第3話 拠点一号
二人の姉妹が逃げている一人は15歳、妹は8歳だ。
姉妹は必死に森の中を逃げて走る。
それを追ってくる者達、村を襲撃した兵士達が四人。
妹が、その場で足を躓く。
姉が、妹を抱えて走ろうとするそこへ、兵士が光の矢の魔法、レイアローを放ち姉の足を襲う。
それによって姉は左脚をやられて、妹を抱えたまま、その場に転がる。
「手間取らせやがって!」
兵士が、姉の金髪を引っ張る。
「いや…止めてください」
姉は懇願すると、他の兵士達が無理矢理に姉が守ろうとする妹を引き剥がす。
姉は兵士に引っ張られ
「お願いです妹だけは…」
兵士は舌なめずりして
「それは…お前次第だぜ」
姉はこれからされる事を覚悟する。
兵士は、姉を仰向けに倒し妹が
「お姉ちゃんーーーー」
と、兵士達に押さえられ泣き叫んでいる。
妹を人質にする兵士三人が
「後で、オレ等にも分けろよ」
と、最悪の願望を投げる。
姉は妹に「大丈夫よ」と辛さを堪えた笑みを向ける。
兵士は醜い獣の顔で、押し倒した姉のドレスの胸元を引き裂いた次に、背後に空間の歪みが出現、そこから大きな装甲の手が伸び、姉を押し倒した兵士を叩き潰す。
叩かれた兵士は、顔が出ている兜から頭が吹き飛び四方八方に贓物と血をバラ撒いた。
それは、まるで手でトマトを叩き潰した如く弾け飛んだ。
仲間の兵士達三人が青ざめている間に空間の歪みが広がり、その装甲の手の主が出現する。
それはデウスギアだ。
三メータ半の巨体が出現し、妹を人質にしている兵士達三人は固まる。
デウスギアは全てを見ていた。
最も許すべからずの強姦を犯そうとした愚か者達に怒りが沸騰する。
激昂するならまだ、マシな方だ。隙が出来て逃げられる。
だが、デウスギアの怒りは冷徹な赫怒だ。最短最速で、相手を殺す事を計算する恐ろしい気質だ。
兵士達が、デウスギアを前にして、デウスギアの人知を越えた殺気に飲まれて思考が止まった。
こういう話がある。獲物が死を覚悟すると、大半は殺気を読んで生きようと戦い向かって来る。中には、自分の死を察し、動きが止まるモノもいる。
兵士達は、自分達の死を理解した瞬間、思考も動きも止まった。
デウスギアの三対の多腕の三つが、上から兵士達を叩き潰した。
三つの赤い体液をバラ撒き地面で平らになった。
人質の妹を掴んでいた腕は、腕から先が叩き潰され存在していない。
姉が足を引き摺って妹の元へ来て抱き締め
「お願いです。妹だけは!」
妹の無事を懇願する。
デウスギアは、四人も殺したのに何も感じていない。
人として人を殺した罪の意識が薄い。いや、その前に…外道をやろうとしたクソ野郎を殺したのが、苛立つ蠅を潰した程度の感傷しか過ぎらない。
もしかして…人の感情が…とデウスギアが冷静に思考としていると、姉の左脚の傷を見てズキッと何かが痛む感じを受ける。
デウスギアはアイテムを取り出す空間転移から、回復薬エリクサを取り出し、その瓶を開けて、ケガをしている左脚に注ぐ。
「回復するか?」
姉の左脚は、見る見る回復して傷がなかったかのようになった。
「良かった。効いたらしい」
姉が治った左足を見ているとデウスギアが体を曲げ跪き
「大丈夫か?」
と、呼び掛ける。
デウスギアの微笑む顔に姉は
「助けてくれるんですか?」
「ああ」
と、デウスギアは頷く。
姉を助けられた事にホッと安心している自分がいた。
まだ、心は死んでいない。
それが理解出来ただけで十分だった。
姉は兵士達を倒したデウスギアに
「お願いです! 村を…救ってください!」
そこへ、デウスギアの背後から空間転移する二人がいた。
