第17話 化物をたおしました
皆が敵の巨大さに慄きひるむ中、ヒカルは前に踏み出した。
「おい、何をする気だ! 無茶だ! 下がるんだ!」
止める声も聞こえたがヒカルは前に進み、一団と化物の間に立つ。
そして、足を肩幅に開き、脇を締めて左腕を脇腹に当て、右手を天に伸ばす。
「変身! ブレイズフォーム!」
かっ! ばりぃぃっ!
青空ヒカルは改造人間である。
彼女は聖石の力を開放し、衣服を消し飛ばす事で太陽の使徒サンブレイバーへと変身するのだ!
「太陽の使徒サンブレイバー見参!」
赤を主体とした関節以外を完全に覆うプロテクターと関節部を覆う黒い伸縮素材、記号化された炎の意匠を施された靴や手甲、そしてスモークガラスの向こうで目が光るフルフェイスの兜、異形の鎧を纏ったヒカルはマジカルステッキを片手に化物と対峙する。
「一体何が起こったんだ・・・・」
「彼女は何者なんだ?」
「あの姿であの武器とかシュールすぎだろ」
ヒカルの変容に動揺の声が広がる。
だが、それらを放置してヒカルはただ化物の方を見つめている。
─── ブラッドウーズ?
─── ちから:500 ─── はやさ:19 ───
─── 物理攻撃無効 ー 有機物吸収 ー 岩喰らい ───
先程『
物理攻撃無効は見た目通り、有機物吸収というのは聞いた話から人食い血溜まりとしての能力の事だと判断した。だが岩喰らいというのはどういう能力なのか分からなかった。
「分からないものは考えても仕方がないか」
そう割り切るとマジカルステッキを両手で握り込み、下段に構える。
「
ぼうぅっ!
マジカルステッキから一メートルほどの炎の刃が伸びる。
そのまま軽い助走を付けて空高く飛び上がると、頂点で上段の構えに切り替えた。
「
ぶぼわぁぁぁぁぁ!
マジカルステッキから炎が吹き上がって刃渡り数十メートルの炎の刃となり、それを唐竹割りに振り下ろす!
じゅわぁ!
「!!」
ブラッドウーズを両断するはずの炎の刃は硬い
「これが岩喰らいの能力?」
炎の刃を遮ったのは岩で構成された腕だった。
岩で構成された腕はみるみるうちに赤黒い液体に覆われて、斬撃を食らわす前と同じ姿に戻っていく。
「岩を取り込んで、それで形を作ってるということか」
ヒカルは少しだけ考えた後、再び攻撃姿勢に入る。
「
ぼうぁ!
マジカルステッキを振るうと炎の斬撃がブラッドウーズに向かって飛んでいく。
じゅわぁ!
ブラッドウーズはそれを腕で受け止め、表面の血溜まりが蒸発して岩肌が露出する。
「まだまだ!」
受け止められても構わずヒカルは炎の斬撃を飛ばし続け、やがて・・・・
じゅわわわぁ!
岩が赤熱してその付近の血溜まりが蒸発を始める。
ごとっ!
赤熱した岩の腕が切り離されて地面に落ちた。
断面を赤黒い液体が包み込み、不格好で短い腕が再構成される。
「やっぱり押し切ればいけるか」
水神の郷の時と違ってヒカルは力の消耗を心配していなかった。
今は日中で陽の光はあるし、マジカルステッキのおかげで大技を繰り出しても消耗が少ない。だから手数で削り取るような戦術でも全く問題がない。
炎の刃を振り上げてヒカルが追撃を仕掛けようとした時、ブラッドウーズの頭部が振るえ始めた。
「ん?」
ぶぱっ!
頭部の口に当たる辺りから何かが射出され、ヒカルはとっさに飛び退ってそれを躱す。
「斧?」
ヒカルがさっきまで経っていた場所には斧の刃の部分だけが転がっていた。
ぶぱぱぱぱっ! どすどすどすっ!
立て続けに射出攻撃が来て、射出された物が次々と地面に刺さっていく。
射出されたものは剣、槍の穂先、斧の頭と金属のみで木や革の部分がなくなった武器だった。
ぶぱぱぱぱっ! きんきんきん!
