第12話 褒めて伸びるタイプです
さし当たってやる事が決まった一矢達は、リストに載っている生徒のIDコードを調べる事から始めた。
かっこいい事言っちゃったけど、相変わらず何も出来ねぇな、俺。
パソコンなら少しはわかるけど、見た事ないOSじゃあな……
ラルフはディスプレイを見ながら何やら作業に集中している。
「まずは……学校のメインサーバーに侵入しなくちゃな。ポートスキャンかけて……このバグを使ってと……よし侵入した」
あまりの手際にダイアナが驚いた。
「凄いな、シロエでもこんな早くないぞ……驚いた」
ラルフは言いにくそうに、人差し指で鼻を掻きながら言った。
「いや、実は俺さ……この学園のセキュリティシステムの基本設計に携わってて……」
全員がラルフに注目している。
「こんな事もあろうかと、バレないようアーキテクチャにバグを仕込んでおいたんだよ……ははは」
ラルフは笑って誤魔化した。
アリスは呆れた様子で頭を抱えた。
「ラルフ……それは流石にアウトだわ」
こいつ……叩けばいくらでも埃が出て来そうだな。
「本当は立場上見逃すわけにはいかないんだが……この際仕方ないか」
ダイアナはため息をつく。
「ラルフ、終わったらちゃんとバグ消しておくのよ!」
「も……勿論さ。終わったらな」
こいつ多分消さないな……間違いない。
「まぁさ、備えあれば憂いなしって言うだろ? そのおかげでリストを絞り込めそうなんだしさ……」
「それでどうだ、IDコードはわかりそうか?」
ダイアナは気を取り直して尋ねた。
「ああ、もう少しだ……よし。リスト全員のコードをダウンロードした。後はこれをソフトに読み込ませて、照合すれば購入履歴の一覧が見れる。おし映すぞ」
ラルフは購入履歴を大きなディスプレイに映した。
全員でマナアンプの文字を探す。
「あった! あそこ! 見て見て、右上の『タリアテール・ナイツ』って人のとこ! 3ヶ月前に購入してる」
アリスがいち早く見つけ出した。本当にあると思っていなかったみたいで、珍しく興奮気味だ。
「手掛かりを見つけたな。他には……いなそうか?」
ラルフが全員の顔を見回す。
どうやら、タリアテールって人だけっぽいな。俺も必死で探したけど他にはいないみたいだ。
「他にはいない、恐らくこいつが手掛かりだ」
ダイアナから不敵な笑みがこぼれる。
「よし、3年のタリアテールか。顔写真をダウンロードして手帳に送って……こいつの予定を調べよう。学園内にいてくれよ……」
「あんまり乱暴な事しないでよ?」
アリスが心配そうに言うので、一矢は安心させようと声をかけた。
「大丈夫、ちょっと話を聞きに行くだけだよ。アリスはここで帰りを待っててくれ……」
よし……カッコつけた。これでちょっと怪我して帰ってくれば……ふふふ。
「いや、俺ひとりで行った方がよくないか? ダイアナとエディは指名手配中だろ」
そういえばそうだった。でも……
「ダイアナ先輩は特にダメです。まだ完全じゃないはずですよ。もう少し安静にしてて下さい」
アリスは厳しい口調で言った。医療委員としては当たり前だろう。
「しかし……いやそうだな、ここはラルフに任せよう。確かに私もまだ歩くのがやっとだしな」
ダイアナはいつになく弱気だが、ラルフを信頼してるのだろう。確かににラルフは頼りになる。
まぁあれだけ激しい戦闘をした後だしな。やっぱりここは……
「俺も行くよ……いや行かなきゃダメだ。俺がラルフ達を巻き込んでおいて、自分は何もしないのは嫌だ」
「エディ……やっぱ具合悪いのか? いつもは効率重視だろ……」
「おい! ここはもっと感動的な場面だろ? とにかく……俺も行く」
ラルフは少し納得いかない様子だ。
「わかった……まぁ大丈夫だろう。ケッツがいるのも心強いしな」
ケッツかよ! 随分こいつ評価高いな。確かに相当助けにはなってるけど……納得いかねぇ。
「とにかくエディもラルフも気を付けてね」
「よし、今はちょうど授業中みたいだな。クラスは花組のコスモスか、後20分もすれば終わるから待ち伏せてとっ捕まえよう。んじゃ行こう」
一矢とラルフはアリス達に見送られて、一緒に秘密基地を後にした。
「エディはあんまり目立たないように頼むぜ。途中で見つかったらやっかいだ」
ラルフが念を押してくる。
「わかってる、細心の注意を払うよ。連れて来てくれてありがとな」
「まぁお前があんな事言うのは意外だったけど、そういうのは嫌いじゃない」
そう言ってラルフはニコっと笑う。
2人はエレベーターに乗って3年生のフロアに向かう。
どうやらこの学園は学年別に31階から36階に分かれているらしい。
二人は33階でエレベーターを降りた。
「さて花組のコスモスだったな……教室の近くで待機しよう。それとなくな」
ラルフはタリアテールの顔写真を見て確認している。
やっぱり……花組ってダサ過ぎない? コスモスって、何か緊張感に欠けるな。みんな恥ずかしくないの?
