第14話 愛の真剣勝負!
まずい、つい勢いで出てきちゃった……どうしよう。
ラルフ達がきっと助けに……来ないな。
何で来ねぇんだよ!
「エディ……」
アリスは不安そうな目で一矢を見つめている。
「おいおい、お前何者だ? 俺とアリスちゃんの恋路を邪魔しようってのか?」
カースレイがドスを効かせた声で、一矢を脅す。
「その汚い手でアリスに触ってんじゃねぇ! すぐに離れろ!」
「お前……まさか……アリスちゃんの彼氏なのか?」
カースレイは怒りに震えている。
マジ怖ぇ! こんなヤツに俺一人で勝てる訳ねぇぞ。
……待てよ。ここで彼氏だと言ったら、もしかして俺フラレちゃうの!? それは避けたい所だ。
「いや……まだ、彼氏ではない」
「ほほう、まだ……か。て事はお前もアリスちゃんが好きなのか」
アリスの顔が少し赤くなっている。
「まだ彼氏じゃないなら、お前に何も言われたくねぇな」
「うるせぇ! テロリストが! 俺は俺の大切な人を守るだけだ」
やめて! この口が勝手に……俺のバカ!
「テロリストだと……お前何言ってやがんだ?」
「ちょっとやめて! そんなんじゃないからね。私は少しカースレイさんとお話をしたいだけだから」
アリスが何とか作戦を組み立て直そうとした。
「アリスちゃん……これはもう女の出る幕じゃあねぇ。男と男の……愛する人をかけた真剣勝負なんだ!!!」
その頃ラルフ達は――――――――――――――――
「エディって、あんなヤツだったっけな」
「あまりわからんが……あの3人がどこに着地するのか見ものだな」
「全くその通りだ」
――――――――――――――――
「ちょっとカースレイさん、勝負ってどういう事ですか!?」
アリスは必死に止めようとしている。
「アリス……こいつの言う通りだ。もう引き下がれないんだ」
一矢はいつになくカッコつけて言った。
「いい度胸だ……気に入ったぜ、お前」
「俺はかず……エディだ! 絶対に彼女を渡さない!」
「かず? まぁいい俺はカースレイだ。魔法と武器はなしだ……ガチンコの勝負といこうぜ」
「俺が勝ったら……アリスは俺のものだ!」
一矢は後ろからアリスに頭を叩かれた。
その頃ラルフ達は――――――――――――――――
「おいダイアナ、昨日のドラマ『Re:ゼロ距離発射で異世界追放』観た?」
「当たり前だろう。あれを観る為に生きていると言ってもいい」
「そんなに好きなのかよ?」
「無論だ、特に昨日は良かった。リルがスベルに告白したシーン……最高だ」
――――――――――――――――
「ちょっとエディ! 何言ってんの。勝ったら魔力増幅装置の事を聞くんでしょ!」
しまった! 何かノリで勝手にベラベラ喋っちゃった。
「やっぱり賭ける物を変えましょう。俺が勝ったら……魔力増幅装置の事を全部聞かせてもらうという事で……」
「魔力増幅装置だと……そんなもんは知らねぇな」
「エディが勝ったら、正直に答えて……お願いします。その代わりカースレイさんが勝ったら……一日デートします……」
えええ! 俺が勝ってもそっちのがいいんですけどぉ!
「ア……アリスちゃん。わかった! そうしよう。むしろそれがいい!」
「エディ……ごめんね。後は任せた」
アリスは舌を出して笑顔を浮かべた。そしてちょこんと後ろに引き下がる。
これは……負けられねぇ……けど無理じゃね? 俺ケンカとかした事ないんですけど。
「準備はいいか! エディ。どちらか倒れた方が負けだ」
くそー! もう引き下がれない。やるしかない!
「ああ、いつでも来いやぁ!」
そう叫んだ瞬間に、カースレイが一矢目掛けて突進して来た。それを一矢は華麗に……躱せるはずもなく思い切りぶん殴られた。
痛えぇぇぇ! マジで痛い。親父にも殴られた事ないのに! やべぇ、これマジで勝てる気がしない。
アリスの声が聞こえる。
「エディ! 怪我しても治してあげるからね!」
アリス様! 治してもらいたいです!
