テロリスト編 最終話 ドッキドキ! 室内プールで大騒動! ポロリもあるよ
「グレイスさんだよ……」
一矢は一呼吸おいて説明した。
「まず、ラクティスはハードケースにディスクしかなかったと言ったけど……結界解除装置は結構薄い。多分ハードケースに細工して隠してあったんだよ。だから魔力増幅装置の入れ物に指定したんだ」
「そんな……俺は何も気づかなかった」
一矢の話にラクティスが驚く。
「最初からおかしいと思ってたんだよ。あの備品室のセキュリティから考えたら、忍びこんで盗み出せる筈がなかった。今回の事件はグレイスさんが最初に結界解除装置が盗まれたと言い出した。でも実際はラクティスが鑑識として盗み出した。よくある手だ」
「そうか……グレイスは備品室のチェックをするフリをして、結界解除装置をハードケースに入れて備品室のどこかに隠したのか」
「そういう事。それで備品室に交換したハードケースの忘れ物があったんだよ」
「ラクティスが忍び込めるように、グレイスさんは盗難事件をでっち上げた。当然現場は風紀委員が捜査の為に来て大混乱だ。それなら鑑識としてラクティスが潜入し堂々と盗み出せる……ラクティスはそれが結界解除装置とは知らずにね」
「首謀者がグレイスなら、全ての辻褄が合う……朝の会議でもエディをそれとなく容疑者と誘導してた。グレイスは自分で自分のIDをハッキングして、自分に容疑を向けさせた……そしてシロエに潔白を証明させ、エディに罪を被せる……一度容疑者から外れたらそう簡単には疑われない」
ダイアナの中でどんどんピースがはまっていく。
ダイアナがすぐにシロエに連絡を入れた。
「シロエ! グレイスはいるか!?」
「いえ、さっきまでいたんですが……姿が見えませんね」
「くそ! 遅かったか。今回のテロ攻撃の首謀者はグレイスだ! すぐに全館封鎖しろ! グレイスをテロ対策委員会室から外に出すな!」
「グレイスさんがテロリスト!? 何でそんな事に……とりあえずコーネル委員長に伝えて全館封鎖します!」
「私達もすぐにそっちに向かう!」
ダイアナは通信を切る。一矢はダイアナに声をかけた。
「ダイアナ! 行こう」
「俺も行くぜ。最後まで付き合う」
「先輩、私も最後まで付き合いますよ」
ラルフとアリスも一矢に続く。
「おい、ラクティスを確保して連行しろ。こいつが結界解除装置を盗み出した犯人だ。それから非合法の魔法薬の密造に関しても徹底的に調べろ。いいな?」
ダイアナは残った風紀委員に命令すると風紀委員達はダイアナの命令に従い、ラクティスに手錠をかけた。
「エディ、さっきはありがとね。最初からあの魔法使うつもりじゃなかったんでしょ?……少しびっくりしたけど……でもちょっとカッコよかった」
アリスが顔を赤くして、一矢に耳打ちして笑顔を見せた。
「ま、まぁな……」
一矢の顔は真っ赤になっている。
やばいわ……アリス様……マジで可愛い過ぎるだろぉぉぉ!!! 俺……アリスの為なら何でもする!
