第5話
「10分とは言ったけど」相手がどこにいるのか見当がつかない。
怒りにまかせて南に向かっているが。
「そもそも、相手が戦闘場所に誘導してる」かもだしな。
私としてはこんな世界とはさっさとおさらばしたいわけだが、あの女を一発殴りとばさないときがすまない。
「カウントダウン開始」といきなり機械的な声が十秒をキリ始めた。
「8、7、6」これが説明にあった遭遇戦ってやつか。
まあいい。
重力障壁(グラビティーウォール)を直径百メートルに展開。効果圏内に入った対象を無差別で加重し地面に落とす。
マシンガンだろうが、ミサイルだろうが私(中心)には届かない。
これでひとまず安心だろう。
「3、2」1と声を重ねる。
0。
と、同時にきた。
それは星に見えた。
すぐにそれは戦闘機だとわかるほどに近くにきた。
が。
ガン、と重力障壁にはじかれる。
障壁に触れた瞬間に重力が少なくとも十倍加重される。まともな戦闘機ならバランスを崩すだけではすまない。
「お」と。しかしその戦闘機は一瞬揺れただけで重力障壁の加重を受け流した。
「ほう」となる。
戦闘機は私に近づくのが無理と判断すると後方につき何発か銃を撃ってきた。
が、無効。
この結界がある限り有効打はない。
「さて、どうする?」私は敵のことを無視しながら南の街に向かうことにする。
しかし、戦闘機は諦めることをしなかった。
私に特攻をかけてきた。
無駄なことを、と思ったが。
重力障壁にぶつかった瞬間、奴は壁をすり抜けた。
「なに?」驚く間もなく戦闘機は私の真後ろにつけて砲撃。
「ち」と小さい障壁を個別展開。
銃弾はあらぬ方向に曲がり飛んでいった。
正確には「落ちていった」訳だが。
こいつ。
たった二度の接触で私の障壁のからくりを看破したのか。
面倒だ。
ここでぶっこわしとくか。
銃弾は障壁でかわせる。ミサイルも同じだ。
しかし、この巨体がつっこんできたらさすがにかわせない。
それを理解しているのか戦闘機は速度を上げた。
「いいゼつきあってやる」私は速度を上げた。
私たちの重力制御の仕組みは簡単だ。
難しい理屈を抜きにすると物体が重力を感じるときと言うのは要するに「下に落ちている」時だ。
私たちはそれを操る。
つまり、下を設定する。とモノは上だろうが横だろうがそっちに向かって「落ちて」いく。
これが私たちの魔法のタネだ。
私の重力障壁はこの「下に落ちる」方向をぐちゃぐちゃにねじ曲げて作られている。だからモノはまっすぐに進まない。右に落ち上に落ち左に落ちとめちゃくちゃな軌道をとり最終的には下にたたきつけられる。
だがこの戦闘機はその隙間。
重力障壁がないところを滑るようにすり抜けて近づいてきた。
私が前進している都合上、空間をまんべんなくめちゃくちゃには出来ない。それをたった二回の接近で見抜いたのか。
まぁ。
「タネがばれて困るのは手品師。魔法が見破られて負けるのは二流の魔術師だ」私は加速する。
重力制御で目に見えない立体交差のジェットコースターを作る。私はそれに乗りただ、身を任せるだけ。行き先はリアルタイムで更新する。後は落ちるだけだ。
前方に落ちていく。ものすごいスピードだが風はない。空気抵抗がない。重力で回りの空気を遮断している。数分しか空気が持たないが、それで空気抵抗を無視できるならばリターンの方が大きい。
右に行ったと思ったら下に急加速。
そこから左に何か巨大な手でいきなり「ぐわん」と掴まれたみたいに曲がり、ほぼ九十度で上昇。
めちゃくちゃだ。
その中でなにか手はないか?と考える。
でかい重力をおもいっきり叩きつければおわりだが。
速すぎる。
重力迷路を造ってそこから地面に叩きつける。
やつが重力から脱出できたら手がない。
といろいろ考えてあることに思い至った。
「あれをやるか」
私は、ポケットの中にあった財布を重力で圧縮。
確か中には百円玉で八百円ほど入っていたはずだ。圧縮されたそれは銀色の玉になった。大きさはピンポン球ほど。
私は一瞬だけ重力障壁を解いた。
その瞬間、戦闘機がつっこんでくる。
私はねらいを定めて停止し、慣性ですれ違う瞬間、コクピットに軽く手をふれる。
「 」マーク成功。
重力マーキング。
任意の対象を「下」に設定し、そこにものを落とすことが出来る。
要するに絶対当たる追尾弾。
私は重力加速を再開。
螺旋を描きながら飛んでいく。
そして十分に加速エネルギーがたまったところで八百円玉をおもいっきり投げた。
八百円玉はすぐに見えなくなった。これで、目標まで落ちていくだろう。
戦闘機は相変わらず、重力迷路の隙間を器用に避けて私の後ろについている。
視界が高速で展開する。
上、下、右のまま一回転。急降下、急上昇、反転。
「く」そろそろ酸素が切れそうだ。
まだ、届かないのか。
八百円玉はまだ落ちない。
そこであることに気づく。
「・・・」戦闘機が距離を稼ぐほど落ちるまで時間がかかる、つまりどんどん高いところに八百円玉がおかれているに等しい。
ということは・・・速い相手にはいつまでたっても当たらない。
「くそ」重力障壁を解除。
と、同時に重力加速。だがすぐに追いつかれる。
私は戦闘機の腹に箒を平行させ並走。
重力障壁がなくなったのを悟った奴は機関銃やらミサイルやらをロックしてきた。
あまり使いたくなかったがしょうがない。
私は相手との速度差がゼロになるように近づき一瞬だけ手をふれた。そして。
「上下逆転!!」紫の魔法陣が展開し夜に光る。
「天地返しっ!!!!」戦闘機は反転した。と言うことは私が空に向くことになる。そのまま続ける。
「空に落ちろおおお!」戦闘機は急上昇した。その瞬間に私は軌道から逃げて戦闘機が空に上るのを見上げた。
「あのまま空の果てまで行ってくれれば」天地返しは名前の通り天地を逆転させる。任意の対象の下を空に設定する。元の世界ならばだいたいは月に設定し、成層圏か先まで落とすことが可能だ。
と、どおおおおおん。と爆音。
戦闘機が突然爆発した。
なんだ?
と思ったが。ああそうかと納得した。
「今落ちたってわけか」さっき投げた八百円玉が重力加速で威力を上げて戦闘機に当たったんだろう。
戦闘機が速く動いていけばいくほど距離を稼ぎ位置エネルギーをあげていったわけだから。まぁ、そうなるか。
「ふぅう」と一息。
「対戦相手の破壊を確認しました。おめでとうございます」と機械的な声。
「・・・く」敵を倒した安堵か、急速に力が抜けるのを感じた。
エネルギー切れか、よ。
高度はどんどん下がっていく。
「あの女を殴れないのか」
そのとき、眼下に街の光が見えた。
「この街のどこかにいるのか?」どうするか。
あ、そうだ。
「おい、聞こえてるだろ」と胸のベルに問いかける。
「おめでとう、まずは一勝」よし。
「一勝?この後もあるのか?」
「もちろん。この戦いは三日ある。その間に敵を多く倒すことがあなたの仕事」
「へえーやりがいがありそうだ」テキトーに返しながら精神を研ぎすます。
この街にいれば。
「報酬は出すわ。さっきも言ったけど」お。
「いいよ。そんなもん」と言って二階建ての家めがけて突っ込んだ。
ガシャン、ドドドドと轟音が連続。
埃っぽい室内は暗く灯りは控えめにしかついていなかった。
その部屋の奥に。
「いた」あの女だ。
「あ、あなたは」と驚いている。
「初めまして?まぁどっちでもいいや」私はつかつかと近づいていく。そして真っ正面まで行く。
「さて、これから私は貴女をぶっ飛ばすわけだけど、おもいっきりやるから、貴女死んじゃうかもね。何か言い残すことある?二秒で忘れるけど」
「あ、あな」と口をパクパクとさせている。
さて、左足を前にすり足、と同時に右腕を後ろに引く、腰を落として地面にしっかりと足の裏をつけ体幹を安定させる。腰をひねり力を蓄えながら、止まる。地面を踏むように足に力を入れる。とそれが地面からの反発力を体幹に伝え腰を回す。右足を前に出すのに任せて引いていた右腕をおもいきり前へ振り抜く。
狙うは顔面。
拳は吸い込まれるように、それこそ落ちるように自然に女の顔に向かった。
「ひっ」と呼吸が止まる。
そこで私の拳も止まる。
「時間切れか」寸止め。
私の拳は女の目の前寸でのところで止まった。
そして意識が遠のいていく。
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