神様に改造されて異世界に送られたら聖女と呼ばれるようになりました

第28話 強敵と対峙しました

　脱ぎ捨てられた赤と青の二つのローブが宙を舞い、メタリックな光沢を放つ二人が駆ける。

　メタリックブルーが一瞬にして間合いを詰め、鋭い爪の斬撃を繰り出す。

　がっきぃぃぃん！

　それをヒカルがマジカルステッキで受け止める。

　しゅぼっ！

「うわっ！」

　受け止めた腕から針が射出され、ヒカルはとっさに体のひねって躱す。　

「避けるか、今のを！」

「ぐわぅ！」

「ただのデカい犬ではないのか・・・・」

　攻防の隙を突いてヒカルの横に回り込もうとしたメタリックレッドをユキが牽制する。

「なんでもありなのかな、『組織』てやつは・・・・」

　眼の前の敵の風貌に思わずヒカルは呟く。

　この世界には似つかわしくないメタリックカラーでメカニカルな二人の姿にも驚いたがさらにギミックを交えた攻撃までしてくるとは予想外であった。

「理の外よりもたらされし叡智の結晶、それが我らの体！」

「我が組織の技術力はこの世界の理に縛られぬ・・・・」

　ヒカルたちとメタリックコンビはお互いに下がって距離をとりにらみ合う。

　そのまま硬直した睨み合いが続いていた。

　メタリックブルーは先程の奇襲攻撃を躱された事に動揺し、攻撃を躊躇っていた。

（バケモノか！　力も速度もこちらを上回り、あの攻撃を躱すとは！）

　だが、ヒカルも先程の奇襲に驚き踏み込みを躊躇う。

（まだ、他にも仕掛けがあるとしたら厄介だなぁ）

　互いに踏み込むことを躊躇い硬直していたが、ヒカルがあることに気付いて声をあげる。

「あの男が居ない！」

「確かにないな、気配が」

　キドラントはさっさとその場から逃げ出していた。

　感情的に恩を仇で返したことへの報復は絶対に諦められないが、それには目の前の二人を倒さなければならない。そう決意を固めて踏み出そうとしたその時だった。

　ごごごごごご！

　突然地面が揺れだした。

「地震！？」

「何が起きた、一体？」

「わうっ！」

「まさかキドラントのやつ・・・・」

　洞窟が崩落して前後の道が塞がれ、さらに周りの山から崩れ落ちた岩が四人にも襲いかかる。

「ちっ・・・・」

「わうっ！」

　とにかく戦うよりも今この場を切り抜ける事が大事と互いに警戒し合いながらも落石の回避に専念する。

「ユキ、少しの間だけお願い！」

「わうっ！」

　立ち止まっていつもの構えを取ったヒカルにユキが応え、ヒカル守るために転がり落ちてくる岩の機動を体当たりで変えて跳ね除ける。

「変身！　ガイアフォーム！」

　いつもより早口でモーションも溜め無しで手早く変身を行う。

　かっ！　ばりぃっ！

　閃光と共に異形の鎧を纏ったヒカルは即座に動き出す。

「巨岩（きょがん）連拳昇（れんけんしょう）！」

　ずぐぁどぐぅぼっぐぁん！

　巨大な岩の腕が左右に次々と現れて降り注ぐ岩を堰き止め、そのまま周囲を守る壁となる。

　その防護効果はその広場全体を対象とし、当然敵であるメタリックコンビもその恩恵を受ける。

「なんだ、これは！」

「ヤツの技か・・・・？」

