第3話 ギルド
ギルド加入の初日、私は西のギルドがある町についた。まだ外は暗く、夜明け前だ。私が住んでるワカ村は獣人の国の東側にあるので朝早く…といっても、ほぼ真夜中に出発しなければならなかった。宿をとっても良かったのだが、西の町は最近できたばかりで、獣人も街中もあまり発展していなかった。そのため、宿屋がそもそもなかったのだ。ギルドにいけば専用の宿舎はあるのだろうが、私たち新人がそこを利用できるのも今日からなので、昨日の段階では結局村からここまで歩いてくるしかなかったのだ。世の中にはテレポートの魔法があるらしいが、アレを使えるものは片手で数えられるほどしかいないのだそうだ。
明け方____
日が昇り、少しづつ明るくなってくる。町中にも、すこしづつ住民の声がこだまし始めた。
「あっ!リーナちゃん!」
呼ばれて振り返ってみると、そこにはヤドの姿があった。昨日は制服で来ていたが、今日は私服の様だ。
「やぁ、おはよう、ヤド。」
「えへへ!おはよ~!今日からよろしくねぇ!…あれ?ルナちゃんは?」
言われて、彼女がまだ来ていないことに気が付く。
「そういえばまだ見てないな…あっ、あれじゃないか?」
リーナが指を刺した方向、それは彼女ら二人が入ってきた方向とは違う方向だった。
「あら、早いわね。」
「あぁ、私はワカ村だから…真逆でさ。早めに来るしかなかったんだ。」
「そうでしたの。私は王都出身ですから…」
「へー!ルナちゃん王都に住んでるのー!?」
あぁ、なるほど。と、リーナは一人で納得していた。その特徴的なお嬢様口調しかり、私達とは違う方向から来たのは、そっちから来た方が王都に近いからだ。
朝、私は眠い目をこすりながらもギルドに二人と一緒に向かった。ギルドの領地に入ると、大きな建物が二つ見える。一つは集会所の様だ。もう一つは大きな塔のような形をしている。監視塔だろうか?
「おう!よくきたな!お前ら!」
真っ先に声をかけてくれたのはハクエンさんだ。何やら木の角材を運んでいるようだ。ハクエンさんには、詳しい説明は全員が揃ったら開始するから、食堂でゆっくりしていけ、と言われた。
私たちは先ほど見かけた大きな集会所のような建物に入る。中は受付と、おおきなボードがある。あれがうわさの〝クエストカウンター〟というやつだろう。その名の通り、近隣住民たちだけでは解決できないような仕事を依頼できるのだ。報酬は難易度や種類によってまちまちだが、なにより町民から絶大な信頼を受けられるので、受けておいて損はないだろう。だが、その手順を教えてもらってない__というか、私たちはまだそれを受注する許可が下りていないので、とりあえずはハクエンさんの言う通り、食堂を目指すことにした。
正面から見て、右手の方に大きな階段があった。隣の看板には、「2階食堂、3階酒場」と書かれていた。
「酒場って、必要なのかな?」
ふと、ヤドが疑問の声を上げる。それに答えたのはルナだった。
「多分、3階の酒場は町民の方々にも提供されてると思いますわ。ギルドの方々はそこに来た町民に情報収集…というより、情報を集めるために町民の方々にも開放しているのかしら。とにかく、基本的なシステムは王都のギルドと変わらないはずだから、きっとなんらかの理由があるのよ。」
食堂に着くと、多くの人でにぎわっていた。今は朝食の時間だからか。いや、よく見るとギルド以外の人もいる。やはりルナの言う通り、町民の人も自由に使えるようだ。
それから、私たちはそこで食事を済ませ、一時間ほど待っただろうか。ギラリとした大きな牙を持った獣人が話しかけてきた。
「お前らが新入りだな?」
「はっ、はい!ワカ村出身のリーナと申します!」
「ルナよ。」
「私はヤド!」
二人も続けて自己紹介をする。大きな牙を持ったこの人は、不器用な笑みを見せて、こういった。
「そうか、よろしくな!俺はサイの獣人、ガトツだ。今回俺は新入りの案内役を任されていてな。とにかく、外に行こうか。男子たちもそろっているぞ。」
「わかりました!」
外に出ると、ブラックたちが手を振って合図をしてきた。
「よし、これで全員だな!俺から説明することは主にクエストの受け方と衣食住の場所だ。女子の方は既に体験してるだろうが、食事は食堂を使ってくれて構わない。ギルドメンバーには無料で提供される。住む場所はあの塔だ。あれは監視塔としても働くが、内側は主にギルドメンバーの宿になっている。装備もそこにある。必要なら持っていけ。…ふむ。」
「…?どうかしたんですか?」
ガトツさんが言葉に詰まったのを、ブラックが不思議そうに尋ねる。
「いや、大したことじゃないんだがな。うちのギルドは一旦チームを決めたらほとんどメンバーが変えることはない。だからチーム名とか決めるんだ。お前らだって、いつまでも男子たち、とか女子たち、で区別されたくないだろ?困ってる人たちを助けるのに性別なんか関係ないからな。」
「チーム名、ですか。」
それにいち早く反応したのは…ブロンズ、だったか?いや、オレンジか。リスの獣人で、ブラックの仲間だ。
「あ、いや、べつに今決めろってわけじゃねぇがな。まぁそのうち必要になってくるだろうから考えておいてくれや。」
そういって大きくひと笑いした後、ガトツさんは「よし、クエストをさっそく受けてみよう、ついてこい!」と再び集会所に向かった。
「クエストはそこの掲示板に貼ってある紙を受付に持っていくだけだ。難易度は紙の右上に押されてる印の色で判別する。青系の色は簡単な依頼、逆に赤系統の色は難易度が高い。黒は例外だ。こちらは難易度の識別が難しいという意味だ。まずはこれでもやってみるか?」
そういって掲示板からはがし、私達に差し出してきた紙に押されてる印は、橙色だった。
「えぇ、いきなりオレンジぃ?」
ヤドが明らかに嫌そうな顔をする。それにガトツさんは大きく笑い、「はっはっは!特待で受かったお前らにはオレンジくらいがちょうどいいんだよ!本当に難易度が高い仕事は王国護衛軍がやるからな!」といった。
「ブラック達はこれがちょうどいいだろう。」
そういってブラックに渡した紙のも、また橙色であった。
「あの、俺たちは特待じゃないんですけど…」
「まぁまぁ!とりあえず受けてみろ!習うより慣れろ!だ!」
そういわれて私は紙を受け取り、依頼内容を見た。そこには『近隣の森に不審者が発見されたとの情報があった。至急捜索、確認してほしい。』と書かれていた。
「まぁ、受けるだけ受けてみましょうよ。どうやら不審者の確保とは書かれてないみたいだし。」
と、ルナが私の背中を後押しする。その発言を聞いて、同じく紙をしぶしぶ受け取ったブラック達が目を丸くしてこちらを見ていた。
「え?不審者?もしかして…」
そういって彼が見せてきた紙には、私たちと同じ依頼内容が書かれていた。
「あの、これってどういう…」
私たちはこの状況の説明を求めるべく、ガトツさんの顔を見る。彼曰く、依頼は町民が各々書き連ね、掲示板に貼ったものだから、同じ依頼が貼られることもあるのだという。
「つまり、このクエストは…」
私の言葉を補うようにしてブラックが続ける
「2チーム合同で、か。」
私たちは一抹の不安を抱えながらも、その紙をカウンターに置くのだった。
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