ギネヴィアの裏事情


「うちのチームのリーダーはね、男のくせして可愛いのよ。異能はイマイチだけどね」

「リーダーとしての素質があればいいんじゃない?うちの上司はそこんとこいまいちだし」


とある休日。

街の賑やかな喧騒が響き続ける昼下がり。

ギネヴィアは久し振りに会った友人達と、昼食と会話を嗜んでいた。


「ギネヴィアはどう?」

「え?」

「新しいリーデルよ」

「あ、それ気になる!まだ高校生なんでしょ?」

「そうね……」


食い入るようにこちらを見る視線。

半年ほど経った今でも、どうやら他チームでは今なお話題の種らしい。

友人経由から伝わる話では、解散寸前のオルディネを立ち直した御三家の姫君と注目の的なのだとか。

しかしチームの一員である自分からしてみれば、どこにでもいるような子供だ。

よく寝坊して慌ただしく掛ける音や、チーム内で実質、彼女に次ぐ立場にいる陰険男と言い合う喧騒など慣れたほど聞いている。

だが時折見せる凛とした美しさに、目が離せなくなるのも事実だ。


「まだ子供よ。最高のリーデルだけどね」

「どんな子かめっちゃ気になる。公式戦とかに姿を見せないし、蓮くんの妹ってことは可愛いだろうし」

「誰それ」

「えっギネヴィア知らないの!?」


マリナが慌ただしくスマホの画面見せる。

そこに写っていたのは、どこか浮世離れした雰囲気を漂わせる美しい青年の姿があった。


「今異能者の中で超絶話題の桜空蓮くん!」

「イケメンね……桜空?」


――ああ、あかねちゃんのお兄さんね。

ギネヴィアは一人納得する。

よく見てみれば、笑い方や目元が似てる気がする。


「超イケメンモデルだよ!リーデルちゃんと似てる!?」

「んー目元?少し似てるかも」

「ええー!やっぱ気になる!!」

「そういえばリサのとこにも桜空家の人いなかった?」

「他部署にいる。有能だが素行が悪くて、此奴とは似てない」

「それってちょいワル系なイケメンってこと?いややっぱ蓮くん格好良すぎる!!純血の君なのにこういう活動してるとかレア過ぎじゃない!?」

「うちの局には何人か居るけど」

「リサがいる調停局は超超エリート集団だから当たり前ですぅ!下々のあたし達には見ることも叶わぬ天上の方なのよ」

「はいはい」

「天上ねぇ…」


オルディネは奇妙なことに純血の君と呼ばれる者が3人もいる。

一人は既に話題に上がっているリーデル。

もう一人は諸事情で公にする事が出来ない柳一族の男。

そして――。


「ギネヴィアのところにもいるよね。リーデルじゃない純血の君」

「ええ。菊地家の三男坊ね」


外見が年齢に一致しない子供のような振る舞いが目立つ、されど他人の機微に敏感で誰よりも家族想いの心優しい青年。


「菊地家かぁ。三番目の坊ちゃん以外は堅物のイメージしかないなぁ」

「三男は違うの?」

「はっきり言うなら子供?あれで成人男性とか」

「純血は大抵が年より若いって聞くけど」

「でもあれは詐欺。初めて見た時中学生かと思ったもん。ギネヴィアだってそうでしょ」

「最初はねぇ」


見た目はともかく実際はそうでもない。

だがマリナの言葉を完全否定は出来ない。

本人がその気になれば、恐らく学生と偽る事など容易なはずだ。


「はぁ…いいなぁ純血の君。間違いでいいから彼氏にならないかな」

「無理無理。純血には純血って相場が決まってる。他を当たるべき」

「知ってますぅ。でももしそうならリーデルちゃんや坊ちゃんにもお相手がいるんだよねぇ」

「………」


異能者の始祖と言われる古代種の直系でもある純血の異能者は、その血を後世に繋げていくことも使命の一つとしてある為、原則的には純血同士で結ばれる。


――あかねちゃんは婚約者とかいないって言ってたけど、陸人はどうなのかしら。


出会ってからしばらく経つが、そう言った話しを聞いたことは一度もない。

だが年齢的にいても不思議ではなく、むしろ婚約していてもおかしくない。


――陸人にそんな相手がいたって関係ない。関係ないわよね。というか仕方ない。でもいなければ落ち着くというか、それはそれで嬉し……って何考えてるのよアタシは。


ギネヴィアは鎮めるように、注文したアイスティーを口にする。


「はぁぁあ純血の君は無理でも恋愛したいぃぃい」

「恋愛ね……はぁ」


リサがそう呟いて溜め息を零す。


「どうしたの?リサらしくないわね」

「大したことじゃないけど、うちの部署で仮上司に猛烈アタックしてる後輩がいて辟易してる。そのせいでうちの部全体的に緩くなってるし。つーかどっちも未成年なのに発情期かっての」