アリスの言葉を聞いたカースレイは、動きが止まり何か考えている。
あれ……何でかかって来ないんだ?
もしかして、こいつ……。
「おいエディ……ルールを変えないか? 見た所お前はあまりケンカが得意ではなさそうだ。そこで……1発ずつお互いの拳を交換して、いつまで耐えられるかというルールに変更してくれないか?」
おいおい、本音がちょっと漏れてるじゃねぇか! 最後の方お願いになっちゃってるぞ!
こいつ絶対そうだ……この勝負終わってからアリスに魔法で治してもらいたいんだ。
でも俺もその方が好都合だ。普通に戦っても勝てない。
「わかった! いいだろう。ルールを変更しよう」
その頃ラルフ達は――――――――――――――――
「俺はあの主人公はあんまり好きじゃねぇなぁ。やたらウザいしな」
「いやそれは違うぞ! ラルフ。スベルは確かにウザいとか色々叩かれてはいるが、それは視聴者がスベルに感情移入出来てないからだ!」
「いやいや、俺はちゃんと観てるぜ。でもやっぱりスベルの弱さがな」
「ラルフ! お前は全然作品を理解していない。そもそも原作では……」
――――――――――――――――
「よし、エディ……仕切り直しだ。俺が既に1発当ててるから次はお前の番だ」
一矢はカースレイの顔面目掛けて、思い切り拳を叩き込んだ。
痛ぇ! 人間の顔殴るのってこんなに痛いのかよ? 手の方が先にイカれちまうぞ。
カースレイは一矢の一撃を耐え、自分の攻撃に備えた。
「なかなかいいパンチだ……でもそんなんじゃ俺は倒せねぇぞ!」
二人はお互いの拳を交換し続けた。やがて鼻血が噴き出し、まぶたが腫れてお互い満身創痍になって来た。
くそぉ……今にも倒れそうだ。でも……負ける訳にはいかねぇ!
「ねぇ……もうやめよ? 2人ともこのままじゃ……」
アリスは悲痛な声で訴えるが、2人の耳には届かない。
「エディなかなかしぶといじゃないか? でもそろそろ限界じゃねえのか」
「ふざけんなよ……俺はまだ50%の力しか使ってねぇよ」
「ふふふ、奇遇だな……俺はまだ30%だ」
「あ、よく考えたら俺は10%の力しか……」
その頃ラルフ達は――――――――――――――――
「ダイアナ、それは違う。リルの方が人気があるんだから、リルがメインヒロインだろ」
「何言っている。確かに人気はあるがメインヒロインはエマーリアで確定している」
「確かに作者がそう決めているけど、視聴者の人気も考えてもらいたいね」
「原作を見てみろ。今後のエマーリアの活躍を見れば明らかだろう」
――――――――――――――――
「エディ……次はお前の番だ、俺はまだ余裕だぜ。全力で来いや……」
2人がくだらない意地の張り合いをしていたその時、一矢に奇跡が訪れた。
突然風が吹いた……風でバラの花弁が舞っていた。そしてその風は一矢からは見えない位置にいるアリスのスカートをめくった。
カースレイはアリスに釘付けになる。
「うおぉぉぉ!! アリスちゃんの……見えそうだぁぁぁ!」
カースレイは、アリスのスカートの中を見る事に全神経を集中させていた。
「きゃあ、ちょっと何なのよこの風!」
来るとわかっているパンチと、わかっていないパンチではダメージが違う。
カースレイの隙を突いて、一矢は全身全霊の力を拳に込めた。
「おらぁぁぁぁぁあああ!!!!」
一矢は、アリスに集中しているカースレイの顔面に渾身の拳を叩き込むと、呻き声を上げてカースレイは膝をついた。
「ぐはぁ……ま……負けた……ぜ。エディ」
カースレイは倒れた。
「やった……やったぁ! これで……何とか……」
一矢はそのまま気を失って倒れた。
「エディ!!!」
アリスが一矢に駆け寄る。
「バカ! こんな無茶して……」
「おいダイアナ! 何か2人とも倒れてるぞ!」
