第5話 長崎、長崎と、何の因果だか、
岡 征十郎は近くに見える大きな屋敷を見て首をすくめた。
細川の土手に遺体が揚がった。すぐ目の前にある屋敷が長崎藩の江戸構えの屋敷だった。
以前の、女の誘拐事件でも長崎が関係し、それ以降、長崎藩に対する警戒が強くなり、やたらと、長崎藩とか、長崎のとかいう言葉に敏感になっているところに、
「長崎藩江戸構え屋敷裏の細川に土左衛門」
と伝達を聞くと、誰となく嫌な顔をしてしまった。
岡 征十郎は数日前の遺体にあった「オクラ」の葉をまず確認した。
あれから、「オクラ」のことを清国所縁の商家に尋ねたが、オクラを食べる風習がないうえに、見た目があまりよろしくないということで、大江戸で見ることはまだないという話だった。それでも、長崎辺りでは出回っていると言っていた。
「長崎、長崎と、もう、正直飽きたな」
同僚の小言に岡 征十郎も苦笑いを浮かべる。
「それより、河内屋の息子は見つかったか?」
「いや、行きそうな場所を探しているのだが、まったく。見当もつかない」
「子供の足だ。関所を超えることはないだろうがな」
岡 征十郎は頷く。
土左衛門はすっかりふやけていて正直気持ちのいいものではなかった。すぐに小早川療養所のほうに解剖に回された。
身元は堺から来た大工だったらしい。大江戸に来てまだ二月と経っていなかった。身元が分かったきっかけは、その男の左小指がなくて、左手の甲に深い切り傷があることだった。何でも仕事に入った屋敷で、酒を飲んだ亭主が、妻との仲を怪しみ包丁を振り回した結果切られたらしかった。なかなかの男前で、男がやきもきするような男だったというので、今回もそういう事情でこの細川にでも遺棄されたのだろう。ということになりそうだ。
「色男というのはなかなかつらいですなぁ」
南町奉行所内同心部屋。
同僚の杉崎―ちょっと冗談や調子のいいことをよく言う男だ―が茶化して言う。
岡 征十郎はここ最近起きた事件を読んでいた。河内屋の息子宗次郎の行方がどうしても判らないのだ。以前の事件で下手人が潜伏していた場所などが参考になればと思っていたのだ。
杉崎は岡 征十郎の机の前に座り、「岡は真面目だなぁ」と言いながら重ねていた事件簿の一つを取り上げて広げた。
「河内屋の息子は無実なのだろ? 逃げる必要はないだろうに」
「だが、本人は殺したと思っている。無実だと解ったのは、居なくなった後だ。本人は知らないままだろう」
「瓦版に載せるか?」
「そう考えたが、助川様―上司の与力―が言うには、瓦版を買うかどうか怪しいと」
「誰かが援助しているだろう、その者の目につけば、」
「そうなのだが、
杉崎が、真剣に書物を見ている岡 征十郎の髷を見ながら、
「お前は本当に、お詩乃の意見を尊重するなぁ。というか、あの女はよく、お前にだけは協力するよな。うんうん、本当に、本当に」
杉崎はそう言って頷きながら立ち去る。
岡 征十郎はゆっくりと顔を上げた。多分、顔は赤くなっているだろう。小さく、小さく、深呼吸をして自分を律するために咳を一つして書物に目を向けた。
過去一年ほどの下手人の逃亡記録などを書き写し、岡 征十郎は街に出た。御用聞き―手下―の寅を従え荒れ寺やら、川原、田畑などの農耕地を過ぎた荒野にまで足を延ばしたが、身を隠せそうな小屋や洞穴に宗次郎の姿は見つけられなかった。
「街道沿いの山のすそ野とかもありますぜ、また明日も探しましょうや」
寅は汗を拭きながら言った。岡 征十郎もそれに頷き、ため息をつきながら腰を伸ばす。
今更のように気づいたが、
「いやですねぇ。ここはあれですよ、この間、土左衛門が上がった細川だ」
寅に言われ、何となく数日前自分たちがそこに居てあちこち調べた様子を思い浮かべていた。
「何をしている?」
声がしてそのほうを見れば、身なりのきちんとした武士が立っていた。
「不明人の捜索で、」
寅が低平にそういうと、男は寅の後、岡 征十郎を見て一瞬驚いたような顔をした。
「そうか、大儀。私はそこの屋敷に勤めているもので、女中やらが川原で男が何かをしているというので、数日前に土左衛門が出て以来女どもが怖がっているので様子を見に来た次第だ」
「そうでございましたか。それはそれは、やかましくいたしまして。私は、南町奉行所同心岡 征十郎ともします」
「長崎藩江戸勤めをしている、早瀬と申す。土左衛門の下手人はどうなった?」
「それがまだ」
「辻斬りか?」
岡 征十郎の眉が少し動いたが、平静のままで、
「いえ、痴話げんかの末のことではないか。という調べになっております」
「痴話げんかか、」
早瀬は腕を組み神妙な顔をしていった。―だが、かすかに右の頬が歪んだのを岡 征十郎は見逃さなかった。
