第2話 王座

 デウスギアである中山 充は、エデンズ・アークの王座に通される。

 そこは何時もの水晶の宮殿だが…何時もとは違う。無機質で澄んだ水晶の匂いがあり、ミラエルとルシスの誘導に中山 充は続くと、先頭のミラエルとルシスから甘い匂いを感じる。


「そんなバカな…」とデウスギアの中山 充は呟く。

 それに、ミラエルとルシスが気付き

「どうしましたか?」

 ミラエルが見詰める。

「何か? お加減でも?」

 ルシスが近付く。


 三メータ半の装甲多腕巨体のデウスギアでは、ルシスは小さな子供くらいでしかない。

 ミラエルの170ちかい身長でさえ、感覚で言うなら小学校六年生くらいの比率になる。


 そんな二人から、甘い匂いがする。

 ミラエルは、ミルクのような柔らかい匂い。

 ルシスは、桃のような果実系の甘い匂い。


 戸惑いでデウスギアの三眼(サードアイ)で二人を見下ろすと、ステータスのような画面が出る。


 ミラエル レベル300

 攻撃力 9980

 防御力 12000

 魔力  10100

 魔法防御 10500


 習得攻撃数 30 合成魔法 40 レベル限界突破アリ


 ーーーーーーーーー


 ルシス レベル300

攻撃力 15000

 防御力 9800

 魔力 10010

 魔法防御 9999


 取得攻撃数 50 合成魔法 35  ステータス限界突破アリ



 二人のステータスによる内訳が出た。


 この当たりは、デウスギアであった時のオープンワールドと変わりない。


「ステータス・システムは健在か…」

と、中山 充は呟く。


 独り言をいうデウスギアに、ミラエルとルシスは顔を見合わせ

「やはり…どこか、ご体調に異変が?」

 ミラエルが、デウスギアの体に触る。


 中山 充は驚愕する。

 柔らかい、人肌の温もりがある。

 ゲーム内では、プラスチックの感触しかないのに、それ以外の感触が…。

 その前に、自分のこの三メータ半の機神型多腕巨体の隅々まで、神経が通っている事に驚く。

 ゲーム内の世界でしか存在しない体に、人、生命としての機能がある。


「どういう事だ?」

と、デウスギアの体を中山 充は見回し、その多腕の手を動かす。

 イメージでしか動かせない手達が、本当に動かしている感覚がある。


 混乱して、三眼のある額を抱えると、ルシスが

「デウスギア様…やはり、どこかお加減が悪いのですね」

と、デウスギアの腕の一つに抱き付く。


 ルシスの服はドレスと鎧を合体させたモノだ。

 だから胸部の鎧部分の感触は固いと思っていたが、軟性シリコンのように柔らかく大きな胸の感触が腕から伝わる。


 興奮の前に、なんでそうなるの?と疑問が先行した。

 確かにルシスのドレス鎧は、鎧部分が普段は柔らかく戦いの時に超硬化すると、設定はしていたが…設定通りにそうなっているとは…。


 そして、好奇心が疼いてしまった。

 じゃあ、肉体も…生身のように…。


 デウスギアの中山 充は膝を崩して、170のミラエルより頭一つ半高い位置に顔を位置させ

「すまん、ミラエル、ルシス。確かめたい事がある。二人を触ってもいいか?」


 ミラエルとルシスは戸惑いを見せるも、少し頬を染め「はい…どうぞ」と二人して肯き了承した。


 デウスギアの一メータの巨手の二つが、ミラエルとルシスに触れる。


 ウソ! 生身のように柔らかい。

 

 その生身を確かめる動きは、もっと密着を増していく。

 ミラエルとルシスを握り、二人の体をまさぐり調べる。

 どこも彼処も、生き物のように柔らかく暖かい。


 なんだこれは? どういう事だ?