　突如現れた巨大な腕に驚き一瞬構えるが、それが自分達をも守っている事を理解して警戒を解く。

「とりあえず止まったかな」

「わうっ！」

　揺れは無くなり、岩のぶつかり合う音もおさまっている。

「それが岩人形を破った貴様の真の力か・・・・」

　異形の鎧を纏ったヒカルの姿に驚くメタリックコンビ。

「なぜ助けた、我らまで？」

「助けようと思って助けた訳じゃないよ。範囲を絞る余裕がなくて結果的にそうなっただけ」

「なるほど、意図的に助けたという訳ではないのか・・・・」

「だが事実だ、助けられた事は」

「どうするの？　まだアイツを庇って戦うの？」

　マジカルステッキを突きつけてヒカルは問う。

「ふっ、元より庇う気などない・・・・」

「捕らえるまでしばし休戦しないか、キドラントを」

「そうだね。アイツの行き先はそっちの方が心当たりありそうだし、捕まえるのはそっちにまかせていい？」

「いいだろう・・・・」

「捕らえてみせる、すぐに」

　　　　　　　　　　　　◇　◇　◇　◇

「ふうっ・・・・、組織には上手いこと誤魔化しておかねえとな」

　崩落装置を作動させてバケモノ女達だけでなく組織側の存在まで一緒に始末してしまったのだから下手に逃げれば組織に追われることになる。

　それだったら都合のいいように証言して『やむを得ない犠牲』として片付けたほうがいいだろう。何らかの罰を受けるかもしれないが組織に追われるよりはマシだろう。

　どうせ当事者は皆死んで他に証人は居ない。

　そう考えていたが、ヒカル達はキドラントの想像を軽く乗り越えて最悪の事態を運んでいた。

「貴様が組織に証言することはない・・・・」

「糧となるのだからな、我らの」

　聞き覚えのある最も聞きたくなかった声に、恐る恐る振り返る。

「なななな、なんで！　なんで生きてやがるんだ！」

　腰を抜かして後退るキドラント。

「我らの想像の遥か上だった、あの女は」

「貴様を許さんということでは一致したのだ・・・・」

　金属で出来た顔の表情が変わることはないが、その言葉に強烈な怒気を漂わせていた。

「ちょっと、糧にするってどういう事！」

　メタリックブルーの発言を捉えてヒカルが抗議する。

「生贄が必要なのだ、我らの真の力の解放には」

「ま、待て・・・・、お前たちが真の力を開放とか本気か！」

「それ程までにこの女の力は強大なのだ・・・・」

「そして何より今の貴様ほど生贄に適したものは居ない、我らの怒りを一身に受けるという意味ではな！」

「ま・・・ぐがっ！」

　メタリックコンビの腕がキドラントの体を同時に貫く。

　そして、そのまま持ち上げると全身から刃物を展開させ、キドラントの体を切り刻む。

　すでに事切れたキドラントはみるみるうちに肉を剥がされて骨を露出させていく。

「いくぞ・・・・！」

「一つに、我らの怒りを！」

『シンメトリードッキング！』

　ぶぐおぉぉぉぉぉぉ！

　黒い嵐が吹き荒れその中心から獣の咆哮のような叫び声と金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。