「辻斬りだとお思いですか?」
岡 征十郎は少し節目に聞く。早瀬は岡 征十郎をしばらく見た後、首をかしげ、さも女たちがうるさくて嫌になるというように首をすくめ、
「……女どもがそう騒いでおってな、そうなると、出歩くに不便だと思ってな、痴話げんかであれば問題はなかろう」
「そうですね」
早瀬は頷き、「精進いたせ」と立ち去った。
「お女中のことを気に掛けるなんざ、いい人ですね」
寅の言葉に岡 征十郎は寅のほうを見た。寅は何か間違ったことを言ったかと目を丸くしている。
「いや、お前の観察力には感服するよ。とりあえず今日のところはこれまでにしよう」
寅はさっきまでとは打って変わって足取り軽く歩きだした。岡 征十郎もそれに習って後をついていくが、ふと振り返れば、屋敷側に早瀬が立っていてこちらを見ていた。岡 征十郎は会釈をしたが、早瀬はお前たちを見ているのではない。という風な態度をとって屋敷の中に入っていった。
運び屋が薬を持ってきた。常薬は番頭に手渡し、新薬だけを詩乃に渡す。効能書きを見ながら詩乃は一つ一つ薬を確認する。特別臨床試験が要るようなたいそうな薬は作れない。新薬とはいっても、既存の薬に多少の改良を加えたものなのだ。例えば、どうにもこうにも苦い薬を丸薬にして飲み込めば、苦さは半減できるとか、胃薬にはすっとするような作用のあるものを足すとか、そういったものだ。ほとんどが今までと変わりない。
冬が近づいてきているので、冷え性に効果的。というものに関して、ショウガやトウガラシなどの成分を大目に調合させた。
「そういえば、長崎屋だった場所に、今度は清国由来の南蛮屋っていう店が開くようですよ」
「長崎屋のあとが南蛮屋? 長崎屋ですら、南蛮商品を扱っていたのにかい?」
番頭が、それは非常に怪しい。といった口ぶりで言う。
「そこが狙いらしいぜ、怪しい怪しい、だが、怖いもの見たさ。すでに噂になってるんだから、宣伝効果はばっちり」
「ははは、商魂たくましいねぇ」
「上方の商人らしいですけどね」
番頭と運び屋の話をキセルを燻らせながら聞く。
ゆらりと上る煙を見ながら、詩乃も―長崎、長崎って、まぁ、この半年でよく聞くこと―と思っていた。それだけ長崎に降りる南蛮人の数が増えているのだろう。
岡 征十郎は眉をひそめたまま、母親の突撃に遭っていた。
家に帰り、着替えを済ませたところに、母親が容赦なく入ってきて、見合いの期日を言い渡し、その日は助川様に頼んで休ませていただいたと言い放った。
「ははうえ?」
岡 征十郎は「なんですその間抜けな顔は?」と母親に叱られるほどの顔で聞き返した。
「助川様に休むと? 見合いをすると、言ったんですか? というか、見合いを、本当にするんですか?」
「そうよ。では、明日はきれいに髷をそろえてもらってきなさいね、ひげもちゃんとお剃りなさい。いいですね。明後日ですからね」
「いや、ちょっと、母上!」
岡 征十郎が呼び止めたが、母親は、「あら忙しい」と言って廊下を素早く行ってしまった。
白湯を持ってきた姉の幸が、「諦めなさい」と言った。
「いや、諦めなさいと言われましても」
「気に入らなければ断ればいいだけの話。同心の嫁など苦労します。向こうが難色を示すでしょう。まぁ、あなたに断る理由があれば、ですけど」
「あ、ありますよ。そう。同心の嫁では肩身は狭く、まだ私は未熟者ですし、」
「好いた方が居るからではないのですか?」
岡 征十郎は呆気にとられて開いた口を閉じた。
鈴虫が鳴き出した。
「姉上、少々お聞きしたいのですが、」
「なんですか? 弟よ」
岡 征十郎は幸の態度に片眉を上げたが、
「皆が申すのですよ、私は誰かを好いているのだと、」
「そうではないですか」
「だ、断言しますね」
「お前ほど解り易い人は居ないと、姉は思いますよ。まぁ、妹の、孝子や、洸はまだ若いので解っていないかもしれないけれど、あなたの様子は明らかですよ」
岡 征十郎は幸を見つめる。嘘を言っている風ではないようだ。姉もまた岡 征十郎を見る。
「弟と見つめ合っても何の気も起らぬ。ただ気色悪いだけじゃ。さっさと食事にしますよ」
と部屋を出て行った。
岡 征十郎は肩を落としてため息をついた。
「私は、そんなに解り易いのか?」
―ならば、詩乃にも伝わっているのだろうか? いやいや、なぜに詩乃だ? いや、詩乃なのだが、だが、あいつは、そんな素振りなど見せぬし、伝わっていないかもしれぬ―岡 征十郎はその場に胡坐をかいて座り込んだ。恥ずかしさから体温が上がり、冷静になって体温が下がり、を繰り返して気分が悪くなってきた。
秋のよく晴れた、とても心地いい天気だった。
