第16話 天才魔法学者と入れ替わりで異世界行ったら、患っていた中二病が治りました

 ラルフもダイアナも動けないでいた。


「さぁどうする? 天才君。流石のエディ・クーパーも大切なお友達を見捨てる事は出来まい」


 ラクティスは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、狼狽える一矢を見ている。


 どうする……考えろ! このままだとラクティスの思うつぼだ……こんな時本物の『エディ・クーパー』ならどうする? 魔法を使って切り抜けるんだろうな……。


「どうしたんだ? 早く投降しろ! こいつで大人しくさせてやってもいいんだぞ?」


 ラクティスはニヤニヤしながらグリムリーパーを取り出した。


 魔法……魔法……そうか! 魔法だ! 俺は今エディなんだ。

 こうなったら一か八か……やるしかない!


 一矢はケッツに小声で話しかけた。


「ケッツ! 緊急だ、頼みがある!」


「ピンチみたいですねぇ」


「ああそうだ、お前好きなものを具現化出来るって言ってたよな?」


「ええ、出来ますよぉ」


「今から俺の言う通りに具現化してもらいたい」


「……ピザ1週間で手を打ちましょう」


「わかった! 何でもいいから頼む」


「旦那様は気前がいいですねぇ! 何でも言って下さい。でも時間は5分くらいまでですからねぇ」


「わかった。お前に『出でよいでよ』と俺が言ったら、なるべく恐ろしい悪魔のような格好で具現化して出てきてくれ。その後は俺の言葉と動きに合わせて、魔法陣とか光とかのエフェクトで盛り上げてくれ! 出来るか?」


「合言葉は『出でよいでよ』ですねぇ。わかりましたぁ! 最高に盛り上げてみせますよぉ」


「好きにやってくれ、頼んだぜ!」


 よっしゃ、中二病全開でやってやるぜ!

 

 一矢は目を閉じ顔を伏せて、中二病スイッチを入れた。


「何をごちゃごちゃ言ってるんだ?」




「ククク……ラクティス、貴様は俺を怒らせた……抑えていた『常闇の能力ちから』を解放する。見せてやろう! 貴様に生への渇望を与えてやる。……命乞いのセリフを考えておけ」


「おい、エディ……どうしたんだ?」


 ラルフは一矢の急変に驚いた。ダイアナは黙って様子を見ている。


「何を言ってるんだ? エディ・クーパー。頭がおかしくなったのか?」


「お前……今すぐアリスを離せ。死にたくはないのだろう?」


 アリスを捕らえている風紀委員に向かって脅しをかける。


 一矢が不敵な笑みを見せると、ラクティス達はエディの言動を見て警戒を始めた。


「エディ・クーパー貴様を学園反逆罪で逮捕する!」


 ラクティスがそう言った時、一矢が床に手を置いた。すると巨大な魔方陣が現れ、さっき決めた合言葉を言った。


暗黒のダークネス・大魔導士イプシシマスエディ・クーパーの名において命ずる。『』漆黒の業炎に抱かれし、地獄の王ルシファーよ……」


 すると真っ黒い穴が空き、黒い炎が噴き出す。その穴からケッツは黒い炎に包まれゆっくり現れた。その姿はまさに恐ろしい『悪魔』だった。


 体長は3メートル程、全身は真っ黒で筋肉がゴツゴツと浮き出ている。手が長く鋭い爪がある。背中には翼が生えていて、目は真っ赤だ。頭にはねじ曲がった大きなツノが生え、ライオンのような獣の顔だ。


 ラクティスは恐怖のあまり手に持っていたグリムリーパーで『悪魔』を撃った。しかし魔法が込められた弾丸は『悪魔』の体をすり抜けていく。


 ラクティスは全弾撃ち尽くし、そのままへたり込んだ。


 バーカ、あれは本物のケッツじゃないからそんなもん効かねぇんだよ!


 『悪魔』はラクティスに向かって、恐ろしい表情で牙を剥き出しにして吠えた。


「グォァァァァ!!!! ……フシューフシュー」


 やり過ぎだろケッツ……俺も怖いよ。でも……ナイスだ!


