第13話 俺、この戦いが終わったら告白するんだ
一矢達は監視カメラに用心しながら、ラルフの秘密基地に戻った。
「何事もなく帰って来たぜ。やっぱり、タリアテールは雇われて作っただけみたいだ」
「おかえり2人とも! 上手くいったのね。乱暴な事してないわよね? ……特にラルフ」
アリスが念を押す。
「穏便に済ませて来たよ。大丈夫、ちゃんと雇い主も聞き出して来たから」
一矢はアリスに答える。
アリス様に『おかえり』って言われたら……1日の疲れも吹っ飛ぶだろ、これ。
「それで、雇い主は誰だ?」
ダイアナは新しい手掛かりに興味がいっている。
「実は何か聞いた事あるような気がしてるんだが、5年の『カースレイ・リード』ってヤツだ」
ダイアナとアリスが驚いた表情を見せている。
「カースレイは、この学園でマフィア紛いな事をしているヤツで、かなり厄介な相手だ」
それを聞いてラルフが思い出したようだ。
「ああ! あの『カースレイ』か。魔法薬学の連中を抱き込んで、違法スレスレの魔法薬売り捌いてる……他にも色々やばいもんを扱ってるという噂だ」
おいおい、何それ。麻薬密売組織じゃねぇか。
ダイアナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「マジかよ……それもう、あっちの世界の人じゃん。何で捕まんないの?」
一矢は当然の質問をした。
「あくまで
ダイアナは、どうすればいいか考え込んでいる。
アリスは何故か顔がちょっと引きつっていた。
「ちっと厳しいな、普通に聞きに行っても話す訳ないし……かと言って強引に聞き出そうとしても風紀委員会が出て来るだろう。ましてやダイアナとエディは手配中だ」
流石のラルフも悩んでいる。
「まず会って話す事自体が難しいだろうな。正規の手続きでの事情聴取ならまだしも……いやそれでも本当の事は言わないな」
ダイアナも打つ手なしといった具合だ。
「でも何とかしないと……さっきみたいに教室の前で待ち伏せてもダメかな?」
ダイアナは一矢の質問に答える。
「カースレイは自分の派閥を作っていて、常にそばに誰かいる。居住区に事務所のようなものを構えていて、大体取り巻きとそこにいるから隙がない……」
いい案が思いつかず3人が黙って考えていると、アリスが申し訳なさそうにゆっくり手を挙げた。
「あの……実は私、カースレイさん知ってます」
アリスの話を聞くと、3人が一斉に驚きの声を上げた。
「去年だったかな、カースレイさんにしつこく言い寄られまして……告白されましたです。勿論断ったよ! でも一応、直接連絡取れるかも……今もたまにメール来るし」
何てこった……アリス様に手を出そうなんざ、許しておけない!!
一矢が静かな怒りを心に燃やしていると、ラルフが話を進める。
「アリス……何とかヤツを呼び出せねぇか? ふたりきりで話したいとか言って……」
アリスは下を向いて悩んでいる。こうなる事は予測していたのだろう。それでなかなか言い出せなかったのだ。
まぁ……当然そうなるよな。でもラルフもよく平然と言えるな……やっぱ付き合ってないのかも! でもあまりアリス様に無茶させられない! 断っていいんだよ。
ダイアナは黙っている。同じ女性として何とも言えないのだろう。
「わかった……私やってみる。テロ攻撃を阻止する為だもんね。嫌だなんて言ってられないよ」
その答えを聞いてラルフが再度問う。
「本当にいいんだな?」
アリスは意を決したように頷いた。
ダイアナがアリスの肩に手を置いて、優しく話しかけた。
「すまない、無理を頼んでしまって」
アリスは笑顔で答える。
「大丈夫ですよ、ダイアナ先輩。私もこのチームの一員ですから」
やっぱ女神だわ。何でこんな可愛いの? 意味わかんないんですけど。
「問題は魔力増幅装置の事をどうやって吐かせるかだな。脅しに屈するようなヤツじゃないし、痛い目に遭わせても……難しいな」
「私が聞き出してみる……」
「自信あんのか?」
ラルフが言った言葉にダイアナが反論する。
「自信も何もそれ以外の策はないだろう。失敗したなら、私が拷問してでも吐かせる」
ラルフが頭を掻きながら、乗り気ではなさそうだが同意するしかなかった。
その時ダイアナの魔法手帳にシロエから連絡が来た。
「機密回線を使ってます。ダイアナさんそちらは何か進展がありましたか?」
「ああ、あのリストの中から手掛かりを追ってる。『カースレイ・リード』が関与しているようだ」
「厄介ですね……口を割らせるのは難しそうです。何か手伝える事はありますか?」
「監視は大丈夫なのか?」
「今、コーネルさんが生徒会に捜査状況を報告しているので、席を外してるんです」
「じゃあ一つ頼めるか? 今から15分後に屋上の監視カメラにループ映像を流してもらえるか」
「わかりました。因みに風紀委員会と協力してハーネスさんが、ダイアナさん達の捜索に当たっています。今31階を捜索していますので、気を付けて下さい」
「ありがとう、助かる」
ダイアナは通信を切ると、話しだした。
「すまない、アリス。カースレイを屋上に呼び出してくれ、今から30分後だ。私達は先に行って、屋上で隠れて様子を伺う。もしアリスに何かあったら作戦変更、力でねじ伏せて拷問だ」
