第2話
友達を誘い合って会おうと約束を交わして解散した日からそう間を空けずアオイからは連絡が入った。状況に応じた判断の早さは最初に会話した際にも見てとれたアオイだったが、行動に移すのも早いようできっとこんな感じで職場での仕事も熟すのだろう。同じく思い立ったら直ぐに行動に移さないと気が済まない僕ではあったが、そんな急ぐのかと思いながら、それならコチラもと職場の同僚に声を掛けた。とは言え、相手がどんなメンツを揃えてくるか見えない以上、派手に期待させる訳にもいかなかったので、その場がどうであれ文句を言わずに楽しむに徹することが出来そうな者を敢えて選んだ。
1人は中途入社の同期の同僚。そしてその彼の所属するプロジェクト内のメンバーの中から1人に声を掛けてもらった。ある意味社内で似たような遊びが出来る仲間を、自分の身の回り以外のところからも輪を広げたいという想いもあった。そして僕の方からも今後の社内の交遊関係の発展を意図して、プロジェクト内の身近にいる若手に声をかけた。同期入社の同僚とはプライベートでも交流があったこともあり、その後の公私を通じた付き合いを見越して声を掛けておいても良さそうなに思えた、上海でネタな弾丸ツアーをやってのけたタクヤだ。
帰国してからというもの「王様ゲームするためだけに上海入りしたオトコ」の異名のもとに周囲から言いたい放題されまくりのタクヤであったが、それを煽りまくった僕としてしてはその償いのような気持ちが少し働いたというのもある。決してそれだけが理由という訳ではないのだが、話題作りにたまには2人で外で遊びに出ようと声をかけると「マジっすかぁ。別に良いですよぉー。何しますぅ~?」と案の定独特の間延びした返事で返した。そう来ると分かっており誘い甲斐があったというのも大きい。職場の他のメンツは誘ったらそれっきりで、そこで知り合った女性と別のグループでの交流に発展させるような良いとこ取りを露骨にやってのける者も少なくなく、ギブアンドテイクが成り立たないのは張り合いがない。僕はアオイとの一件をタクヤに話し、「4人同士の男女で集まって食事もしようということになっているので先ずはそこへ行こう」と誘う。「マジっすかぁ。コンパじゃないですかぁ。良いですねぇ〜」タクヤがいつもの調子で返す。
「社内だけどこのオフィスとは別のツレも呼んでるから、気に入った子がいなくても男同士で仲良くしてればそれなりに楽しめると思う」
「了解で〜すぅ」
こういう場を共にして事後に自分を棚に上げて相手の女性を評価し合って盛り上がるという愚弄を楽しむ趣味の悪いオトコ共が多いのも嫌になる。タクヤに声を掛けた理由として、相手の質についてとやかく言っても来ないだろうという意図があった。併せて、彼が新卒のファーストアサインとしてのプロジェクト着任時に僕が教育担当として席を並べていたこともあり、実の弟よりも歳が離れながら成果をあげるために同じ目標に向かって業務に取り組む中で、個人的に親近感を抱いていた。たまにコナミワイワイワールドのモアイさながら上半身を大きく使って頭突きをするようにPCに向かって寝落ちしそうになるのだが、僕の新卒時に比べれば可愛いもので、周囲の東大早慶上智出身者や帰国子女で語学に堪能なことが当たり前で育ちも良いハイスペックの面々と比較して、幾分も自分寄りな点に勝手に仲間意識を抱いていた。
約束の当日。僕はタクヤとみなとみらいのオフィスを定時を少し過ぎたところで飛び出し、みなとみらい線から乗り入れる東横線で渋谷駅へ向かった。ハチ公前で同期入社の同僚の古田と、彼と同じクライアント先のオフィスで稼働しているという井上もほぼ同じタイミングでそこへ到着して落ち合い、アオイが予約していた店へと移動した。
店に到着すると既にアオイ達一行がそれぞれ隣を1つずつ開けながら四方からテーブルを囲んでいた。相手側がどう感じたかは分からないが、そのような気の利いた小慣れた様子の配慮やコチラに向けられた表情から第一印象は非常に良い。この場から始まる関係がどの様に発展することになろうが、取り敢えず僕はこの場を純粋に楽しめそうだと踏んでホッとしていた。
せっかくなのでと席を順番に移動しながら皆と話す時間を取ったが、最初の印象通り誰の隣に座ってもそれなりに楽しめた。唯一堂々と「自分だけ既婚だ」と言い張りながら、面白い話題を繰り広げられる訳でもないのに誰と会話をするにもマウントを取り、相手をひたすら弄りながら主導権を握ろうとする、医者の女房らしき小太りの女性以外とは僕も連絡先も交換した。耳障りなマウントトークを気にしないようにしながら楽しんでいたが、その小太りが遠くの席から一定の周期でコチラを巻き込みに掛かって来るのを、「お前だけ先に帰れ」だとか、「何で既婚者混じってんだ?ばーか」とついつい返しそうになるのを、アオイの立場を気にして何とか引っ込めた。
