第5話 獣人の国、オリジンストーリー
リーナたちが発見した廃墟は今からおよそ200年前に建てられたもので、その当時はここに森はなかった。ここに住居が立ち並んでからおよそ50年後、いまから150年前の第一次資源戦争で獣人の国は大敗した。当時は国として成立したばかりで、他の国と比べると圧倒的に不利であった。獣人の国は、世界各地に散らばって奴隷として虐げられている獣人たちを1つにまとめ上げようとした女性から始まった。
話は大きく脱線するが、今から2年前の戦争。世間では第二次資源戦争とも呼ばれているが、これは同じようにして世界中に散らばっている〝妖精〟達をまとめ上げようとした3人組のエルフが国を立ち上げようとしたことが主な原因である。
獣人の国はこれを全面的に支援すると公言した。しかし、これに反対した国が2つあった。それが〝技術の国〟と〝太陽の国〟である。
技術の国は、その名の通り世界で最も科学技術が進んでいる国だ。獣人や、一部の人間が使う〝
…簡潔にまとめると、技術の国は新たな国家ができることによる更なる資源減少を懸念して、太陽の国は奴隷である獣人だけでなくエルフにさえ自立されると大幅な戦力低下につながるため、妖精の国設立を阻止しようとした…ハズだった。
実際に戦争したのは技術の国と獣人の国。この2つの国家であった。
戦争は、意外にも早く決着がついた。それ自体の原因は〝魔法の国〟が仲立ちに入ったからだが、世論では太陽の国が戦争に参加しなかった。からである。
魔法の国は、今一番警戒すべき国は、妖精の国ではなく、太陽の国だと両国家の王に伝えた。国民の8割が人間で構成されている太陽の国は戦争となると、魔法の扱いに長けた妖精族や、身体能力の高い獣人族には勝てない。技術の国も、国民の大半が人間だが、彼らには科学技術がある。
___そんな国が、なぜ今の今まで獣人やエルフたちを奴隷にできていたのか。
何か隠しているに違いない。そう考えた2つの国は妙な違和感を覚え、すぐさま戦争をやめた。技術の国も、獣人の国と同じように妖精の国を支援する、と。
それから2年。その間に、獣人の国では内戦が勃発した。もともと奴隷にされていた獣人族。それが解放された今、彼らの結束力は非常に高くなっている。
なのになぜ___
そのことで頭を抱えていた王国護衛軍は、ついに原因を知ることになる。
~ ~ ~ ~ ~ ~
「みんな!警戒して!」
ルナの掛け声で二人も気を引き締める。あいつが恐らく情報にあった〝不審者〟だ。一瞬目を離した隙に姿が消えた。
「なんだ…?透明化の魔法?それとも…」
戸惑っている自分の頭とは裏腹に、自分の体はすでに動いていた。リーナは、手先から水を多めに具現化し、直径1㎝ほどの水滴にしてあたりに漂わせた。
「へぇ、こんなこともできるのね…」
「う、うん。とりあえずの思い付きだけど。気休め程度の水の結界さ。」
「そっか!これなら相手が透明でも水滴を見ればいいのね!」
ヤドが目を輝かせてそう言う。全く、こっちは警戒心で緊張してるってのに、随分余裕そうじゃないか。そういえば、入団試験の時も___
その時、ヤドの背後の水滴がはじける。そして、ぐちゃっという気味の悪い音が聞こえたと思ったらヤドの後ろにさっきの男がいた。男はすでにヤドの背中にナイフを突き刺していた。
「あがっ…!」
突然の痛みに、ヤドはよろめく。何かを察したルナは、驚きと恐怖で体が動かない私の腕をつかみ、2人は思いっきり後ろにさがった。
それを見たヤドは、ルナの意志を察する。ニヤリ、と笑ったヤドは思いっきり炎を出す。
「ぐあぁぁぁぁ!」
一体何がはじけているのか。そう思うほどに、彼女の炎は熱く、バチバチと大きな音を立てて燃え盛った。そこで遅れてリーナもルナの考えに気が付く。ヤドはフェニックス。ケガを受けても、自らの炎で再生することができるのだ。
このことは男の想定外だったのか、今度は男がよろめいた。彼がさっきまで持っていたナイフはどろどろに溶けている。みると、男の腕も手首から先が炭素化している。
「あっ、熱い…!」
「リーナ、もう少し下がって。」
ルナにそう言われ、私が下がろうとした瞬間、男の姿が再び消えた。
「逃がさないよ!」
ヤドが炎を先ほどまで男がいた場所に延ばす。しかし、先ほどのようなうめき声が聞こえることはなかった。
「外したか…」
私は自分に活を入れて、ヤドの炎によって融かされた雪の水を操り、自分の周囲に浮遊させる。
「リーナ、さっきの水滴、もう一度出せる?」
「あぁ、いけるよ!」
半分やけになりつつも私は自分の周囲にあった水、それに追加して具現化した水を合わせ、地面と水平に薄く広げていく。すると、ある特定の位置だけがぽっかりと穴をあけたように水が通れない場所がある。そこが男のいる位置なのだろう。
「悪いけど、仕留めるわよ!」
ルナがそういうと、今度はルナの姿が消えた。いや、宿舎で話してた通りの能力なら、これはただ単に高速で移動しただけだ。彼女が先程まで立っていたであろう地面は深くえぐられ、彼女が移動した衝撃波が遅れてやってくる。とんでもないスピードと風だ。気が付くと、彼女はすでに男を仕留めていた。
「…はぁ、これ、殺してよかったのかしら?」
「さぁ…?でも、他人にナイフを突き立ててる時点でこの国では極刑だよ。」
「そうね、たしかに。」
ルナが冷静に言い放つ。獣人の国では他人を意図的に傷つける行動は、それなりの覚悟、つまり逆に自分自身が殺されても文句は言えない。といった
「あはは、ごめんね~。私って鈍感でさぁ~」
ヤドはすでに炎をしまってはいるが、まだほんのりと温かかった。
「まぁ、不死身だものね。仕方ないわ。それにしても、よく私の考えが分かったわね。」
「えへへ、なんとなくわかったような気がして…」
そういって彼女は照れくさそうに頭をかく。そして、こう続けた。
「もしかして、ルナちゃん…いや、私達三人って、どこかで会ったこと、あるかな?」
3人の間に沈黙が訪れる。言われてみれば、出会ってからまだ1日弱しか経っていないのに、すでに何度も死線を潜り抜けた戦友のような気分だった。
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