でも嬉しかったな……あの中二病全開のセリフをこっちだと信じてくれる。
自作のグリモワールも元の世界じゃ笑われる対象でしかなかったけど、ここじゃ失われた伝説の魔導書だ。
まぁエディの信用があるからだけど……俺が偽物とバレたら……殺されるかも知れん。
それにしても、さっきの魔法エフェクト……カッコよかったな。今度またケッツにお願いしてみよう……ふふ。
一矢達はテロ対策委員会室に向かった。
エレベーターに乗ると同時に、シロエから連絡が来た。
「すみません! ダイアナさん、封鎖しましたが間に合いませんでした。グレイスさんは50階に向かいました! そのままグレイスさんを追って下さい!」
「わかった! そっちに向かう。それとコーネルと話したい」
「了解! 繋げました。話して下さい」
「ダイアナ、貴様……まぁいい。どうした?」
「コーネル委員長、ここからのグレイスの行動は読めません。自爆を考えている可能性もあります。念の為、学園安全保障委員会と連携して全生徒に避難命令を発令して下さい!」
「わかった! ダイアナ……必ず捕まえろ!」
「わかっている、グレイスの好きにはさせない」
「シロエ、このまま通信は切らずに、監視カメラで誘導してくれ!」
「わかりました、現在グレイスは50階で降りて左の通路を真っ直ぐ逃亡中。恐らく室内プールに向かっていると思われます」
エレベーターを降りるとダイアナは猛スピードでグレイスの後を追いかけた。
一矢達も走って後を追うが、離される一方だった。
ダイアナはグレイスの姿を捉えグングンスピードを上げる。やがてグレイスに追い付き、後ろから飛びかかる。
一矢達が追いついた頃にはグレイスは確保されていた。
「グレイス! 貴様……時限式爆発魔法はどこに仕掛けた! 言え!」
「はぁ、はぁ……何の事かわかりませんね。僕はそんなものは知らない」
「くそ! しらばっくれるな。拷問して吐かせてやる! 覚悟しろ!」
「……わかりました、全部お話しますよ。僕を室内プールに連れていってくれませんか? もう時間がないですよ?」
「どういう事だ……仕方ないこいつを室内プールに連れて行く」
グレイスを連れて室内プールに向かう。一矢達もそれに付いていく。
室内プールの入り口の前で、中から叫び声が聞こえてくる。
「全ては終わってたんだ……遅過ぎたんだ。君達は何も出来ないのさ」
ダイアナはグレイスを睨めつけてから、急いでグレイスを連れて中に入った。
「きゃぁぁぁぁ! 何これ!?」
「くそ! 間に合わないのか……」
室内プールに入っている女子の水着が溶けている……殆ど裸同然だった。
その光景を見た瞬間一矢とラルフは色欲に支配された。
おおおお! こいつは……何て素晴らしい光景なんだ!!! まさにこれは……男の天国だ!
「これはなかなか凄い事になってますねぇ」
ケッツがそう言うと、ラルフが真顔で右の方を指差しながら一矢の肩を叩く。
「エディ君……俺はあの右の奥にいる女子のおっぱいが理想なんだが……」
「うむ、ラルフ君は大きいのが好みか……形も……うむ、なかなかいい趣味をしているね。僕はどちらかというと、あっちの少し小さめのおっぱいが……」
一矢は腕を組み眉根を寄せ、ラルフに自分の趣味を話し出した時……
そうなんだ……その時俺達は後ろから殺意を感じたのさ! しかしそう感じた時には、あいにく俺とラルフはアリスに思い切りぶん殴られていたんだ。本当に参ったよ!
思わず外国人の吹き替えなってしまった。
突然、グレイスは大声で叫ぶ。
「これだぁぁ! まさに、男の夢! 楽園だ……僕はこの光景を見る為に今日まで……はっ!」
グレイスは自分に向けられている殺気に気が付いた。
「グレイス……まさか貴様の狙いはこれか?」
「ふふふ……その通りだ! 君達は僕をテロリストと勝手に勘違いしてたみたいだね?」
グレイスは得意げな顔をして、人差し指を左右に動かしながら『ちっちっち』と言った。
「僕はね、テロリストはテロリストでも……『エロテロリスト』な……」
グレイスがいい終わる前に、ダイアナはグレイスを思い切りぶん殴った。
「んきゃん!」
殴られたグレイスはプールの中に落ちると、中にいた女子にまたボコボコにされ、揉みくちゃにされている。
しかし心なしかグレイスの顔は幸せそうだった……
プールにいた他の男子も、女子に罵倒されながらも女子の裸に釘付けにされている。
その時、緊急避難命令が発令される。
「シロエ……避難命令は解除だ……もうテロの脅威はないよ」
「わかりました……グレイスはただの変態さんだったんですね。そういえばグレイスは動画を作るのが趣味って言ってたの思い出しましたよ」
