第11話 テロリストを捕まえろ!

「ん……ここは……はっ」


 ダイアナは飛び起きた。


「ダイアナ先輩、大丈夫ですか? ここは安全です」


 ダイアナは周囲を見回しで確認している。


「アリス……君が医療魔法をかけてくれたのか。ありがとう、エディ・クーパーも無事みたいだな……ここは?」


「よかった、心配しましたよダイアナさん。ここは俺の友人のラルフの秘密基地です」


「よぉ、ようやくお目覚めか? お姫様」


「お前……ラルフ・レッドか。助けてもらったみたいだな、礼を言う」


「あたしも協力したんですよぉ?」


 ケッツはわざわざ具現化して出て来て、恩着せがましく話に割り込んだ。


「君は……?」


「こいつは俺の魔法手帳コンシェルジュです。あんま言いたくないですけど……確かにこいつがいなきゃ逃げ切れませんでした」


 こいつを庇う発言はどうも気に入らないな。


「実はそぉなんですよぉ。あたしに感謝してもいいですよぉ」


 こいつちょっと役に立ったからって調子に乗りやがって。


「そうか……君が使い魔のケッツ君か。会えて嬉しいよ、ありがとう。礼を言う」


 ダイアナが珍しく笑顔を見せた。


 ダイアナのお礼を聞いて、ケッツは満足して手帳に戻っていった。


「早速だが、私が気を失っている間の出来事を説明してもらえないか?」


 一矢はここに来た経緯をダイアナに説明した。


「そうか、大体理解した。エディ・クーパー、君を助けるつもりが助けられてしまったな。すまない」


「エディでいいですよ。ダイアナさん」


 それを聞いてダイアナは微笑んだ。


「じゃあ敬語はやめて、私の事もダイアナと呼んでくれ、エディ」


 一矢はそれに笑顔で答えた。


「水を差すようで申し訳ないんだが……まだ状況は何も変わってないぜ。それと聞きたい事があるダイアナ」


 ラルフが話を戻す。


「ああ、何でも聞いてくれ」


「監視カメラにエディが映っていたから、テロ容疑がかかったって話だけどよ。いくら何でも短絡的過ぎじゃねぇか?」


「その通りだ……エディは最初から容疑者の1人だ。私は彼の監視役でもあったんだよ」


 えっ! 何で俺最初から疑われてんの?


「やっぱりそうか……じゃあ何でお前はエディを助けたんだ?」


 ラルフは責めるような口調で尋ねる。


「ちょっと、そんな言い方やめてよラルフ!」


 アリスが割って入るのをダイアナは止めた。


「いいんだ、アリス」


「君は切れる男だな、ラルフ。だがそんな大した事じゃないさ。エディを容疑者の1人として見てるのは上の連中だけさ。私は始めからエディが何か関係してると思ってない。あの映像も恐らく合成だろう、シロエも同意見だ」


「じゃあ何で上の連中はエディを容疑者として見るんだ?」


「朝の会議で、テロ攻撃に使われる魔法の予測シミュレーションをした時だ。うちの生徒じゃ、レベル4の魔法だと時限式爆発魔法を使うのが妥当だ。テロリストが、それより強力な魔法を使う可能性を考えた時に、エディの名前が挙がった。そこで協力を要請して行動を共にすれば、監視にもなるという訳だ」


 ダイアナの話を聞いてラルフは溜息をついた。


「やってる事は政府と同じだな……そんな事だろうと思ったよ」


「すまない、だが少なくとも私とシロエは、純粋にエディの魔法学者としての協力が必要だと考えていた。しかしそれだけだとコーネルを納得させるには弱かった……だから監視するという名目も貼り付けた」


 ラルフは納得したように頷いた。


「それでエディは疑われやすくなってた訳か。さらに合成された映像とハッキングのタイミング……ちと話が出来過ぎだな……まさか」


「ああ、そのまさかじゃないかと私も考えた。それでエディを連れて逃げる事にしたんだ。シロエも同じ考えだ」


 待てよ……その話を聞いてると、俺も何かわかって来た。


「もしかして……テロ対策委員会にも内通者がいる? って事か」


「その通りだ、学園安全保障委員会だけじゃない、うちにもいる。君をスケープゴートにするのも最初から決まっていた……そう考えると説明がつく」


 ラルフがまたいつもの口調で話しだした。


「まぁダイアナはエディを助けてくれたんだから信用するさ。俺も最後まで協力するぜ。エディは友達だからな」


 ラルフ……心の友よ。俺はいい友達を持ったな。いやエディの友達だった……でも俺の中ではもう親友だ!


