第4話 最初の試練
私たちの最初の試練は、森の中の不審者の情報を探すこと。ガトツさんに言われた通り、とりあえず宿舎に行ってみることにした。私たちの部屋を確認することと、装備を取りに行くことが目的だ。
監視塔兼宿舎の入り口の前に立つと、その高さが実感できる。遠くから眺めていた時もなんとなく想像していたが、やはり実際に来てみるのとでは違う。
私たちの部屋は3階の部屋だった。どうやら1チームで1部屋らしく、私たちが部屋に入ると、そこには既に3人分の寝床が用意されてあった。
「意外と質素な部屋だね。食堂がにぎやかだったから、もっと派手かと思ったけど。」
私の呟きに2人も同意した。部屋の中には3人分の布団、そして簡素な机と座椅子がいくつか置いてあった。部屋の入り口付近のクローゼットには就寝用の服とスリッパが入っていた。そして、そのクローゼットの向いの棚には剣や盾などの装備が粗雑に立てかけてあった。
「うわぁ…すごい!これが剣…!」
ヤドが興奮気味に剣を手に取る。よく見ると、弓のようなものも入っている。
「ほんとうに色々あるな…ルナは何を持っていく?」
「そうね…武器についてある程度の勉強はしてきたつもりだけど…いざこうして目の前に立つと、どれが自分に合った装備なのかがわかりませんね…あ。」
ルナは何かを見つけたようだ。彼女は長い剣の陰に隠れていたやや短めの武器をとりだした。
「それは?」
「これはショートソードよ。普通の剣より短い分、小回りが利くの。私はスピードを要に戦うから。」
「なるほどなぁ」
自分の戦闘スタイルに合わせた装備、か。私は水を操り、具現化することもできるが、万が一水が効かない相手が出てきたら…その時は武器に頼るしかない。すると、ヤドが声を上げる。どうやら彼女も自分に合った装備を見つけたようだ。
「私はこれにする!」
そういって拾い上げたのはルナのショートソードよりさらに短い剣…というより、ナイフのようなものだった。
「それは投げナイフね。基本的には複数所持して投擲する武器だけど、その携行しやすさから普通の剣のように扱う人も少なくないわ。一応、もう一本持っていったら?」
ルナはヤドが拾い上げたあたりに手を伸ばし、もう一本同じものを拾い上げる。武器が決まっていないのは私だけになってしまった。正直なところ、普通の剣を扱える技量は私にはない。恐らく、それはルナもヤドも同じだろう。だから短い剣を選んだ。しかし、どうにも私には短い剣で戦う姿が想像できなかった。
「リーナ、貴方、これはどう?」
悩んでいる私に、ルナが差し出したのは彼女と同じショートソード…いや、それより少し長かった。
「わ、わたし、剣なんか使ったことないよ…!それに、思うように振り回せるかどうか…!」
そうだ、自分で言ってて思い出した。私は長距離を移動するなど、体力的な面では自信があるのだが、重いものを持つことにはどうも抵抗がある。持てないわけではないが、河童として違和感があるのだ。
「ふーん、じゃあ、リーナちゃんは内戦の時、何で戦ってたの?ギルド志望するくらいだし、何かしら武器は使えるんでしょ?」
と、ヤドが言う。内戦。たしかに、私は逃げたり隠れたりしていたわけではなかった。かといって、他の村に協力するほどうちの村は余裕があったわけじゃない。私は考えた。その時は水をただ勢いよくぶつけていただけに過ぎない。入団試験の時もそうだった。圧倒的な水の質量で押しつぶしただけ。考えろ、私にできることは水を……必要な武器は……!