「ああ、そうだったな。あの合成はあいつが作ったんだろう……まぁ本当のテロ事件じゃなくてよかったよ」
一矢とラルフはアリスに殴られた後、目を塞がれていた。
グレイスさん……あんたは俺達の英雄だぜ……大義を果たしたんだ。胸を張っていい。俺達はあんたを責めたりしないさ。
「きゃぁぁぁぁ! この変態!」
「マジで死んで! 変態!」
相変わらず女子には罵声を浴びせ続けられているグレイスだが、女子達は気付いていない……その罵声はグレイスにとってご褒美にしかならない事を……
「あのグレイスとかいう人、マジで最低ね……私の水着も溶けちゃうのかしら?」
アリスの声は、今まで一矢が聞いた中で一番冷たかった。
「多分、全部そうだろうな……グレイスは学園安全保障委員会で配る予定の水着全てに、レベル4の物質変化の魔法をかけたんだろう。オブラートみたいに水に溶ける性質に変化させた訳だ」
ダイアナの推理を説明すると、アリスの怒りはヒートアップしていく。
「せっかく今年の水着は一流デザイナーの作品で、気に入ってたのにぃ……」
エディとラルフの目を塞いでいるアリスの手に力が入っていく。
「痛い痛い! アリスさん? 手が目に食い込んでますからぁ!」
「目がぁぁ! 目がぁぁ!」
ラルフはどこかで聞いた事あるようなセリフを口にしている。
最後にグレイスの心の叫びが室内プールに響き渡った。
「うひょおおぉ! ありがとうございますぅぅ!!!!」
こうして一矢の登校初日に起きたテロ騒動は、グレイスの掌で踊らされただけという結果になった。
でも一矢は忘れない……グレイスは全男子の夢を叶えたのだ。
しばらくして、プールにいた男子は全員追い出され、グレイスは風紀委員に連行されていった。
そのまま一矢達は帰る事になった。ラルフは調べ物があるといって、あの秘密基地に向かい、ダイアナは事後処理でテロ対策委員会に戻っていった。
アリスはとても話しかけられる雰囲気じゃなかったので、何も言わずに一矢はひとりで帰る事にした。
「なぁケッツ。食料品買って帰るからナビしてくれよ?」
「旦那様……忘れたんですかぁ? 今日から1週間ピザの約束です!」
しまった……自動的に俺もピザになるのかよ。流石に飽きるだろ……
「……わかったよ。しかし今日は何も食べてないから、すげえ腹減ったな。帰ったタイミングでピザ届くように調整しといてくれよ」
「あたしにお任せ下さい!」
まぁ今日はケッツに助けられたし、仕方ない。おしおき点数も据え置きの5点にしといてやるか……。
「ところで……あの小汚い本は、一体なんだったんですかぁ? もしかして魔法も使えない旦那様が魔法を使う事を夢見て……ぷぷぷ、ぶはっぎゃはははは」
まずい……こいつにだけは見られたくないと思っていた物が……。
「う、うるせぇ! いつか絶対に魔法を使えるようになってやるからな!!! それで超美少女のハーレム作って冒険に出てやる!!」
夕暮れの帰り道、ケッツの人をバカにしたような笑い声がいつまでも響いていた……。
――――――――――――――――――――――――――
あとがき
ひとまずこのお話はここで完結いたします。
この続きはただいま執筆中ですので、完成しましたらまた投稿します。(イラストの勉強をしていたので執筆が滞っております……)
もし『早く続きが読みたい』と思ってくれている読者様がいらっしゃいましたら、感想に残していただけると幸いです。(モチベーションが上がり執筆を優先させます!)
この作品は私が初めて書いた小説です。右も左もわからないまま簡単なプロットを作ったり、執筆途中で全然違うお話になったりもしました。文章表現や言い回しなど、自分でもまだまだ力不足なのは十分承知していますが、それでも私の中ではいい作品に仕上げられたと感じております。
そして、自分の頭の中にある世界を誰かに共有してもらえる喜びや、小説を書く楽しさ、難しさを初めて私に教えてくれた作品です。
ここで笑ってくれるかな? ここでワクワクしてくれるかな? 続きが気になる展開になっただろうか? そんな事を想像しながら書いていて、私自身も一喜一憂していました。
やはりそれはこの作品を読んでくださる方達が、一人でもいるおかげなのです。
ありがとうございました!!
この作品を最後までお読みくださいました全ての読者様に感謝いたします。
天才魔法学者は中二病 ―天才魔法学者と入れ替わりで異世界行ったら、患ってた中二病が治りました― 千田すだち @oroshi-ponzu
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