そんな事考えていると、授業が終わったようで生徒が何人か出て来る。
生徒の顔をチェックしていると、タリアテールが出て来た。
「いた……ラルフ、どうする? ここでは捕まえられないよな」
ラルフに小声で尋ねる。
「そうだな、後を付けよう。人が少ない所で確保だ」
タリアテールはヒョロっとしていて、如何にもひ弱そうな男だ。
2人は適度に距離を保ちながら後を付けた。
何か探偵になった気分だな。
すると幸運な事にタリアテールはトイレに入って行った。
「よし……チャンスだ。ここなら監視カメラもない」
ラルフを先頭にトイレに入る。中にはタリアテールの他にも生徒がいた。ラルフが様子を伺っているが、どうするか考えているようだった。
そこで一矢はラルフに耳打ちした。
「タリアテールが用を足している横に2人で挟み込もう。その後は俺の話に合わせてくれるか?」
「何か考えがありそうだな。わかった任せた」
一矢はタリアテールの右側で用を足すフリをした。それと同時にラルフは左側に立つ。
一矢は突然タリアテールの肩を掴み、小声で話しかけた。
「タリアテール・ナイツだな? 俺は公安8課特殊捜査班のトニーア・ルメイダだ。極秘で潜入捜査をしている」
「そ、捜査官……俺に……何の用ですか?」
動揺しているのがわかる。
「昨日、身元不明の遺体が発見された。ニュースでもやっていたから知ってるんじゃないか? あれは殺人だ……その犯人を追っている」
「それ俺に関係あるんですか……?」
「犯人はテロリストだ。レベル5の核爆発魔法を使う為に魔力増幅装置を探していた。ここまで言えばわかるか?」
一矢はカマをかけた。するとタリアテール見事に反応して見せた。
タリアテールは身体が硬直した。その瞬間をラルフは見逃さなかった。
「魔力増幅装置は政府の許可がないと所持出来ない……勝手に作ったらダメだよなぁ」
タリアテール足は震えていて、額からは冷や汗が垂れている。
思った通りタリアテールは小心者だった。
「お、俺は……何も知らない……」
「わかっているんだろう? 君が作った魔力増幅装置の事だよ。君がマナアンプを購入した事は調べがついてる」
ここでダメ押しだ……一矢は耳元に顔を寄せ冷たい口調で話す。
「連中は君を殺す気だ……証拠を消さなきゃならないからな。昨日の身元不明の遺体は連中に殺された」
タリアテールはガタガタ震えだした。
「君が助かる道は一つだ、聞かれた事を全て話してくれ。テロリストは俺達で捕まえる」
少し時間をおいて一矢は耳打ちする。
「協力してくれれば、魔力増幅装置を無許可で作った件は免責にする。司法取引だ」
一矢がそう言うとタリアテールは落ちた。
「わかった! 話すよ。頼むから助けてくれ……」
俺はラルフに向かってウィンクをすると、ラルフもウィンクで返した。
「よし、聞かせてもらおうか? ここだと他の生徒に見られるから、個室に入ろうか」
一矢がそう言うと、少し狭いが3人で個室に移動した。
「んで、なんで魔力増幅装置なんて作ったの?」
ラルフが単刀直入に尋ねる。
「3ヶ月くらい前に頼まれた……最初は断ろうとしたんだが、報酬金が高額だったから……それで作った」
「それで今、魔力増幅装置はどこにある?」
今度は一矢が尋ねる。
「もう渡した、嘘じゃない……金も受け取った……」
タリアテールは泣きながら話す。
「わかった。それより、その依頼人はどこの誰だ? そこが1番重要だ。話してくれ」
タリアテールは震えて黙っている。
「俺達が連中を捕まえなくちゃ君は殺されるぞ……」
一矢はそう言ってタリアテールの肩に手を置いた。
「5年のカースレイ……『カースレイ・リード』って男だ」
「その男に頼まれたんだな?」
タリアテールは震えながら、何度も頷く。
「わかった、話してくれてありがとう。」
一矢は優しく声をかける。
「本当にこれで助けてくれるのか? 免責の書面は……」
不安げなタリアテールに、一矢は笑顔で答えた。
「そのうち持ってくるよ」
2人はタリアテールを残してトイレから出た。
「エディ……よくあんなデタラメ思いついたな。俺は何発かぶん殴って言う事聞かせようと思ってたんだけどよ。グッジョブだ」
「学園内だと死ぬ事はないから口を割らないかも知れない……と思ってさ」
「昨日のニュースで身元不明の遺体が見つかったって事件を思い出して、それを利用した。本当にあった事件を絡めると、死ぬかもって本気で思うだろ?」
「そうだな。完全に信じてたから、俺もビックリしたよ」
「殴って言う事聞かせるのだと目立つしな」
「それもそうだ。とりあえず戻って『カースレイ・リード』の事を調べよう」
「意外とすんなりいけたから良かった」
今になって緊張が押し寄せてきたが、一矢は満面の笑みを見せた。
中二病の一矢は、普段から自分で考えたキャラの演技を独りで練習をしていた。その演技力が役に立ったのだ。
異世界に来て助けて貰ってばかりだった。無力で本当は魔法も使えないが、少しでも力になれた。
ラルフに褒められ認められた気がした。
一矢はそれが嬉しかった。
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