第25話
それは一陣の風の如く。
それは舞い散る桜吹雪の如く。
それは崩落した積み木の塔の如く。
サトルの繰り出す全方位への正確無比な拳銃での射撃は悉く敵を打ち砕いていく。打ち砕かれたゴブリンたちは血飛沫をそこかしこに撒き散らして絶命し、その命を失った躯は無造作に広場一帯に転がっていった。
『すげぇ!』
『なんとお強い!!』
その光景を眼にしていた者たちは、その誰もが感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。わずか二十秒にも満たないうちに、その秒数の数だけ居たゴブリンたちは無造作に転がる躯に成り果てていたからだ。
「あの戦法、どこかずっと昔に……」
鐘楼の上から眺めるその演舞に見惚れて何かを思い出そうとする女戦士。真下にいたゴブリンたちは異変を察知して、サトルたちの方に向っていった。
(切れたか)
拳銃の弾が尽きると銃で殴りつけながら刀に持ち替えて剣の舞に移行する。
竜巻く風は大地を舐める。
触れたるものは割かれて舞い飛ぶ。
息も切らさずゴブリンたちを棍棒ごと野菜のように両断していく様を、居合わせた人間たちは、祭りの演舞でも見ているかのように恍惚と眺めていた。
「よーし!ボクも負けてられないよ!」
サトルだけでなくマドカも奮戦していた。あちこちの家を襲撃していた群れから、瞬時に小隊長らしき個体を見つけ出すと、瞬く間にその長槍の先の付属品にしていたのだ。
「ゴブリンなんてポポイのポイだワン!」
少し遅れた駆けつけたドリンも戦っていた。狼人族の脚力と俊敏さは人間を凌駕しており、戦闘技術も積んでいるので浮き足立っているゴブリンの相手は楽なものだった。
次々と宙を舞い、手足をあらぬ方向に折られて戦意を失い、小隊長が首を一回転されるとたちまち逃げ散っていく。
最大規模の集団が壊滅し、他の集団もことごとく小隊長を討ち取られたことで、ゴブリンの軍勢は算を乱して逃げていった。
「やっと逃げたか」
広場に無造作に転がるゴブリンたちの屍の真ん中に立つサトル。小隊長らしい一頭の腰巻を剥がして星流れについた血糊を拭って天にかざす。刀身の輝きに曇りは無く、刃に欠けたる様子も無し。
「さすがムネタケおじさんの自信作だ」
星流れは父ダイキの友人が特殊鋼を用いて作った模造刀である。その技術は旧軍の軍刀の流れを汲んでおり、現代技術を加味した業物であった。
鉄パイプ程度は刃こぼれも曲がりもせずススキのように切り裂くことが可能であり、オイルさえ凍てつく寒冷地においても砕ける事はないのだ。
ともあれゴブリンの襲撃は終わった。村の損害は甚大だったが、幸い死者までは出ずに済んだのだ。
「本当にありがとうございました……」
村長たちが涙ながらに一行に礼を言う。
「誰も死んでないなら何よりだよ」
改めて周囲を見渡すサトル。
「まるでミツバチの巣箱を襲うスズメバチみたいだな」
サトルにはこの世界のゴブリンが、羽はないが巨大なスズメバチかアリに見えていた。
実際、この村を襲撃したゴブリン、正式にはノブゴブリンと呼ばれているものは、サトルたちの世界でのスズメバチに近い行動をする種族であった。
明確な区別があるのはこの世界には出自は同じだが、高度な知能を持ち、人間と意思疎通はもちろんのこと交易も行って共存しているハイゴブリンという種族が存在しているためである。
ハイゴブリンはイトナ王国においては国王ダイキによる建国にも大いに貢献したとして族長には官位が与えられ、ハイゴブリンによる斥候部隊も正式に国軍に加えられているほど。
そのため村民たちにおいてさえ明確にノブゴブリンとハイゴブリンは区別されているのだ。
「うーん。ノブゴブは普通、あんなに増えないっていうか“増えられない”はずなんだよね」
「というと?」
サトルの疑問にマドカが答える。
「ノブゴブは巣穴の大きさで数が決まるんだよ。でもノブゴブは自力で穴掘りしないから、ほかの動物が掘った穴を巣にするんだけど、普通は一家族10頭ぐらいのはずなんだ」
「連中があれだけ来たって事は、それだけの規模の巣穴を確保したってことになるよな」
「そう考えるのが自然なんだけど……」
「何か疑問があるのか?」
マドカは腕を組んで少し考えていた。
「うん。ノブゴブがあれだけ増えるために必要な広さの洞窟って、ダンジョン級じゃないとダメなんだけど、それって普通ノブゴブには確保できないはずなんだ」
「……、大きな洞窟は他に狙う相手も多いからか?」
「うん。そういうこと」
広大な洞窟、とくにダンジョン認定されるような大規模なものは、ノブゴブたちの天敵となる大型種も住処や狩場として狙っているのだ。
その上人間にも所在が把握されているので、人間たちから定期的に状況確認が行われ、時に冒険者たちが獲物を求めて出入りするのだ。
故にノブゴブリンがダンジョン級の洞窟を制圧し維持する事はほとんど不可能なのだという。
「村長さん、何か心当たりは?」
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