第4話

ヨルは空に浮かびながらどうするべきかを考えていた。

 一旦地上に降りるか、それとも空を飛び続けるか。

 元の世界では今頃私がいなくなって大騒ぎになっているだろう。

 あんなに低い空に異界の門があいている事がイレギュラーなのだ。それも私たちの家に気付かれずに開けたと言うのは中々に危険な状態だ。

 何らかの動きがすぐあるはず。

 と言う事はしばらくこうしていればすぐ助けが来る可能性が高い。

 「兄様が私をほっておくことはないですからね」

 一度地上に降りるとまた空に上がるのが大変なのでこのまま空を飛び続けて助けを待つ。

 これで行こう。

 そう思った時。

 「貴女が召喚された異世界の人?」と声がした。

 辺りを見渡すも姿はない。

 「テレパス?」直接頭に声を届ける力だろうか?

 「警戒しなくていい、と言っても無理か。私は、フーダニット。今は亡き国の王女だ」

 「・・・・」私が無言でいるとフーダニットは勝手に色々と喋り出した。

 曰く、この世界の事。

 曰く、フーダニットの出自。

 曰く、カンパニーなる巨大企業の事。

 そして、社長戦争の事。

 「と言うわけで、貴女にはこの戦争に参加して勝ち抜いてほしいのです」

 「どうしてですか?」と今まで一言も発しなかった私は問う。

 「報償はあります」

 「そんなものはいらないです」

 「元の世界に帰りたくないですか?」

 「すぐに助けが来ると思うので大丈夫です」

 相手の言葉にすぐに答える。

 さすがにフーダニットもいらついたのか。

 「困ってる人を助けようと言う気にはならないのですか?」

 「今私が困ってるんですけど。大体、どういう相手か知らない人と命がけの戦いをしろと言われても、私がそんなに強くないし、もし勝てたとしても後味が悪いし、良いところなんて一つもないじゃないですか?」

 「・・・」フーダニットは沈黙した。

 「・・・」私も黙る。

 カツカツカツカツ、と音がする。

 「ああああ、、っつぜえええな」急に声の調子が変わる。

 「?」と驚くが、すぐに納得する。

 「調子に乗るなよ?ちょっと強いからってなぁ?

 この世界には今、色んな所からチート持ってるやつらがわんさか来て戦ってるんだよ。ああそうだ。お前なんか吹けば飛ぶ虫けらだ。

 私が馬鹿だったよ。こんな臆病ものに頼むなんてな」下手に出てダメなら挑発、良くある手だ。

 こんなこと程度では私は乗ったりはしない。

 「召喚者の話じゃ、最高ランクの能力者が呼べたって話だったのにな!がっかりだよ」聞き流す。

 「こんな小さな子供が来るなんて、ホントついてないわ」

 びき。

 と空間がゆがむ。

 「今なって言いました?」静かに問う。

 「・・・?」ヨルの異変にフーダニットも何かを感じたらしい、だが彼女は相手が挑発に乗ったと思った。確かにそれは正しい認識だった。踏んだのが虎のしっぽではなく龍の逆鱗であった事を除けば。

 「は、こんな小さい子供には戦争は荷が重かったわって言ったのよ。その通りでしょう?」

 「小さいって言いましたね?」

 びき。

 びきびき。

 空間が歪む音が周囲からする。

 光がまっすぐ進まずそこだけ歪になる。

 紫色の魔力がヨルの体の周りに渦巻き彼女の眼が赤く光っていた。

 「フーダニットさん。どこに居るのか知りませんが、今からあなたをぶっ飛ばしに行きますから、せいぜい震えて待っているといいですわ」とその時ぶわっと三角帽子に三角形のモノが飛び出した。

 耳だ。

 猫の。

 紫色の猫耳が頭から生えた。

 それは実体物ではなく何かのエネルギーの塊の様で帽子を透過していた。

 「な」あまりの雰囲気の変わりようにフーダニットは言葉を失った。だが彼女はすぐに機転を聞かせることに成功する。

 「私に会いたいと言うなら会いに来ればいいわ。私はそこから南の王都に居る。まぁ、そこに着くまでには沢山の敵が待ち受けているでしょうがねぇ。貴女ごとき小さな女の子がそれを突破できるかしら」

 「はっ」とヨルは笑う。

 「邪魔をするならなんだってぶっ壊す、までです」

 「いいわ、その考え私も大賛成よ」その言葉の後、ヨルの頭上に何かが落ちてきた。それを感知した彼女はそれを見えない手で掴んだ。

 「これは何です?」

 「ベルよ」

 「契約したつもりはないけど」

 「もし、貴女が強いなら私にそれを証明してみなさい」

 「私はあんたをぶっ飛ばすだけです」

 「怖気づいたの?まぁ分かるわ。小さい時は何でも怖い物のだからね」

 ヨルはベルを掴んで首から下げた。

 「十分です。十分であんたをぶっ飛ばす、します」

 「楽しみにしてるわ」そこで通信は切れた。

 ヨルは箒を抱くようにして南の方角へ向いた。そして。

 「重力加速!!」と、あっという間に姿が見えなくなった。

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