愛妹の伴侶を賭けて
第11話
翌日。昨日とは異なり、マナと二人での朝食を終えたサトルは身支度を調えて中庭に向かった。朝から本選を前に王宮の中庭に出場者が集められ、ミキ姫との謁見が行われるのだ。
(これが本選のメンバーか)
本選への出場権を得ているのは16名。当然予選とは打って変わって大半は流麗な鎧を身にまとった上流階級らしい者たちばかりで、実力で選ばれたような荒々しい風情の者は僅かのようだった。
「ゆ、勇士の皆さん!よく集ってくれました!」
ミキは前世ではかなり人見知りするタチで、特に大勢の前でのスピーチは苦手だったのだが、転生してからは置かれた環境の影響あってか、時々噛みながらもしっかりとスピーチできていたので、サトルは心底感心していた。
「それでは勇士たちよ!死力を尽くして姫様の伴侶としての証を立てるのだ!」
式典が終わり控え室に向う途中、何処となく懐かしい気配に引かれて辺りを見ると、終始仮面を外さなかった騎士と目が合った。
「よっ」
何気なく右手を上げて挨拶してしまうサトル。だが当然相手は訝しがったのか、一瞬動きを止めるとそのまま通り過ぎてしまった。
「お兄さん、今の人を知っているんですか?」
偶然様子を見ていたマナが尋ねてきた。
「いや、何となくね」
サトルは仮面の騎士から、何とも言い難い懐かしい気配を感じていたという。
「あの仮面が、オレの世代のテレビヒーローが被ってた仮面にそっくりだったんだ」
サトルは“聖鷹戦団ハリーソルジャーズ”という仮面ヒーローの直撃世代だった。全国区ではなく地元テレビ局が気合を入れて作ったローカルヒーローで、サトルは親友のマドカとその家族と一緒にショーを見に行って歓声を送り、握手してもらっていたのをふいに思い出す。
「そういやマドカはハリーブルーが大好きだったっけ……」
月光の騎士の名が奇しくもマドカだったと思い至るが、この時は特にそれ以上考える事は無く、サトルは意識を本戦に向けていた。
一方、挨拶をされた青い鎧の者、月光の騎士は従者に連れられて控え室に。
「ご主人様、あの者をご存知で?」
「……」
月光の騎士は仮面を外さないまましばらく無言だったので、従士はそのまま武具の手入れを始めた。
(サトル……。やっぱりどこかで……)
サトルと目が合った月光の騎士マドカはサトルの顔とその瞳を脳裏に焼き付けていた。
ほどなく迎えた本選。サトルは最初の試合ということで会場に足を踏み入れた。相手は近隣の領主の若君だった。
「必ずやこの私が姫様と結ばれて見せる!」
美麗な金銀の装飾が施された白磁のような白い鎧をまとったカイという若君が最初の相手だった。
マナがミキから聞いた話だが、昨年領主となったカイは、年若いが謙虚な性格で部下や領民からの評判は上々。試合に参加した者の中で、ミキが自ら召喚した兄以外で直接素性を知る数少ない一人でもあった。
「あの人、誠実で悪い人じゃないけど、何となく危なっかしいんだよね……」
「うん。私も何となく分かる気がする」
試合前の挨拶で彼を見たマナも、隣に座るミキに相槌を打つ。
一方、対峙するサトルは冷静に相手の装備や体躯を見定めていた。
(鎧は装飾優先で間接部がやけに甘いな。身体つきも特に脅威だとは思えない……)
体躯はこの世界の一般人よりはかなり背丈も高いが、21世紀初頭の日本人成人男性の平均身長であるサトルと差は無い。筋肉については鎧に隠されているが、筋骨隆々というほどでもなさそうである。無論油断は禁物だが果たして。
『開始!』
試合開始の大太鼓が鳴らされると観衆が歓声を送る。
「うぉぉぉっ!!」
雄たけびをあげて剣を振り上げるカイ。だがサトルは冷静に相手の身のこなしを観察していた。
(どうにも素人臭い)
振り下ろす剣の一撃を、後ろに跳ねて回避するサトル。
「避けるか、卑怯者め!」
今度は右手に握った剣を振りかぶりながら突っ込んでくるカイ。その攻撃をひらりひらりと回避してみせるサトル。
大きく息を荒げるカイ。だがサトルは息を乱さずゆっくりと後ろに下がって間合いを取る。
「おのれ!まともに打ち合う度胸も無いのか?!」
その言葉を聞くと、サトルは銃ではなく刀に手を掛けて対峙する。サトルはその場から動かず、刀の柄を軽く握って相手が間合いに入ってくるのを静かに待ち受けていた。
「よかろう!今度は逃げるなよ!!」
全力で走って突っ込んでくるカイ。サトルは柄に手をかけたまま静かに構えている。そしてカイが間合いに入った瞬間。
「イヤァっ!!」
「?!」
サトルの甲高い音が周囲に響き、同時に鞘から横なぎに一筋の流星が放たれた。その一時の静寂の後、周囲をどよめきが包んだ。
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