12.
階段に、広間に、庭園に、死体が転がっている。
切り刻まれたもの、突き落とされたもの、松明とともに掲げられてさらし者になっている骸。その顔は自分に起きたことを最後まで理解できないまま死の静寂とともに凍りついている。
見覚えのある紫の外套を見つけた。あの乱暴沙汰を行った騎士だ。カンテラを近づけると、頭がついていなかった。
アーチ状の橋を渡っているとき、悲鳴がきこえた。人間のものとは思えない断末魔。
橋の下の回廊で、近衛騎士団の財務長官が黒い鎧をまとった若者たちにつかまって、幅広の剣が次々とその老躯を貫いているところだった。
エスレイは一度覗いて、それから逃げるように走った。
怖かったのだ。
黒い若者たちのなかにジョシュアがいるかもしれない。
アンゼルム兄さまが虐殺の指図をしているかもしれない。
松明や鉄のランタンを手に虐殺者たちは新たな犠牲者を探している。皇帝の居住区へと近づきつつあったが、惨殺された貴族や騎士たちの骸は減るどころか増える一方だ。
犠牲者たちはみな皇帝に、父に命乞いをとりなしてもらおうとしたのだ。
皇帝の謁見の間につながる最後の廊下に若い騎士や士官学校生たちが集っていた。みな黒衣に血塗れの剣を手にしている。
誰一人、エスレイを止めようとしない。彼らの寄せる視線は同志に送るそれだ。
兄が謁見の間にいる。
エスレイは扉を開けた。
庭園から柱廊越しに月光が差している。白い騎士外套をまとった兄の背中が見える。細身の騎士剣が下げられた先に転がるのは――、
「お父さま!」
父、ベルンハルトだった。
駆け寄って、すがりつく。父帝の胸から絶えることなく流れる血潮が温く、月光に漂白されたようなその顔はもう冷たくなりつつある。
最も愛する人の血で染まった剣を最も尊敬する人が手にしている。
なぜ?
「どうして……」
問いにこたえるかわりに兄がかけたのは、
「分隊、エスレイを捕えよ。後日、処分を決定する」
――突き放すような冷たい命令だった。
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