「え?アンタのとこ未成年ありだっけ?ってか仮上司って」

「異能者枠はまぁアリ。一般枠は特例。色々あって超有望物件と判断されてね。仮上司は大学卒業した後に正式に就任するんだって。5年後くらいの話だけど」

「5年って……大丈夫なの?途中で逃げたりしない?」

「それはないと思う。授業が終わったら毎日来てるし」

「凄いわね」

「普段は人形かってくらい大人しい子だけど、私達が驚くほど頑固で逞しいのよ。ふとした瞬間に一人で突き進んじゃうから、目が離せなくて大変」


リサはそう愚痴るが、どこか楽しそうでもあった。

仮上司がどんな人物かは分からないが、少なくとも彼女に良い影響与えてるのは間違いないと、ギネヴィアは笑みを浮かべる。


「面白そうな子ね。次の時、どんな子が教えてよ」

「おっけー。今度写真を撮ってくる」

「じゃああたしも」


唐突に会話に入ってきたマリナから突き出されたのは白紙の色紙だった。


「なによこれ」

「蓮くんのサイン貰ってきて!お願い!」

「は?」


友人の突拍子も無い発言に、思わず低い声が出る。


「リーデルちゃん経由ならワンチャンかなって!」

「現金過ぎよアンタ」

「左に同じく」

「テヘペロ」


あまり懲りていない様子のマリナに、ギネヴィアは色紙と彼女を交互に見てため息をついて、呆れながら自身の鞄にしまった。




――――――――――――

――――――――

――――……




その後も友人達との会話に花が咲き、それぞれ行きたい店を回りながら楽しみ、陽が沈んでから数時間後には別れていた。

無数の人が行き交う街を歩きながら、人気のない路地へと足を運び、異能を発動しようとした最中。


「誰…!」


不意に気配を感じて、ギネヴィアは光の届かない路地の奥へ鋭い視線を向ける。


「……この手の気配には手馴れているか」

「!」


暗闇から現れたその正体に、ギネヴィアは僅かに目を見張る。


「わざわざ出向かなくても、用があればこちらから出向いたけど?海人サマ」


わざとらしく敬称を付けるが、当の本人は素知らぬフリで、顔色ひとつ変えない。


「所用があって近くまで赴いただけのこと」


淡々と告げ、海人と呼ばれた男は顔を背ける。顔立ちや声、雰囲気は大分違うものの、横顔はとてもよく似ていて、少しだけ心がざわつく。


「陸人ならいつもと変わりないわよ」

「そうか。息災のようで何よりだ」


男は小さく笑みを浮かべる。

弟想いの兄の面を見せるそれは、彼の弟をまた思い起こさせる。


「今日は陸人の事で来たわけじゃない」

「じゃあ何?」

「お前にとってのオルディネとは何か。改めて聞いておきたい」


抑揚の無い声で紡がれた問い。

途端に息が詰まりそうになる。


「………前も答えたはずわ。些細な事。どうでもいいわ」

「どうでもいい、か。では離れられないのは何故だ」

「何故って、それは――」