近所でいつでも時間を取ろうと思えば会えるアオイが隣で僕とタクヤと喋っている時間が長かったが、出会った初日の印象の通り、アオイの端的にモノゴトを正確に伝えながらオチまでつけて話すもの言いに感心しながらウンウンと頷いていた。タクヤも「オレはオレは」と自分の話ばかりするわけでもなく、学生時にバックパッカーとして世界中を旅した時のものだという写真をアオイに見せながら楽しそうに会話を弾ませていたので、今日のこの場を設けて正解だったと嬉しくなった。アオイが後に予定を入れていたこともあり、一軒目の良い雰囲気に仕上がった場の余韻と共に、僕は東横線へ乗り込み家路についた。
2週間後。仕事がバタバタしていたこともあり、アオイとの連絡もその後は途切れ途切れになっていたが、突然「帰り時間が合いそうであれば駅からお散歩しない?」と急ではあるが無理なく手頃な誘いの打診が入った。帰り際に何の調整も要さず会える関係はご近所ならではで悪くないどころか寧ろ良い。相手が女性であれば尚更だ。軽いタッチで入る予定から少しエッチなコトが出来るかも知れないという淡い期待は実るコトも多いのだ。アオイと駅前で落ち合い、話したいことがありそうだと踏んだ僕は、少し遠回りになるルートにアオイを促すように歩を進めた。
「ちょっと聞いて欲しいんだけどね?」
「おう、どうしたの?何か聞いて欲しいんだろうと思ってた」
「私に聞いたって言わないでね。タクヤくんとしちゃった(笑)」
「はぁ…?」
それを誰に聞いたと言えというのだと突っ込みたい衝動に駆られながらジッと堪える。
アオイに呼びつけられた時から何か話しでもあるのだとは踏んでいはいたものの乗っけから度肝を抜かれた。
「だからタクヤくんとヤっちゃったの」
「ヤったってアンタ婚約者…」
「結婚した後にヤっちゃうより全然マシでしょ?」
「婚約していると言うからその立場を尊重していた僕の立場…」
「どういう意味?」
「いや、何でもない…」
「寧ろ結婚する前に最後遊んどかないとね(笑)」
「なるほど、良いと思うよ。実際オトナの男と女なんてそんなもんでしょ」
「本当にそう思う?」
「思う思う。僕だってあわよくばそういうコトにならないかな位に淡い期待を抱いてあの日も声掛けてるし」
「えぇ!そうなの?(笑)」
「僕は無理に頑張って持って行こうとはしないけど、でもナンパって言えばナンパじゃん?寧ろそれ以外の説明はつかない」
「だって同じ方面って言うから…」
「そういう声の掛け方しただけでナンパだよ(笑)」
「そうなの?(笑)」
「そうだよ。マジで言ってる?まさか『私はナンパにはついて行ったことない』って豪語しているタイプだな?」
「ついて行ったことないよ!(笑)」
「じゃぁ初体験ってことで」
「いや、違うなぁ。たまたま近所の帰り道が同じ方面のヒトが話し掛けて来て…。ってまぁ一緒か!確かに(笑)」
「さすが切り替え早いね」
「そういうところは私男っぽいの」
「じゃぁ僕にもヤらせてくださーい」
「絶対嫌。そんな露骨なの絶対嫌!(笑)」
「アイツ絶対『不倫予備軍』って呼んでやる」
「ってか言っちゃダメって言ったじゃん!(笑)」
「何かしてやられた気分じゃん、知らないよ。僕だけ置いてけぼりだな〜」
「だからってここで『城西くんともヤっちゃいました』ってなったら私超ビッチじゃん!(笑)」
「それこそめちゃ男らしくて良いじゃん。内緒にしとくよ」
「ダメ(笑)」
「せめてちゃんとフォローして慰めてくれないと凄く落ち込んじゃいそうだなぁ…」
「えぇ…。ごめんって!悪気は無かったけど誰かに言いたかったの!」
「じゃぁフェラして」
「イヤ(笑)」
「じゃぁおっぱい吸わせて」
「じゃぁって何処で?ってか吸わせちゃったら思い切りおっぱい見られちゃうじゃん!」
「目閉じてるから大丈夫だよ。それにもう暗いし!」
「外は嫌だなぁ…」
均衡が崩れて来た。言ってみるもんだと更に続ける。
「ってかさ、女のヒトっておっぱい見られるのと揉まれるのってどっちが嫌なの?」
「私は見られるのかなぁ…」
「仕方ない。じゃぁ両手でしっかり揉んであげるよ、こっち来て」
「え…?(笑)」
そういうと僕はアオイの腰に手を回し体を寄せさせ一気にブラのホックを外した。
「ちょっと待って!え?外したの?」
「集中して揉みたいから!」
「外さなくても良いじゃん。私後ろで付けられない…」
