恋恋恋
無記名
好きな人の好きな人
「なあ、女の子ってどんな告白のされかたがいいかな……いやっ、まあ、どうなのかなって、あくまで知識として、知識」
桜舞い散る河川敷の帰り道の通学路。
突然、上擦った声と、真っ赤な耳でわたしにそんなことを聞いてきたのは幼馴染の彼、倉吉直樹だった。
春のあたたかいにおいと、桜の花びらに埋め尽くされた川の水面がゆったりと流されていく。
まったく、分かりやすいなあ、もう。
落ち着かない彼の視線がきょろきょろと、だけど、こっちは見てくれなくて、気にしているのはわたしたちの少し前を歩くもう一人の幼馴染の咲奈だ。
勉強も運動もできて、凛として艶やかな黒髪の咲奈ちゃんは、日々を勉強に追われてケアのできていない茶色がかった短髪のわたしとはくらべものにできないくらい綺麗で、そして、うらやましい。
だから、直樹が選ぶのは、がさつな
そんなのわかってる。……わかってる。
直樹はそわそわとしていて、早く咲奈と話したいんだろうな。はやく答えてあげよう。
「そうだなぁー、告白……告白かぁ……うーん。そうだなあ、私なら卒業式にみんなの前でサプラーイズ! とか、かな?」
しんどいなあ、と。弱いわたしの心は押し込んで、いつも通りに元気で明るい私で精一杯に答える。
直樹は意外そうにわたしの顔を見たあと、「卒業、卒業……」と考えこむように俯いてしまう。
彼の心がこっちに向かないなら、わたしのことを知ってもらおう。少しでも、彼の心に奈々穂というわたしを覚えてもらおう。せめてもの悪あがき。これくらいは、恋の神様には許してほしい。
卒業式なんて、大学受験も控えた三年生になったばかりのわたしたちには一年も先の話なのに。
そんな私の話まで真剣に考えてくれる彼の横顔はいつまでも見ていられる。
「そうか、そういうのがいいのか……ああ、いや、違うぞ、うん。でも、参考になるわ、ありがとな」
わたしの視線に気づいて顔を上げた直樹は、すぐに慌てて咲奈のほうへ走って行ってしまう。
少し前なら、わたしも一緒に追いかけて、三人で並んで歩いた。
追いついたときに驚かした咲奈が取り乱して、冷静な仮面がとれて慌てふためく姿は可愛かった。
でも、今はそんなことはしない。直樹の気持ちに気づいてしまった。できるだけ、二人の時間をつくってあげよう。そこに
せめて、ふたりの恋のキューピッドに。
ひとりになったわたしは、いつまでも遠くなる行く二人を眺めていた。
すごく、すごくお似合いだ。
二人が振り返ってわたしに何か呼び掛けている。
だけど、その声は聞えない。風と共に待った桜の幕がわたしと二人を切り離していた。
きっと、わたしを呼ぶ二人に、どうしようもなく足は向かってしまった。
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