第8話 異世界の中心で愛を叫んでる場合じゃない!
一矢が尋問室に入ると、もう尋問が始まっていた。ガラス窓の向こうでダイアナとグレイスが話している。
その様子を、他の委員がビデオカメラで映して、眼球の動きと心拍・サーモグラフィーをモニターしている。
本当にこんな事するのかよ。その内拷問まで始まっちゃうんじゃないの?
「私はテロリストとは関係ありません! 信じて下さい……わざわざ自分のIDを使うなんて、間抜けな事をすると思いますか!?」
グレイスは声を荒げた。
「グレイス……君のIDが使われている以上、おいそれと解放する訳にもいかないのはわかるだろう」
ダイアナの話を聞いてグレイスは顔を伏せる。
「君の言いたい事はわかっている。私が聞きたいのは、君のIDがテロリストに利用されてるのなら、何か君に心当たりがあるんじゃないか? と言う事だ」
「心当たりなんてありません。私のコンピュータを調べて下さい。無関係だと証明出来るはずです!」
「もうシロエがやっている。グレイス、これは形式的な事だ……じき解放される。本当に心当たりはないんだな?」
少し間を置いて、グレイスはダイアナの目を真っ直ぐ見た。
「ありません」
「ちょっと待っててくれ」
ダイアナは立ち上がり、部屋を出てモニターを見ていた委員に聞いた。
「どうだ、何か反応はあったか?」
「何とも言えません、興奮している状態なので嘘をついているのか判別は難しいです」
「エディ・クーパー、君はどう思う?」
ええ……俺の意見聞いちゃうの。それっぽく合わせよう。
「何か魔法を使う素振りは見られませんでした。嘘を言ってる感じもしません。それにもしテロリストなら、あんなに一生懸命俺達に協力しないんじゃないかと思うんですけど」
「そうだな、私もそう思うんだが……」
あれ? ダイアナさん何か難しい顔してるんですけど、何か変な事言ったかな。
その時ダイアナの魔法手帳から音が鳴り、手帳を耳に当てた。
「シロエ、何かわかったか?」
「やはりグレイスさんのコンピュータはハッキングされた形跡があります。それで発信元を割り出そうとしたら、今回はルカルディシャイアと国交のない国のサーバーを経由してて、追跡は出来ません」
「……わかった、ありがとう。それでグレイスはどうなる?」
「コーネル委員長がもう拘束を解いていいと言っていました。それより……」
シロエが言いかけた時、突然ドアが開き、コーネルが尋問室に入って来た。
「グレイスの拘束は解いていい。エディ・クーパー! お前を拘束する。捕らえろ」
一矢は何が起きてるのか理解出来ない。考える間もなく一矢は押さえ付けられた。
ダイアナは、手帳に耳を当てたままでシロエに尋ねた。
「どういう事だ? シロエ」
「監視カメラの映像データが復元出来ました……映っていたのは、エディさんでした」
「何だと……くそ、一体どうなっている」
そのままダイアナは通信を切った。
うおおおおあい! どうなってんのこれ? 何で俺捕まえられてんの!? 意味わかんないんだけど。
「エディ・クーパー! 暗号化された監視カメラの映像に貴様が映ってたんだよ。グレイス君と交代だ。おい尋問室に入れろ」
一矢に説明した後、コーネルは部下に命令した。
「ちょっと待ってくれよ。何かの間違いだろ!? ダイアナさん何とか言って下さい」
「すまない、少しの間大人しくしていてくれ。今から映像を確認して来る」
ダイアナが尋問室から出ようとすると、コーネルがそれを止めた。
「どこに行く? ダイアナ、こいつの尋問を始めろ」
「何かおかしい、シロエに映像をもう一度調べさせます。あまり強引な手は使わない方がいい。彼がその気になったら……」
コーネルは舌打ちをした。
「わかった、尋問はハーネスにやらせる。調べて来ればいい」
「失礼します」
ダイアナは部屋を出て行った。
ちょっとダイアナさん!? これ非常にまずいよね? まずいよね!
「それじゃ、始めようかエディ・クーパー。全部話してもらうぞ」
グレイスは部屋を出て行った。入れ替わりで一矢は先程グレイスが座っていた椅子に座らされ、心電図をモニターするセンサーを取り付けられた。
少ししてから、ガタイのいい強面の男がやって来た。
マジで怖え! 本当にこの人高校生ですか!?
「俺はハーネスだ。お前の尋問を担当する事になった。早速だが、事務局に弁護人を呼んでもらうか? あまり助けにはならないと思うがな」
一応お願いしようかな……でも本当に何もやってないし、てかマジでおかしいだろ? この状況!