純白の騎士装甲に六対の翼を背負うミラエルと、深紅の甲冑に翼手の多翼を持つルシスの二人だった。
ミラエルが
「デウスギア様、外出する時はわたくし達にご連絡ください」
ルシスが
「でなければ、デウスギア様のサポートと護衛が出来ません」
デウスギアは立ち上がり
「すまない。急いでいたからなぁ…」
姉の腕にいる妹がデウスギアを見詰める。
「おじちゃん…助けてくれるの?」
デウスギアは肯き
「ああ…」
ミラエルを見て
「ミラエル、二人を…」
ミラエルが「は」と胸に手を当てる敬礼をする。
「ルシス」とデウスギアは呼び掛け「行くぞ」
「はい!」とルシスも同じ敬礼をする。
「さて…」とデウスギアは、人肌の顔と胸部を覆う装甲を取り出し装備する。
それの姿は、機神だった。
デウスギアは、スラスターの如き足からホバークラフトの力を放出して村へ進む。
それに、ルシスは多翼の飛翔で追随する。
去って行くデウスギアを見守りながらミラエルが姉妹に
「大丈夫よ。あの方なら…直ぐに解決しますので」
姉がミラエルを見て
「貴方達は…」
ミラエルが空を指差す。そこには蜃気楼のように隠れようとするエデンズ・アークがある。
「あそこから来た者よ」
姉は驚きの顔を見せた。
煙が上がっている村へデウスギアとルシスが到着する。
村人を広場に集めている兵士達が驚きをデウスギア達に向ける。
その部隊の隊長ソンネルが
「お前! 何者だ!」
と、剣の切っ先をデウスギアに向ける。
デウスギアが
「今すぐ、ここを去るなら…見逃す」
ソンネルが剣を振り上げ
「ふざけるなーーー」
と、剣先から光の矢の魔法レイアローを放った。
それがデウスギアの右足に当たるが、弾けて消えた。
デウスギアは、その攻撃に憶えがあった。自分が運営するファンタジーオープンワールド系列で、武器を使った魔法の使用、ソード・マジック・ギャザリンというゲームと似ていた。
ルシスが右手を翳し空間転移から、巨大なガトリングと一体化したランスを取り出し装備する。
「デウスギア様、排除します」
デウスギアは
「村人は…保護。私も参加するが…」
と、考えていると、副隊長のアルファードが
「隊長、武器付与魔法(アーティファクト)が通じません。ここは撤退を!」
ソンネルが
「煩い! アイツを叩き潰せ!」
デウスギアはそれを見て
「あの隊長より、あの諫言した男の方が…情報を持っていそうだな。それ以外、殺せ!」
「はい」とルシスは発進した。
ルシスは衝撃波を発生させない超音速で飛翔、蜂の如き鋭角な動きで、兵士達を巨大ガトリングランスから放たれる弾頭の餌食にする。
一撃で、兵士達は真っ二つになり死体として転がる。
デウスギアは兵士達のレベルをスキャンしていた。
兵士はレベル40~45
基本ステータスとして
体力 4000~4500
攻撃力 300
防御力 600 多分、鎧を装備しているので、装備無しでは300から400だろう。
魔法攻撃力 400
魔法防護力 500 装備付きなので、200も上がっている。
ルシスが使う巨大ガトリングランスのファルカスの攻撃力は8000
ルシスが持つ武器では、一番の威力が低い装備だ。
おそらく、デウスギアが姉妹を守った事で、村人が保護であろうという算段によって、被害を広げない一番低い武器をチョイスしたのだろう。
村を蹂躙しようとしていた兵士達30人近くが三分も掛からない内にルシスがファルカスで始末し終えて、隊長のソンネルと副隊長のアルファードだけになった。
アルファードがソンネルの盾になり
「お逃げください」
「ぎやあああああああ」