「寄る辺はこちらにもある。忘れた訳ではないだろう」


逃げ道を塞がれる。

また息苦しさを感じる。


「ジョエルやアーネストはとうに気付いているだろう。お前がアヴィドから差し向けられた刺客であることを」


一瞬息が止まったような感覚を覚える。

それが錯覚だと理解していても、忘れた頃に現実を突きつけてくる目の前の男がいる以上は拭う事は出来ない。


「ボス直々の命令でオルディネに所属して三年ほど月日は流れたが、未だ成し遂げられない密命」

「暗殺なんて馬鹿げてるのよ。アタシがアイツに勝てるとでも?」

「確かに、お前如きではジョエルには勝てないだろう。しかし幸か不幸か、ボスの目はジョエルからリーデルに移り掛けている」

「!…そんなこと聞いてないわ」

「あの柳一族の男を匿うどころか、自分の手駒にしたというその手腕は、警戒対象にあたるとボスは判断したようだ」


淡々と告げられる言葉に、あくまで冷静さを欠かないようにギネヴィアは反論する。


「彼は手駒じゃないわ。こちらに来たのはジョエルたちの思惑よ」

「そうだろうな。しかしどのような思惑があって、関わりのないジョエルやアーネストが動いた。リーデルがいたからではないのか。彼女が柳を側に置くことを望んだからこそ、彼らもそう仕向けるよう仕組んだのではないのか」


この男は鋭い。

泰牙をオルディネに引き入れたのは、リーデルをはじめとした様々な思惑があったのは事実だ。

だがその起点となったのがリーデルだと言われてしまえば、反論が出来なくなる。

何故なら彼女がオルディネの頂点になるために集められた人材の一人なのだから。そういう観点から見れば、間違いなくリーデルが起点なのだ。


「ボスはリーデルをどうするつもりなの?」

「さぁな。まだ決断はされてない。純血の君に手を掛けようと考えるだけでも罪深いものだ。特にアヴィドは前科がある」


アヴィドはかつて起きた惨劇にて、純血の柳一族を事実上の根絶に追いやった過去を持つ。


「桜空家にまで手を出したら、今度こそ終わりだわ」

「当然だ。そのような愚行、橘どころか我等一族とて黙ってない。純血の矜持において根絶やしにする。チーム諸共だ」


紡がれた言葉は残酷なものに聞こえたはずだが、男は恐ろしく静かだ。


「尤も。動機が欲しい俺としては、大変好都合でもあるが……果たしてどうなることやら」


まるでこちらを相手にしていないかのような言動だが、この男の発言には様々な意図が込められているのが理解出来る。

たとえ知り得る事はなくても。


「だがあの桜姫は、恐ろしい怪物を手懐けている。我等が動かずとも、それが動くだろうし。やはり様子見に徹するべきか。ふむ」

「怪物?何を言ってるの。リーデルに何かあるの?」

「それはお前の知り及ぶところではない。だが落胆する必要もない。彼女自身も、あのジョエルでさえも知り得ないことだ。何もなければ、そこに在ることさえも分からぬ遺物など」


男はやはり自分の事など気にも留めてない。

弟とは違って何とも勝手な男だと思う。


「まぁいい。俺は来たるべき時を静かに待つのみ」


海人はギネヴィアの前に、手に持っていた紙袋を突き出す。


「何?」

「陸人が贔屓にしてる店の菓子だ。オルディネの皆と食べるといい」

「いつも思うけど、本当に弟が大好きなのね」

「……余計なお世話だ」


踵を翻し、再び暗闇へと戻っていく。

すると一度だけ、こちらを振り向いて。


「いずれ時は来る。本来あるべき姿を思い起こし、どちら側に与するべきなのか。していたいのか。常に見定めて行動しろ」




――――――――――――

――――――――

――――……




「ただいま」

「おう。遅かったじゃねーか」


人によっては寝静まっているであろう、日にちが変わる頃に、ギネヴィアは黎明館へ帰り着く。

誰もいないだろうと思っていたが、意外なことに出迎えてくれたのは金髪碧眼の少女だった。

1ヶ月ほど前にリーデルの守人と名乗り、唐突にやってきては、そのままオルディネに所属することになり、現在に至る。

仕草も口調も男勝りで、粗暴な印象を受けるが、ジョエル相手に傷を負わせることも出来るほどの強者でもあり、純粋な戦力が乏しいオルディネにとっては主力になりつつある。

よく見れば美少女の部類だろう。個人的にはそう思う。


「久々に友達と遊んでたのよ。今日オフだから」

「ああ、そういや菊地のサードがんなこと言ってたな」

「クリスタこそ起きてて平気なの?」

「おう。ジョエルの野郎のお陰で、仕事も今しがた終わったばっかだからな。それより楽しかったか?」

「そうね……」


クリスタは首を傾げる。


「…あんま楽しそうじゃねーな。なんかあったか?」

「まぁ、色々ね」


海人とのやりとりを思い出し、ギネヴィアは濁すように答える。


「ふーん?ま、いいけど。きな臭いことすんなよ。匂うから」


その言葉に心臓が跳ねるような感覚が走る。

リーデルと同じく、クリスタも時折こうした鋭さを持つ。

真っ直ぐこちらを見つている、ややつり目の翡翠色の瞳は、彼女が主人と決めているリーデルのそれを思い起こす。

彼女もまた気付いているのだろうか。


「クリスタ!」

「げっ!」


響く声に顔を上げれば、幼い顔立ちの少年がこちらに向かって来る。

不機嫌そうな顔をしていたが、こちらに気付いた途端に笑みを浮かべた。


「ギネヴィアさん。おかえりなさい」

「ただいま。結祈は元気そうね」

「元気過ぎて、こちとら耳が痛いぜヒステリック小姑。早く寝ろよ」

「小姑じゃありません!結祈です!それはこちらのセリフです!大体その格好は何ですか!」


しかめっ面で指摘する結祈の言葉につられるようにクリスタに視線をやる。

バランスの取れた形の良い足が映えるショートパンツに、ヘソが見える短めのタンクトップと思いのほか大胆な格好をしていた。


「いちいちうるせーな。腹出しの何が悪い。全裸のアーネストよりマシだろうが。これから酒飲むんだから、邪魔すんなよ」

「駄目です!未成年なのに何言ってるんですか」

「堅ぇこと言うなよ。俺たちもう19だぜ?数ヶ月後には成人なんだからいいじゃねーか。外で飲んでるわけでもないしな。それにあの陰険男のことだ。旨い酒くらい持ってんだろ」

「あったとしても、出しませんよ」

「なら台所を片っ端から荒らすだけだな」


ああ言えばこう言う二人に、ギネヴィアは思わず笑みをこぼす。


「二人は本当に仲良いわね。」

「んなわけねーだろ。コイツが絡んでくるだけだ。女らしくしろなんざ、テメーは俺の親父かっての」


心底嫌そうな表情を浮かべるクリスタに対し、結祈はまた不服そうな顔を浮かべる。


「仕方ないでしょう。年頃の淑女である自覚を持っていただかなければ」

「淑女って……オレはそんな性質じゃねーよ」

「確かにそうですけど」

「お前――」

「でも貴女は女性ですから、愛嬌があった方が良いかと。お慕いしている殿方に振り向いていただけませんよ」

「余計なお世話だ。俺にはそんなヤツはいねぇし、むしろそういうのはあかねや朔姫に……ってあいつらは問題ないか」


一人でに呟いて、クリスタは踵を返す。


「とにかく俺は呑むからな。ギネヴィアもどうだ?」

「そうね。一杯くらいなら」

「よしっ!ってことだから、結祈はつまみ係りな」

「許可してませんが」

「ハッ…誰がお前の許可なんざ貰うかよ。

荒らされたくなけりゃあ、大人しく用意しな」

「……一杯だけですからね」


何だかんだ言って許容する結祈は甘いと思いつつも、後に続いて食堂で3人だけで晩酌を嗜む。

もちろん結祈は炭酸水だったが。


「は?純血の恋愛?」

「そ。友達と話してたのよ」


呑み始めて他愛のない話をし出してから、友人達との話していた話題を振る。

守人であるクリスタなら何かしら知っているのではと思ったからだ。


「…ないんじゃね?あいつら血を繋げることが、大前提だし。恋愛なんざ二の次だろ」

「やっぱそうよね」

「でもあかね様や陸人さんには、そういう方はいらっしゃいませんよね」


結祈も興味があるのか会話に加わる。


「そうだけどな、あかねだって婿探しの時期はあったぜ。ちびっ子の時に。けど異常なまでに嫌がるし、無理矢理連れて行けば泣き喚いてそれどころじゃなくなって、終いには屋敷から抜け出して司郎のとこに転がり込むしで、いつの間にかそういう話はなくなったけどな」

