獣人の国 編
第1話 始まり
家から、王都まで約5㎞。獣人である私は大して疲れるような距離ではないが、今日だけは違った。
この国、獣人の国は、その名の通りケモノとヒトの長所を併せ持った『獣人』達が暮らす国である。獣人は他の種族よりも比較的身体能力が高く、おまけに
そこで、私たちの国は対策を取った。それが〝ギルド〟を設置することである。ギルドでは、海外に赴いて貿易交渉をしたり、国内の事件を解決したり__まぁ、一言でいえば国の雑用をやらされるわけだが___
戦争が終わって半年後、国が内戦によって崩壊しかけた。それを抑えたのがギルドであった。私はその仕事にあこがれた。国の人々を護れる仕事に就きたい、というのが昔からの夢だったからだ。今日はギルド入団試験の日。だから王都に向かっているのだが…
(っはぁぁ~、緊張するなぁ。私の苦手な面接とかなきゃいいけど…)
この通り、ガチガチに緊張してしまっている。普通の就職試験ならやることは大体同じなのだが、ことギルドでその常識は通用しない。
まず、毎年5月に行われるこの試験は、その年によって試験内容が大きく変わる。去年は筆記と実技の二試験。一昨年は面接と実技。どちらも実技が行われているが、今年で三回目の入団試験は面接がないことを願っていた。今のコンディションで面接なんか行ったら、まず受かることは不可能だろう。
(はぁ、頼むから面接だけは__ん?)
ふと顔を上げると、そこには王都の門が立ち構えていた。いつの間にかたどり着いていたようだ。
「そこの者、何用でここに来た?」
全身を鎧で武装した門番に話しかけられる。
「ギ、ギルドの入団試験に…きました!ワカ村出身のリーナと言います!」
「…はは、そうか、ついにリーナもそんな年か。」
そういって目の前の門番は頭のヘルムを取る。すると、リーナには見慣れた顔が姿を現す。
「あっ!サリュウさん!お久しぶりですね!」
「あぁ、お前も元気そうで何よりだ。」
目の前の男はサリュウという名のトカゲの獣人だ。トカゲの獣人は、自身の皮膚を硬化させることができる。だから、彼は普段鎧を身にまとわない。リーナが声で判別できなかったのも、そのヘルムで声が低く聞こえたからだろう。
「それにしても、その鎧重くないですか?」
「これか?確かに重いな!だが、今日はお前の言う通り入団試験の日だろ?うちのリーダーが門前で見た目だけでも威圧してやれってさ!」
「あはは、確かにサリュウさんは誰かを威圧するような柄じゃないですもんね。」
「なにおう?これでも一介の王国騎士だぞ!」
そういって彼は胸を張るが、リーナには逆にかわいく見えてしまって笑いそうになる。
「それじゃあ、私は行ってきますね!」
「おう!頑張ってきな!」
__王都、闘技場前。
今回の入団試験の集合場所は闘技場の中だ。実技をやることはほぼ確定したようなものだ。だが、もう一つの試験は筆記で来るのか?それとも面接で来るのか…
あたりを見渡すと、30人くらい集まっている。みんな大体私と同い年くらいに見える。すると、闘技場中央に設置された台の上にガタイの良い男が立った。おそらくあの獣人が今回の試験官だろう。
「よし、お前らが今年のチャレンジャーだな!入団試験の内容を伝えるから、よく聞くように!!」
・・・
・・・
・・・
話によると、ギルドの入団試験は二つあるらしい。筆記試験と、実技試験。面接がなかったのは幸いだ。人命救助を主な目的としたギルドは当然のことながら、知識と能力がなければ入ることはできない。筆記試験は来週行われるようだが、問題は実技試験…名前だけではあまり想像がつかない。
先ほど、知識と能力といったが、この世界の“能力”は大きく分けて三つある。体内や自然界にあるマナを消費して使用する【
「今年の実技試験はうちのメンバーとの戦闘だ!誰が誰と戦うかはくじで決めるぞ!」