「あっ!」
突然の閃きに、思わず声を上げる。私は、その棚の中から、一般的なサイズの丸い盾を取り出した。
「へぇ、それを選ぶなんて…」
「あぁ、私には水があるからな!」
「水?」
ヤドが不思議そうに聞いてきた。そうか、彼女は私の試験を見ていたわけじゃなかったのか。私は彼女にそれを説明した。
「そっかぁ、リーナちゃんそういえば河童って言ってたもんね!」
「ああ!…ところで、二人は何の獣人なんだ?」
「確かに、言ってなかったわね。」
「でも、あまり驚かないと思うよ~?」
言いながら、彼女らは照れていた。
「私は〝
「私は〝フェニックス〟だよ~!私の炎は『焼却』と『再生』を司るの!」
「私も私だけど…二人も結構すごいね…」
「そうかしら。私はヤドが一番すごいと思うわ。ねぇ、その再生って、他人の傷も治せたりするの?」
「まぁね!でも、私が『燃やした』傷だけだよ!だから私が関与していない傷は治せないんだ。」
あぁ、試験が終わった後に言っていた事後処理って、そういうことか。恐らく、相手の試験官の傷を治していたんだろう。私とルナはそれに納得し、装備を確認して再び外に出た。
昼前___森の入り口_____
「よし、揃ったな!今回の任務は知っての通り森の散策だ!」
「散策って、そんな気楽なもんだったかなぁ?」
と、ブラックが突っ込みを入れる。ガトツさんは気にしてないようだ。
「よし、じゃあさっそく森に入ってもらうぞ。ブラックのチームはここから左手の方を、ルナたちのチームは右手の方の探索だ。」
こうして、私たちの最初の試練が始まった。森は、針葉樹が多く見受けられるが、中には広葉樹もある。混合林というやつだろうか?…森だけど。
「森の中って、意外と暗いんだね。さっきまでの眩しさが嘘みたい。」
「そうね。それにいくつか倒木もあるみたいだし、足元には気を付けましょ。」
パキパキと、落ちた小枝を踏みながら、私たちはさらに奥へと向かっていく。ある程度進んだところで、先頭を歩いていたルナの歩みが止まる。
「なにかあったか?」
「みて、あれ。何かの遺跡みたい。」
そういって彼女が指を刺した方向をみると、大きな岩が木の陰にあった。しかも、人工的なものだ。そうか、ここの町は戦争後に建て始めた街だから特に歴史はないだろうと思っていたが、この森林地帯にはかつて、生活していた〝人〟がいたのだろう。
余談だが、獣人たちは基本的に私有地でない限り森には入ろうとしない。獣人の国は北の端にある島国なので、冬は草一本生えない銀世界となる。獣人は、体のベースこそ人間だが、動物としての本能もあるので、冬は活動を休止する人が多い。冬眠とまではいかなくても、寒い中動きたくはないのだ。特に、日当たりの悪い森の中では雪が今の時期まで融け残ることなんてざらにある。ひどいときは、初夏まで融けない。こうした理由で、昔から森は、無生物の代名詞と言われてきた。要するに不吉の象徴なのだ。
「こんなところに住むなんて…よっぽどの変人かな?」
「わからないわ…これは、まだ誰も発見してないのかしら?とにかく、もう少し近づいて確認してみましょ。」
近づいてみると、岩の塊だと思っていたのは屋根が崩壊した石造の家であった。
「遺跡というより…これは廃墟ね。」
「すごいな…いったい何年前の物なんだろう。」
かつてはそこにもあったであろう村の中を歩いていると、ルナが再び歩みを止める。そして振り返ってこういった。
「待って!つい最近まで生活した跡がある!辺りを警戒して!!」
「なんだって?!」
私たちは輪になり、互いの背中をくっつけるような陣形を取った。
「生活した跡だって?ここは廃墟じゃないのか?!」
「わからないわ!でも最近まで燃えていたたいまつがある!」
そういってルナは先端が焦げた木の棒を蹴って私の足元に転がす。
「本当だ…!でも、こんな気味悪いところにいったい誰が…!」
その時、私が地面から顔を上げると、目の前には見知らぬ〝人間〟が一人、立っていた。
「あの人…誰…?」
ヤドが小声で私たちに聞いてくる。しかし、聡明なルナも今だけはそれに答えられなかった。
「気を付けて、相手が一人とは限らない…!」
その警告を聞き、私とヤドは周囲を警戒した。ルナも、横目で当たりの木々を警戒していた。その一瞬で、人間の姿が消えた___!
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