第7話 天才魔法学者の秘密

「え……グレイスさんが」


 一矢はダイアナの言葉に驚きを隠せなかった。


 あんなに社畜、いや学畜だったのに。いや、だからか。世の中嫌になっちゃったんだろうな……可哀想に。


「とりあえずグレイスは拘束されたそうだが、何かおかしい。先入観は危険だが、状況的にグレイスは嵌められたと考える方が自然だ」


 嵌められたのか……どっちにしろ不憫な人だな。人の事哀れむほど俺も恵まれてる状況じゃないけど。


「これから戻って何するんです?」


「私がグレイスを尋問する事になった」


 うわぁ……怖そう。俺だったら絶対嫌だわ。


 一矢達は足早にその場を後にして、テロ対策委員会室に向かった。




 ーー時は少し遡るーー




「シロエさん、使用者IDが割り出せそうです」


 グレイスはシロエを自分のデスクに呼んだ。


「ありがとうグレイスさん、こっちももう少しで解析が終わりそうです」


 2人でディスプレイを見つめていると、やがて使用者IDが映し出された。


 それを見たグレイスは顔が強張り、そして小声で呟いた。


「これ……私のIDです」


「嘘でしょ……本当ですか?」


 シロエが言うとグレイスは小さく頷く、それを見てシロエは拳を固く握り締めた。


「グレイスさん……すみません。立場上あなたを拘束しなければなりません」


「わかっています、ですが信じて下さい。私は無実です」


 グレイスの主張は信じたいが、それを判断する立場にないシロエは、睫毛を伏せて答える。


「尋問は私の仕事ではありませんので、弁明は尋問の担当者に言って下さい」


 グレイスは顔を伏せた。シロエは内線で警備担当を呼び、コーネルに報告を入れた。


 報告を受けたコーネルとハーネスが警備担当を引き連れてシロエの元にやってきた。


「グレイス君、学園反逆罪で君を拘束する。非常に残念だが……何か知っている事があるなら話してもらうぞ。事務局から弁護人を呼ぶか?」


「いいえ、必要ありません」


「ハーネス、彼を尋問室へ連れて行け」


 コーネルは不敵な笑みを見せた。


 シロエはダイアナに連絡しようと魔法手帳を取り出すと、コーネルがシロエに命令する。


「シロエ、ダイアナにすぐ戻るように伝えろ! グレイスの尋問をやらせる」


 シロエはダイアナにグレイスの件を伝え、コーネルの指示を伝えた。


「すぐ戻るそうです。戻り次第、尋問を始められます」


「どんな些細な事でもいい、何でもいいから吐かせろ! いいな」


 やがて、ダイアナと一矢が戻って来た。ダイアナはそのまま尋問室に向かった。


 一矢はダイアナにそのまま付いて行くべきかわからなかった。


「ダイアナさん……俺はどうしたらいいんですかね? 尋問には何も協力出来ないと思うんですけど」


「当然付き合ってもらう。グレイスが何か私達にわからないように、魔法を使う素振りがあったら教えてくれ」


 本当に俺って、いる意味なくね……くどいようだけど、魔法使えないから!