 デウスギアの中山 充は困惑して調べたままにして動かしていると、ミラエルとルシスから湿った溜息が漏れ始め、二人の顔が高揚して朱に染まる。


 デウスギアの中山 充には、全くその状況が届いていない。

 生身がある現状に、ただ、驚愕している。


「で、デウスギア…様」

と、悶えるルシスの声が聞こえて


「ああ! すまん!」

と、中山 充は我に返り二人から手を離した瞬間、ミラエルとルシスがデウスギアに凭れ掛かり抱き付く。

 二人の異常を察し、中山 充が

「すまん。本当にすまない。大丈夫か?」

 本気で心配していると、二人が高揚して赤くなる頬と潤んだ瞳を向け

「デウスギア様。この続きは…褥の幕で…」

と、ミラエルが頬を寄せる。

「わたくしに、デウスギア様のお情けを…くださいまし」

と、ルシスが凭れ掛かったデウスギアの首にキスをする。


「え?」とデウスギアの中山 充は固まる。


 ミラエルが苛立ちの顔をルシスに向け

「はぁ? 最初にデウスギア様のお相手をするのは、わたくしよ!」

 ルシスが苛立ちの顔をミラエルに向け

「ああ! そんなの何処の誰が決めたのよ!」

 ミラエルがルシスに詰め寄り

「お前のような小さい体で、デウスギア様を受け止められる訳ないでしょう」

 ルシスが自分の大きな胸部を持ち上げて

「わたしより、小さな胸の果実しかないのにデウスギア様を満足させるなんてムリでしょうが!」

 ミラエルが自分の胸を持ち上げ

「これでも、私は、Fもあるよの!」

 ルシスが自分の手に余る胸を持ち上げ

「わたくしは、Jよ!」


 言い争いを始めた二人に、デウスギアの中山 充は額を抱えた次に、言い争う二人を前に、どうすれば?と考えていると、昔、仲が良かった女性に、女の言い争いは、手が出た時は止めるけど、言い争っているなら、静観していれば終わるから…を思い出し、その通りにして小一時間後。


 ミラエルとルシスは言いたい事をディスりあって、息を荒くさせた次に

「デウスギア様に決めて貰いましょう」

とミラエルが言い。

「そうね…」

とルシスが了承した。

 そして、二人が「デウスギア様…」とデウスギアに凭れ掛かる。

 

 デウスギアの中山 充は項垂れた次に

「ケンカは終わったな。先程はすまなかった。やり過ぎた」

 謝罪すると、ミラエルとルシスが下がり跪いて

「いいえ、そんな事はありません。デウスギア様に触れて頂き、感謝しかありません」

とミラエルが

「わたくしも、同じです。ご褒美です」

とルシスが

 デウスギアは額を掻きつつ

「二人に触れたのは、己の感覚がちゃんと機能しているか調べる為だった。許せ」

『はぁ…』と二人は困惑と残念そうな顔を見せる。


 デウスギアは立ち上がり

「ミラエル、ルシス。問題が発生した。今すぐ周辺の調査を始めよ」

『は!』とミラエルとルシスは命令を受け取った。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 デウスギアの中山 充は、水晶の間の王座で、執事型戦闘AIキャラ、幽玄を前に報告を聞く。

