第2話 入団試験

 試験開始10分前…


「あの三人の中だと、誰が受かると思う?」


 男子達の何人かは、自らの試験が行われるまで暇していた。そのため、あの女子三人のだれが受かるかを賭けていた。


「うーん、俺はあの黄色いウサギかな。」


「えぇ~!それはねーぜ!だって一番弱そうだろ!兎なんてさ!」


 そういって立ち上がったのはチーターの獣人であった。


「いや、一番弱そうなのはあの茶髪の子だろ。ってか、あいつなんの獣人なんだ?身体的な特徴が何もないじゃないか。」


「となると、あの緑の髪の子かぁ。でもそんなに強そうには見えないんだよな。」


 と、口々に彼女らを甘く見ていた。彼女らを担当した試験官も、彼らほどではないが、少し油断していた。男子の受験者の中には、そもそも賭けなんかしている場合ではない、と判断して控室で最終調整してるものも数名いた。だから、男子の多くはリーナの戦いだけを見ていた。



 それから現在に至り___



「ふぅ、とりあえずこれで勝ちかな。」


 そういってリーナは〝水で〟溺れた女騎士、センラの腕からスカーフを取る。


「あのー、スカーフ取りましたーー!」


そういって観客席の、主にギルドメンバーがいる方に向けて大きく声を上げる。


「あの子、強いだけでなく今回の試験内容も把握していたというのか…」


ギルドの一人がそうつぶやいて、立ち上がる。


「よろしい!君は先に控室に戻って構わない!彼女のことは我々に任せたまえ!」


「わかりました!」



 一方、驚いていたのはギルドのメンバーだけではなかった。


「な、なんだあいつ…どこからこんな大量の水を…!」


「ほら!だから言ったろ!?今回受かるのはあの緑髪の子だよ!」


「うーん、俺もあの子に賭けるべきだったかなぁ…」




第二闘技場___


「…なるほど、有言実行か。」


 ハクエンは戦いが始まった、と思ったら既にスカーフを取られていた。その後、強烈な風が闘技場の中を駆け巡った。ルナが先ほどまで立っていた地面が焦げている。


「悪いわね。戦いにすらならなくて。」


「…はっ、舐めた奴だ。いいだろう、お前は先に控室で待機してろ。結果は全日程が終了してから報告する。」


「わかったわ。対戦ありがとうございました。」


 そういってルナはスカーフをハクエンに返し、さっそうと立ち去る。


(対戦ありがとうございました、か。全く、こっちはあっけにとられただけで戦いと呼べるほど向き合ってねーんだがな…)




第三闘技場___


「おっ、おい!だれか!救護班を呼べ!」


 第三闘技場では、観客こそギルドの者しかいないものの、大きな騒ぎになっていた。


「あれ、スカーフを燃やして外させる作戦のつもりだったけど、火力が強すぎたかな?」


「ぐっ…はぁ…はぁ……!」


 見ると、ササネの腕が灼けてしまっている。というより、圧倒的な熱で右腕の体毛とスカーフが炭化してしまっている。


「そこまでだ!スカーフが取れた!!戦闘をやめろ!受験者は速やかに控室に戻るように!」


 観戦していたギルドの人たちが顔を真っ青にして指示を入れる。

しかし、ヤドは再び炎の翼をササネに近づける。


「ッ…!」


 彼女は再度自身が燃やされることを覚悟したが、今度はそのようなことはなかった。温かいぬくもりが彼女の右腕を覆い、気が付くと、先ほどまでボロボロだった右腕が完治している。そしてヤドの顔を見ると、彼女は笑ってこう言った。


「あなた、私がなんの獣人か知りたい?」


 ササネはそれに答えなかった。というより、不可解なことの連続で、効く気力もなかった。が、ヤドはそれにかまわずに続ける。


「私は火ノ鳥フェニックスのヤド!私の炎は『焼却』と『再生』を司る炎よ。それじゃあ、私は控室に戻るね!」





控室にて___


 リーナが戻ってきたとき、二人はすでに休憩をとっていた。


「あなたの戦い、見ていたわよ。水を操れるのね。」


「あぁ!私は〝河童〟の獣人だからな!水を具現化することも、その場にある水も自由自在に操れるぜ!」


「流石は水神とよばれるだけあるわね。」


「えー、わたしも見たかったなぁ。」


「そういえばヤドもスカーフをとれたのよね?」


「うん!でも、に時間取っちゃって…」


 私とルナは顔を見合わせる。いったい何のことだろうか?


「あっ、それよりも男子の戦闘見に行かない?」


 とヤドが提案する。


「あぁ、それはいいわね。」


「私もそれに賛成!でも、どこの闘技場のを見に行く?」


「そうだなぁ、ここの闘技場でいいんじゃない?近いし。」


 こうして私たちは第一闘技場の戦闘を観戦することにした。








二週間後___


「それでは、合格者を発表する!」


 筆記試験の日程が過ぎた後、私たちは再び闘技場に集められた。ハクエンさんが、大きな木のボードを持ってきた。そこには六名の名前が書かれていた。


ヤド


ルナ


リーナ


ブラック


オレンジ


ブロンズ


「このうち、上から三人は特待生として通達が言ってるはずだ。以上!解散!」


 ここで、自分が合格できずにぐちぐち言いながら抗議したものは、リーナが試験を受けていた時、賭けをして遊んでいた連中だった。だが、ここに名前が書かれていた、ブラック、オレンジ、ブロンズの三人は、控室で自身のコンディションを確認していた。試験は遊びではない。試験官の観測者オブザーバーと呼ばれる獣人が、すべての行動を監視していたのだ。他人の真面目な戦いを賭けにして遊んでる時点でギルドに入る見込み無し、とハクエンさんが怒鳴って、脱落者を一蹴した。


「さて、君たちには、人手が足りていない西のギルドに所属してもらうつもりだが、異論はあるか?」



「「「ありません!」」」


「そうか。」と言ってハクエンさんはニッと笑う。


「西のギルドは俺が担当しているギルドでもある!君たちには明日からさっそく任務についてもらうから、体調管理はしっかりとしておけ!」


 そういって開会式の時と同じように木のボードと台を持っていこうとして、ハクエンさんの動きが止まる。


「あぁ、そうだ、言い忘れていることがあった。」


「ギルドでは常に2人以上5人以下のペアを組んで行動するよう国からの指示がある。お前らは…まぁ、そこは大丈夫だろうが、一応伝えておくぞ。」


「じゃあ、明日また会おう。」といってハクエンさんは立ち去った。ハクエンさんの姿が見えなくなってから、黒い鳥のような獣人が話しかけてきた。




「えっと、初めまして。俺の名前はブラック。カラスの獣人だ。よろしくな。」


「ん?あぁ!よろしくな!…あ、もしかして、ペアのことか?」


「あぁ、俺とブロンズ、そしてオレンジは同じ村出身なんでな。俺たちは俺たちで組ませてもらうが、大丈夫か?」


 ブラックは他の二人にも同意を求めるよう視線を流した。


「えぇ、私は問題ないわよ。」


「私ももんだいなーし!」


と、二人が答える。


「じゃあ私たちは三人で組むことになるな!改めてよろしく!ルナ!ヤド!」


「えぇ、よろしくね。」


「よろしくよろしく~!」


 こうして私達6人の新たな人生が、幕を開けるのだった…!


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