「もちろん外した僕が元通りに付けるよ」
アオイのトップスの裾から手を潜り込ませる。後ろから脇を抱えるような格好でアオイの両乳房に外れたブラの代わりをするかの様に下からそっと手を添えた。
「ちょっと触るって生でって言ってない…」
「揉むなら直にでしょう」
「もう…。私お嫁に行くのに…」
「そう、お嫁に行くのにしちゃったんだよね〜」
「意地悪な言い方しないでよ…(笑)」
「まぁ大丈夫だって、内緒にしとくよ」
「別にもうどっちでも良いんだけどね…」
「じゃぁ明日『不倫予備軍』と命名しに声掛けに行っとく」
「ちょっとまだ不倫じゃない…」
「だから予備軍なんじゃん、自分の都合の良いように解釈しない」
そう言いながら僕は暫くの間「手を抜いたら寒くて凍える!」なんて言いながらアオイの形の良さそうな張りのあるCカップを飽きる程両掌dw揉んだ。親指と人差し指の付け根で乳首を甘く挟む度にアオイがカラダを攀じらせる。調子に乗った僕は月夜に晒して青白く照らされた乳首を吸い付いてやろうと試みたのだが、思い切りアタマを叩かれて夢から覚めたようにトボトボと帰路につき、力なく部屋の扉を開いた。
その日のことなど気にした様子も無く、以降もアオイは職場のことなど何か話したいことがある度に僕と帰りの時間を合わせては遠回りしながら話し込むという、不定期な習慣を互いに楽しみにするようにもなっていた。タクヤとアオイを会わせた日の後日談もネタに富んでおり、案の定皆がどスケベで微笑ましかった。古田が連れて来た井上は、帰る方向が同じだというツイストヘアでダンサーのミライを伴った帰り道、露骨に「ホテル行かない?」と打診して案の定断られ、粘るでもなくそのまま踵を返してその場を去ったのだという。その正攻法同然の堂々とした打診と切り替えの早さが余計に「私は一体何なんだ…」ミライを傷付けたようだった。僕からすれば井上のようなパッとしないサラリーマンが都市部ではこのようにのさばっているのかと思うと吐き気を覚えた。一方古田の方は、アオイと医者の嫁の小太りと地元が同じで、実はその日わざわざ地元から遠征して駆けつけていたというユカリと、わざわざその北陸地方に逆遠征してまで会いに行き見事にゴールを決めたのだという。合コンに人妻や遠征組を招集してくるなど御法度だろうという正直な想いと、意外に自分だけ健全に飲み会を楽しんでいたのだと知り、我ながら情けなくもあったがアオイとの近所づき合いの発展でも充分だった。
ある日。職場でタクヤが僕の後ろを通り抜けようとするのに気付き声を掛けた。
「不倫してるんだって?」
「ちょっっw してないですよぉ。何い言ってるんですかぁ〜」
「良かった?」
「まぁ…。普通ですかねぇ…」
「『普通ですかね』じゃねーよ!(笑)」
「ちょっとぉ、痛いじゃないですかぁ(笑)」
思い切り背中を平手で張ってやったらタクヤも満更でも無い様子で返すので「また行こう」と秘密というよりはネタを共有するように添えた。タクヤも定期的にアオイと会ってはカラダを重ねていたようだが、僕の方にも近所なだけあってかアオイからは頻繁に声が掛かり、その度に街灯を避けるように壁際に身を潜めて両乳で悴む指先を温めた。その内機会は訪れるだろうと焦ることもせず、ただただ指先を温めるに徹した。
そして冬の寒さが更に厳しくなった頃、アオイも同棲相手と予定通りめでたくゴールインして晴れて人妻となり、次なる人生のステージへ進んで行った。少し日を置いて久しぶりに連絡を取ったその週末、僕は同棲中の彼女と後楽園ホールでジムのムエタイ選手のタイトルマッチを観に行く予定だったのだが、急遽彼女が職場の要員調整の巻き添えを被り出勤になった。そのため後楽園ホールでの試合観戦は単独の予定に変わったのだがふと思いつき、「もしヒマしてるのであれば一緒に後楽園ホール行かない?余程のことでもない限りそういう所行かないでしょ(笑)」とアオイに声を掛けてみると「行ってみた〜い!」と応じて来たため、意図しなかった形で週末の楽しみが出来た。
「『結婚する前くらい』とか言っておきながら、結婚しても何も変わらないじゃないか」と突っ込みたくなりながら、「夫婦間で折り合いが付いていてアオイが良いのであれば」と敢えて旦那さんの存在は気にしないようにした。大人の男と女はいつでも自分の都合のいい方向に事実を捻じ曲げ、自身の立場がどうであれ相手との関係性が成り立っていればその場の雰囲気でどうにでも転ぶ不安定なモノなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます