17.
コアトル。神殿の一室。
ハルフォール人たちが持ち込んだ分厚いテーブルには料理のほかに宝石が無造作にばら撒かれていた。
もともとはこの部屋の天地創造の物語だったものだ。
だが、剥がされた途端、それはただの装飾品になる。
「野蛮な」
ウルバが吐き捨てる。羽根のマントを剥ぎ取られ、肌衣だけの姿だが、威厳が損なわれることはなかったらしい。
「ウィツルアクリを畏れぬものたちよ。貴様たちが破壊したのは世界の成り立ちだ。成り立ちを知らずして、世界を生きることができぬのを知らぬのか?」
テーブルについた男は何もこたえない。ごわごわとした髭に覆われたワニガメに似た顎はまだ血がしたたりそうな焼肉を噛むために動いている。軍人らしいが、鎧や胸当てはつけず、剣を吊っただけのシャツ姿で宝石を指先でもてあそんでいた。
「おれが信じるのはこれだけだ」
男は宝石の一つを指ではじいた。小さなルビーが赤ワインで満たされたゴブレットのなかに落ちる。男はその杯を宝石とともに飲み干した。
「だが、カネだけでは駄目だ。そんなのはただの財布だ。そこで必要になるのが――これだ」
男は剣の柄を叩いた。真鍮のこじりが床の石にぶつかり、カチンと堅い音を鳴らす。
「自分からここに舞い戻ったことは評価してやる。部下を三人半殺しにしたことには目をつむろう。笛を――ウィツルアクリの心臓を渡せばいい。そうすれば、お前たちは死なずに済む。それどころか、新たなテスケノの王、このメレンデスさまの戴冠の目撃者になれるんだからな」
「笛は共鳴箱のなかだ。だが、盗られた」
「いいか? クソガキ。お前はあれをあいつらに託して、おれと交渉するつもりだろうがな、そいつはうまくいかない。多少腕が立つと言っても、所詮はガキだ。こっちは五十人。どいつもこいつもここに流れ着くまでに三人は殺してる。それも売女や小銭をめぐるごたごただ。そして、そいつらが、カネよりも女よりも好きなものは知ってるか? 生意気なガキを文字通り締め上げることだ」
メレンデスの大きな手が喉に伸びる。足が宙を蹴り、息がつまる。
「か、はっ――っぐ……」
「どうせやつらは生きて、この山を下りられない。正しいものが最後に勝つなんてのはな、そこの壁に書き散らされていた神話よりも滑稽な夢物語なんだよ」
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