第9話
翌朝。日の出と共に起床したサトルが見たのは、毛布を被って道具箱にもたれかかって寝ているマナの姿だった。
「マナちゃん!」
「お、おはようございますお兄さん……」
驚くサトルに目をこすりながら返事するマナ。
「どうしてベッドで寝なかったんだ?風邪でも引いたら……」
しかしマナは笑顔であるものを見せてくれた。
「布と裁縫道具があったので仕立てておきました!」
マナは夜なべして防刃布を加工してサトルの体格に合わせた服を上下作ってくれていたのだ。
「ありがとうマナちゃん。早速着てみるよ」
サトルはマナが仕立ててくれた防刃服にベストや各部のプロテクターを組み合わせて着込んだ。そしてサイズが見事にフィットしていたことに驚く。
「お兄さん、どうですか?!」
「ああ。動きやすくていい感じだ」
簡単な運動を行うが、動きが全く阻害されないようで機敏に体を運ぶことができていた。その感想を聞いてほっと胸をなでおろすマナ。
そこへドアがノックされ、迎えが来た。
「お兄ちゃん、そろそろ朝ごはん……」
朝食を摂りながら、ミキはマナが一晩で仕立てた服を絶賛していた。
「さっすがマナちゃん!相変わらずお裁縫上手だね!」
「ありがとうミキちゃん……」
「それにしても一晩でお兄ちゃんにぴったりの服を仕立てちゃうなんて……。やっぱり二人は付き合ってたり?」
「そ、そんなんじゃないよ!私、服作るの好きだから、見ただけでどれぐらいの寸法かわかるから……」
マナは顔を真っ赤にして両手をわたわたと振って懸命に否定する。
事実、彼女は定期的にお参りに来るのだが、お参りの後は思い出話を小一時間ほど語るだけであり、サトルもそんな彼女に必要以上に踏み込むことは無かった。
マナにあわせてサトルも溜息と共に否定すると、ミキは残念そうな、同時に安心したような顔になった。
朝食を終えるとサトルは早速予選会場に向うことに。
「お兄ちゃん!」
予選会場に向う前世の兄に転生した妹が呼びかける。その顔を見た兄は満面の笑顔で返す。
「心配するな!」
涙ぐんで言葉が詰まってしまった妹に、兄は軽く笑って応えた。
「俺を誰だと思ってる?お前のお兄ちゃんだぞ!」
予選会場は土塀にレンガの壁に囲まれた場所。家畜を集めて競売にかけたり、動物を戦わせる見世物が行われる場所だった。
ここに参加が認められた二十名ほどの者たちが詰め込まれた。全員体格は良いが装備は半端なものが大多数で、明らかに荒くれ者ばかり。
(少なくともこんな奴らに妹を渡す訳にはいかない)
サトルは改めて勝ち残りを決意して防刃用の強化プラスチック製のヘルメットを被った。
そこに審判役の役人が姿を現して一同に告げる。
「承知の通り、最後に立っていた者が本選への参加資格を得る!」
『おおーー!!』
意気高く得物を突き上げて天に吼える参加者たちだが、サトルは静かに周囲を睥睨するのみ。
「この試合での殺傷は罪には問わぬ!存分に実力を発揮し、勝ち残りたまえ!!」
『おおおーーー!!』
サトルは特殊なゴーグルを目に掛け、マスクも着用。ヘッドフォンらしいものも耳に装着した。
「それでは……、開始っ!」
号令と共に戦闘が開始される。最寄の相手に切りかかって打ち合いになっている者も多いが、五名ほどサトルを組み易しと見て突っ込んできた。
「じゃあ始めるか」
サトルは取り出した筒のピンを抜き、思い切り宙に放り投げた。
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