第14話
それから二時間後。サトルの二回戦目が始まろうとしていた。
「なぁ、俺はアンタに銀貨一枚賭けたんだ。頑張ってくれよ」
闘技場の舞台に向うサトルに、先ほどの衛兵が話しかけてきた。サトルは彼に質問を投げた。
「倍率は?」
「三十倍さ。何せ相手は優勝候補の一角だからな」
その数字を聞いてサトルは軽く笑う。相手はセイガンなので、なるほど、それはそうだろうと納得する。
「ところでその銀貨一枚で、ここだと飯はどれだけ食えるんだ?」
「おう。三日は腹いっぱい贅沢できるな」
それを聞いてサトルは軽く笑った。
「そりゃあ良かった。アンタ、当分は思い切り飲み食いできるぞ」
「ああ。そう願いたいね」
サトルは再度闘技場の土を踏んだ。そして堂々と臆する事無く開始地点まで向っていった。その先には巨岩の如く大男が仁王立ちして待ち受けていた。
『開始!!』
サトルは最初から腰に手を回し、先ほどと違う機械を構える。対するセイガンは両手に必殺のナックルダスターを装着し、うなり声を出しながら、じりじりと間合いを詰めてきた。
(よし)
巨漢が弾丸のように飛び出したのと同時に、サトルは突きつけた機械の引き金を引いた。同時に機械から線が付いた針が飛び出し、防御しようとしなかった巨漢の肉体に突き刺さる。
同時にサトルは機械を素早く離して真横に転がると、セイガンは狙いがそれたまま突っ走って勢い良く転んでしまった。
「がぁっ!!!」
地面に転がった巨岩は、天に向かって大きく口を開いたまま、ビクビクと痙攣しながら地面に横たわっていた。
サトルが使用したのはワイヤー針式の銃型スタンガンの改造品だった。銃型の本体から手を離してもバッテリーが続く限り放電を続けられるように改造されており、現にサトルが手を離していても強烈な電撃が巨漢の筋肉を麻痺させ続けていた。
「わざわざ生身を晒してくれて助かったよ」
威力は意図的に対人用でなく対獣用に調整済みである。人間相手では下手をすると殺してしまいかねない威力だが、相手が相手なので一切の躊躇は無い。
サトルはさらにセイガンに向って特殊弾頭の拳銃を発砲。仕上げにスタン警棒を押し当てると、巨漢は泡を吹いて気絶してしまった。
「これでよし」
針式スタンガンのバッテリーが切れたところで手際よくザイルで手足を縛り上げて、エビ反りにすると勝負ありの判定が下った。
『見事だ!!』
『あの剣を用いずに、あのセイガンを打ち倒してしまったぞ!』
『あの者の実力は本物だ!』
人々はサトルの手際を絶賛した。
「すっごい!さすがお兄ちゃん!!」
ミキは大興奮して大喜び。家臣たちも意外な展開に驚きを隠せないまま。
「?!」
そこに見物席から会場に複数の戦士たちが乗り込んできた。剣を抜き放ち、一直線にエビ反りにされて身動きしないセイガンに向っていく。
どうやらセイガンに恨みを持つ者たちらしく、この千載一遇の好機に命を奪おうと襲い掛かって来たのだ。
「死ねぇセイガン!!」
衛兵の出動も間に合わない状況。そして彼らの刃が倒れた巨木の喉笛を掻き切ろうと迫ったその時だった。
『!?』
セイガンに迫っていた襲撃者の一人が弾き飛ばされ転がり、今一人の剣の切っ先が高々と宙を舞った。
「失せろ下衆共!」
セイガンを救ったのはサトルだった。まず発砲して一人の顔面に命中させて卒倒させ、今一人はその得物を星流れで叩き切ったのだ。
得物を切られた相手に切っ先を向けてサトルは言い放つ。
「こいつの命はもうオレのものだ!どうしても殺すというなら、所有者のオレを殺してからにしろ!」
サトルの咆哮に怖気づいてへたり込む襲撃者。それを見た観客たちから先ほど以上の万雷の拍手が送られたのだった。
「さっすがお兄ちゃん!やっぱり最高だよ!」
目を潤ませて喜ぶ姫君。一方で重臣たちはそのサトルの行動と気迫にある人物を重ねずにはいられないようだった。
「あの者の気迫、態度、正しく……」
「陛下の即位前の一騎打ちを再現したかのような」
それはダイキが一介の武将としてこの国の平定を行っていた時の事。名の知れた豪傑と一騎打ちとなって打ちのめしたところ、その豪傑を恨んでいた者たちが仕留めようと勝負直後に乱入してきたので、ダイキは激怒してその刺客たちを全員その場で討ち果たしてしまったのだ。
『こいつの命はオレのものだ。許可無く殺すというなら、このオレを殺してからにしろ!!』
展開は異なるが、相手に向って言い放った言葉はほぼ同じ。彼らも改めてサトルがダイキの関係者であることを認識したのであった。
一方、万雷の歓呼を浴びながら戻るサトルに衛兵が驚喜しながら声を掛けてきた。
「すげぇ!アンタすげえじゃないか!」
「おう。これで銀貨三十枚なんだろ?」
「ああ!これで当分は好き放題酒が飲めるぜ!」
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