つの召喚獣で巨大な結界を構築して、五千の部隊と己を守る。

 ドラゴン、海竜、炎のデビル、氷の女神、嵐の大蛇

 バルハラート、リヴァス、アグニ、シェラード、ティポン


 召喚獣五体による最強の盾でなんとか堪えた。

 

 その最強の盾の前にいるのは、召喚獣の数十倍も大きな降臨を背負う巨人だった。

 神格ヘリオスがデウスギアによって降臨した。

 その全長は周囲の山々を突き抜ける500メートル級だった。


 ニルバルの部隊に動揺が走る

 

 今まで、見た事もない神々しい召喚獣、神格を前に兵士達が固まる。


 ニルバルがデウスギアを睨み

「キサマのレベルは65程度の筈だ!」


 デウスギアがフッと皮肉に笑み

「調べられていると分かっているので偽装したんだよ」


 ニルバルが忌々しい顔をする。

 デウスギアが右手の一つを差し向け

「ネオデウス。ヘリオスよ…目の前の者達を潰せ、ああ…ただし、あの一人は生かせ」

 ヘリオスの巨大な手が五千の軍隊の上に来た瞬間、光の雨が降り注ぐ。

 

 ニルバルも兵士達も、光の雨が降臨するのが、ゆっくりに見える。

 それは死を知覚した時に生じる走馬燈の感覚だ。

 そして、光の雨がニルバル達を捕らえた。

 打ち抜かれ爆発。止めどない爆発が広がり、五千の兵達がいた一キロ範囲、その後方数キロにあった兵団のテントまで、ヘリオスの光の雨の攻撃が届き、ヘリオスの足下から数キロの範囲が光の雨に無数のクレータの大地と化した。


 ニルバルを守ろうとした召喚獣達の奮闘も虚しく、召喚獣は徹底的に潰され、ニルバルの光の雨に消えた。

 その脳裏に過ぎったのは、偏屈だった自分と結婚してくれた若い妻と、その妻より生まれた娘の、二人の顔だった。

 ごめんな…お前を看取るつもりで長生きするつもりだったが…出来なかった。

 そして、シャルナ…帰れなかった父を許してくれ。

 

 

 ヘリオスは破壊を終えて、元の神域へ戻り、デウスギアの上にネオデウスのコアが降りて、それをデウスギアは握り内へ戻した。

「さて…」

と、周囲探査を行う。

 その探査で、ニルバルの上半身僅かな遺体を発見する。それを左手で掬うと、ニルバルの遺体から五つの光が飛び出し何処かへ去って行く。

 何となく予想は出来る。

 ニルバルの召喚の力は、血族遺伝なのだろう。という事は、次世代に受け継がれたのだろう。


 デウスギアはニルバルの遺体を持ちつつ、壊滅した部隊のテントへ向かう。

 そこには僅かに生き残っていた数名が、必死に藻掻いていた。

 そこにアルファードもいた。

 そう、ワザとアルファードは生かして置いた。

 そして、アルファードの傍にいた者達だけが生き残ったのだ。



 飛翔で来たデウスギアに、アルファード達が鋭い殺気と怯えた眼を向ける。

 デウスギアはフッと笑み

「この遺体を届けに来た」

と、足下にニルバルの無残な遺体を置いた。


 アルファードが来て

「バケモノめ!」


 デウスギアがアルファードに近付き

「一つ聞く。ニルバル少将には、子がいるか?」


 アルファードが恨み言で

「ああ! いるとも! キサマがやった事の報いを必ずニルバル様の後継が遂げてくれるだろう!」


 デウスギアは首を傾げ

「その後継は、男か?」


 アルファードが

「…娘だが、必ず! キサマに逆襲と遂げる!」


 デウスギアは考える。

 娘か…そうだな…父が殺されたとなったら…恨むだろう。そして、この召喚獣達は…嫌いではない。これからの目標と、出会う可能性に掛けて

「わかった」

と、デウスギアは背部の空間収納から、エイソル村で採取した魔導金貨の複製が十枚入った皮袋を取り出し

「汝に、これを…ニルバル少将の娘に渡して欲しい。私の目の前に何時か、現れよ。そして、これを返しに来いと…」

 使われようとも、どちらでもいい。とにかく、道標にはなるだろう。

 父を失った悲しみに暮れるよりはいい…と。


 アルファードは乱暴に受け取り

「必ず、これをキサマの葬式代として届けてやる」


 デウスギアは飛翔して

「では、さらばだ…」


 デウスギアが空へ昇ると、それにデウスギア達の仲間達が追随する。

 その去り際、ルシスがアルファードに

「勝手ね。アナタ達は、普通に暮らしていた村人達を殺し、それが正しい行いと…。

 一つ、真理を教えてあげる。

 国っていうのは、利潤を追求する枠組みよ。

 決して民達を生かす為の装置じゃあない。

 国という枠組みにとってアナタ達を殺す事が利益となるなら、国は喜んでアナタ達を殺すわ。それが国家というモノよ。国の中の一割の特権階級を生かす為に、アナタ達、民達は殺されるの

 それの愚かさが分かって、皆で生きようと思うなら、何時でも私達は門戸を叩くといいわ。

 エデンズ・アークの目的は、そこにあるから…」


 アルファードがルシスを睨み上げ

「ふざけるな! 侵略者が!」


 ルシスは肩を竦めて

「どっちが侵略者なんだか…」

と、残して、上空へ行ったデウスギア達の方に流星の如く飛翔した。

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