「それと、戦いぶりや能力が優秀だと判断したものには特待生として筆記試験を免れる資格をやろう!せいぜい頑張るこったな!」
「最初は女子の試験を先にやる!その時、男は観客席で見てるか、控室で準備をしておけ!」
「説明は以上だ!男は北側の控室、女子は南側の控室で指示があるまで待て!以上!解散!」
そういって、あの大男は自分がさっきまで乗っていた台を軽々と持ち上げ、それごと立ち去った。
南側の控室、女子はこっちに入るようにと言われたので来てみたが、どうやら今年は私含めて三人しかいないらしい。合格するかどうかはまだわからないが、将来仲間になる可能性がある二人だ。私は積極的に会話を取ろうとした。
「や、やぁ。私はワカ村出身のリーナっていうんだ。よろしくね。」
すると、クリーム色の、うさ耳が生えた人がにっこりと笑って返事をしてくれた。
「あら、初めまして。私はルナよ。よろしくね。」
だが、もう一人の茶髪の子はうずくまっている。人間のようにも見えるその子にルナもそれに気が付いたのか、声をかけた。
「どうしたの?具合でも悪いの?」
「そ、それが…」
ようやく反応したかと思えば、こわばった表情でこう言った。
「き、緊張しちゃって…だって、男子の方が数多いし…女子の中で私だけが受かったらどうしようって…」
こいつ、ビビってる割には言うじゃねーか、と私はルナと顔を見合わせる。
「はぁ、だったら無用な心配ですわよ。私が誰かに負けることなんて絶対にありませんわ。」
「はは、ルナに同意見だな。三人であの男どもを驚かせてやろうぜ!」
「ほ、ほんとう…?な、なら、わたしもがんばる…!私の名前はヤド!一緒に受かろうね!」
そういってヤドは背中から炎の羽を出す。
(この子…口だけじゃないな…もしかしたら…私と同じ幻獣種か…)
ギルドメンバーとの戦闘。私の相手は女騎士だ。恐らく猫の獣人なんだろうが、重そうな鎧で体が隠れているため、正確な判断はできない。
「初めまして!私はワカ村出身のリーナです!よろしくお願いします!」
「私の名前はセンラ!よろしくね!」
今回の合格条件は発表されていない。戦闘形式で勝負するとはいえ、向こうはプロで、こっちは昨日まで一般人だった。一応の勝利条件は腕に巻かれているスカーフを取るか外させたら勝ち、というものだったが、取ったからと言って合格するとは限らない。とのことだった。
観客席には、10人程度の試験者と思われる男子が、その反対側にはギルドメンバーと思われる人たちが20人くらい座っていた。なるほど、もしかしたら戦い方や能力を見て、採点していくのかもしれない。
なら、全力を出すべきだろう。ほかの二人もきっとそうするはずだ。
ところ変わって第二闘技場、ここではルナが試験を受けるようだ。相手は先ほど私たちに説明をしていた大柄の騎士だ。
「よし、来たな。俺はオオカミの獣人、ハクエンだ。女だからって手は抜かないぞ。」
「えぇ、そうしてくださるとありがたいですわ。」
そこでルナはフッと笑い、スカートの裾をつまんでハクエンにこう告げる。
「ご機嫌麗しゅう、ハクエンさん。私の名前はルナ。ものの数秒で決着をつけるので、覚悟してくださいね。」
「ほう…」
第三闘技場では、ヤドが試験を受けていた。相手は軽装で、うさ耳のある女性だった。
「初めまして。私の名前はササネ。兎の獣人よ。よろしくね。」
「はい!初めまして!私はヤド!全力で勝ちに行きますよ!」
「見たところ、あなたは普通の人間にも見えるけど…なんの獣人なの?」
「あはは!敵に情報を渡すほど私は〝ぬるく〟ないですよ!」
そういって、背中と頭部に炎の翼が生える。それは、バチバチと大きな音を立てて燃え盛っていた。
「…なるほど、言ってくれるじゃない!」
三人の戦いが、今、始まろうとしていた。
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