第14話 討伐隊に参加しました

 ヒカルとユキは盗賊団討伐隊に参加するために商隊と同行することとなった。

 ユキは遅い商隊の馬車のペースに合わせるのがやりづらいらしく、間隔が遠くなったり近くなったりを繰り返しながら商隊の後についていく。

 しばらく群行を続けたが近くに村などもない道中で日が暮れてきたのでそのまま野営することとなった。


「見張りは俺たちがやっとくから嬢ちゃんは馬車の中で休んでてくれ。

 あ、飯はどうするんだ?」

 傭兵の一人がヒカルに声をかけた。

「あ、自前の野営設備があるのでお気遣いなく」

 そう言ってヒカルは馬車から少し離れた所で屈み込む。


 ぽぅわ!


 ヒカルが地面に手を置くと光の輪が広がり、直径2メート程の円になった所で円の中から岩山がせり上がる。

 せり上がった岩山はに洞窟のような入り口があり、入口横では水晶が光を放っている。

「わたしたちはこちらで過ごしますので。

 なにか御用の場合はこの光ってる部分に手を触れてくださいね」

 そう言い残してヒカルたちは洞窟の中へと消えていった。

「どうなってるんだこれ?」

「さあな・・・・まあ取り敢えず朝になったら呼べばいいんじゃないのか」

 洞窟の入り口は岩で閉ざされ中を伺うことは出来ない。


 アーティファクト『太陽神たいようしん岩戸いわど

 ヒカルが異世界に移るにあたって不安事項として挙げた事は医療と衣食住。

 医療への対応としては『治癒と浄化の奇跡』を与えられ、このアーティファクトは『住』に対応するために与えられた。

 光の輪を通じて召喚された入り口はヒカルとヒカルに招待された者しか入ることは出来ず、いかなる力を持ってしても壊すことは出来ない強度を誇る。

 中に入ると扉があり、扉の向こうは居住空間となっている。

 ヒカルは台所に入ると調理を始めた。

 外にいる傭兵たちが質素な携帯食の食事を取っているのに自分たちだけちゃんと調理された温かい食事を取ることに後ろめたさを感じなくもないが、だからといって合わせる道理はないし、おすそ分けをするには相手側が大所帯過ぎる。

 こちらの世界の食材は幸いなことにさほど元の世界との違いはない。

 強いて言うならば野菜が原種に近かったり、肉が狩猟肉ジビエに近いことぐらいだ。

 多少この世界独特の食材はあるが、その辺りも食への対応として『料理の知識と技術』を授かってるので問題なく対応できた。


 『太陽神たいようしん岩戸いわど』の中には浴場や寝室なども備わっている。

 この世界の住民から見ればかなり贅沢だが、現代の日本人であるヒカルからみれば『最低限の生活に必要な物』でしかない。

 創作において異世界転移や転生は多数あるが、現代の日本人が中世ヨーロッパレベルの文明の生活環境に馴染めるのだろうかとヒカルは疑問に思っていた。

 だからヒカルは自分がその立場になった時、現地レベルではなく現代日本レベルの医療対策と衣食住の確保を求め、神様もそれにできるだけ応えようとした結果の一つが『太陽神たいようしん岩戸いわど』である。

 旅路で入浴をしてベッドで寝るという王族以上の贅沢を享受し、ヒカルは眠りについた。


            ◇ ◇ ◇ ◇


「あの娘は何者なんだろうな」

 見張りを割り当てられた傭兵は煌々と光を放つ岩戸を眺めながら呟いた。

 すると岩戸から何かがのそっと顔を出した。

「ん、あれは・・・・」

 ユキが岩戸から外に出てきたのだ。

 白い長毛が月の光を浴びて青白く光り獣の輪郭を浮かび上がらせる。その姿は幻想的で思わず見入ってしまう美しさであった。

 ユキは木の根元に行くとそのまましゃがみこんだ。

「あ、これって・・・・・・・」

 犬といえば片足上げてのイメージが強いが実際にそうするのはオスのみでメスはしゃがみこんでする。


 スッキリした顔で岩戸に戻っていくユキ。

 歩くその姿は幻想的で美しかったが、その前の行為を見ていた傭兵が幻想的な気分に浸ることは無かった。


            ◇ ◇ ◇ ◇


 夜が明けて、一行は駐屯地に向かった。

 特に襲撃などもなく、順調に進み昼前には駐屯地に着くことが出来た。

 商隊と別れ、サーブルク伯直下騎士団と合流してからが慌ただしかった。

「サーブルク伯親衛騎士団は貴官らを歓迎する。

 着いてすぐで申し訳ないが、盗賊団掃討作戦は本日実行に移す。代表は会議に参加してくれたまえ」


「盗賊団はついに領主にまで手をかけた。

 そのために計画は前倒しとなり斥候と集結が完了次第の作戦実行へと変更され、その条件もそろった。

 これより作戦概要の説明に入る」

 騎士団団長がそう宣言すると机の上に地図が広げられた。

「盗賊団は我が軍が昔廃棄した古い砦をアジトとして利用している事が斥候の調査により判明した。

 今作戦の目的は盗賊団の殲滅と囚われた被害者の救助となる。

 主力部隊は前面より攻撃を仕掛けて陽動を行い、その隙に側方より救助部隊が侵入し被害者の救助を行う。救助部隊はその任務の性質により女性部隊となる。

 これより作戦の詳細の説明と編成の詰めを行う」


            ◇ ◇ ◇ ◇


「ふーう、やっと終わった」

 傭兵団団長のカールは会議場から出ると肩をコキコキと鳴らしながら腕を回す。

「女性陣は救出部隊として別行動となるそうだ。

 嬢ちゃん、連れとはしばらく別行動になるけど大丈夫かい?」

「ユキは女の子だけど?」

「あー、そりゃすまんかった。まあ、作戦の性質上同行が無理なのは変わらんけどな。

 嬢ちゃんは救出部隊側で潜入をしてもらい、連れのワンコには陽動側で暴れてほしいんだ」

「んー、ユキは自分の判断で行動できるから大丈夫だと思うけど」

「わうっ!」

「そうかい、じゃ、よろしく頼むよ」

「わうっ!」

 こうして盗賊団掃討作戦は開始された。

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