第2章 テロリスト編

第1話 セイクリッドウェルズ学園

 目が覚めると見知らぬ部屋にいた。


 そうか今日から異世界で生活するんだったな。学校か……うまくやっていけるだろうか。


  「おい、ケッツ起きろー学校まで案内してくれる約束だろ? お前が連れてってくれないと、場所もわかんないんだからな」


「ふぁああ……わかりましたよぉもう、今日だけですからね? まだ勤務時間じゃないんですからもう……今日1日で通学路くらい覚えて下さいよぉ?」


 昨日の夜ピザを食べ終わった後に、明日から通うセイクリッドウェルズ学園までの道案内や、基本的なこの世界での生活の仕方を教えてくれるよう頼んでおいた。


 渋々ケッツも了解してくれたけど、本当に大丈夫かこいつ。


「朝飯は……何もないか。今日は我慢するしかないな」


「あたし朝は何も食べないからいいんですけどぉ、今日のお昼何もないなら、また出前取りますよ? 承認よろしくです。明日からお昼ご飯ちゃんと用意しておいてくれないと、明日も出前取っちゃいますからねぇ」


「毎日出前にされたら破産するだろ! てか外出れるなら自分で買い物行って来いよ」


「それは無理です。充電スタンドと魔法手帳から離れ過ぎると、体を具現化出来ないので、あたしだけじゃ買い物は行けないんですよぉ。だからエディ様は帰りにいつも、次の日のお昼ご飯を買って帰ってくれたんですよぉ。これからは旦那様のお仕事ですので、まぁしっかりやってくれぃ、よろしくー」


「ちっ……んじゃ帰りに何か買って帰るから食料品置いてある店もナビ頼むぞ」


 本当にコストパフォーマンス悪いな。毎月契約金払った上に、使える時間帯も限られて、しかも食費もかかるなんて、こいつ何の為にいるんだ……存在意義あんのか?


 もうこいつにイライラしても時間の無駄だな……。


 でもやっぱムカつく。これからケッツにイラつくたびに点数付けよう。10点溜まったらお仕置き……どうしてくれようか。とりあえず1点。


「そういえば、学校行ったらみんなお前みたいなコンシェルジュ使ってんの?」


「いえ、皆さんコンシェルジュは使っていませんよぉ。エディ様が特別なんです」


 ふーん……エディってドMなの? いらなくねこいつ。


「まぁいいや、そろそろ行くぞ。ナビよろしくなケッツ」


 一矢は昨日の夜、家中探して集めたエディの学校の教科書と、自慢のグリモワールを鞄に入れた。


「旦那様、その小汚くて大きい本は何ですか? 学校では使わなそうですけど」


「こ、これは…………日記だ……決して覗いてはいけないよ? 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ……」