ソンネルは不様な悲鳴を上げて逃げる。
逃がす訳がない。デウスギアが来てソンネル掴み地面に叩き付ける。
「ごるるるるるっ」
ソンネルが血を吐く。
デウスギアが
「あれ? 意外と頑丈だ」
ソンネルが懐から何かの紋章が刻まれたペンダントを取り出し
「わ、わたしは、魔皇国マーロリスの四騎士ニルバルの部下の一人だ」
デウスギアが首を傾げ
「で? それが?」
ソンネルが
「私を生かせば、ニルバル様より報奨金が貰える」
デウスギアはフッと嘲笑い
「金を出すから生かせと…」
「そ、そうだ…」とソンネルが頷く。
デウスギアは機神の仮面甲冑の裏で皮肉に笑み。
「そうか、じゃあ、アイツ等に聞いて見ろ」
ソンネルの鎧と装備をはぎ取り、村人達の方へ紙くずの如く投げた。
村人が集まっている所に鎧の下着だけのソンネルが来る。
デウスギアが
「好きにしろ…」
村人達が周囲に転がっている剣を手にする。
ソンネルが
「よせ! 私を殺せば!」
村人は、コイツに家族を殺されている。絶好の復讐の機会だった。
「ぎああああああ」
ソンネルの叫びと共に、村人はソンネルに復讐と遂げた。
アルファードが武器を投げ捨て、その場に座り
「殺せ!」
と、ルシスに告げると、ルシスは
「残念ですが…貴方は生かすように主から言われていますので…」
デウスギアがアルファードの前に来る。
「さて…どうして、この村を襲撃したのか?」
アルファードが鋭い目を向け
「殺されても言うわけないだろうが…」
デウスギアが「フッ」と嘲笑を漏らし
「村人の復讐の刃に掛かった男が、魔皇国マーロリスの四騎士ニルバルの部下だと…所在を軽々しく言っていたが…」
アルファードは鋭い目のまま
「俺は、口を割らん」
デウスギアは巨体の肩を竦め
「拷問は趣味ではない。ので…ルシス」
「はい」とルシスはファルカスを空間転移で戻し、今度は鎖で出来た腕サイズの蠍が出現する。
その三十センチの鎖の蠍が、アルファードに飛びかかり、鎖の体を広げてアルファードを拘束し「おのれ!」と告げた口に鎖の猿轡をする。
デウスギアが右腕の一つをアルファードの頭に差し向け、一差し指と親指で抓み
「さて…コピーアバターの操作命令を読み取るやり方で、どのくらいまでいけるかなぁ…」
プログラムで動く不正アバターのデータを読み取る力が、思考を読み取るに使えるのでは?と試す。
「ブレイン・スキャン」
それは正解だった。
男の名は、アルファード・ルクシス。平民の生まれで軍属に入り、職業軍人になった。家族がいる最愛の幼なじみの妻、息子と娘が二人。素晴らしい幸福な家庭だ。
この部隊に配属されて二年だが、平民としては順調なコースを歩んでいるようだ。
そして、なぜ、この村を襲ったのか…理由も分かった。
デウスギアは読み取る指を外して
「大変だな。国では最愛の妻と子供達がいる。背負う者がいると裏切れないなぁ…」
アルファードは項垂れる。猿轡の鎖が外れ
「どうするつもりだ?」
デウスギアが右腕の一つを掲げる。そして、それをアルファードの右足に振り落とす。
「ぐうううううううう」
右足に激痛が走る。右足が潰された右足の骨が粉々になる。
デウスギアが
「突如として現れた存在に襲われ、何と逃げ押せた。右足は名誉の負傷。軍属にはいられないだろう」
と、デウスギアは、アルファードを転がすと胸部の鎧の装甲をはぎ取り、左手の一つに銀色に輝く一握りの球体が出現し、それが左手の上で浮かび電子回路のような根を広げる。
アルファードは青ざめ
「何をする…つもりだ」