　そして、嵐が静まるとそこには元の二人より少し大きい程度なツインカラーの機械人が仁王立ちしていた。

「この姿で相まみえなければならぬ相手に出会う日が来ようとは・・・・」

　無表情な金属の顔でヒカルを睨みながら戦いの構えを取る。

「我が名は『完全体スプリットワンス』、我（われ）が認めし異形の戦士よ！　貴様の名を聞かせて貰おう」

「・・・・。ヒカル＝アオゾラ、そして今の名は『太陽の使徒サンブレイバー』」

「覚えた。では、行くぞ！　サンブレイバー！」

　スプリットワンスは重厚な見た目にはそぐわない俊足で一瞬にして間合いを詰めて拳を振りかぶる。

（速い！　あと静か過ぎる！）

　変身による能力向上がなければ対応出来ない程の速さと見た目に反する静音性に驚くヒカル。

「どうした！　ずいぶんと逃げ腰な戦い方だな」

　スプリットワンスの言葉通り、ヒカルは回避に徹して防戦一方であった。

（ガイアフォームでは相性が悪過ぎる！）

　ガイアフォームの攻撃は大地に働きかける技や金剛震剣の様に前振りと溜めがある技が大半で高速で近接格闘を仕掛けてくる相手とは相性が悪い。

　ガイアフォームにはもう一つの能力があるのだが、真の力の開放をしていない現在ではかなり弱々しい力でしかない。

「一つ聞きたいんだけど・・・・」

　反撃の余裕はないが回避に専念すれば言葉を発する程度は出来た。

「なんだ？」

　スプリットワンスも攻撃の手を緩めることはしないが対話には応じてきた。

「その姿になるのにあの男を殺す必要はあったの？」

「あの男の死に憤怒しているのか」

「まさか！　怒るとしたら獲物を横取りされた不満とかの方かな」

「そうか・・・・、だが我もこの姿のためには譲る訳にはいかなかったからな」

「・・・・。わざわざ切り刻んでたし、何かに利用してる？」

「鋭いな、だがそれに答える義理はない」

　それ以後は掛け声ばかりで対話に応じる事はなかった。

（機械の体なのに挙動音が静か過ぎる・・・・。大きくなってるのに合体前より静かなぐらいだ。そこに何か秘密があるのかも・・・・）

　ひたすら回避と観察に専念し、思案するヒカル。スプリットワンスの左腕が顔面をかすめた際にある物が視界に入り、思わず払いのけようとマジカルステッキでその腕を叩いた。

「！！」

　思いがけぬ反撃に驚き、距離を取るスプリットワンス。

「その関節・・・・、挟まっているのは・・・・」

「これは驚いた。あの戦いの中で気付くとは」

　殺された男に同情はしないが、さすがにこれは気分が悪くなる。

「我の体は関節の緩衝材として人の肉や腸（はらわた）を利用している」

　合体してから挙動音が静かになった理由もそこにあった。

「この体での使用に耐える素材など無く、唯一利用できた素材が生の人体組織だ。

　ゆえに一時的な使用しか出来ず、この姿でいられるのも腐り潰れて弾力を失うまでの限られた時間でしかない」

　武人のような振る舞いとは裏腹になんとも不快な存在であろうか・・・・ヒカルはますます気分が悪くなったがそれ以上に冷静かつ冷徹になっていた。

（唯一使用に耐える緩衝材か・・・・、もし今以上の負荷を掛けたら・・・・）

　ヒカルはマジカルステッキの柄と先端を持って水平に構える。

「何をする気かは知らんが、させぬ！」

　ヒカルの行動を阻止しようと再び間合いを詰めて拳を振りかぶるスプリットワンス。

　ぶんっ！

　拳は躱されたがヒカルの構えを崩した事で企みを阻止できたから良しと考えるスプリットワンス。

　だが、その直後に訪れた違和感に悪寒を覚える。

「体が！？」

　ぐぎぎっ！　ごぎぎっ！

　突然全身の関節が不快な異音を奏で、明らかに体の動きが鈍る。

　動きの鈍ったスプリットワンスからゆうゆうと離れるヒカル。

「やっぱり、少し負荷を足したら潰れたか」

「！！」

　ガイアフォームのもう一つの力は重力。

　真の力が開放されてない現状では少し相手の動きを鈍らせる程度の威力しかないが、それでも十分だった。

　急激に重くなった体の負荷に緩衝材となっていた肉が耐えられず、潰れ千切れて金属同士を接触させてしまったのだ。

　金属同士の接触は切粉を生み出し、切粉がさらに可動部に挟まって傷と切粉を増やす悪循環。

　スプリットワンスの動きは劇的に鈍っていく。

　動けなくなったスプリットワンスの前でヒカルはマジカルステッキに輝く刃を生成する。

「金剛震剣（こんごうしんけん）！」

　ヒカルは背丈ほどもある巨大な刃を上段に構えたまま跳躍する。

「金剛震剣（こんごうしんけん）！　震雷（しんらい）落とし斬り！」

　ずずぅぅん！

　重力を纏って加速しながら振り下ろさた巨大な刃がスプリットワンス諸共大地を両断する。

　ばちばちっ！　ぼんっ！

　切断面同士が接触するとで火花が飛び散り小さな爆発が起き、そのまま割れた大地の溝へと崩れ落ちるスプリットワンス。

　完全に倒した事を確認し、マジカルステッキの金剛震剣を解除する。

「ふう・・・・、強敵だったなぁ・・・・って、もう時間がない！」

　ヒカルは慌ててマントを纏うと物陰へと駆け込んだ。

「うぅ・・・この所為で締まらないな・・・・」

　周囲に人の気配は無いとはいえ安心はできず、物陰に隠れて着替えながらヒカルは愚痴るのだった。