「もう慣れたよ」
ヒカルは回避行動をやめ、飛んできた刃をマジカルステッキではたき落とした。
「そろそろ反撃しないとね」
そう言って落ちた剣を拾い上げる。
ヒカルが手にとった剣は加熱され一瞬にして真っ赤に焼ける。
だが、加熱はそこで終わらず刀身は黄色なって発光を始める。
そして黄色が薄くなって白色に輝き始めた辺りで投擲。
ひゅっがっ! じゅわわわわわわわ!
白色の刃はブラッドウーズの左肩に突き刺さり、その周囲の血を蒸発させていく。
ヒカルはさらに追い打ちをかけるように次々と焼けた刃を投げつける。
「もう、ないか」
飛んできた刃物を粗方投げ尽くして武器をマジカルステッキに切り替えたその時、ブラッドウーズが動いた。
ぶぱっ!
赤黒い
「どこを狙っ・・・・みんな逃げて!」
ヒカルの後ろには討伐団一行がいる。赤黒い塊は一行を
「間に合って!」
赤黒い塊を追って駆け、炎を纏って飛び上がり塊に突っ込む。
じゅわわわ! がんっ!
想定外だったのは塊の中に大きな岩があった事と血溜まりを相殺しきれなかった事。
岩はヒカルの体当たりで弾かれてより遠くに落ちたことで被害は防げたが、ヒカル自身も弾かれて地面に叩きつけられた。
「ぐっ!」
痛みをこらえて立ち上がると討伐団側にも被害は出ていた。
「うわぁぁぁぁぁ! 腕が!」
「手が、手が喰われてる!」
相殺しきれなかった血溜まりの飛沫の被害に悲鳴があがる。
即死するような被害は出てないとは言え放置すれば大惨事は確実となる。
ブラッドウーズの方に視線を向けると先程の攻撃を受けて熱せられた場所を削ぎ落とす事に必死ですぐに追撃などが来る様子はない。
「あとで治すから今はこれで我慢して!」
じゅっ!
「ひぎゃぁ!」
「あつっ!」
傷口諸共人食い飛沫を焼き払っていく。
かなりの激痛を伴うが、それでも完全に喰われて人食い血溜まりになるよりはましだろう。
ヒカルが再びブラッドウーズの方に向き直ると、加熱場所の削ぎ落としが終わって表面を血溜まりが覆い始めていた。
かなり削ぎ落としたらしく、最初の頃と比べると目に見えて小さくなっていた。
「あまりのんびりしてられないからこれで終わらせる!」
ヒカルがマジカルステッキを頭上に掲げると炎が天に向かって立ち昇り、それは巨大な火の鳥となって羽ばたいた。
「
ごおおぅわあぁん!
巨大な火の鳥がブラッドウーズの胸を貫く!
胸に巨大な風穴を開けたブラッドウーズは風穴を起点として炎上し、崩れ落ちる。
そこに先程の火の鳥が舞い降りると爆炎となって、人食い血溜まりを一滴も残さず焼き尽くした。
ヒカルは変身を解く暇もないまま治癒に当たっていた。
人食い飛沫の被害は大きく、飛沫の被害を抑えるために付着場所付近を切り落としたり焼いたりとかなり悲惨な状況で一刻でも早い治療が望まれる状況だったからだ。
「治癒の大奇跡!」
ぱあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ヒカルがマジカルステッキを頭上に掲げると光が波紋のように広がった。
「おお、痛みが引いていく!」
「腕が戻った!」
「足がある!」
治癒の力が周囲を包み込み、失った身体の再生に喜びの声があがる。だが、その一方でヒカルは危機に陥っていた。
(まずい! 変身が保てなくなる!)
決着を急ぐためにマジカルステッキ無しでは発動できないような大技で消耗し、そして多数の身体欠損を一度に再生するという大技で陽の光が当たる日中だというのに変身解除までのカウントダウンに入るほど消耗してしまった。
「ユキ!」
「わうっ!」
相方の名前を呼ぶと異次元ポケットから取り出したマントを羽織ってそのままヒカルは脱兎の勢いでその場を離脱した。
◇ ◇ ◇ ◇
「はあ~、この仕様どうにかならないのかな?」
ユキを見張りに立て、物陰に隠れて着替えながらヒカルは呟いた。
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