第一話 人が消える話 11
彼が消えてしまう三日前ぐらいかな。
ジッと海の方を見つめていた。
それ自体は別に珍しくはない。
この町で見るものといったら海ぐらいしかないからね。
けど、私が話しかけても気が付かないぐらい見つめていたから、聞いたの。
「どうしたの?」
道君は海の方を見つめながら答えてくれた。
「呼ばれた……いえ、呼ばれています」
何にとか誰になんて恐くて聞けなかったわ。
聞いたら最後、連れて行かれそうだったからね。
もう大切な人を失うなんて二度とごめんだった。
「そう……なんだ。ほ、ほら、早く終わらせないと夜になっちゃうわ」
無理矢理笑顔を作った。
そうしなきゃいけないと思ったから。
道君も気が付いたみたいで、苦笑いを浮かべていた。
「そうでしたね、早く終わらせちゃいましょう」
それからの日々はやっぱり時々海の方向を眺めていることが多くなった。
けど、怪談とかで良くある海の方に歩いていったりすることはないから、そういう類いのものでもないみたいだった。
変わったところもある。
昔のこととかを話してくれるようになった。
夏美ちゃんの連れだって昔のことはそんなに話してくれないでしょ?
道君もそうだったわ。
けど、何故か話してくれるようになったの、突然にね。
あの時は何か心境の変化かな位しか思ってなかったけど、そうじゃなかった。
忘れて欲しくないため、自分がこの世界で生きていた記憶を私に刻んでいたの。
一日中、道君は私に話してくれた。
小さい頃から初恋の相手、今までどこにいて、どうしてこの町に着いたのか、ね。
飽きなかったわ。
もっと彼のことを知りたいと思った。
話だけでは足りなかったから、その日は私から彼を求めた。
夏美ちゃんにはまだ早い話ね。
ごめんね。
そして、彼が呼ばれたと言ってから三日目。
その日も変わらず、外に出て食糧を調達していた。だけど、突然道君が私に迫ってきた。
それがあまりにも突然だったから押し倒される形になった。そこまで積極的なことはなかったから、ちょっと驚いたのもあったけど。
「どうしたの?」
「いえ……」
そのままね、唇を重ねられたわ。
お互いに求め合うものじゃなくて、名残惜しそうに味わうようなキスだった。
道君から顔を離した。
「ご――」
言葉の途中で、道君の姿が弾けて、下にいた私に道君だった大量の水が降り注いで水浸しになっていた。
「え?」
理解出来なかった。ううん、理解したくなかった。
道君がいなくなってしまったことを。
彼の姿はどこにもなくなっていて、残ったのは彼の身につけていた衣服のみ。
「道君?」
呼ぶ声には当然誰も応えてくれない。
また私一人この町に残されたわ。
お墓も作ってあげた。
中には何も入っていないんだけどね。
〇
皐月さんの話が終わり、お互いに黙り込んでしまった。
かける言葉が見つからない。
私はこう言う時には、なんて言葉をかけてもらっていたんだろうか。
悩んでいるだけでただ時間が過ぎていく。
すると、入り口に彰さんがポケットに手を入れた格好で立っていた。
「ずっと聞いていたでしょ」
「え?」
私が思わず、皐月さんの方を振り返る。
「話が長いんだよ、暑くて死ぬかと思ったわ」
「えええっ!?」
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