 幽玄は年齢的に二十代前半の青年で、眼鏡にポニテール、美形、ビッシと決まった黒目の紫の執事服と、何処かの乙女ゲームに出てくるキャラである。


 幽玄が報告用の立体画面を開きながら

「デウスギア様、エデンズ・アークの探査により、周辺の状況が判明しました。

 現在、エデンス・アークは、全長20キロ程度の小半島にいます。

 その小半島より数キロ離れた場所に大陸がありまして」


 デウスギアの目の前に、エデンズ・アークの先端が刺さる小半島と、その隣にある大陸が投影される。

 大陸の大きさは、大体、オーストラリアくらいだろう。


 幽玄が報告を続ける。

「現在いる我々の世界は、前回の世界と動揺の円周40万キロ程度と思われ

 海面が65%、陸地が35%で、エデンズ・アークに隣接する大陸と同じ大陸が8つあり、陸地を形成しています」


 デウスギアの中山 充が立体画面を触れて調べた文明規模を見る。

「生活様式としては、中世ヨーロッパの後期レベルか…」


 幽玄が次のデータを見せて

「ですが…魔法が存在し、人間以外の多種多様な種族も共存しています。

 そしてなにより、ニュートリノ波動探査によると…地中には、高度な文明があった形跡もあります」


「んん…」とデウスギアの中山は腕を組み「まさに、ライトノベルやゲームにあるファンタジー世界だな」


 幽玄が

「我々が本来転移する世界は、文明がない世界ですが…」


 デウスギアがの中山が

「そう、問題が起こって、ここに来てしまったか…」


 幽玄が渋い顔で

「如何いたしましょうか?」


 デウスギアの中山は立ち上がり

「守護神達(ガーディアン)を集めよ」


 幽玄がお辞儀して「畏まりました」と承った。


 デウスギアの中山が告げたガーディアンとは、このエデンズ・アーク各部門のまとめ役、リーダー7名の事である。




 デウスギアの中山 充は、巨大な内部廊下を歩き、部屋に戻っていると、雑務用のAIキャラ達がお辞儀する。

「職務ご苦労」

と、一人一人に告げていくと、雑務用AIキャラが、驚きと感激したように嬉しげな顔を見せる。


 それで中山 充は察する。このエデンズ・アークにいる全てのAIキャラに感情がある。生きているようだと…。

 プログラムの集合体であるAIキャラに生命が宿っている事実に戸惑い、何より、自分の体が人で無い事も困惑する。


 中山 充が部屋に入ると、そこは休む事がなかった。自分の部屋があった。

 大きめのキングサイズを四つ合わせた巨大ベッド、鏡にチョットした書斎、天幕。

 その部屋にあるイスに座ろうとするも、それは人サイズだ。

「さて…」と三メータ半の巨体を触り考えた次に、別のサイズに変形出来る機構を久しぶりに使う。

「モード、セミデウス」

 三メータ半の巨体が、ロボット変形の様に折り畳まれ、身長180程の装甲ロボットのような体になるも、背中から結晶の翼が伸びている。

「翼は…こうするか」

と、結晶の翼を折り込むようにして畳み、イスに腰掛けると、イスが自動でサイズと形を変化さえた。

「……もしかして…オートでサイズ変更してくれるのか?」

と、上半身を離してイスを見る。

 そして「その通りでございます」と呼び掛ける女性の声がした。

「うわぁ!」とデウスギアの中山 充は驚きの声を放った。

 自分が座っているイスの後ろには、メイドと執事がいた。

 メイドは人型のマキナ(機神)種、執事は…いや、執事ではない男装をした女性執事でルシスと同じ悪魔種だ。


 デウスギアの中山が二人を見て

「なんで、部屋にいるの?」


 二人は訝しそうな顔でマキナ種の

「わたくし達は、デウスギア様の身の回りのお世話をする係です。部屋にいて当然ですが…」


「あ」とデウスギアの中山は思い出した。

 確かに、そんなのを設定したなぁ…。

「すまないが…一人で考え事をしたいから、部屋から退出してくれないか?」


 マキナ種のメイドと、悪魔種の女性執事はお辞儀して「では、ご用の際は、お呼びください。デウスギア様」と女性執事が告げて、二人は出て行った。


 やっと一人になった部屋で中山は

「さて…この先、どうしたモノか…」

 この世界で生きている感触がある中山は、自分の手を見詰めた。

 ツルツルとして金属光する手に、顔を引き攣らせた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 中山が部屋で静かにしていると、ノックがされる。

「デウスギア様」

 先程のマキナ種のメイドだ。

「どうした?」

 デウスギアの中山 充が聞く。

「幽玄様より、守護神(ガーディアン)達の招集が終わりましたので、王座へ…と」

「分かった」と、デウスギアの中山 充はイスから立ち上がると、イスは元の状態に戻る。

「今度はセミデウスにしないで座ろう」

と、三メータ半の巨体機神の体に戻り、ドアを出て行くと、その前にマキナ種のメイドと悪魔種の女性執事が待っていた。

 デウスギアの中山 充は見詰める。

 確か名前は…と思い出そうとしていると、額のステータスを調べる第三眼(サードアイ)が二人の名前とステータスを示す。


 マキナ種のメイド…アルメネ レベル200

 攻撃力 7000

 防御力 8000

 魔法 9876

 魔法防御 9888


 取得攻撃数 50 合成魔法60 ギア(巨大機兵)発動アリ


 悪魔種の女性執事…シュトーリ レベル250

 攻撃力 8900

 防御力 7000

 魔法 8000

 魔法防御 7900


 取得攻撃数 30 合成魔法15  永遠のプリズン発動アリ


 アルメネとシュトーリの二人を見て

「シュトーリ、アルメネ。済まなかったな。私のワガママでお前達の仕事を邪魔してしまった」

と、デウスギアの中山 充は謝罪を告げる。

 二人は、この部屋での自分の世話が仕事なのだ。それを拒否してしまったのだ。

 謂わば、要らないという否定をしてしまった。


 アルメネとシュトーリは、眼が潤んだ後、跪き

「そんな事はありません。デウスギア様のお心を忖度できないわたくし達が悪いのです」

と、アルメネが頭を下げる。

「アルメネの言う通りです。デウスギア様がわたくし達に謝罪する事なぞありません」

と、シュトーリも頭を下げる。


 丁寧過ぎる二人にデウスギアの中山 充は微笑み

「では、二人の仕事を奪ってしまった私への罰として、今から行われる守護神(ガーディアン)達との会議で、私のサポートをして欲しい」


 二人は感激した顔を向け「よろしいのですか? デウスギア様の…御技を手助けられるなんて、一生の光栄にございます」と二人は声を張る。


 中山 充はフッと笑み

「オーバーだ。とにかく、少しデータを使う会議になる。手助けをしてくれ」

『は!』と二人は声を張った。



 デウスギアの中山 充はアルメネとシュトーリを連れて王座に来る。


 水晶の間の王座には7名の守護神達(ガーディアン)が跪いていた。


 王座に近い方から、王座の右に悪魔種のルシスと左に大天使のミラエル。

 王座の前に五人が跪く。

 マキナ種でデウスギアと同じ三メータ半の巨体を持つ機神ダイダロス。

 その左に悪魔種で眼鏡を掛けた男性、身長は180程、飴色のスーツと背中から翼手を伸ばす悪魔神バエル。

 そのバエルの左に鋭く幾つの角を伸ばし背中に光輪の翼を背負う12歳くらいの双子の姉妹。魔神族の姉は魔神アミト、妹は魔神セト、服装は白地の軍服だが、子供故に学生服にも見えてしまう。

 最後のその双子の左、雷神種とされる雷のエネルギーで構築された男、雷神ミカヅチがいる。服装は稲妻で構築されているので青白い光を放ち、髪は電撃を微量に放って突き上がっている。


 デウスギアの中山 充は守護神達が揃ったその場を進み王座に座ると、守護神達が跪く。


 守護神達の後ろに付いて来たアルメネとシュトーリが付き同じく跪く。

 デウスギアの王座の前にいるバエルが言葉を発する。

「我らの創造主にして、絶対なる主、デウスギア様。我ら守護神は、デウスギア様のご命令に従い集まりました。どのようなご用件でありましょう」


 デウスギアは装甲の胸を張り

「皆は、今の現状を知っているか?」

 左にいるミラエルが

「はい、予定していた世界とは…違う世界に…」


 デウスギアは「うむ、そうだ」と肯き

「本来なら、このように文明が存在しない世界へ降臨して、新たに我らの世界を構築する予定であったが…」


 ダイダロスが顔を上げ

「何が起こったのですか?」


 デウスギアは顔を渋くする。閻魔大王やギリシャの絶対神ゼウスのような顔が渋くなると迫力がある。

「不明の襲撃者に襲われた」


 ルシスが

「そんな、デウスギア様より強い存在なぞ」


 デウスギアが手をルシスに向け

「ルシス。我がいる神域には、我と同じ力を持つ者達がいる。驕りは足を掬われるぞ」


 ルシスが恐れを感じ「はは、申し訳ありません」と深く頭を下げる。


 デウスギアが

「だが、我もやられているだけではない。負けたら次は勝つだけだ」

 その姿、守護神達の頬に嬉しげな笑みを作る。

 我らを創造せし主は強いという事実に、否応なく気持ちが高まる。


 デウスギアは手の一つを翳し

「では、この世界は…と予測を考えるとして、我はそれに負けて遠方に飛ばされた故に、遙かな地に来たか…。それとも…」


 バエルが

「つまり、その勝者が作りし世界に…」


 デウスギアが肯き

「その通りだバエル。だが、ここはその勝者が作りし世界とは、言えないかもしれん。我に戦いを挑んだその者は、こう言っていた。良き新たなる人生の旅を…と」


 バエルは「成る程、成る程」と告げる。


 魔神の姉アミトが

「ねぇ、バエル。どういう事なの?」

 魔神の妹セトが

「意味が分からない」


 ミラエルが

「つまり、種子。こういう事よ。デウスギア様の連なる者達が何らかの種子として利用されて、様々な世界に飛ばされた。ですが…デウスギア様はこうして無事だった。つまり、デウスギア様は種子になる前に打ち勝ったが…」