「よし! 行くぞ!」
ラルフ達が駆け寄って来た。
「ケッツ! レベル3結界解除お願い出来る?」
「はぁい、ただいま解除しまぁす」
アリスは医療魔法を使って2人の怪我を治すと、やがて一矢が目を覚ました。
「よかった……俺勝ったんだよな?」
「もう! バカな事して……心配したのよ!?」
アリスは少し目が腫れている。
「エディ……大丈夫か? でもまぁ結果オーライってとこだな」
「そうだな……ラルフのいう通りだ」
もっともらしい事言っている2人だが、後半から見ていなかった。
するとカースレイも目を覚ました。
「カースレイ……聞かせてもらうぜ。魔力増幅装置の事を」
「く……負けちまったか。エディ……いいパンチだったぜ」
そう言ってカースレイはニヤリと笑って、拳を突き出して来た。
一矢も拳を突き出し、カースレイの拳に軽く当てる。
こいつ、意外に憎めないヤツだな。嫌いじゃないや。
「カースレイさん、聞かせてくれますか?」
アリスがカースレイに声をかけると、カースレイは涙を流した。
「アリスちゃんとのデートがぁ……うう」
アリスが何か考え込んでいる。
「……お茶するくらいなら……学園内限定ですけど」
アリスがカースレイに笑いかけると、カースレイの顔が一気に明るくなる。
「本当か? やったぜぇぇぇぇ!」
本当にこいつ嫌いじゃないな。でもお茶デートは邪魔しに行こう……。
「聞きたいのは魔力増幅装置の件だったな。あれは仲介しただけだ。俺の組織に依頼が来てな、それでタリアテッレだか何だかいうヤツに作らせたんだよ」
「その依頼して来たヤツの名前は……?」
一矢が聞くと、カースレイは黙っている。
「こういうのは信用に関わるからな。本来は言うべきじゃねぇんだが……仕方ねぇ」
「名前は『ラクティス・ノーマン』風紀委員のヤツだ」
「そいつが黒幕か……」
ダイアナがカースレイに礼を言う。
「カースレイ……助かる」
「おい、ダイアナもいたのか? 気が付かなかったぜ。……そうかやっぱりテロ絡みだったのか」
「カースレイさんよ。風紀委員会の名前なんか出したらヤバイんじゃねぇか?」
「いいんだ……元々あいつらとつるむのはあんまり好きじゃなかった」
「カースレイ……あんたのパンチ……すげぇ効いたよ」
「お前のもな。俺はお前みたいな熱いヤツは好きだぜ……またな」
始めは似合っていないと思われたタキシードが、今は妙にカースレイにハマっていた。
何か言いたそうなアリスに、カースレイが優しく声をかける。
「アリスちゃん……医療魔法使ってくれてありがとうな。嬉しかったぜ」
「カースレイさん……最後に聞いていいですか?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「もし勝負とかしないで、私が普通に魔力増幅装置の事聞いたら、話してくれてましたか?」
……………………
ん、アリス様? それ今聞く事かな?
カースレイはアリスの問いに満面の笑みで答えた。
「そりゃ、アリスちゃんの頼みだったら何でも答えちゃうよ?」
――――――――――――――――
まるで時が止まったかのような沈黙がしばらく続いた。
穏やかな日差しの中、時折吹きこむ風は、高貴なバラの香りと真紅の花弁を舞い散らし、俺達を優しく包み込んだ。
ふと上を見上げると、どこまでも続く青い空には雲ひとつない。そして自由に大空を羽ばたく真っ白い鳥のように手紙が舞っている。もう読まれる事のないであろう、宛先を見失った一通の手紙が。大切な想いを乗せ、風に吹かれて飛んでいる。
それは暖かな春の夕暮れ前だった。
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