デウスギアは、右腕の一つで顔を覆う機神の仮面を外し、そこには残酷な愉悦の笑みがあった。
「軍属を抜けた後の面倒は、私が見てやる…」
電子回路の根を蠢かせる鋼の球根、メタルコアをアルファードの開けた胸部に落とすと
「ぐあああああああ」
アルファードを侵食するメタルコア。
ものの二分でメタルコアは、アルファードの体内に入り込み同化した。
「よし」とデウスギアは巨大な手の一つで手にしたアルファードを掴み村人に近付くと
「すまないが…馬を一つくれないかね?」
デウスギアはそれにアルファードを乗せて走らせた。
アルファードが去り際に
「キサマは、後悔するだろう。召喚王(サモンキング)ニルバル様の力を眼にしてな…」
「はいはい」とデウスギアは馬の尻を叩き、アルファードを返した。
その間、ルシスはミラエルを呼び、姉妹は村に戻る。
ルシスとミラエルが来て
「よろしいのですか?」
ミラエルが尋ねる。
デウスギアは笑み
「構わん。まあ…少しだけ、面白くなるだけだ。それよりも…村の」
ルシスが
「問題ありません。物資が到着しますので」
と、告げた次に、エデンズ・アークより物資を運ぶ巨大な空中戦艦が上に到着した。
◇◆◇◆◇◆◇
別の遠くの村では、アルファードと同じく部隊に蹂躙され焼き尽くされた残骸を前に、一人の女騎士が涙していた。
その隣にはその女騎士の親衛隊の女騎士達がいた。
女騎士の名は、リグレット・ラーナ・サマリア。
この村があるサマリア王国、第三王女だ。
親衛隊の騎士達が村を散策して帰って来て
「ダメです。全て…焼き払われていて…村人も全て…焼死体に…」
リグレットは涙しながら
「そうですか…。もっと早く、わたくし達が…」
親衛隊の隊長の女騎士ファリナが
「リグレット様…しかたない事です。他の村を…」
他の親衛隊の騎士が
「魔導の遠見では、ここと、もう一つの…」
リグレットは涙を拭い
「ええ…もう一つの方へ参りましょう!」
リグレット達は、魔導の力で構築された鎧馬に跨がり、もう一つの村、エイソル村へ向かった。
エイソル村では、殺された村人の弔いが行われる。
そこにはデウスギア達も参加している。
デウスギアは、エデンズ・アークから重機装甲機(ゴーレム)達を運び、埋葬する穴の作業を手伝い、共に亡くなった村人に祈りを捧げる。
その悼む気持ちがある事にデウスギアは、安心する。
どうやら、人を捨ててはいない。
だが、先程の愚かな残虐を見ると、極端に冷徹になり蠅を潰す程度で命を奪う感覚になる。極端な振れ幅があるが…慣れていくしかない。
被害にあった村人に悲しむ余裕を与える為にも早急な復興を開始する。
まずは、村の人口が150人だったのが90人までに落ち込んだ。
人口を増やすには産んで貰うしかない。
その為には、住居、食料、生産を復興させる必要がある。
住居と食料は、エデンズ・アークの生産能力を使えば楽勝だ。
エデンズ・アークは全長1500キロ、幅50キロのコロニーを18個、中心核のメルカバーに繋げて放射状に広げている。
その超巨大日本列島級コロニーの生産能力は、二十一世紀の一般家族が10億人暮らしても余裕の物資生産能力がある。
それが18機もある。つまり180億人が暮らしても余裕があるのだ。
とあるガンダムにある宇宙人口を賄える力がある。
さらにその18機を繋いでいるコアは全長500キロの独楽のような形で。それ自体にも三機分の生産能力がある。
作った我ながらオーバースペックだが、用意された惑星サイズのオープンワールドを開拓するには、そのぐらいの生産と維持能力が必要だった。
そんな膨大な製造能力を個人で把握出来るか?