 デウスギアが王座の手摺りを叩き

「その通りだ。ミラエル、バエルの考えている通りなのだよ」


 デウスギアの中山 充は…とある事を前々から考えていた。

 セフィロート・システム、無限の演算と記憶の能力を持つコンピューターシステム。それは考えようによっては…世界を宇宙を演算出来る能力があるという事だ。

 宇宙創造が可能なシステムでもある…かも。

 そう考えていたが、確証はなかった。

 だが、あの王水の多頭龍が言っていた。

 光輝書(ゾディファール・セフィール)を与えて正解だった…と。それがセフィロート・システムだとも…。

 コンピューターシステムではなかった。

 世界を創造するシステムで、その余剰として世の中を動かすコンピューターシステムを生み出していた。

 本命は…この今のように世界を、存在を生み出す事だ。

 故に、神度は神の度合い、超位者(ザラシュストラ)なのだ。

 そして何より、ここには生きている彼ら、エデンズ・アークのキャラ達がいる。

 これは夢か? そう思ったが…苦痛もあるし、経過している時間がある。

 夢なら全てがデタラメに繋がって纏まりも時間の感覚も存在しない。


 知らず知らずの内に、存在を作り出していたとは…。いや、存在故に、存在をコピーしていけるか…。


 バエルが

「では、デウスギア様…今後は…」


 デウスギアが厳かに

「我らのやることは変わらない。この世界を前の時のように、我らのシステムで覆い尽くすのみ。それによって、我は、我の負けた存在に手が届く筈だ」


 そう、王水の多頭龍は言っていた。

”では、超位者(ザラシュストラ)を得た者達よ。もっと強くなった時に、再び相見えようぞ”