「そうだな、今ならレストランも休業中で屋上に人はいないだろう。それで行くしかなさそうだ」
ラルフも納得したようだ。
「さっきの会話だと、また教職員フロアからエレベーター乗った方がいいね」
「そうだな、エディ」
アリスがカースレイに連絡した。
「あ、お久しぶりです。カースレイ先輩と少しお話したい事があって……はい……はい。屋上に30分後に待ち……はい、お待ちしてますね」
「大丈夫、30分後に来るそうです」
何か食い気味で会話してたっぽいな……それにしてもすげえ余裕で待ち合わせ出来たじゃん。
それを聞いてダイアナが無言で頷く。
「よし、じゃあ屋上に行くぞ。アリスは後で来てくれ。ないとは思うが、一緒にいる所をカースレイに見られたくない」
「わかりました。何とか聞き出してみます」
アリス様、マジで心配だ。でも不安げな顔も可愛い……
3人は屋上に向かう。30階を経由してエレベーターに乗りRのボタンを押す。
屋上に着くと隠れられそうな場所を探した。
屋上にはテラス付きのレストランとプールがある。
今はまだ春でプールは閉鎖、ラルフのいう通りレストランも休業中だ。
いいなここ……でも何で学校にレストラン? しかし夜とかすげえ雰囲気良さそう。
アリス様とここでデートを……
「この辺りでいいだろう。隠れてカースレイを待とう」
ラルフが選んだのは、休業中のレストランだった。建物の物陰に身を潜めて出入り口を見張る。
「ドキドキしますねぇ」
今まで一言も発しなかったケッツが突然具現化して現れた。
「おい、ケッツ何だよ。いきなり」
「いいじゃないですかぁ。何だか楽しそうで」
しばらく待っていると少し身体が大きめな強面の男が現れた。
――――――――――――――――
エディ「あいつか……」
ラルフ「あいつか……」
ケッツ「あいつか……」
ダイアナ「あいつか……」
エディ「まさかの……タキシードとはな……」
ラルフ「どこからバラの花束持って来たんだよ……」
ケッツ「いやぁ……普通ならドン引きですねぇ。顔も気持ち悪いですねぇ」
エディ「ケッツ、それ悪口だから」
ダイアナ「どうやら……あいつは本気でアリスの事が好きなんだな……」
ラルフ「こうなったら……むしろアリスの反応が楽しみだな」
エディ「ん? 何か本みたいなの取り出したぞ」
ダイアナ「確か双眼鏡を持ってた……備えあれば憂いなしだ」
ラルフ「いいな、俺にも貸してくれよ」
エディ「あ、次俺ね」
ダイアナ「おい、あの本……デートマニュアルだぞ……」
ケッツ「デートマニュアルキター!」
ラルフ「うわぁ……今時?」
ケッツ「そんな本でメインヒロインを攻略出来ると思ってるんですかねぇ」
エディ「何か他人事とは思えない……」
ダイアナ「念入りにチェックしてるな、大切な部分に赤線が引いてある」
ラルフ「何か花束の渡し方の練習が始まったぞ……」
ケッツ「よく見ると、花束の中に手紙が入っているみたいですねぇ」
ダイアナ「ラブレターか……あいつ
ラルフ「でも女子って花束とかに案外弱いんじゃねぇの?」
ケッツ「時と場合とキャラにもよりますよぉ。この場合は『ごめんなさい』の一択ですねぇ」
エディ「うわぁ……ひざまずいちゃった」
ダイアナ「王子様って柄でもないのにな」
ケッツ「おや、花束からバラを一本取り出しましたねぇ」
ダイアナ「まさか……」
ラルフ「咥えちゃったよ。それやったら絶対……」
エディ「突然痛がり始めたぞ」
ケッツ「案の定、棘で口を切っちゃいましたね」
ダイアナ「いちいち期待を裏切らないヤツだな」
ラルフ「でも首かしげてるから、自分でも何か違うって思ったんじゃないか?」
ダイアナ「おお、今度はキスの練習か」
ラルフ「やる気を感じるな……抱きしめ方が情熱的だ」
ケッツ「おっとぉ、ちょっと応援したくなってきましたねぇ」
エディ「いやいや、チューはダメでしょ! チューは!」
――――――――――――――――
みんなでカースレイを楽しんで観察していると、ついにアリスが現れた。
アリスの姿を見たカースレイは、急いで後ろに花束を隠して、何やら嬉しそうに話している。
「カースレイのヤツ、ガチガチだな。こんだけアリスに惚れてんなら聞き出せんじゃねぇ?」
「何を話してんだろうな、気になる」
ラルフとダイアナが楽観的になるが、一矢は気が気じゃなかった。
しかし、その直後カースレイはアリスを抱き寄せようしとした。それを見た一矢は、カースレイがキスの練習をしてるのを思い出した。
「何してんじゃあああああぁぁぁ!! させるかボケえええええぇぇぇ!!」
一矢はつい感情的になって飛び出してアリスを助けに走った。
「ちょっとぉ! 旦那様ぁ」
ケッツは魔法手帳に戻っていった。残ったダイアナとラルフは動揺せず、引き続き様子を見ていた。
「ダイアナ……面白くなって来たな」
「ああ……その通りだ」
「待てコラぁぁぁ! アリスに抱きついてんじゃねぇ彼女から離れろ!!」
あ、やべ……俺何やってんだ。
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