第19話 風の島に到着しました
サーブルク伯の元を出発してから数日、特に大きなアクシデントもなく風の島近くまで来ていた。
「ここが風の島に繋がる風見の郷なのかな?」
風の島に渡るのは風見の郷から伸びる大石橋を渡る必要がある。
「なんか話に聞いてたのと違うな・・・・」
事前に聞いた話では風見の郷は常に風の島から吹く風を利用した干物や潮風を受けて育った果実が名物となっていたがそれらしいモノが見当たらない。
果樹園らしき木々はあるけど枯れかけてるし、干物を干す紐らしいものはあるけど何も掛かっていない。
「なんか空気も黄みがかってるような気がするし・・・・」
ぴかっ!
突然ヒカルの手が発光し、浄化の力が発動する。
「え、どういう事? 毒判定が出るレベルで空気が汚れてるってこと?」
ヒカルの周囲と離れた所で明らかに空気に違いが出る。だが、それも僅かな間の出来事ですぐに黄みがかった空気の侵蝕を受ける。
「うーん、このままで良いことなんかないだろうし、一つやっておくか・・・・」
ヒカルはマジカルステッキを取り出し、頭上に掲げた。
「大浄化の奇跡!」
ぱあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
光が波紋のように広がり、黄みがかった視界も澄んだ透明なものと変わっていく。
光の波紋は郷全体にまで広がり、郷の全てを洗い清めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ん? 何が起きたんだ?」
「おい、空気が!」
「目が痛くないぞ!」
「干物の色が良くなってる!」
突如起きた奇跡に郷の人々は驚きと喜びの声を上げた。
「なんだろう、あの布は?」
風の島に繋がる大石橋の付近に柱が何本も並び立ち、柱と柱の間に張られた大きな布が帆のように島からの風を受け止めていた。
「おい、あんた。島に行く気か?」
布の前に立つヒカルを見つけて、若い男が話しかけてきた。
「ん? ええ、そのためにこの郷に来たのですから」
「いやいや、悪いことは言わんからそれはやめておけ。
一月くらい前からあの島はおかしくなってるんだ。
今日はなぜか治まってるけど、いつもはあの島から毒の霧が吹いて来るんだ」
「毒の霧ですか?」
「そうだ。それで、この布は毒の霧を受け止めて被害を軽減するために張ってあるんだが、完全に防ぎ切ることはできないから皆マスクを着用しての生活を強いられている」
「なら尚更急いで行かなければいけませんね」
「え、おい! 話を聞いてたのか!」
「大丈夫ですよ。わたしもこの子も毒対策はありますし、それに何より・・・・
その異変を鎮めるためにこの地に来たんですから」
「マスクもなしに大丈夫なのか?」
「今日は毒の霧が治まってるって言いましたよね?」
「ああ、こんな事は異変が起きて以来初めてだ」
「それ、わたしの毒対策の影響ですから」
「そうなのか?」
「ええ、辺り一帯の毒素は消えたはずですよ」
「なんかよく分からんが、毒の心配がないなら良しとしとくか。
あんたのような余所者は知らんかもしれんから忠告しとくけど、島トカゲには手出しするんじゃないぞ」
「島トカゲ?」
「ああ、やっぱり知らんかったか。
島トカゲっていうのは風の島に住む大トカゲで、たまに知らない余所者がちょっかい掛けて面倒を起こすんだ・・・・。
島トカゲは温厚で人懐っこく危害を加えてくることは無く、島の守護獣とも言われてる。
だけど、たまに何も知らん余所者が擦り寄ってきた島トカゲに襲われるって勘違いして危害を際得てしまうんだ・・・・
そうすると群れ全体が怒ってソイツを八つ裂きにするだけじゃ治まらず、しばらく人は島に近づけんくなっちまう。
だから絶対に島トカゲを怒らすんじゃねえぞ。
あと島は火気厳禁だから火種も持ち込むんじゃないぞ」
「火気厳禁?」
「島トカゲは体内でむちゃくちゃ強い酒を作って、それを吐きかけて獲物や敵を酔わせてから戦うって性質がある。あと無駄に作りすぎると吐き出すから島のあちこちに酒の水溜まりができてる。
だから島に火を持ち込むと大変なことになるんだ」
「ご忠告ありがとうございます。それではそろそろ行きますね」
「ああ、気を付けてな」
◇ ◇ ◇ ◇
ヒカル達は橋を渡り、島の手前に来た所で奇妙な光景に遭遇した。
体長一メートルほどの大トカゲ数匹と体高一メートルほどの大ダコが対峙していた。
大トカゲは緑の体に黄色の斑紋があり、口から透明な液体や黄色い液体を吐きかけて大ダコを牽制している。
大ダコは紫の体に黒い縞々のある足を周囲に広げ、それが幅四~五メートルほどの橋の端からはみ出ている。
「とりあえず確認」
広げた手のひらを顔に当てる『厨二病のポーズ』で『
─── ウィンズサラマンダー
─── ちから:9 ─── はやさ:5 ───
─── 火酒噴出 ー 毒液噴出 ー 友好生物 ───
大トカゲが橋の前で聞いた島トカゲの事のようだ。
─── アッシドタンカー?
─── ちから:50 ─── はやさ:3 ───
─── 強酸の血 ー 衝撃吸収 ー 獰猛 ───
大ダコの方は通常の個体とは違う変種のようだ。
状況からすると大ダコが郷の方に行かないように島トカゲが食い止めているように見える。
「うーん、どうしよう・・・・」
島は火気厳禁である以上、有効そうな焼くという手段は使えない。だけど切れば強酸の血が出るから刃物も使えない。
島トカゲと大ダコが橋を塞いでるため素通りもできない。
無理に通り抜けようとすれば多分大ダコが襲ってくる。
ぴかっ!
悩んでいると突然ヒカルの手が発光し、浄化の力が発動する。
島の風が毒とアルコールを風下に立つヒカルたちの元へ運んだようだ。
「あ、拙い!」
浄化の力はヒカルだけでなく、島トカゲが吐き出した毒や火酒にも及ぶ。そうなると足止め効果も無くなり、大ダコが動き出す。
「変身! ウィンドフォーム!」
かっ! ばりぃぃっ!
青空ヒカルは改造人間である。
彼女は聖石の力を開放する事で、閃光と共に太陽の使徒サンブレイバーへと変身するのだ!
「
ひゅごおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
凄まじい突風が大ダコを吹き飛ばさんとばかりに吹き付け、大ダコは飛ばされまいと必死に地面にへばりつく。
そんな大ダコに対し、島トカゲ達が毒や火酒を吐きかける。
ごおぅ!
毒と火酒を浴びて吸着が緩んだ瞬間、凄まじい勢いで吹き飛ばされて視界の外へと消える大ダコ。
「このまま行くしか無いか・・・・」
先の大ダコが何時また現れるか分からない以上、変身を解いて着替えるわけにもいかず、ヒカルはそのまま進むことにした。
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