「天才魔法学者に弁護なんて必要ないか……では一応確認する。昨日の午後4時、お前は学園安全保障委員会の備品室で何をしていた?」
くそっ、考えてたら弁護人呼んでもらうタイミング逃した。昨日のその時間は……まだ元の世界に居たんですけど。
それは言えないな、流石に。
「俺はそんなとこには行ってません!」
ハーネスは不敵に笑った。
「ほう、監視カメラに写っていたのに否定するのか? 一応お前の言い訳を聞いてやろう。だったらどこで何をしていたんだ?」
「えーと、自宅の近くの公園で新しい魔法の実験です」
「どんな魔法だ? そしてそれを証明してくれる人はいるか?」
「どんな魔法かは言えません……証明してくれる人は……」
「言えないだと! どうして言えないんだ」
はっ! ケッツがいるじゃないか。
「証人います! ちょっと待ってて下さい。おい! ケッツ、証明してくれ」
「何ですかぁ? 突然」
「なぁケッツ、昨日の午後4時に俺が昨日のあの公園で魔法の実験をしていたって証明してくれよ」
「さぁ、旦那様がその時間どこで何をしていたかなんて、あたしはわかりませんねぇ」
ケッツがあっけらかんと答えた。
ん? 何言ってんのこいつ。何言ってんのおおおおこいつ!
「おい! ふざけんなよ、おい! 返事しろこの野郎!」
一矢は魔法手帳を何度も叩いたが、ケッツは反応しなかった。
「くそ、お前! 覚えてろよこの野郎!」
「誰と話してるのか知らんが、残念だったな。じゃあその鞄の中を見せてもらおうか……まさかその中に結界解除装置が入ってるなんて事はないよな?」
ケッツの野郎! 裏切りやがってえええ! それより鞄はまずい! 絶対だめだ。俺の自作グリモワールが……恥ずかしい。
「いや……これは、あの……見せられません。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。……なんちゃって」
「お前……状況を理解していないようだな。それとも拷問がお望みの変態野郎か?」
「ちょっと待ってください! お、俺はレベル5の結界解除装置を元々持ってるのに、何でわざわざ盗む必要があるんですか? お、おかしいじゃないですか」
言い分を聞いて、ハーネスは突然一矢の顎を掴み、顔を近付けた。
「そうだな……おかしいと思うよ。だからお前が何を企んでるのか……じっくり調べないとな」
助けて下さい! 助けて下さい!
異世界の中心で愛を叫んでる場合じゃない!
その時大きな警報が鳴り響いた。
「そのままで待ってろ」
そう言って、ハーネスが状況を確認しに部屋を出て行った。
マジで助かった……怖かったよ。泣きそうなんですけど。それより……
「おい! ケッツ、どういう事だよ」
「いやぁなかなか面白い展開だと思いまして、それに旦那様には昨日ひどい目に遭わされていますしねぇ。それにあたしは嘘は言ってませんよぉ」
「どういう事だ!」
「だってぇ、エディ様が実験していたのは知っていますけどぉ、
ケッツがふざけた事言ってる……この野郎、マジでどうしてくれようか? 2点プラスして5点だ。
「まぁ本当に危なくなったら、何とかしますから」
それにしても、この大きい音は何だ。
ーーーーーーーー
「絶対に電源を切っちゃダメ! ネットワークから隔離して時間を稼いで!」
シロエが大声を出している。それだけで状況は緊迫している事が想像出来る、そんな光景だった。
「一体何があったんだ!」
コーネルがダイアナとシロエの元にやって来た。
「うちのシステムがハッキングされています!」
「何だと! シロエ早く何とかしろ!」
「今やってます! 黙ってて下さい!」
シロエはもの凄いスピードでキーボードに文字を打ち込む。
「ダイアナ、どういう状況だ」
「エディ・クーパーが映っている映像にウィルスが仕込まれていました。そこから侵入されてシステムが攻撃されています。分析担当全員で、対処している所です」
「もう少しで、システムが復旧出来ます」
シロエがそう言うと、警報が鳴り止んだ。
「全員システムをチェックして、被害報告をしろ!」
コーネルが大きな声で指示する。
「やられました。エディ・クーパーが映っていた映像が……消されました」
シロエは目を伏せた。
「証拠がなくなったという事か……何をやってるんだ!」
コーネルの怒鳴り声がフロアに響く。
「ダイアナ! こうなったら、エディ・クーパーをテロリストと断定して尋問する! どんな事をしてもいい、吐かせろ!」
「……わかりました」
ダイアナはそう言って尋問室に向かった。歩きながら、魔法手帳でシロエに連絡する。
「シロエ、何か変だと思わないか? 出来過ぎてる」
「私もそう思います。ハッキングされて映像は消されましたが、あの映像……合成じゃないかと。断定は出来ませんが」
「私もそう思う、犯人があの映像を消したのはエディ・クーパーをスケープゴートにする為だけじゃない。あの映像が解析されたらまずいからだ」
「どうしますか?」
「シロエ、極秘任務だ。手を貸してくれるか?」
「勿論です、何をすれば?」
「学園安全保障委員会のシステムにハッキングをかけて、監視システムに侵入してくれ」
「わかりました、やってみます」
「準備が出来たら連絡を頼む。そしたら私はエディ・クーパーを連れてここを脱出する。誘導してくれ」
「ダイアナさん……面白くなってきましたね」
「ああ、全くだ」
そう言ってダイアナはニヤリと笑って、シロエと通信を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます