おまけ
『江談抄・吉備入唐の間のこと』簡易訳 1
※『江談抄』に見える真備の記述は、史実と異なる部分も多いとされます。
※一部難解な単語は省略・簡略化しています。
※古文の文章の形態をそのまま意訳したため、一文一文が長いです。読みにくいかと思いますがご了承ください。
『江談抄・吉備入唐の間のこと』
吉備真備は入唐して学問を学び、芸能をはじめ様々な分野において賢かった。そんな彼を見て唐の人々は劣等感を抱いた様子である。
密談をして言うには、「私達も安心してはいられない。まずは普通のことで負ける訳にはいかないのだ。日本国の遣唐使が到着したならば、高楼に登らせて閉じこめてしまおう。このことは誰にも聞かせてはいけない。また、例の高楼に登ったものはほとんど生き長らえることは出来ない。そのため、まずはただ高楼に登らせることだけ実行しよう。むやみに殺すのは非道である。しかし何もせず日本に帰しては面白くない。かと言って唐に留まらせれば我々が恥をかく羽目になる」と。
真備が高楼にいる間、深夜になると風雨が起こり、鬼が訪ねてきた。
真備が姿を隠す術を使い、鬼に姿を見せずに言うには「何者だ。私は日本国王の使いである。国王の使いとあらば敵対は出来ないはずだ。何故鬼が訪ねてきた」と。対する鬼は「それは嬉しい。私も日本の遣唐使だ。あなたと話がしたい」と言う。真備が「ならば早く中に入れ。ただし、身なりを整えてから来い」と言えば、鬼はそれにしたがって一度帰ると衣冠を身につけて再び現れた。
鬼が言うには「私も遣唐使だ。我が子孫の安倍氏はどうなっているのか。その事を聞きたいと思い、今それが叶った。私は大臣であった時に、この楼に登らせられて食べ物を与えられずに餓死した。そしてその後鬼となった。この楼に登ってくる人に危害を与えるつもりはないのだが、自然と彼らは害を被ってしまうのだ。そのため人に会って、日本のことを訪ねようとしても、答える前に死んでしまうのだ。ここで貴方にお会い出来たのは喜ばしいことである。私の子孫に官位はあるのだろうか」と。真備が答えて、子孫のこと、彼らの官位について、彼らの様子などを七つ八つばかり語ったところ、鬼は大いに感動してこう言った。「これを聞けたのはとても嬉しいことだ。このお礼として、この国のことを貴方に何でも語って差し上げようと思う」
真備は大いに喜び、「まことにありがたいことだ」と言う。そして夜が明けて、鬼は帰って行った。
その翌朝、使者が楼を開いて食べ物を持ってくると、真備は鬼の害を受けずに生きていた。唐の人はこれを見ていよいよ恐ろしくなって「希有なことだ」と言う。
その夕方にまた鬼がやって来て言うには、「この国には
帝王の宮では、一晩中三十人ほどの儒士に文選の講義を聞かせていた。それを聞くと、二人は共に高楼へと帰った。
高楼で鬼が言うには、「話を全て聞くことが出来ましたか? 」と。すると、真備は答えた。「すっかり聞いてしまった。もし、古い暦が十巻ほどあれば貰えるか」と。すると鬼は約束して、暦十巻を持って帰ってきた。真備はそれを手に入れて、文選の前半のうちの一巻をあちこちに三、四枚ずつ書いて、一日、二日を持って全て覚えてしまった。皇帝が食べ物を持たせた儒学者を一人高楼に送ると、文選の内容がしたためられ、端がちぎれている紙が高楼の床に散らばっていた。唐の使者がそれを怪しんで言うには、「この書は他にもあるのか」と。すると、真備は「たくさんある」と答えて残りの紙を見せたので、勅使は驚いてそれを皇帝に奏上すると、「この書は日本にもあるのか」と問われた。そして使者が再び高楼を訪ねて真備に聞くと、「日本に出て既に数年たっている。文選と名付けて、人々はよくこれを口にして暗唱している」と答えた。すると、使者は「これは唐にあるものなのだ」という。すると真備は「見比べてみよう」と言って、文選三十巻を持ってこさせてそれを書写し、それを日本にもたらしたのだ。
また、聞くところによると、唐の役人はそれを聞いて、「才能があっても芸があるとは限らない。囲碁によって試してみよう」と言い、白い石を日本、黒い石を唐土に見立ててこう言った。「この勝負をもってあの日本人を殺そうと思う」と。鬼はまたそれを聞いて真備に告げた。真備は囲碁のやり方を聞いて、高楼の天井の目を数えて三百六十目あるのを見て、碁盤に見立てて一夜のうちに引き分けになる所まで作戦を考えた。皇帝や儒学者達が唐の囲碁の名手を集めて碁を打たせたところ、勝負は中々に決まらなかった。その時、真備はひそかに唐側の碁石を一つ盗んで飲み込んでしまった。勝負を決めようとした時、唐側の碁石が一つ足りなくて唐側が負けてしまった。唐の人が言うには、「希有なことだ」と。よって占いによって調べたところ「盗んで飲んだ」と出た。それで調べて大いに争ったところ、碁石は真備の腹の中にあるという。それなら下剤を飲ませてやると言って、儒学者達は真備に
よって唐の人はとても怒って、真備に食事を与えなくなった。しかし、鬼が毎日食事を与え、そのうち数ヶ月の時が経ってしまった。
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