 望み通り、強大になって目の前に立ってやろう。


 バエルが頭を垂れ

「では…今後は…」


 デウスギアが

「まずは…詳しい情報収集だ。その後…この世界の文明に紛れて、行動を開始する」

 やる事は、今までのオープンワールドのメイキングと変わらない。

 だが、文明がある知的種が多数存在している。

 ある意味、大地だけの時よりは、膨大な時間が掛かるだろう。

 だが、関係ない。この人外の体に寿命があるとは思えない。

 本当に人から別の存在に、いや…生命としての次元さえ超えているような気がする。

 確かにヤツ、王水の多頭龍に達すれば、元の世界、地球に帰れるかもしれないが…。

 大して執着もない。むしろ、今の方が面白いように感じる。

 故、中山 充ではない、デウスギア、エデンズ・アークの創造主として暮らそう。

「所で皆よ。皆は我の事をどう思う?」


 まさにシステムでしかなった彼らが生を受けて目の前にいる。

 聞いて見たい好奇心が勝った。


 機神ダイダロスが先陣を切る。

「デウスギア様は、絶対なる方。わたくしが忠義を尽くすべき偉大な御方です」

 悪魔神バエルが続く

「その恐るべき叡智、その強大な支配力、大地を覆う空よりも巨大な器。様に王の中の王。

わたくしは、貴方様に創造してもらい、こうして仕える事が至上の喜びにございます」

 魔神の姉アミトが

「私は、デウスギア様が格好いいです。この話し合い、その立ち振る舞い。最高に素晴らしい方です」

 魔神の妹セトも

「わ、私もお姉ちゃんと同じです。格好いいです」

 黙っていた雷神ミカヅチが

「デウスギア様の言葉一つ一つに素晴らしい威を感じます。俺は、そんな貴方様の懐刀である事に誇りを持っています」

 ダイダロスが

「デウスギア様の懐刀は私だ」

「はぁ?」

と、ミカヅチは苛立ちを向けた。

 何かぶつかり合いそうな雰囲気にデウスギアが

「よい、お前達二人は、二人とも大事な二本の懐刀だ」

 それを聞いてダイダロスとミカヅチが深く頭を下げた。


 ルシスが

「わたくしは、デウスギア様の女になりとうございます」

『え?』と全体が響めく。

 ルシスは熱を帯びた顔を見せ

「わたくしこそ、デウスギア様に女の癒やしをもたらせると自負しています。どうぞ、わたくしを差し上げますので、その大きな抱擁で愛でてくださいまし」

「はぁ!」とミラエルが声を張り

「黙れ、このチビ牛女」

「は!」とルシスが立ち上がりミラエルと睨み合う。

 ルシスがJカップある胸を持ち上げ

「わたくしを創造したのデウスギア様よ。この素晴らしい女性の果実は、デウスギア様に味わって貰う為にあるのよ。わたしより貧相でかわいそうねミラエル」

 ミラエルが自分の胸をルシスに当て

「私だってFもあるわ! そんな小さな体では、デウスギア様の愛を受け止めるなんてムリでしょうが!」

「はぁ!」とルシスもミラエルに胸を押し当て

「アンタこそ、デウスギア様より小さいでしょうが! それに私はデウスギア様が創造したモノなのよ。私を否定するのはデウスギア様を否定すると同じよ!」

 ミラエルも胸を張って押し合い

「それはこっちも同じよ」


 周囲は生暖かい眼で、デウスギアは腕の一つで額を掻いて、多腕の一つで二人の間に入り

「ケンカは後にしろ」

『申し訳ありません』とミラエルとルシスが控える。

 デウスギアが

「ミラエル、お前は?」

 ミラエルが

「わたくしは、貴方様が愛おしいです。今まで、こうして会話さえ出来ませんでした。だから…このようにデウスギア様を感じられる。それが嬉しいのです。そして…もっとデウスギア様を…感じたい」

と、潤んで頬を染めてデウスギアを見る。


 デウスギアは強めの好意を受け取り戸惑い

「わ、分かった。二人の気持ち…考えて置こう」

 ミラエルとルシスが喜ぶ顔をして

『はい! ありがとうございます』

と声を張る。かなり期待されてしまった。


 何となく話が終わったそこへ、バエルが

「デウスギア様…どうやら、エデンズ・アークの下のいる大地の者達が、エデンズ・アークに気付いたようですが…」


 デウスギアが顎を擦り 

「そうだな…唐突に消すと…驚くだろうから。蜃気楼のように…」


 バエルが

「でしたら…セトの魔法を使えば…。ですが…それでは…近付くと、エデンズ・アークの先端の先端巨塔(ビックランス)に近づきますと、見つかりますが…」


 デウスギアが肯き

「それはそれで構わない。何らかの対応をしてくるなら、対応するだけ。友好なら友好で、戦いなら戦いで叩き潰せばいい」

 バエルが頭を下げ「畏まりました」と告げる。


 デウスギアはセトに

「すまんな。面倒を押し付ける」


 セトは首を横に振り

「いいえ、大丈夫です」


「さて…」とデウスギアは首を傾げ「どう…この世界にある文明達や種族達の調査を…」


 ミカヅチが

「それらな、我ら雷神達にお任せください。我ら雷神族なら、姿を隠すのも自在、どこぞの種族に憑依して調べるも、また…似せて紛れるのも得意」


 デウスギアが

「もし脅威に遭遇した場合…」


 ミカヅチが

「問題ありません。雷神達は、己を電撃の波動に変換して遠くへ転移する。クアンタム・テレポートが得意にございます。脅威に遭遇した場合は、直ぐに逃れるは容易いのです」


 デウスギアは雷神達の仕様を思い返す。

 稲妻、電気的力の集合体である彼らなら確かに、自身を波動という不確定に変化させ、どんな攻撃にも、また何か操る力に遭遇しても、その不確定波動となる力で防げる。なら…。