そう言われる声が聞こえるが…デウスギアであった中山 充には問題なかった。
理由は、中山 充が抱える陰性の統合失調症にあった。
陽性の幻覚をメインとした統合失調症は、認知機能や、意識的な事で問題を起こしやすいが、陰性の統合失調症は日常では引きこもりのような意欲減退が起こる。
だが、陰性の場合は、その意欲減退をある程度、回復出来る薬学がセフィロート・システムが誕生する前からあった。
薬による補助によって、陰性をコントロールすると、とある特性が発揮される。
一芸にも似た、一極集中的な一分野に特化した能力を発揮する場合がある。
とある銀行のドラマに、主人公の同僚で統合失調症の役があった。
その彼は、異常なまでに数字を覚える能力と、それを簡単に計算式に置き換える能力が統合失調症の所為で生じていた。
所謂、人間エクセルだ。
中山 充も、これと似たように膨大なデータを見ながら瞬時に数学的に解析、理解出来る能力を獲得していた。
そのお陰で、超膨大な資材を生産するエデンズ・アークの管理をしていた。
多くの人が数字が沢山並んでいると頭が痛くなるが、中山 充にとってそれは数字ではない、目の前にチャンとした法則性が表れる図形として見えるのだ。
じゃあ、この能力が日常で何かの役に立つか?
残念ながら、人間の社会にはそれを生かす能力はない。
人間は、自分が分かり易い人間しか認識しない。
故に、アメリカでは、ヒヒザルのような紳士?が大統領になるのだ。
その欠陥を人間は分かろうとしない。いや、ムリだろう。
なぜなら、進化した世界にいたくないのが、普通とされる人間なのだから。
人は、自分より優れた存在を理解も知覚も出来ない。
故に、永遠に自分が優秀であるという愚昧に埋もれて、高慢をプライド(自尊)と言い続ける。
自分より優れた存在がいると、分かる人が言っても、そういう者を、狂人や愚か者と決めつける。
人類は、人間は、永遠に多様性を作り出す事は不可能だろう。
人類という器から外れない限り…まあ、それは別の話と…言う事で。
中山 充こと、デウスギアは、空中戦艦、リング型の推進器を装備したアラジンのランプのような空中戦艦を呼び寄せ村の復興を始めた。
因みに、あの姉妹、姉メリアと妹カリアの両親は、生きていた。だが、同居していた祖父母の内、祖父が…殺されてしまった。
両親と祖母は、二人を逃がす為に奔走して、村に残って捕まってしまったのだ。
デウスギアは、直ぐに空中戦艦から重機装甲機(ゴーレム)の軍団を乗せて派遣、まずは燃えた家々の修復、今後あろう村の警備をさせつつ、男女の区切りがある避難用ドームを村の広い場所に置いて、避難場所として村民に提供、食事と医療の提供。健康診断と、嘗て日本にあった災害活動の知識をフル動員して行いつつ、やはり、足らない所は一人一人に聞いて足す用意もする。
村長が外で支持するデウスギアの前に来て
「ありがとうございます。この恩…どのように返せば…」
デウスギアは三メータ半の巨体の下でお礼をのお辞儀をする村長夫婦を見て頬を掻きつつ
「恩なんていいさ。そうだな。村の復興を手伝う代わりに、ここを私の拠点の一つとさせてくれないだろうか?」
村長が戸惑いの顔を見せ
「拠点とは?」
デウスギアが空を指差す。もう蜃気楼の如く見えないエデンズ・アークを示し
「先程、空にあった。あの巨大な物体な。私の巨城なんだよ。ここの世界とは違う別世界から来てねぇ」
村長が妻と顔を会わせて
「まさか…異界渡りを…」
その言葉にデウスギアの視線が鋭くなり
「異界渡り? つまり、私のように別世界から…」
村長は肯き
「はい。ウワサ程度ですが…チラホラと。実物の方を見るのは…始めてなのです」
デウスギアは右手の一つを顎に当て思考する。
どっちだ?
自分と同じ、王水の多頭龍が発端か?
それとも…別の可能性も…?
