第23話
「しかし問題がこじれると、影響がその村だけに留まらなくなってしまうので、我々が介入せざるを得ないのです」
カイは幼い頃から先代が様々な裁判の調停に悩んでいた事を見ていたという。
この世界、この国でも領主の大切な仕事は紛争の調停、裁判であった。
村同士の揉め事の調停はもちろんだが、特に狼人族は世界帝国の衰亡期に有能な指導者が現れて世界帝国に止めを刺し、一時的に大勢力を築いた実績もあるので、慎重な対応が求められたからだ。
「はいそこ!出すぎ出すぎだワン!」
すると元気の良い少女の甲高い声が聞こえて来た。姿を見ると栗色の豊かな髪に、立派な犬耳が飛び出している。そしてその顔を見れば人間の少女と大差ない顔をしていた。
「獣っ娘?!」
サトルとマナが驚くと、ワラジーが彼女をよく響く鳴き声で呼ぶ。するとその獣っ娘は一行の方に向ってきた。
「ご紹介します。この娘は私の姪の……」
だが説明が終わる前に獣っ娘はサトルの方に飛び込んできたのだ。
「うわっ!」
カイは驚き彼女を跳ね除けようとしたが、マドカがそれを止めた。
「何故止めるのです?!」
「いいから大丈夫!」
それでもワラジーも引き離そうとしたが、獣っ娘はサトルの匂いを嗅いで尻尾を激しく揺らしながら喜んでいた。
「サトルさまだワン!懐かしい匂いがしたと思ったら本当にサトルさまだワン!」
「ちょ、ちょっと待った!」
名乗ってもいないのに自分の名を知っていた事に驚きを隠せないサトル。すると彼女は自ら名を名乗った。
「わきちはドリンだワン!ドリンですワン!」
その名をサトルは忘れていなかった。なぜならその名は……。
「待て!ドリンは犬のはずだろ?!」
「はい!ワーウルフとして転生したんですワン!」
唖然としてしまう一行。だがマドカは唯一納得したように頷いていた。
「よかったねドリンちゃん!元のご主人様に再会できて!」
「はいですワン!」
事情を聞いたワラジーは、ドリンに一行への同行を許可した。
「叔父上!本当にいいんですかワン!?」
「ああ。これがお前の天命なのだろう……」
聞けばドリンの母親は人間だったという。両親共にすでに他界しているが、混血児は狼人族でも扱いが難しいらしく、ドリンの将来も心配されていたところだったので、ワラジーとしてはこの国での宮仕えは渡りに舟らしかった。
「というわけでサトルさま!前世で果たせなかった勤め、今度こそ果たさせてもらいますワン!」
かくしてサトルの一行に、父母妹共に装甲車に跳ねられて命を落としてしまった愛犬、その転生した獣っ娘が加わることになったのだった。
こうして護衛が一人増えたところで、宿泊予定のカイの館に向う一行。だが、道中の村に差し掛かると異変が起きているようだった。
「あれは?」
見ると黒い煙が立ち上っている上に、鐘が激しく打ち鳴らされていたのだ。
「まさか?!」
それを見たカイの顔が一気に険しくなった。
「サトルさま!お許しを!!この先の村が何者かに襲撃されているようです!」
『襲撃?!』
自分たちを狙ってのことではないのは明白だが、この国の治安が乱れていることは間違いないのは理解できる。
「この一帯を預る者として、領民を守りに向う事をお許し下さい!!」
カイはこの一帯の領主として手勢のみで向うと申し出た。
「だったら俺たちも行こう!」
「しかし万一サトルさまたちの身に何かあっては!」
「オレはこの国の摂政だ!当然、国民を守るのも仕事に決まっている!!」
だがサトルたちはカイと共に救援に向うと宣言する。
「それに領主くんはサトルくんに素手で倒されちゃうような腕前なんだよ!ボクたちも向った方がいいに決まってるじゃない!」
一行の護衛たちも、要人警護のために選抜された猛者揃いである。サトルとマナの身の安全が最優先ではあるが、救援に向う事に異議がある者は皆無であった。
「一度ならず二度までも……。ありがたき幸せ!」
「マドカ、俺を乗せて急行してくれ。マナちゃんは村が見えるあの丘から」
「わかっています!」
一行は二手に分かれて村の救援に向った。
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