「よし、ミカヅチよ。調査する者達の選定は任せる。だが、ムリはするな。なるべく気付かれずに、慎重に調べよ。何があるか分からないからなぁ」


 ミカヅチは頭を下げ

「は、畏まりました」


 デウスギアは王座から立ち上がり

「では、これにて守護神達(ガーディアン)との会議を終える。各々の事に戻れ」

と、デウスギアは王座がある水晶の宮殿を出て行き、それにアルネメとシュトーリが付き従っていった。



 デウスギアが出て行った王座では跪いていた全員が立ち上がりダイダロスが

「まさか…これ程の王威を放つとは…」

 バエルが

「今までは、こうして話す事はなかったですからね…。ふらりと現れて、大いなる創造の仕事を成されて、ご帰還してしまう。その創造のお手並みから、前々から凄まじい方だと思っていましたが…。これ程とは…驚嘆です」

 ミカヅチが

「ああ…正に忠義を尽くすに値する方だ。俺は、あの方から創造され誇りに思う」

 アミトが

「怖い方だと思っていたけど…。なんだろう…凄く強くて包み込むような感じがした」

 セトが

「あの…大きく見えましたけど…全然、怖くありませんでした」

 バエルが

「素晴らしい御方だと、そうだよね。ミラエル、ルシス…」

と、二人を見ると、二人は睨み合っている。

 先程のケンカの続きだろう。

「ああ…これはこれは…」

と、バエルが頭を振りミカヅチが

「面倒に巻き込まれる前に消えるか」

と、バエルとミカヅチが歩き出し

「全く」とダイダロスも去って行く。

「じゃあ、アタシ達も」とアミトとセトも続こうとした次に

「ちょっと待って!」とルシスが姉妹を止めて

「ミラエルとわたし、どっちがデウスギア様に相応しいか、見て頂戴」

と、巻き込まれてしまった。

 アミトは顔を引き攣らせ、セトは呆然とした。




 デウスギアは部屋に戻りながら、先程の守護神達の会話を思い出し、恥ずかしそうに微笑んでいた。

 全く、アイツ等は…。

 どこかそれは親戚の子供に褒められたおじさんのような気恥ずかしさがあった。

 そう思いつつ部屋に戻りながら

「さて…どうするかな?」

と、考え事をする。

 まあ、自分でも色々と周囲を見てみるか…。

 部屋に戻り、室内にあるエデンズ・アークの下を観察出来る視覚拡張の魔導術(ギア)を使う。

 魔導術(ギア)は基本的に、触媒となる魔導具やアイテムを使う事で、その効果を発動出来る。

 デウスギアは水晶の杖の魔導具(ギア)を使い、遠く…エデンズ・アークの下に広がる大地を見る。


 エデンズ・アークの先端柱塔がある島から数キロ先にある大陸の海岸線を遠見の魔導具(ギア)で見ていると、煙が上がっているのが見えた。

「なんだ?」

と、デウスギアは、その場所をアップさせると、海岸の洋風の集落があり、その一軒が燃えている。

 そして、更に集落が何者かに襲撃されている。

 集落の住民が、鎧を纏った者達に斬られたり、追いかけられて逃げ惑う。

 その悲劇の現場をデウスギアは見て

「何が起こったんだ?」

 更に周辺を見るために、ギアの視界を動かすと、兵士に追われて森に逃げる姉妹を発見する。

 部屋の世話係であるアルメネが狼狽える主を見て、隣に来ると同じく襲撃を映すギアを見て

「デウスギア様…これは…戦争でしょうか?」


 デウスギアは首を横に振り「いいや、これは虐殺だ」と、顔が鋭くなる。

 支配を目的とした征服ではない。一方的な蹂躙、それを見てデウスギアの脳裏に、地球時分の己が過ぎる。

 小さい頃にいじめられて、誰も助けてくれなかった事が脳裏に過ぎり、兵士から逃げ惑う姉妹を見て、いてもたってもいられない…と立ち上がった。


「すまん、少し出る」

と、デウスギアは告げると、自身の能力にある空間転移を発動させ、逃げる姉妹達の元へ行く。

「で、デウスギア様!」

と、アルネメが止めようとするも遅かった。

 同じくいるシュトーリが来て

「ど、どうする? 勝手に出られては…御身に何かあったら…」

 アルネメが

「…守護神様達に、ミラエル様とルシス様に連絡しましょう」

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