第3話 委員会と結界解除装置

 ついに異世界の学校の授業が始まった。昨日の夜、少し教科書をさらって見たけど、数学や国語は元の世界とあまり変わりない。

 しかしルカルディシャイア史、魔法関係の科目がさっぱりわからなかった。


 1番驚いたのが言語翻訳魔法が効かない『デルクス語』が何故か、まんま英語だった事だ。


 英語は苦手だから、こっちでは勉強しなくて済むかと思ったのに……当てが外れた。


 最初の授業は、情報理論学だったがさっぱりわからない。情報伝達の仕組みやらメディアのあり方やら企業の情報管理、データの収集・解析、コンピュータの計算方法に関するアルゴリズム論……


 途中からだしわかんねぇよ! 最初からでもわかんないと思うけど。


 情報理論学の授業が終わると、ラルフは一矢に手を振ってから数人の生徒と一緒に出て行ったきり、次の授業が始まっても戻って来なかった。


 ラルフはどこ行ったんだ?


 元々勉強はそんなに好きじゃない一矢は、結局終始ぼんやりしたまま午前中の授業は終わり、昼食の時間になった所でラルフは戻って来た。


 昼休みが2時間あるっていいな。まだ午前11時なのに昼休みだぜ、ひゃっはー。


「よっ、お疲れさん。昼飯行くか?」


 せっかくラルフが誘ってくれたが、やる事がある。


「悪い、ちょっとやる事あるから先に行っててくれよ。また後でな」


 ラルフが戻って来なかった事は気になるが、あまり余計な事は聞かない方がいいと一矢は判断した。


 それよりどうしてもやらなきゃいけない事がある。


 人気の少ない場所を探して魔法手帳を取り出した。


「おい、ケッツちょっと聞きたい事がある」


「何ですかぁ? これからお昼ご飯にピザを頼むんですからあまり長話はしたくないんですけどぉ」


「そうか家と繋がってるんだったな……まぁピザが届くまででいいから聞かせてくれ。まずこの学校の仕組みとか結界解除装置の事とか教えてくれ」


「それってぇ、かなり長くなりそうなんですけどぉ……はぁ……わかりました」


 ケッツはため息をついて少し躊躇ちゅうちょしながら説明を始めた。


「まず、このセイクリッドウェルズ学園は6年制で、生徒数は6,000人弱。校風は生徒の自主性を尊重する事ですねぇ」


「6,000人って……どんだけいんだよ」


「それぞれの第1専攻科目によってクラスが分かれてて、花組は主に魔導工学と情報理論学と総合魔法学ですね。神組は魔法医療学と魔導生理学と心理学と魔法薬学、星組は物理学と歴史学と法学ですが、一言に物理学と言っても理論物理学や天体物理学、数理物理学など沢山の分野があって1番難解とされています」


「すぐには覚えられそうにないわ。後、委員会ってやたら出てくるけど何なんだ?」


「先程も言いましたけどぉ、この学園は生徒の自主性を重んじるので、学園内の事は全て生徒に委ねられています。各委員会・生徒会に所属する生徒は大学卒と同等の学力テストに合格しています。なので専攻してる科目の授業以外は免除されます。運営方針や政策を決定するのが生徒会ですねぇ。学園選挙で選ばれた生徒会長が各委員長を指名して学園議会が結成されます」


「なるほど免除か。だから国語からラルフは授業受けなかったのか……てかラルフって頭いいんだな。その上イケメンとか腹立つな」


「免除されても、受けたい授業はみんな受けてるみたいですよぉ。体育・体術・軍事訓練は人気ですね」


 様子がおかしいのふたつ混ざってるな。


 それにしても長い……ケッツが説明するのを躊躇ためらった理由がだんだんわかってきた気がする……。


「例えば、風紀委員会は学園内の治安維持、校則違反者の逮捕や生徒会長の護衛。学園安全保障委員会は自然災害やテロリストの攻撃から生徒を守る事、又授業で使う重要な機器を安全に保管したり学園内の監視カメラの管理。ラルフ様の所属している中央情報管理委員会は生徒会直属の組織で、生徒会が学園内の政策決定に必要な諜報、謀略活動が主なお仕事です。テロ対策委員会はテロリストの逮捕とテロ攻撃の対処がお仕事ですね。それから総合医療……」


「待った! とりあえず委員会はもういいや、覚え切れないからまた今度にする……頭痛くなってきた……てか学園内でテロ対策なんて要らないだろ」


「いえ、それがそうでもないんですよぉ。実際1年前に当時の生徒会長が拉致されて、時限式爆発魔法でこの学園ごと吹き飛ばそうとした生徒が居たんですよぉ。エディ様の活躍で大事には至らなかったんですけどぉ。まぁその事件がきっかけでテロ対策委員会が創設されたんです」


「マジかよ……エディすげぇな。それにしても怖いんですけど、この学校……それで結界解除装置って何なの?」


「昨日も言いましたように、この国全体に魔法結界が張られているんですよぉ。この結界の中だとレベル1の魔法しか使えないようになってるんですよぉ。例えば、昨日と今朝あたしが使った立体投影魔法は、レベル1なので誰でも許可無しで使用可能です」


