第一話 人が消える話 4


 〇


 二人で向かっている途中で波止場の先端に座り込んでいる人物を確認することが出来た。

 隣にいる彰さんに本当にいたでしょという感じで見上げる。けど、彰さんは案の定面倒くさいとか来なきゃよかったというような複雑そうな表情をしていた。

「ほら、やっぱりいるじゃないですか」

 白いワンピースを着ていて、私のより鍔が広く長いリボンが揺れる麦わら帽子に背中まである黒い艶やか髪をしている女性だと思う。

 あまりにも絵にかいた砂浜にいる女性だったから、女装している人の可能性も考えては見た。けど、このご時世そんな余裕はないだろうなと却下した。

「そうだな」

 それだけ呟くと踵を返そうとしたから、思わず腕を掴んだ。

「何だよ」

「どこ行くんですか!」

 小さな声で叫ぶ。

 生活音のしない浜辺は海鳥の鳴き声や波の音しかしていないため、ちょっと大きな声を出そうものなら、波止場にいる女性に聞かれてしまう。

「車に決まってんだろ」

「何で、せっかく人を見つけたんですよ?」

 彼が私から視線を外して女性の方に向けたので、私も釣られて見る。

「動きがないからな、死人かもしれんだろ」

「死人ならあんな風にしっかりと座ってられませんよ! 体調が悪いだけかもしれないじゃないですか」

 彰さんが私の言うことを聞いてくれたのか体の向きを変えてくれた。

「分かった……じゃあ、お前、行って確かめてこい」

「えっ」

 その一言で思わず変な声が漏れたのと同時に体が硬直した。

 さすがに一人で行くのはちょっと心細い。

 それにそんな知らない人にポンポン話しかけらるほどコミュニケーション能力が高いわけではない。

「彰さんももちろん、来てくれますよね……?」

「俺はここで待ってる。もう十分付き合ってやってるんだからいいだろ」

 とても痛いところを突いてくる。

 だけど、私としては付いてきてもらわないと流石にあそこまで一人で確かめに行く気にならない。

「か弱い女の子を一人あんなところに行かせるんですか……?」

「か弱い……ねぇ」

 目を細めて、口を半分開いたような嫌な笑みを浮かべた。

 下手なことを言ったかもしれないと後悔しても遅かった。

「外でもトイレは出来る、生きてる獣や魚を捌けるお前がか弱い……ねぇ?」

 前半部分しか頭に入ってこなかったが、それだけで全身の血が沸騰するぐらい熱くなり、温度に負けないぐらい体温が上がってきているのを感じる。

「それは、しょうがないからじゃないですか!」

 私の声が大きく海水浴場に響き渡った。

 やっちゃった。

 沸騰しそうな位暑かった血が一気に冷めた。

「誰……かいるの?」

 波止場にいた女性が私の声に反応して、姿勢が良くなり、頭を左右に動かす。

 隣りにいる彰さんは非難めいた目で私を見てきているが、そんな目をされたって先に言ってきたのは彰さんなんだからしょうがないじゃない。

「どうすんだよ」

「どうするって……」

 私に聞かれても凄い困るだけなのに。

 女性がこちらを振り向いて動きが止まる。

 私達を見つけたみたいだ。

 だけど、帽子の陰に隠れて口元以外の表情は読めないが、少しの間があり私たちのことを観察しているのだろうか動きがない。

 ゆっくりと女性が立ち上がり、そのままこちらに歩いてくる。

 何で私が決めないといけないの?

 私が声をかけようって言ったからだろうか。

 それとも、私がここに誘ったからだろうか。

 けど、どうするなんて言われたってそんなの思い付くわけないよ。

「貴方達は……?」

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