 ケッツの姿を見たラクティス達は、恐怖で全身を震わせて口が開いている。


「あれ……が、ケッツの本当の姿なのか……?」


「そんな……聞いてないぜ……」


 ラルフとダイアナも驚愕していた。


「これが最後だ……アリスを離せ」


 アリスを捕らえていた風紀委員は、あまりの恐怖に素直に言う事を聞いた。アリスが解放されたのを確認して、一矢はラクティス以外の風紀委員に睨みを効かせた。


「貴様ら……死にたくなかったら、そこから一歩も動くな。一歩でも動いたら……地獄の王ルシファーよ、こいつらを喰い殺せ!」


「かしこまりました……エディ様」


 ケッツは悪魔らしい低い声で返事をしてから、口からよだれを垂らして風紀委員達を睨んだ。


 それを見た風紀委員は固まってしまった。


「さて……ラクティス。貴様は今回のテロに関わっているな。慎重に答えろよ? 首が飛ぶぞ」


「いや! 俺は……な、何も知らない」


 ラクティスは恐怖に震えながらも否定する。


「そうか、なら用はないな。全員死んでもらおうか? アリスに危害を加えた貴様らは重罪だ」


「ち、ちょっと待ってくれ……俺をこ、殺したらお前は刑務所行きだぞ! さ、殺人は学園では裁く事は出来ないからな!」


 必死で訴えるラクティスをギロリと睨み、鼻で笑う。


「交渉のつもりか? 貴様は状況を理解出来ていないようだな……これから死ぬ貴様には、俺の事はどうでもいい事だろう? それよりも少しは自分の心配をしたらどうだ?」


「エディ・クーパー……本気なのか?」


「ククク……そうだ丁度いい。ラクティス、貴様には新しい魔法の実験体モルモットになってもらおう」


 アリスが一矢を止める


「ダメだよ! エディ。私は大丈夫だから……そんな事はしないでお願い!」


 一矢はアリスにウィンクで合図をした。


「エディ……?」


 ラルフとダイアナはその光景を黙って見てる。


「ラクティス……今から貴様に使う魔法は、時空間魔法の一種だ。こいつを食らうと貴様の存在そのものが消滅する」


「何を……言ってるんだ……」


「わからないのか? 貴様は初めからこの世界に存在しなくなるんだよ……だから今回のテロも、俺が貴様に使う魔法もになる」


 ラクティスは震えて声が出せない。


「魔法の名前は『時空間永久消滅魔法エターナル・インフェルノ』この魔法は詠唱が必要になる……最後のチャンスだ。本当の事を話すなら途中で止めてやる。その少ない脳みそでよく考えろ」


 よし、ここが勝負所だ……頼む! 引っかかってくれよ!


「おい地獄の王ルシファー……レベル6の結界解除と魔力増幅をしろ」


「かしこまりました……エディ様」


「レベル6だと……!!!」


 一矢の言葉を聞いてラルフが叫ぶ。


 床に大きな魔法陣が現れ、一矢の全身が光に包まれる。


 一矢は鞄から自作のグリモワールを取り出し、左手に持ち『エターナル・インフェルノ』のページを開いた。

 勿論、前に一矢が作った適当な魔法だ。


「詠唱が必要な魔法なんて……聞いた事ないぜ……これがレベル6……マジかよ」


 ラルフが目を丸くして驚いている。


「しかも……あの魔導書。もう失われたアーティファクトじゃないのか……? エディ、まさかここまでの魔法使いだとは……」


 ダイアナも動揺を隠せないようだった。


 一矢は今までの中二病生活で、詠唱の練習とグリモワールを使った魔法の振り付け練習を何度も何度もしてきた。


 今までの全てをかけて演技した。


 一矢が右の掌を前に突き出すと同時に、掌を中心に魔法陣が現れる。


 左手に持つグリモワールが青白く光り出して、辺りがドーム状の光に包まれる。

 周囲で放電現象が始まった。


 ナイスだケッツ! いい仕事しやがる。


「やめろ……やめてくれぇぇぇ!!」


 ラクティスの言葉を無視して一矢が詠唱を始めると、光が徐々に強くなり放電現象も勢いを増す。突き出した掌から魔方陣が重なり大きく展開し始めた。


「我が盟約に従って命ずる、森羅万象のことわりを打ち砕きし、深淵の狭間に潜む漆黒の魔神よ、汝全知全能を司りしその存在を持って、現在過去未来全ての時空、全ての宇宙において消滅させよ 我が名はエディ・クーパーなり!……エターナル・イン……」


「わかった! わかったから! 全部話す……助けてくれ!!」


 かかった! あぶねぇぇぇ! あと少しで詠唱が終わる所だった!


