第24話
「皆の者!早く家に避難なさい!!」
丸太を組んで建てられた屋根つきの鐘楼の頂上から、高貴で勇猛そうなな女性が村人たちに凜々しく強い大声で命令を飛ばしていた。
村人たちも機敏に動いていた。若い男たちは長槍や先の尖った農具を手に持ち土塁に向かい、老人や女子供らは慌てて家に戻って戸を硬く閉ざす。そして子供や若い娘を家の奥に潜ませ、大人たちは戸を塞いでいた。
「皆、家に篭りましたね?!」
村の中央、村長の家がある鐘の吊るされたやぐらに村長らしい初老の人物と、高貴そうな女性が立っていた。
「はい。ご覧の通りです」
村の周囲には空堀と土塁が築かれているが、完全な狼ならともかく、これから迫る脅威にはさして用をなさないであろうというのだ。
「日が沈めば救援が来なくとも撤退するはずです!それまで耐えなさい!!」
気丈な女性は荒縄をたすきがけして衣服をまとめると、身の丈ほどあろう丸木に見事な細工が施された長弓を持ち出して矢を番える。
「来るぞ!!」
門の上に立っていた男が叫ぶと、その眼前に濃い緑色の肌をした猛獣のような群れが村の正門に殺到してきたのだった。
「ギシャアァァ!!」
「ギギィィィイ!!」
それは獰猛なゴブリンの群れだった。身が詰まった木の根を棍棒に、特に勇猛な個体は石を巻き込んだ棍棒を手にして村を襲撃してきたのだ。
「おのれ!」
戦闘開始からほどなく、ゴブリンの群れは門を突破して村の中になだれ込んでいた。
しかし家々の作りは元々頑丈であり、火を使いこなす知恵がないゴブリンには放火される事はないので戸さえ持てば耐久は可能である。
だが、今回攻め寄せてきたゴブリンは棍棒だけでなく、石を巻き込んだ根を加工した棍棒持ちまでおり、戸に集中攻撃を受けてしまえば程なく破られるのは明白な状況であった。
そんな中、鐘楼の上から勇敢な彼女は矢を放って次々とゴブリンを射ているが、あまりの多勢を排除しきれず、逆に鐘楼に集団が迫っていた。
「うわぁぁん!!」
ついに一軒の戸が破られ、ゴブリンがその家になだれ込んだ。
「おい、どこかやられたぞ!」
「共同倉庫に逃げ込んでたハギの家の息子だ!」
ゴブリンの狙いは家に備蓄されている保存食と女子供であった。女子供は力が大人の男より弱いうえに肉が柔らかいので、ゴブリンに餌として狙われているのだ。
だが村人たちは、自宅から出れないか、土塁の上で自衛するので手一杯で救助に向う事もできない。鐘楼は登られないよう縄梯子を外してあったが、柱に対して石斧を持った体躯の良いゴブリンが切り倒しにかかっていた。
大きく揺れる鐘楼。眼下のゴブリンに矢を放つが、石斧の相手の腕を射抜くが残数も尽きてしまう。そして石斧は他が引き継ぎ、切り倒しが再会されると、今度は家から連行されていく男児の泣き叫ぶ姿が。
「こんなところで!みすみす!」
誰もが助けたいのは山々だが、我が身さえ知れぬ状況では成す術がない。
「ギギィィ!」
あまりに男児が泣き叫んで抵抗するので、ついに群れはこの男児を巣まで連れ去ってからではなく、この場で仕留める事にしたらしいく、広場の真ん中で男児を押さえつけた。ほどなく棍棒を握った個体がでてきて、頭にめがけて振り下ろそうとする。
「いやだぁぁ!!」
ズドン!!
その直後、棍棒を振り上げていたゴブリンの頭が突如として破裂し、灰色の脳も辺りに飛び散り男児の頬にも降りかかった。そして少し遅れて遠くから乾いた破裂音がやってきた。
「この音は?!」
鐘楼の女戦士はその音に驚く。そしてさらに立て続けに破裂音がすると、男児を捕らえていた個体が悲鳴を上げて崩れ落ち、苦痛に地面を転がりまわる。
「救援だ!救援が来たぞ!!」
土塁の上で奮戦していた男たちが歓喜の声をあげた。土塁の上から接近してくる馬たちを確認したのだ。
「そこまでだ、ゴブリンども!我が領民へのこれ以上の狼藉は許さん!!」
腕っ節は心もとないが、義に厚いカイは剣を引き抜き一直線に村に飛び込んでいく。
「マドカ!」
「わかってるよ!」
この地の領主に一番乗りは委ねたが、あの腕前では最初の奇襲だけで取り囲まれて討ち取られるのが目に見えていたので、サトルとマドカも当然急ぐ。
「あれはカイ!」
鐘楼の女戦士はカイの事を知っているようで、駆けつけたことにも驚いていた。
それを知らず、男児を囲っていた一団を一蹴し、下馬して駆け寄るカイ。
「大丈夫か?!」
この瞬間、間違いなく彼はヒーローであったが、周囲に戦意を失っていないゴブリンが多数いる状況で下馬するのは間違いなく愚行であった。
「カイ、何してるの!」
鐘楼の上の女性が思わず大声で叱責する。それに気付いたカイは辺りを見回すが、周囲は殺気立ったゴブリンたちに完全に包囲されていた。
「領主くん、変なところでカッコつけて!」
「だが間に合った!」
ゴブリンが囲んだところに、今度は黒い影がヒラリと舞い降りる。
「二人とも伏せてろ!」
言葉を聞いて二人が地に伏せると、空中から発射された銃弾がゴブリンを次々と撃ち倒していく。見事に着地を決めると、サトルはゴブリンたちを睥睨した。
「人間を襲うなら容赦はしない!」
サトルは両手に二丁拳銃を構えて包囲するゴブリンの群れと対峙する。
「オレの銃拳法、見せてやる」
かくしてゴブリンの群れを相手に、先の試合では加減していたサトルの本気の銃拳法の演舞が開始されたのだ。
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