 こいつにだけはバレてはならない……これだけは見られてはいけないのだ。もし見られたら、こいつにどれだけ小馬鹿にされる事か。想像しただけでイライラする……2点。


「何言ってるのかわかりませんけどぉ。見るなと言われたら見たくなるのは、心理ですよねぇ? ふふふ」


 ここでもう一度見るなと釘を刺したら、フリと捉えられてしまうだろう……これ以上下手な事は言わない方がよさそうだな。


「つべこべ言ってないで行くぞ」


 一矢は玄関で靴を履いた。ケッツは納得いかない様子で、昨日と同じナビゲーションする魔法を使い魔法手帳に引っ込んだ。


「てかよ、魔法手帳から出て来れるならずっと出てればいいじゃん?」


「10分程度で魔力切れしますよぉ。魔力が切れたら、充電するまでスリープモードになりますがいいですか?」


「いや、いいや。魔法手帳でゆっくりしててくれ」


 一矢は地図を頼りに学校へと向かった。


 案外近いみたいで、電車で駅ふたつの距離だった。電車を降りる時もIDカードで支払いが出来た。


 このカード、電子マネーみたいで便利だな。しかもチャージしなくていいし。


 学校最寄りの駅から歩いていると、知らない男が駆け寄って来て声をかけてきた。


「よおエディ、昨日はどうだったんだよあの後? 実験上手くいったのか」


 いきなり来たか。この男の様子からすると結構親しい間柄みたいだ。上手く誤魔化さないといけないが、名前すらわからない。


 赤毛の爽やかサラサラヘアーに長身……顔面偏差値もそこそこのイケメンか……コミュ力も高く、スクールカーストも上位でモテそうだ。


 いけ好かねぇ……俺は元の世界で、こういう男に散々虐げられ生きてきたのだ。いつもなら冷たくあしらう場面だが、今はエディとして対応しないといけない。


 さて、このイケメンから情報を引き出そう。まずは自然に名前を聞きださなきゃな……どうしようか。対人スキルがない俺にはやっかいな問題だ。


「あ、おはようございますぅ。ラルフ様」


「おう、おはようさんケッツ。ってあれ? どうしたんだ、勤務時間外労働はしない主義じゃなかったか?」


 ナイスアシストだ、ケッツ。おかげでこのイケメンの名前がわかった。

 まぁこいつにこんな気の利いた事出来る訳ないだろうから、偶然だとは思うけど。


「お、おはようラルフ、ちょっと今日だけケッツは早起きなんだ。気にしないでくれ。そ、それより実験は上手くいかなかったよ。残念だけどまぁ仕方ないさ」


 何とか自然に誤魔化せただろうか? 恐らく実験とは異世界にゲートを開ける試みだろう。昨日エディは見事に実験を成功させた訳だけど……成功したなどと下手な事言って、根掘り葉掘り質問されるとボロが出そうだ。とりあえず、これで適当に話を合わせておけば大丈夫だろう。


「そうか、魔法学者の道はなかなかに険しい訳だな」


 魔法学者だと……エディってもしかして超優秀な奴なの? 3カ月どころか今日で全てバレるんじゃないか。

 俺がエディに成りすますなんてハードル高すぎだろ? 何せ魔法なんて使えないぞ。


「そういや昨日さ、お前が帰ってから学園内で盗難があったらしいぜ?」


「へぇ、結構物騒な学校なんだな」


「盗難の場合、通常は風紀委員会が対応するだろ? ……ところが調べてみると、何故かテロ対策委員会も動いてるみたいなんだ」


「あの……よくわかんないけど、そういう事は警察とかのお仕事なのではないでしょうか?」


「お前今更何言ってんだよ? 学園内で起きた事は学園の生徒で全て解決するって決められてるだろ。殺人でも起きなきゃ警察は介入出来ない法律だ」


 うーん、頭が追いつかない。彼の言ってる事が理解出来ない……予想を遥かに上回る展開についていけない。

 それにしても今の返しはマズかったな、この世界の常識がまだわからないから、下手な事は言えない。まぁ怪しまれていないだろうけど気を付けねば……本当面倒くさいな。


 一矢はとりあえず無言で頷いた。するとラルフは辺りを見回して、誰も近くにいない事を確認してから小声で話しだした。


「ただの盗難でテロ対策委員会が動くっては明らかにおかしいと思うだろ? それでちょっとしたコネで耳にしたんだが、盗まれた代物ってのが学園安全保障委員会が保管していた、レベル4の結界解除装置だって話だ。あの女……もしかしたら、お前のとこに捜査協力の依頼しに来るんじゃねぇか」


 あの女って誰だ? 何だかすごく面倒な事に巻き込まれそうなんですけど、大丈夫かこれ。

 捜査協力なんていわれてもな、どうしたらいいんだかわかんないぞ。


 俺はコミュ能力不足の中二病患者なんですよ? 何か言われたら上手い事言い訳して逃げないと……。


「校則違反者やテロは管轄外だけど、何か困った事あったら協力するからよ。何でも言ってくれ。中央情報管理委員やってるのは伊達じゃないんだぜ?」


 ラルフは得意げな表情で胸を張った。


「ありがとなラルフ、何かあったら相談するよ」


 また委員会かよ、てかラルフって諜報員か何かなの? 何かわかんないけど面倒くさそうな学校だな……セイクリッドウェルズ学園って。


 何とかラルフと話を合わせながらも学校に到着した。かなり大きな校舎だった……イメージとかなり違う。


 学校というよりか……オフィスビルじゃん……これ。







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