「凄いわね……」


ジョエルが聞いたら、さぞ嘲笑っていそうだとギネヴィアは思う。


「一方で菊地は、産まれて数日後には決めるくらいガチガチだからな。ファーストやセカンドにはいるっぽいし、サードも実はいるんじゃねーの?」

「………」

「ただいまー」


食堂のドアが開いたと思ったら、間延びした声色が響く。


「おかえりなさい。陸人さん」

「疲れたー。生1つ」


話題の本人が現れ、近くの椅子に座ると、机に突っ伏す。


「おつー。やっぱジョエルは、人使い荒いよな」

「それねー。あれ、クリスタ。もう呑める年だっけ?」

「2ヶ月後にはな。それより聞きたいことがあんだけど」

「んー?」

「お前って婚約者とかいんの?」


クリスタの質問に、陸人は顔を上げる。


「なんで?」

「さっきまで話してたんだよ。純血の恋愛あれこれ」

「なにそれー」

「ギネヴィアが今日ダチとそれで盛り上がったらしいぜ」

「え?」

「ちょっとクリスタ…」


話題の出所が意外だったのか陸人は、ギネヴィアを見るが、気まずさやら恥ずかしさで思わず視線を逸らす。


「ふーん……恋愛ねぇ。相手によるんじゃない?合わないヤツは子供拵えたら即別れたりするし」


純血事情の一部を述べながら、陸人は言葉を続ける。


「まぁ、僕にはいないよね。そんな相手」

「三十路でか?」

「歳は余計だよ。ああでも、前はいたよ。解消したけどね」

「そんなこと出来るんですか」

「できるよ。だって僕子供じゃないもん」


確かに結祈が用意した生ビールを一気に飲む姿を見るに、子供ではないとは思うが。


「第一、そういう相手は自分で見つけるもんでしょ」

「そりゃそうだが、見つからねー場合もあるだろ」

「それはないよ。僕好きな人いるし」


何気ない会話の流れから投下された爆弾発言に、手にしていた結祈特製のつまみを落としそうになる。


「え、いたんですか?」

「なにその反応。いたらダメなわけ?」

「いえ、そういうわけでは…」

「意外過ぎんだよ。お前ガキみたいな顔だけど肉食っぽいじゃん?だから不特定多数と遊んでそーな感じ」

「まっ!失礼なガキどもめ。僕は割と一途ですよーっだ」


本人の言っていることは最もなはずなのに、頬杖突いて口を尖らせながら反論する姿勢はまさしく子供だ。


「なら誰なんだよ。お前の意中の相手は」

「見てわからない?」

「は?」

「……僕達の知ってる方なのですか」

「うん」


結祈の問いに素直に肯定すると、胸のあたりがざわめき出す。

自分から振っておいてあれだが、この話題は心臓に悪い。


「へー?勿体ぶらずに教えろよ」

「クリスタ、やめなさ――」

「ギネヴィア」


制止しようとした束の間だった。


「…今なんつった?」

「聞こえなかった?ギネヴィアって言ったの」

「「え」」


クリスタと結祈は唖然としたまま、陸人とギネヴィアを交互に見る。

しばらく無言のままであったが、瞬く間に驚きの表情を浮かべる。


「まじですか!?」

「やったじゃねーか!逆玉だぜ!」


結祈らしくない言動とクリスタの身も蓋もない言いようが耳に届いたが、正直それどころではない。

言い出した本人は照れることもなく、楽しそうに笑っているし、何が何だか。

今自分がどんな顔しているのかさえ怪しい。

ただ分かるのは、どうしようもなく顔が熱い。


「だから純血にも色々あるってこと。ちゃんと覚えといてね。じゃ、おやすみー」


言い逃げと言わんばかりに、颯爽と食堂を出て行く陸人。

クリスタと結祈は何かはしゃいでいるがよく聞き取れない。


それよりも先程の言葉は一体何なのか。

嘘なのか真実なのか。

改めて問い質すべきなのだろうか。


本日何回目かの胸のざわつき。

しばらく治りそうにない。

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