第15話
次の試合は準決勝だったのだが、対戦相手は壮絶な切り合いの結果、双方瀕死の重傷を負ってしまったため、図らずもサトルは不戦勝となってしまった。
「運が良かった、と言うべきかな」
「だと思います。一回分戦わずに済んだんですから」
マナは溜息と共に答えた。闘技場は例によって血溜まりが出来ており、粛々と次の試合に備えて整備されていく。
「それにしてもお兄さんといい、勝ち上がった月光の騎士といい、綺麗な勝負をする方が勝ち上がってますよね」
月光の騎士は見事な槍の一突きで相手の兜のみを剥ぎ取って戦意を喪失させての勝利を重ねていた。
そして程なく始まった月光の騎士の試合を観戦するサトルたち。
月光の騎士の相手は騎乗した騎士だったが、重厚な鎧を自身ばかりか馬にまで身につけさせていた。対する月光の騎士は自身の鎧は今まで通りだが愛馬には鎧を装着させていなかった。
「あの鎧は元々軽量化されているんだと思う。そして馬にあえて装備させなかったてことは、身軽さを優先したって事だ」
サトルは月光の騎士の鎧が、欧州でのプレートアーマー、その最末期に作られたものに似ていることに気がついた。装甲を分厚くせずに強度を持たせるようになっているのだ。
互いに馬に乗り、用意は整った。
「さあ始まるぞ」
『開始!!』
双方がぐるぐると闘技場を周回して勢いをつけ、速度が乗ったところで正面からぶつかった。
『おお~~!!』
月光の騎士は相手の重厚な槍を回避して自身の槍を相手の水月に叩き込んでいた。その一撃を受けて相手は落馬し地面に叩きつけられる。たった一撃、僅か一瞬の出来事だった。
それを見るや月光の騎士は馬を帰し、串のように細い剣を鞘から引き抜くと、地面に叩きつけられれた相手の上に飛び降りてその切っ先を突きつけていた。
(ホークブルーフラッシュ!)
「ホークブルーフラッシュ!」
サトルと月光の騎士は片や内心で、片や声を漏らして同じ技の名前を言っていた。
「お兄さん、それって?」
「ああ。ホークソルジャーズのホークブルーの得意技だよ。馬じゃなくてバイクから飛び降りて一撃するんだけど、良く似てるなって」
サトルは決勝で戦う相手が、ホークソルジャーズを何らかの形で見知っているのではないかと一瞬考え、そしてすぐに振り払ってしまった。
「ま、参った……」
相手の騎士は得物を離して大の字になって降参の意思を示した。この男の鎧は騎乗して槍をぶつけ合う試合に特化したものでとにかく重たく、通常の全身鎧と異なり一度落馬して倒れると、立ち回るのはもちろん自力で起き上がることさえ困難になってしまうのだ。
『勝負あり!!』
観衆から割れんばかりの喝采が送られるが、月光の騎士は淡々と馬に乗って引っ込んでしまう。
「月光の騎士さんもクールでカッコイイ!!」
ミキもこの試合を満足げに観戦していた。
「やはり月光の騎士マドカが残ったか……」
重臣たちも月光の騎士が残ることは想定していた様子。
「お兄さん、最後の相手は無闇に血を流さない相手みたいですね」
どこか安堵したような声のマナに、サトルは厳しい様子を崩さない。
「戦ってみないと分からないよ」
「……、ですよね」
下手な油断は命を落とす事に繋がることを、北区で生まれ育ったサトルは重々承知していた。互いに殺意がなくても落命する展開になることもままあるのだから。
『さあ決勝だ!』
ついに決勝戦が開始されようとしていた。
『決勝戦は異世界の勇者サトル対月光の騎士マドカ!』
周囲が一斉に沸き立つ。サトルとマドカが同時に姿を現したからだ。
月光の騎士マドカは、完全武装の騎士だった。
サトルは今まで防具を着た人間相手となら戦った経験があったが、“騎乗した”完全武装の騎士相手は、たとえ修羅の国であっても機会そのものが無かった。
「プレートメイルが相手だと、こっちの飛び道具は厳しいな……」
相手の装備を懸命に観察するサトル。騎士は全身に隙のないプレートメイルをまとっており、通常弾ならともかく暴徒鎮圧用の特殊プラスチック弾頭では貫通はもちろん、ダメージを与える事さえ困難に見受けられる。むろん、スタンガンは鎧で防がれてしまい肉体にはダメージは与えられない。
ならばと馬を見やるが、頭部には騎士と同じような兜や前あてだけでなく、左右にも鎖で織られた幕が胴を守っていた。
(さっきは馬は無防備だったけど、オレへの対策してきたのか)
おそらくサトルがセイガン相手に特殊な攻撃をしたのを見て対策を行ったのであろう。すでに針式スタンガンは使いものにならなくなっていたが、スタン警棒さえこれでは役に立たないのだ。
(まあ、やるしかないな)
しかし相手は人外の怪物ではなく同じ人間である。サトルは改めて大きく息を吸い込んでゆっくり吐き出して呼吸を整えて開始の時を待つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます