Sheh.2 ぽつぽつ

 ぽつぽつと音がする。

 ぽつぽつ、ぽつぽつ。ぽつぽっつぽつぽつ。

 あまりにぽつぽつうるさいので、自然と目が開いた。布団から手を伸ばし、枕もとの時計を掴む。

 ぽつぽつ時間を刻みながら、今が朝の五時半であることを教えてくれた。ちなみに今日は日曜である。

 ぽつぽつ、ぽつぽつ。

 折角の日曜に、誰だ、うるさい奴め。

 頭を掻いて起き上がると、カーテンの隙間から灰色の空が見えた。

 盛大にため息をつく。


 ここ最近、土日は雨ばかりだ。


 平日に晴れて、ずっと土日がこの様とは、勤労意欲に甚大な支障をきたす。

 薄目で窓の外を睨みつけると、一つ大きなあくびをして、再び布団をかぶった。ぽつぽつが聞こえないよう、しっかりと。




 ぼつぼつと音がする。

 ぼつぼつ、ぼつぼつ。ぼつぼつぼつぼつ。ぼつ。

 あまりにぼつぼつうるさいので、自然と目が開いた。布団から手を伸ばし、時計を確認する。

 ぼつぼつ時を刻んで朝の六時半になったことを確認する。今日は日曜だ。まだ起きるには早い。

 ぼつぼつ、ぼつぼつ。

 折角の日曜に、誰だ、うるさいぞ。

 頭を掻いて起き上がると、カーテンの隙間から窓が見える。大粒の雨が叩きつけられ、窓が泣きじゃくっていた。


 さぞ痛かろうが、おれを起こさないでくれ。


 日曜さえゆっくり眠れないとなると、いつ寝ればいいのだ?

 嘆息にこたえたのは、ぼつぼつぼつぼつという無慈悲な声だった。

 布団へばったり倒れこみ、掛け布団を耳の穴に押し込み目をつむった。




 ぼちゅぼちゅと音がする。

 ぼちゅぼちゅ、ぼちゅ、ぼちゅ、ぼちゅぼちゅぼちゅ。

 あまりにうるさいので、自然と目が開く。時計を確認すると、朝の七時半。

 ぼちゅ、ぼちゅぼっちゅ、っぼちゅ、ぼちゅぼちゅっぼちゅぼっちゅぼちゅ。

 どうせ音を出すなら、一定のリズムを刻んで欲しいのだが、なんだこの不規則な。不快極まる。

 掛け布団から顔だけ出す。半開きの目で部屋を見渡す。相変わらず雨はぼつぼつだが、ぼちゅぼちゅが分からない。


 原因不明なら、立証不可。つまり、ないと同義。


 寝ぼけた頭で判決を下し、掛け布団をまたかぶった。途中起こされたのだ。ロスタイム開始である。

 ぼちゅぼちゅ。ぼちゅぼちゅっぼちゅ。




 何か凄い音がする。

 ぼぼぼぼぼぼ。ぼぼぼぼぼぼ。ぼぼぼぼぼぼ。

 あまりにうるさいので、跳ね起きた。もはや異常な音である。時計なんぞ確認している場合ではない。

 エアコンが水漏れでも起こしたか、古いからなあ……。

 寝ぼけ眼をしっかりこじ開ける。

 途端、視界は真っ赤だった。


 え。


 ぼぼぼぼぼぼ。ぼぼぼぼっぼぼ。ぼぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ。

 部屋の一隅が激しく燃えていた。


 あ! あそこは、パソコンとかエアコンとか、なんか色々コンセントを刺していたところだ! 蛸壺が火を噴いたのか!?


 ぼぼぼぼっぼぼぼっぼぼぼぼぼっぼぼぼ。


 とにかく電話をしなきゃと大慌てだ。

 掛け布団を剥ぎ取り、携帯を探す。


 ああ! あそこだ!


 必ず寝る前に、携帯は充電器にさしておくのが習慣だ。転ばぬ先の杖だ。寝落ちて、日は昇ったが、充電は落ちてましたでは、話にならない。



 用意しておいてよかったと胸を撫で下ろしながら、寝癖のまま携帯を取りに行った。






 たとえ火の中、水の中――。






 ぼぼぼっぼぼぼ。ぼぼ、ぼぼっぼぼ。ぽつぽつ、ぼつぼつ。





 じゅう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る