だが、ここで悩んでも情報が少なすぎて意味がない。今は、今後の事に集中だ。
考えているデウスギアに村長が
「あの…どうぞ、デウスギア様。村に拠点を置いてくださいまし」
デウスギアはハッとして
「ああ…申し訳ない。それなりにここで商売や活動もするし、それで村人達を雇う事もするだろう。今後とも、よろしく頼む」
と、何とも高い位置からの大きなお辞儀をする。
村長が慌てて
「いえいえ、こちらこそ…よろしくお願いします」
デウスギアは顔を上げ
「では、まずは…村の復旧だ。まずは…食料を」
と、告げた後ろに人サイズの稲妻が出て、それが守護神のミカヅチになる。
「デウスギア様。例の者達が…」
デウスギアがミカヅチに振り向き
「成る程、予定通りか…」
ミカヅチが肯き
「はい。如何いたしましょう」
デウスギアが
「静観だ。それと…村長、一緒に来て貰えますか?」
村長が戸惑いの視線で
「何が…」
デウスギアが
「遅すぎる王国軍の救援です」
リグレットの小隊がエイソル村に到着する頃は、夕方だった。
夜の襲撃は、危険が多い。どこに敵が潜んでいるかも分からない。
三十名の特別な魔法装備、魔法付属装備(アーティファクト)や、十名の魔法を使える魔法戦士達を連れていても、同じ装備と編成で、こっちより人数が多かったら…確実に負けるだろう。
そんなリスクを背負っていても、リグレットは向かって行く。
リグレットの母はサマリア王の側室で、王族でも血が遠い商人のような階級の出だ。
そんな母との繋がりで平民の暮らしを知っている。
ここ最近、サマリア国内にある火山が噴火した所為で、食料自給率が下がり、民は苦しい思いをしている。
国が弱くなると、他国が領土を広げようと画策してくる。
それによって民が領土戦争に巻き込まれ苦しむ。それが何よりも見ていて胸が締め付けられるようだった。
だから、できる限り、自分の出来る事をやろうと…こうして、行軍してきた。
僅かな手勢だが…。
リグレットが先頭でエイソル村が見えてくると、何か巨大な存在が前にいるがの見えた。
同じくリグレット親衛隊の副隊長の女騎士、アリアスがリグレットを守るように前に出て
「進軍、止まれーーーー」
と、号令を発した。
リグレットの進軍が止まった数メートル先にデウスギアと村長がいた。
アリアスがアーティファクトの剣を手にして
「キサマ! 何者だ!」
と、デウスギアに切っ先を向けた瞬間、リグレットの部隊の周囲に稲妻が乱れ飛び、そこから雷神達が現れ、リグレットの部隊を稲妻で出来た剣で囲む。
デウスギアが「止めい!」と声を張る。
雷神達が、稲妻の剣を下げると、村長がリグレット達に
「わたくしはこのエイソル村の村長ジリオットです。皆様は…」
リグレットが鎧馬で前に出て
「私はサマリア王家第三王女、リグレット・ラーナ・サマリアです。襲われている村に救援に来ました」
「おおお…」と村長は驚きを向ける。
デウスギアは呆れた顔をして
「成る程、アルファードとかいうヤツの情報通りか…」
リグレットが巨体のデウスギアと雷神達を見て
「村長、その隣にいる…方は…」
村長が
「襲われていた私達を助けて頂いたデウスギア様です」
リグレットが鎧馬をデウスギアに向ける、それに副隊長の女騎士アリアスと同じ親衛隊の二名が続く。
リグレットが鎧馬から降りて
「デウスギア殿。感謝する」
と、お礼の会釈をする。
ちゃんとしてくれるリグレットにホッと安心したデウスギアは
「丁寧な感謝、痛み入る。自分こそ…見過ごせなかったのでね」
リグレットはデウスギアの高い位置にある顔を見上げる。
デウスギアは跪く。見上げていると疲れるだろうとして、同じ目線になる為に座る。
リグレットはデウスギアの三眼を見詰めて
「貴殿は、どこから?」
デウスギアもリグレットを見詰めて
「ここで言うなら異界渡りという部類に入るらしい」
リグレットは驚きを見せ
「成る程、得心いった。そのお姿、そして、稲妻の兵士達。異界渡りをする者は強大な力を持っていると…聞いた事がある」
デウスギアが真剣な眼で
「その語り口だと、同じ者と会った事が…」
リグレットは肯き
「貴殿の推察通り。ウワサでは聞くが、会った事はない」
デウスギアが立ち上がり
「では、少し話がある。食事をしながらでも話そう。急いでいた様子だと、食事もまだなんだろう」
リグレットは苦笑して肯き
「申し訳ない。その通りだ」
デウスギアが
「上に立つ将なら、もっと手持ちの兵士の兵糧や兵站、兵士の疲労に気を遣うべきだ。勇猛果敢な将ほど、多くを失う。私は貴女のような優しい将に死んで欲しくない」
リグレットは、それを戒めつつ自分を認めてくれたデウスギアの言葉に心が騒いだ。
見てくれは完全に人外だが、その中身は暖かい者が見えた。
リグレット達は、デウスギアの配給による食事にありついた。
リグレットの兵員達はヘトヘトだった。守りにいった村は完全に全滅の現状に心が弱っていた。それが疲労を増していた。
そこへ来て、無事な村があり、そして、暖かく美味しい食事にありつけて、疲労が取れていった。
デウスギア達の食事の配給は、パレットに様々な色取り取りの食事を載せてのモノだ。
大きなハンバーグに、温野菜、肉入りのマッシュポテトと、暖かいシチュー。更に飲み物はお茶から色取り取りのジュースまで揃っている。
リグレットの兵員は、おいしい食事と共に無事だった村人と語り合い、無事だった事に涙して喜んだ。
デウスギアが、同じ食事をしながらリグレット達と共に暖かいたき火を囲み
「リグレット王女、今回の虐殺は、貴女に関係している」
と、デウスギアの言葉と共に、リグレットと、隣に並んでいる配下の女騎士達が驚きを向ける。
別の場所、エイソル村から二十キロ北の遠く、山の中、そこは魔皇国マーロリスの領地の平原に多数の兵站テントが並んでいた。二千の兵員がいる軍団だ。
そのとある救護のテントに、アルファードが簡易ベッドに寝かされて魔法治癒を術者から受けていた。治癒の場所は足の骨が粉々にされた右足だ。
治癒の術者が
「残念ですが…傷は治っても、内部の骨は。もう、前線に行くような軍属の復帰は、ムリでしょう」
アルファードが項垂れていると、そこに白髭白髪の男が入ってくる。
「治療は終わったか?」
アルファードは、その男を見詰め
「ニルバル様…」
白髭白髪の男は、この部隊の総長、ニルバル・バルハルンだ。
ニルバルは苦い笑みをして
「この世の絶望のような顔をするな…」
アルファードは頭を下げ
「隊長も仲間も守れず。おめおめと自分だけ生き残って」
ニルバルが
「バケモノが相手だったんだろう。仕方ない」
アルファードが自分の胸を開く。そこはデウスギアが埋め込んだメタルコアがあろう場所だろう。
「ヤツは、私の体に何かを埋め込みました。もしかしたら…この会話も…」
ニルバルがフッと笑み
「なら、丁度良い」
と、アルファードの胸部に顔を近づけ
「俺の部下を良くも殺してくれたなぁ…。これからキサマを倒しに行く。覚悟しろ」
と、告げた後、皮膚下にあるメタルコアが蠢いた。
ニルバルは怪しげな笑みをして
「よーし、届いたな」
アルファードが
「ヤツは、私の頭を読みました。目的の事も…」
ニルバルは肩を竦め
「大丈夫だ。サマリアにいる裏切り者の話によると、リグレット王女は来ているらしい。今、探りの間諜を差し向けている」
そう告げた次に、テントの幕から兵士が来て、ニルバルに耳打ちする。
「おお、予定通りだ。リグレット王女は、エイソル村に来た。そして、お前達を襲った連中もいるらしい」
ニルバルが背を向け
「じゃあ、敵討ちをしてやる。この四騎士、召喚王(サモンキング)ニルバルがな」
アルファードは頭を下げ
「ありがとうございます」
と、ニルバルを見送った。
ニルバルは夜空を見上げて
「さて、どの召喚獣を使おうかねぇ…」
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