「あたしもエディと友達よ。ここまで聞いたからには、最後まで協力するわよ。それにシロエは親友だしね」


 アリスは笑顔で言った。


 笑顔がマジ可愛いんですけど? 友達の枠を飛び超えたいです、アリス様。


「とりあえず、ここを拠点としてもらって構わない。俺に出来る事なら何でもするぜ?」


 何だかラルフは楽しそうだった。


「ところでダイアナ先輩、何か作戦があるんですか?」


 アリスはダイアナに尋ねる。


「作戦という程のものじゃない。手掛かりとしても弱いが……シロエに、魔力増幅装置を自作出来そうな生徒のリストを送るように頼んでおいた」


 ダイアナは魔法手帳を取り出した。


「ん? 電源が切れてるのか」


「ああ、それ俺が切ったんだ。シロエさんに『魔力信号で追跡されるから』って言われてさ」


「そうかなるほど、流石シロエだ……君の手帳は追跡されなかったのか?」


「ラルフ様への通信も機密回線を使いましたし、マジックジャミングの魔法も使ったので大丈夫ですよぉ」


 ダイアナが懸念している事に答える為、ケッツが再び会話に割り込む。


「すごいなケッツ、君はマジックジャミングも使えるのか?」


「あたしはネットワークそのものに入っていけるんですよぉ。そんな事は朝ピザ前です」


 何かケッツが訳わからない造語を使いやがった……なーにが『朝ピザ前』だ。

 相当調子に乗ってるなこいつ。


「すまないが、私の手帳にマジックジャミングをかけてくれるか?」


「勿論いいですよぉ」


 ケッツがまた具現化して出て来た。ケッツはダイアナの魔法手帳を受け取り、掌を手帳に乗せる。すると手帳は青白く光った。


「これで大丈夫ですよぉ。しばらく追跡

 出来ません」


 ケッツはダイアナに手帳を返し、具現化を解いて手帳に戻った。


「ケッツ、ありがとう」


 ダイアナは魔法手帳の電源を入れ、シロエから送られていたリストを開き、それを立体投影魔法で映し出した。


「もしかしたら、このリストの中にテロリストに繋がる手掛かりがあるかも知れない。レベル4の魔法を使うなら、魔力増幅装置は必要になるだろう」


 それを聞いてラルフが納得した。


「そうだな、魔力増幅装置は手に入れるより、作った方が早いな。魔法工学を専攻してるなら自作出来ない代物じゃない」


「すまないケッツ、機密回線を使ってシロエに連絡できるか?」


「おやすい御用ですよぉ……はい繋がりました。話して大丈夫です」


「シロエ、ダイアナだ。そっちの状況はどうなってる?」


「少しお待ち下さい……この通話は安全ですよね?」


「ああ、機密回線を使っている」


「ダイアナさん、心配したんですよ。すみません小声で……多分、私監視されています。あまり長話は出来ません……」


「そうか……君が無事ならいいんだ。リストありがとう、リストの絞り込みに協力出来ないか?」


「すみません、今は難しいです。コーネル委員長が私を疑ってて……ハーネスさんが今治療中ですので、こちらもすぐには動けません。そっちはしばらくは大丈夫かと思います」


「わかった。リストはこっちで何とかするよ。また連絡する」


 ダイアナはシロエに気遣って早めに通信を切った。


「仕方ない、リストの絞り込みは私達でやるしかないな」


 ダイアナが言うと、リストを見ながらアリスは呟く。


「でも……ぱっと見ても100人以上はいるわよね。これじゃ時間がかかり過ぎない?」


 ダイアナが黙って聞いている。手掛かりとして弱いのは、シロエがいないと成り立たないからだった。


「いや、多分絞り込めるぜ? ダイアナもエディも、魔導工学は詳しくないみたいだな」


 ラルフが得意げに話し出す。


「魔力増幅装置を作成するには必ず必要なパーツがあるんだ。『マナアンプ』っていうんだが……このリストの中に、もしマナアンプを最近購入した人物がいれば……」


 ダイアナの表情が明るくなった。


「そうか! IDカードの購入履歴を辿ればかなり絞り込める」


 ラルフはニヤリと笑った。


「そういう事だ」


「ケッツ、ネットワークに入って購入履歴を調べられないか?」


 ダイアナがケッツに尋ねた。


「残念ですがぁ、あたしはIDカードのような個人情報には入りこめないんですよぉ。セキュリティがかかってると締め出されちゃいますので」


 ケッツの返答を聞いて、ダイアナは下を向いた。


「そいつは俺が出来る。忘れたのか? 俺は中央情報管理委員だぜ。そういうのは得意分野だ」


「そうか、君は諜報活動が専門だったな」


 ダイアナが言うと、アリスが呆れたような表情で話に入る。


「ラルフは本当に悪い子さんね」


 そう言った後、悪戯っぽく笑った。


「じゃあ、アリス様の許可を得た所で……いっちょやったりますか。なぁエディ?」


「ああ、テロリストを捕まえようぜ!」


 ってノリで言っちゃったけど、この人達みんなすげぇな……でも俺も何だかワクワクして来たぜ。

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