「なるほど、んじゃレベル2以上の魔法は?」


「レベル2以上の魔法を使用する際にはいくつか必要な物があるんです。そのひとつが結界解除装置です。これを持っていると結界内で魔法の使用を可能にする事が出来ます。対応したレベルの結界解除装置があれば、それに応じた魔法が使用できます。例えば、昨日の宅配ピザにかけられていた飛行魔法や認識阻害魔法はレベル2に分類されます。殺傷能力のある魔法はレベル3に分類されていて、警察や尉官以下の軍人さんなんかが所持しています。レベル4以上ですと通常、人間ひとりの魔力では発動出来ない魔法なので、魔力増幅装置も必要になります。分類される魔法は爆発魔法や物質変化魔法などです。レベル5は核融合魔法や重力魔法が……」


「核融合って……待ってもらえるケッツさん、マジでついていけまてん。それ本当にこの世界の常識なの?」


「勿論そうですよぉ、みんな知っています。常識です」


「じゃあその結界解除装置があれば誰でも魔法が使える訳なんだな」


「結界解除装置があれば習得している魔法は使えますねぇ。ですけどぉ、魔法使用権限がないと違法行為になり逮捕されますよぉ。例えば飛行魔法は重たい物だと魔力消費が激しく、飛行中に魔力切れで重たい荷物が人や物の上に落ちる危険性があるので、基本的に魔法使用権限も必要です。宅配業者は役所に申請して、飛行魔法使用許可を取って、レベル2の結界解除装置を国から購入して営業許可を取得しています。因みに結界解除装置は国の許可がないと手に入れられません。逆に許可もなく所持していると犯罪です」


「ああそう……んじゃ今朝話してた結界解除装置が盗まれたって結構ヤバいんじゃないの……もしかして」


「そうですねぇ。レベル4の結界解除装置というと、使い方次第ではかなり危険です」


「何でそんな物がこの学校にあるんだよ」


「ここは学校ですよぉ? 授業で魔法を教えますし、使います。結界解除装置がないと授業になりませんからね」


「そりゃそうだな……」


「だけどぉ犯人がレベル4の魔法を使うつもりなら、魔力増幅装置も必要になりますよぉ」


「その魔力増幅装置ってのは簡単に手に入る物なのか?」


「いえ、一般的には難しいですねぇ……ところが仕組みは結界解除装置よりずっと簡単な物なので、魔導工学を専攻している生徒なら自作する事は可能かも知れないですねぇ」


「でも実際そんなテロ攻撃があったら生徒だけじゃ対処出来ないだろ? こっちは魔法が使えない訳なんだし」


「この学園は独自の魔法結界を張っています。学園内でのみ使用可能な、カード型のレベル3結界解除装置とレベル3の非殺傷魔法使用権限を犯罪抑止の為に特定の委員会に与えられています。風紀委員会や中央情報管理委員会、テロ対策委員会がそれに該当します」


「あと総合医療委員会の医療室は結界解除装置が設置されています。レベル3の医療魔法使用権限も与えられています」


「自主性重んじ過ぎだろ……ここ」


「セイクリッドウェルズ学園は、社会に出て即戦力となる人材を育てる学園ですからねぇ。この学園を卒業すると一流大学卒よりも就職に有利なんですよぉ。特に委員会・生徒会に所属していると超エリート街道真っしぐらです。まぁ勝ち組ですね……おっとピザが届いたみたいです! それではまた、IDカードでピザの代金の承認よろしくお願いしまぁす」


「ちょっと待て! 最後に俺は……つまりエディは何か委員会に所属してるの?」


「はぁ……話聞いてましたぁ? 旦那様が委員会に所属しているなら、午前中は情報理論学以外受けなくてもいい授業を受けてた事になりますよぉ」


 こいつのため息マジ腹立つわ。


「エディ様は総合魔法学部の部長をしていますが、委員会に所属してないので授業は免除されません。なので総合魔法学以外の授業はちゃんと受けて下さいねぇ。それでは、いただきます! オーバー」


 何がオーバーだ。マジでややこしい話だったな……とりあえず委員会入ってなくてよかった、絶対ボロが出るもんな。

 総合魔法学の授業は出なくていいのか……やったぜ。

 さてそろそろ俺も昼飯にするか。


 それにしても珍しくケッツが憎まれ口叩かなかったな……勤務時間内はわりとちゃんと働くんだな。


 でも、あのため息がムカつくから1点追加で合計3点だ。


「ここにいたのか……やっと見つけたエディ・クーパー」


 フルネームかよ、誰だ? ラルフもいない。しかも今はケッツも応答してくれないだろうし……どうやって乗り切ろうか。


 そう考えながらゆっくり振り向くと、そこには金髪のポニーテールに少し大人っぽい顔立ちの綺麗な少女が腕を組んで立っていた。


 うーん、この子なかなかレベル高いな……レベル4ってとこか。

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