第3話 異世界交換留学致します
確かに俺とエディは驚く程そっくりだ。顔だけじゃなく髪型や背格好、年齢に制服までよく似ている。ドッペルゲンガーも真っ青だ。相当よからぬ事に利用出来そうな程だ。
「実は一矢さんにお願いし……」
エディが言いかけたその時、バチバチと青い火花が散って大きな音が鳴り響いた。一矢は驚いて左手に持っていた自作のグリモワールを落としてしまった。
エディがゲートと呼んだ黒い穴の周りで、放電現象が起きている。一矢は何か起こるのかと思いゲートを見つめていると、エディは落とした自作グリモワールを拾い、一矢に差し出した。
「大丈夫ですよ、ゲートが閉じる少し前から放電があるんですが……まだ大丈夫です。それよりどうぞ一矢さん、大切な本なんですよね?」
エディが一矢のグリモワールを拾い、差し出した。
「え、あ……あうあうあー」
一矢はグリモワールを受け取り大急ぎで背中に隠した。
「もしかして、それって本物の魔導書ですか!? 凄いです、初めて見ました。僕の世界では、本物の魔導書がもう残っていなくて……どうかしました?」
エディは一矢の慌てた様子に不思議そうな顔をしている。
「一矢さん、この世界にはどんな魔法があるんですか?」
言えない……中二病だなんて、言えない……中二病とは何なのかなんて説明出来ないし、したくない。
異世界の本物の魔法使いを前に『いやぁファンタジーの世界に憧れちゃってー、魔法なんか全く使えないけど、自作したグリモワールを意味もなく持ち歩いているんですよー』なんて言えない、言える訳がない。
やばい、何て恥ずかしいんだ……。
ブックマークしていた『いやらしいサイト』や、保存していた『いやらしい動画』が母ちゃんに見つかった時より恥ずかしい。まだ見つかってないけど……見つかってないよな?
それより何て言い訳しよう……頭をフル回転させた結果……。
「いや、じ……実は、俺の魔法は国家の安全保障上の問題があってですね、あの、国家機密でして、その……迂闊に使うと国が滅んでしまう程の戦略魔法師的な劣等生のお兄様でして……」
しどろもどろになりながらも俺の頭のCPUではこれが限界だった。しかもどっかで聞いた事ある設定だ。こんな言い訳通る訳ないだろ。
「そうだったのですか……それはすみません。これ以上お聞きするのはやめておきましょう。お願いしたい事があったのですが、それは難しいかも知れないですね」
エディは困ったように笑い、人差し指で鼻を掻きながら言った。
マジで? 何とか誤魔化せたみたいだ……随分チョロいな。いやエディがいい奴なんだろう。
「な、何かすみませんね、何せ一応国家機密ですので……因みにそのお願いって、さっき言いかけた事ですよね? 出来る範囲で協力しますので聞かせて下さい」
一矢はそう言うと、エディはまた少し申し訳なさそうに話し始めた。
「実は、あまりにも一矢さんと僕の容姿が似ているので、少しの時間でいいので入れ替わって頂けないかと。こちらの世界を知るには何かと都合がいいのではないかと思いま……」
「いいでしょう! いいでしょう!」
一矢は食い気味に即答した。しかも大事な事なので二回言いました。
異世界の剣と魔法の世界に行けるなんて願ったり叶ったりだ、迷う事など何もない。
「いいんですか!? 先程の話ですと一矢さんは、この世界の重要人物なのでは?」
「それは大丈夫です。お、俺は偉いので仕事はしなくても大丈夫なんです。こ、国家機密ですし」
とりあえずキメ顔で適当に答えておいた。
「それは心強いです。それなら安心して任せられます!」
任せられる? どういう意味だ。まぁいいこれは……チャンスだ! けどあまり喜んだ顔を見せない方がいい、あくまで俺がエディのお願いを聞く形を守った方がいい。貸しも作れるし。
俺は異世界で剣と魔法を駆使し、ハーレム大冒険をして魔王を倒す予定なんだ。少しくらい悪知恵を働かせられないといけない。
突然バチバチとまた大きな音がした、ゲートの周りの放電が少しずつ激しくなっている。
「おっとそろそろゲートが閉じてしまいそうです。一矢さん、言語翻訳魔法はこの世界にもありますか?」
「いや、そういった魔法の存在は確認されていません……」
「わかりました! 僕が魔法をかけますね。それではお願いします! ちょうど3ヶ月後の同じ時間に、一矢さんがゲートから出た場所に、もう一度ゲートを作りますので。後、この手帳を!」
エディは、ポケットから取り出した手帳に手を置いた。手帳は輝きだし、今度は一矢に差し出した。
「一矢さん、この手帳に手を置いて下さい」
一矢は受け取った手帳に手を置くと、地面から魔法陣が現れ、光が一矢を包み込んだ。そして手帳は少しずつ輝きを失っていき、魔法陣も同時に消えた。
「何だこれ……」
エディが何をしているのかわからないが、言語翻訳魔法を使っているのだと予想がついた。一矢はその光景を見て胸が踊りだす。
それからエディは一矢の頭に手をかざし、小さな声で何やら唱えた。
「トランスレーション」
かざした手は青白く光り、やがて光は消えた。
「これが……本物の魔法か……」
一矢が呟く。
「よし、これで向こうに行っても言葉は通じるし、理解も出来るはずです。それじゃ急いで!」
「ありがとうエディ! じゃあ上着だけ交換しよう、胸ポケットに学生証が入ってる。それに俺の住所も書いてあるから、後これスマートフォンっていうんだ。使い方は調べてくれ、セキュリティは解除しとく」
一矢はテンションが上がり過ぎて、タメ口になっている事すら気付いていない。
一矢はセキュリティを解除して、スマートフォンを手渡した。2人は上着を交換して、一矢は急いでゲートに飛び込もうとした。
「一矢さん! ありがとうございます。その手帳が、向こうでの生活は役に立つはずです。それと僕と入れ替わってる事はくれぐれもバレないようにお願いします。では3ヶ月後に」
一矢はエディに手を振りながら、受け取った手帳をポケットにしまい、そしてゲートの中に飛び込んだ、中はだだっ広い真っ暗なトンネルみたいだ。
やがて、ゲートの出口が見えてきた。一矢の胸が高鳴ってきた。先程から興奮し過ぎだ。
高血圧で倒れんじゃないの? しかし今はそんな事はどうでもいいや。よくないけど……。
俺は異世界で魔法使いになれるんだ。冒険者になれるんだ。
これは離島とかの田舎から胸一杯に夢を詰め込んで、上京するみたいなワクワク感を遥かに凌駕する体験だ……上京した事ないからわかんないけど。
一矢は走り出していた、ゲートの出口から漏れる光を目掛けて。
普段運動しないが、はやる気持ちを抑えきれず必死で走った。
そして勢いよく出口から飛び出した。
たった3ヶ月だけど、夢にまで見た異世界でのハーレム大冒険活劇が、今この場所から始まるのだ。
放電は収まりゲートは静かに閉じていった。
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