 一矢が詠唱を止めると、ケッツもそれに合わせてエフェクトを止めた。


地獄の王ルシファー……下がれ」


 一矢がそう言うと、ケッツは床の穴から吸い込まれるように消えて行った。そして周囲のエフェクトもなくなり、元に戻った。


すげぇ……俺、本物の魔法使いになった気分だぜ! 異世界じゃ、俺の中二病は病気じゃない訳だ……母さん、心配ばかりかけてごめんな。


――――――――拝啓、母さんへ―――――――――






天才魔法学者と入れ替わりで異世界行ったら、患っていた中二病が治りました。







――――――――――――――――――――――――――



「さて、ラクティス……全部話してもらおうか?」


 ラクティス達は安堵して、床にへたり込んだままうなだれて、目には涙を浮かべている。


「3か月前に知らないヤツから連絡が来た。俺のやってる事を全部知ってるってさ。黙っててやる代わりに言う事を聞けって言われて……」


「お前のやってる事ってのは何だ?」


 ダイアナが尋ねる。


「俺はカースレイの組織のヤツとつるんで非合法の魔法薬を作って、売り捌いてたんだ」


「非合法!? 合法ギリギリって聞いてるんだが……カースレイの指示なのか?」


 一矢はちょっと信じられなかった。


「いや、あいつは何も知らない。もともとそういうのは嫌いだからな……合法の魔法薬の売買も気乗りしていなかった。あいつはカリスマ性を利用されてるだけさ」


 少し安心した、カースレイの事を一矢は認めていたからだ。


「なるほど、そいつで脅されて協力したのか」


 ラルフも会話に合流する。


「まずは魔力増幅装置を手に入れろって言われたんだ。それで魔力増幅装置はカースレイに依頼した。増幅装置は1か月前に受け取ったんだが……そいつに渡そうにもどこの誰かもわからなかった」


「じゃあお前が持ってるのか?」


「いや、増幅装置を受け取った1週間後にまたそいつから連絡があって……『お前の悪事の証拠を引き渡す。指定場所と日時はまた連絡する』って言われたんだ」


「それでいつ連絡が来た?」


「3日前……それで指定されたのが……昨日。場所は学園安全保障委員会の備品室だ。『そこに隠してあるハードケースの中に証拠の録音データが入ってるから持っていけ』そう言われて……」


「それが結界解除装置だったんだな!?」


 ダイアナはラクティスの態度に痺れを切らして、大きな声で尋ねる。


「いや、結界解除装置は既に盗み出されてた後だ。その盗難騒ぎがあったらから、俺は備品室に入れたからな。それで持ち出して中身を確認したら音声データの入ったディスクだった……」


「そもそも、取引場所が備品室って……おかしいと思わなかったのかよ?」


 一矢はラクティスに尋ねた。


「おかしいとは思ったけど、その時はそれどころじゃなくて……」


「じゃあ、魔力増幅装置はどこにある?」


「昨日屋上の指定された場所に隠しておいた。多分もうそいつが持ってる筈だ」


「おかしいな、何で証拠を手に入れたのにまだ素直に言う事聞くんだ?」


 ラルフはラクティスがそんなに従順な性格じゃないと見抜いていた。


「実は……それまでの会話の録音もされてたんだ。それでまた言う通りにした……屋上の指定された場所にディスクが置いてあって、それと引き換えだったんだ」


「本当にそれだけだ! 結界解除装置の事は知らない……信じてくれ!」


「お前さ、魔力増幅装置をディスクが入ってたハードケースに入れるように言われたんじゃないか?」


 一矢はラクティスに確認するように尋ねる。


「ああ、その通りだが……それがどうかしたのか?」


「やっぱりな……なかなか用意周到だな……自分ではリスクを背負わないように人にやらせて、受け取りも最小限にして直接の接触はなしか」


 大体わかったけど、一応確認しとくか。


「おい、ラクティス。お前は鑑識として備品室に忍び込んだんだな?」


「そうだ俺は鑑識として備品室に入ったんだ。正直ラッキーだと思ったよ。その日にどうやって備品室に入るか考えてた所に、例の盗難騒ぎがあったからな……それでハードケースを俺のと交換した……昨日は風紀委員が大勢出入りしてたから、ボディチェックもなかった……」


 それを聞いて一矢は確信した。


「わかった……今回の首謀者が」


「本当かエディ!? 首謀者は誰なんだ」


 ラルフは興奮した様子でエディに聞き返した。


「犯人は…………」



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