 何でこんなにエディって期待されてんの? マジ迷惑、バラしたい……いっそ正直に言っちゃおうかな。


「お困りのようですねぇ。旦那様」


 突然ケッツが話しかけてきた。


「どうしたのお前? もうピザは食べ終わったのかよ。俺は何も食ってないってのに……くそ」


「ご馳走様でしたぁ、とても美味しかったです。それより、何だか面白い事になっていますねぇ」


 一矢がこそこそ話していると、ダイアナが話しかけてきた。


「どうかしたのか?」


「いえ、ちょっとお手洗いに行きたいのですが、いいですか?」


「ああ、ここを突き当たったら右手にある。尋問室は……ここだ、すぐ戻れ」


 歩いていたら、尋問室に到着していた。


「わかりました、では行ってきます」


 一矢はトイレに駆け込んだ。


「どうしたんですか旦那様、漏らしちゃったんですかぁ?」


「違えよ、聞きたい事がある。何でこんなに期待されてんの俺? エディがいくら魔法学者でも、何でレベル4の魔法を使う犯人相手にエディが必要な訳?」


「ああ、説明してませんでしたねぇ。エディ様は、総合魔法学の博士号を取得しています」


「そりゃ……すげぇ。だから総合魔法学の授業は受けなくていいのか……聞いた時は気に留めなかったけど。でもあそこまで期待される理由にはならないだろ?」


「博士号を持っているという事は……エディ様がレベル5までの魔法使用許可とレベル5の結界解除装置・魔力増幅装置を所持しているという事なんですよ」


 一矢はこれまで聞いた知識で、これがいかに凄い事なのか理解出来た。


「マジかよ……エディは核爆発起こす事すら出来る人間兵器という事か。あいつこそチートじゃねぇか!」


「そもそも、エディ様が旦那様のいる世界に行くのに使った魔法は、重力魔法の応用ですよぉ。未発表ですが、あれはレベル5以上の魔法に分類されますねぇ」


「そういえばそうだ……じゃなきゃ俺はエディと出会っていない。それじゃエディは俺のいた世界に結界解除装置と魔力増幅装置持ち込んだって事か?」


「いえいえそんな事ないですけどぉ、向こうの世界は結界そのものがないですから持ち込んでも意味ないですよぉ」


「それもそうか、じゃあどこに結界解除装置や魔力増幅装置はあるんだ?」


「あたしですよぉ」




「え……………………」




「あたしが結界解除と魔力増幅をします。まぁエディ様の魔力量があれば、レベル5の魔法も増幅なしで使えちゃえますけどねぇ」


 一矢はフリーズしそうになった。しかしようやく納得出来た。なぜエディはケッツと契約していたのか。


「やっとわかったよ……何でエディがお前みたいな役に立たない、コンシェルジュもどきの使い魔と契約してたのかをな」


「随分ひどい言い草ですねぇ旦那様。流石にあたしも傷付きますよぉ」


 そりゃみんな期待する訳だ。どおりでいつもハードルが高い……マジで参ったな。


「それなら何でエディは博士号持ってんのに学校通ってんの?」


「エディ様は高校の一般過程を取得していないから、まだ研究所では働けないんですよぉ。試験を受けて合格すればすぐにでも魔法学者として働けるのですがぁ、学園生活を満喫したいそうです」


 だから『天才魔法学者様』って訳か……


「総合魔法学の博士号持っていると、政府から魔法の研究と開発の許可は下ります。そのためにレベル5の使用許可とあたしがいる訳です」


 なるほど、今日一日で色々わかってきた。昨日のうちに聞いておけば良かったな。


「それから、あたしはある意味エディ様の監視役でもあるんですよぉ」


「どういう意味だ?」


「エディ様がもしその気になれば、一国を壊滅する事が出来る程の魔法使いです。それはこの国からすると驚異ですからねぇ」


「それはそうだな」


「でもこの世界では結界があるので無闇に魔法は使えません。あたしが協力しない限り、エディ様はレベル2以上の魔法を使えないんです。ストッパーみたいな役割ですかねぇ」


「なるほど、そういう訳だったのか。でもお前は壊されそうになったら、命乞いして何でもしそうだけどな」


「結界解除が目的なのに、あたしを壊したら本末転倒ですよぉ? 例えあたしを誰かが盗んで脅しても、結界解除が目的ならあたしは安全です……1番怖いのは昨日の旦那様のみたいに、ただ壊そうとする人ですねぇ……命乞いしか出来ません。おー怖い」


「そっか、エディも1番近くにいるお前に監視されてるってのも悲しいな」


「総合魔法学の博士号取得は最難関とされていて、世界でも数人しかいません。エディ様は中でも最年少です『精神的に成熟していない』という理由で、常に政府にも監視されています。それがやはり嫌だったみたいですねぇ。だから異世界のゲートを開けて、自由に他の世界を楽しみたかったんですよぉ」


「それでエディは『入れ替わりたい』って言ってきたのか。俺の世界に来た時もあんなに嬉しそうに笑って……」


「エディ様は世界をどうこうするような人じゃありませんよぉ。ただ好奇心が強いだけなんです」


「わかった……ありがとなケッツ、そろそろ戻らないと、ダイアナさんに大きい方かと勘違いされちゃいそうだから行くわ」


 一矢はトイレを出て、尋問室に向かった。

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