第6話
ワタシは、風邪で寝込んでしまった。その事に気づいたのは、気を失ってから丸一日経った後だった。
気を失った後何度か目を覚ましたが、意識がはっきりしなかった為、自分が何故寝ているのか理解出来ていなかった。そして頭が働くようになって、自分の記憶が、アイツの土下座姿以降無くなっている事に気づいた。そして、丁度ワタシの元に来た母が、あの後の事を色々教えてくれた。警察への応対、学校への病欠等、ワタシが眠っていた間の事を優しく教えてくれた。しかしワタシは、母がある事に触れないように、話している事に気づいた。ワタシは、その事に話をふった。
「ねぇ、アイツは?」
「!!」
明らかに母は、動揺した。ワタシは、更に問い詰めた。
「どうしてアイツの事、話さないの?ねぇ、どうして?!」
「それは、私が教えよう。」
そう言って父が、ワタシの元に現れた。その時の父の顔にワタシは、決死の覚悟のようなものを感じた。
「彼の新聞販売所が、閉鎖したよ。」
「?」
ワタシは、父の一言目の意味が解らなかった。しかし父は、それを無視して話を続けた。
「彼の新聞販売所、1年以上も前から経営が悪化していてね、綱渡りのような日々を送っていたんだよ。そして先日、彼の父親が倒れてしまった。何とか一命は取り止めたが、もうまともに仕事が出来ない身体になってしまった。だから昨日を以て、新聞販売所を閉め、家族で田舎に移り住む事にしたんだ。」
ワタシは、段々話が見えてきた。アイツは、アイツの父親が倒れた時に、大人に変わってしまった。アイツの意思も都合も関係無く、アイツは大人にさせられた。だからアイツは、ワタシに土下座をした。アイツ自身、誇りも意地も捨てて土下座をし、アイツの家族と生きる道を選んだ。倒れた父親に替わって家族を支える為、アイツは、無用な争いを終わらせた。ワタシは、悔しくなった。
母が、徐にワタシの顔を拭いてきた。
「何するの?」
ワタシは、邪険に母の手を払った。母は、寂しさと優しさを織り混ぜた微笑みで答えた。
「アナタ、泣いているじゃない。」
母にそう言われたワタシは、自分の目頭が濡れている事に気づた。ワタシはそれを袖で拭うと、まるで堰を切ったかのように、涙が止めどなく溢れだした。ワタシは咄嗟に両手で両目を覆い隠し、泣き顔を隠すようにその場で丸まった。そんなワタシに母は、優しく話し掛けてきた。
「隠さなくても良いのよ。アナタはまだ子供で、ここにはアナタの家族しか居ないのだから。」
「嫌、嫌、嫌!皆出ていって!!」
ワタシはみっともない姿のまま、両親に命令した。その態度に父は怒りそうになったが、母がそれを宥めた。
「ここは、私に任せて貰えませんか?」
そう言われた父は、渋々出ていき、ワタシと母の2人きりになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます