第2話 エディ・クーパー
「やった……やったぞ……ついに魔法が使えるようになったぞおおおおお」
一矢は興奮のあまり、うっかり周囲の確認を怠って叫んでしまった。
しかし唱えたのは黒炎魔法だったんだけど……まぁいっか細かい事は。
そんな事を思っていたのも束の間、やがてその真っ黒い穴から人間の腕らしきものが伸びて来た。
身体中に電流が走ったようにビクッとした。そして急激に心臓の鼓動が加速していく。
これまで感じた事のない程の恐怖心が、一矢を支配していた。
恐怖に震えた声で呟いた。
「お、おいおい……マ……マジかよ……何か出て来た……」
しかし恐怖心より好奇心が勝り、とりあえず出て来たものの正体を確認したいと思った。同時にいつでも逃げられるように警戒した。
思わず自作のグリモワールを持つ左手に力が入る。
どうか美少女でありますように……一応願っておこう。
やがて黒い穴から人型の何かが現れはっきりと視界に捉えた瞬間、自分の目を疑った。どこかで見た顔だ、というより……。
「え……俺……?」
黒い穴から現れた俺のそっくりさんも、明らかに動揺している。
それにしても似ている、一卵性双生児の中でも最高レベルだ。
しかも顔や背格好が似ているだけじゃなく、制服まで着ている。少し違うが殆ど同じ制服だ。
彼は目を丸くして俺の姿をまじまじと見ていたが、すぐに動揺を隠して笑顔を作った。そして丁寧な口調で、彼は普通に話しかけて来た。
「こんにちは、今日はとてもいいお天気ですね。」
上出来だ。初めて会った人には、まずは挨拶からという、現代人の基本に沿って行動しているのだろう……中二病で友達も殆どいない俺には、到底真似出来ない対人スキルだ……。
しかし、このまま動揺を続けて固まっている訳にはいかない。
とりあえず平静を装いつつこの場をやり過ごそう。そして咳払いを1つして笑顔で答えてみる、しかし恐らく顔は引きつっているだろう。
「こんにちは、そうですね。とてもいいお天気ですね。アハハハじゃあ俺はこれで」
よし、これでいい。帰ろう……面倒に巻き込まれたくない。見なかった事にしよう……対人スキルないし、遠い昔からこんな言葉がある『逃げるが勝ち』と。
勇者だって面倒なモンスターとエンカウントした場合『逃げる』をコマンド選択する事もある訳だし……。
そそくさと立ち去ろうとした瞬間、彼に呼び止められた。
「キミ、ちょっと待って!」
しまった『しかし回り込まれてしまった』だ。
やはりそうですよね、そういう訳にいかないですよね。
そしてまるでお互いが示し合わせたように、同時に言った。
「キミの名前は!?」
俺達はハモってしまった。期待していないと言ったら嘘になる。ドラマティックなシチュエーションに胸が熱くなるが……どっかで見た事あるよ? 男同士ですけど、BL展開ないよね!? これ! しかも自分とそっくりな男同士って、もはやナルシストの究極系なんじゃないの!?
くだらない事考えてる場合じゃない、頭を切り替えよう。名前を名乗ろうと思ったら、先に彼が名乗った。
「僕はエディ……エディ・クーパーです、よろしく」
エディは満面の笑みで握手を求めて来た。それに習い笑顔でエディの手を握り名前を名乗った。
「俺は鷹咲一矢っていいます、よろしく」
やっぱり欧米の人なの!? めちゃフレンドリーだなエディ……そのうち土足で俺のパーソナルスペース入り込んで来そうなんですけど……なんて思いながら、お互いさっきより大分落ち着いてきた。
はっ! そうか……俺はエディを召喚してしまったのか……って事はこれは……こういう事か!
「ククク……そうか、はっーはっはっはっごふ! ゴホゴホ、ゴホン、召喚された貴様を屈服させ我が使い魔として契約してくれよう! 我が力を存分に味わうがいい!」
「ちょっと待って下さい! 落ち着きましょう。僕は一矢さんに召喚された訳じゃありません! それに普通の人間です」
エディは少し動揺している。
あれ……? 少しビビってるの。これ言ったら大体ドン引きされるか、イジメられるんだけどな。
気を使ってくれてるのか……優しいなエディ……なんか俺恥ずかしい。
「アハハハ、やだなぁ冗談ですよ。えっと……エディさんは何処から来たんですか? お名前からすると日本人ではないようですが」
「ニホン? ここはニホンという所なんですか。僕は『ルカルディシャイア』という国から来ました。そこのゲートを通って」
ん、聞いた事ない国だなぁ。ヨーロッパにそんな国あったっけ?
しかしそれじゃあ、俺はどこ○もドア的な……いや、空間転移魔法って言った方がカッコいいな。そいつを使ったんだよね……。
うすうす、自分が魔法を使えるようになっていない事はわかっていたが、現実を受け入れたくないから気付かないフリを貫いている。
「それにしてもよかった、成功しました! 異世界に通じるゲートを開ける事が出来ました!」
満面の笑みで喜びを隠せないようだ。
エディの言動から推測すると……案の定、俺が何か特別な事をした訳でもなさそうだ。まぁわかってたけどね。
「って、ええええ!! 異世界!!??」
一矢は余りの驚きにフリーズした。
異世界……本当に存在しているとは思っていなかった。
驚愕してフリーズしてる俺をよそに、エディは興味津々といった具合に瞳を輝かせて質問してくる。
「一矢さん制服を着ている所を見ると、高校生ですよね。僕は高校2年生の17歳ですが、もしかして同い年ですかね?」
フリーズから再起動した一矢は、愛想笑いをしながらエディの質問に答えた。
「ええまぁ俺も高校2年生です、年齢はまだ16歳ですが……」
そんなことより先程エディが言っていた言葉の方が衝撃的だ。
異世界……確かにエディは、あの穴を異世界に通じるゲートだと言った。という事はエディは異世界から……。
自分の聞き間違いじゃない事を確かめる為、興奮を抑えきれずに少し大きな声で尋ねた。
「それより……本当に異世界から来たんですか!?」
「恐らく間違いないと考えています、座標で確認しましたが、確かにこの世界は僕のいた世界ではありません。一矢さんからすると、僕は異世界から来た異世界人という事になりますね」
エディはにっこりと笑った。
「じゃあ……エディさんは何でこの国の言葉を自然に話せるんですか?」
空間に穴が空いて、そこから現れた時点でエディの言う事を疑う余地はないのだが、異世界から来て、いきなりコミュニケーションを取れるというのも何だか納得出来ない。
「ああ、えっと……言語翻訳の魔法をかけているので、知的生命体なら大体どんな相手でも話せますよ? でも例外もあります。デルクス語という……」
一矢はひとつの言葉を聞いてから、話が耳に入ってこなかった。
「魔法……だ……と……」
エディは子供がイタズラする時のようなあどけない笑顔を作り、ここからが本題だと言わんばかりに一呼吸置いた。
「僕と一矢さん……驚く程よく似てると思いませんか?」
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