見合い場所は父親の同僚であり、仲人もしてくださる堤様の屋敷だった。
立派な庭に茶席がたてられていた。何人もの人がいたが、それと解る人の横に、堤様の奥方が寄り添っていた。このあからさまな見合いに岡 征十郎はため息が出る。
普通なら、街中ですれ違うとか、もっと別の方法があっただろうに、向こうも必死なのか、秋の茶席にしては豪華な着物を着ていた。
設けられた茶先の一組に混ぜられ、横に座らされればもう相手が解りきってしまう。一通り茶をいただき、和やかに会話をした後で、周りはそそくさと居無くなる。なんとも段取りの良いことだ。岡 征十郎が呆れていると、
「岡様ですか?」
と聞いてきた。それ以外ないだろうに。と思いながら、「そうです」と短く答えた。
「いきなりですけど、蘭学をどの程度ご理解おありですか?」
と聞いてきた。
あまりに突拍子のないことに岡 征十郎は横に座った相手を見た。確か、北町奉行所勤めをしている皆川 正史郎さまの長女だったはずだ。名前は薫子。とても普段着慣れているとはいえない着物を着て、窮屈そうな顔をしている。眉間にしわを寄せていて、とても不愉快だと言わんばかりの顔だった。
「わたくしは、蘭学を学んでおりますの。いずれは、長崎へ行き、本格的に学びた
いと思っておりますの。ですから、このお話は無駄だと申したのですけれど、母が、心の臓がなどとうそぶきますので、仕方なく参っただけです。本気になどなりませぬように」
「……はぁ」
岡 征十郎は呆気にとられた。はっきりとモノを言う女性は覇気があってキライではない―詩乃もはっきりものをいうほうだから―だが、この薫子の物言いは、どこか癪に障るものがあった。
「そもそも、勉学に励みたいと言っているのに、なぜ嫌な相手と結婚などしないといけないのでしょうか? 無意味。無生産ですわ。蘭学こそ大事。蘭学こそ唯一ですのに。それに、あなた様には、近江先生ほどの理解力を感じませんし」
「お、近江先生?」
「まぁ、近江先生をご存じないのですか? まぁ、驚いた。ありえませんわ。近江先生は蘭学医師としてとても素晴らしく、今は私塾を開き私どもにお教えくださってますのよ。古き考えを一新することこそ新たな時代を開ける。とおっしゃって、女であるわたくしにも親切丁寧に教えてくださいますの。……その近江先生をご存じないとは。……はぁ、やはり、わたくしには合いませぬわ」
薫子の言い分に多少イラっと来ていた岡 征十郎の目に空蝉の姿が見えた。一瞬背中が緊張した。―何で、あの男が?―
岡 征十郎は、空蝉と詩乃の関係を知らない。だが、一緒に居るところは見たことがある。どういう関係だと聞くことはできない。なぜ気にする? と聞かれたときに、答える言葉に困るからだ。
空蝉が気付いたようだ。その側に居た尼もその様子を察したかのように岡 征十郎のほうを見た。
非常に美しい尼だった。年は取っていても気品と、知性を感じさせられる。
「そなた……、今、話しても大丈夫だったかしら?」
「あ、……はい、」
岡 征十郎はその、なんとも言えない威圧に返事をする。
「そなた、先のこと……詩乃の手伝い大儀であった。またあれを支えておくれね」
「あ、あの?」
尼はにこやかに微笑んで立ち去った。空蝉も会釈をしていってしまった。
「岡様? あの方、どなた?」
「さぁ? 詩乃の手伝い?」
岡 征十郎が腕を組んで考え込んだ姿に、薫子の気に障ったらしく、
「見合い場に女の影を見せるなど、なんという無礼な」
と立ち上がった。
岡 征十郎は明らかに―いや、あんたのほうが先に断ったり、近江先生とか名前を出しただろうに―と嫌そうな顔を向けたが、薫子はふん、ふんと言いながら歩いて行った。本当に、ふんふん言いながら歩く人がいるものだ。と見送りながら、―確かに詩乃はあの
岡家に薫子からの正式な交際拒否が言い渡されたのはその日の夕方だった。理由は、「征十郎さんがほかの女のことを話した。何と無礼な」ということだった。母親はかなり腹立たしく岡 征十郎にいきさつを聞いてきたので、いきなり、結婚する気はないとか、蘭学もできないような男は信用できないなどなど言われたことを言い、そのあとで、べらぼうに美人―とはさすがに言わなかったが―の尼に声をかけられたら怒ってしまったと言った。
「あなた、藤色の頭巾の尼の方ですか?」
「はぁ、そう、そうですね。藤色でしたね」
「……あなた、なんで更科尼様とお知り合いなのです?」
「更科尼というのですか、あの方は?」
母親は絶句した。
「知らないとはいえ、今度会うことが、いいえ、そうそうお目にかかれる方ではないのですけど、お会いしたら、どうぞ、いつも以上に丁寧になさいね」
「ですから、その方はいったい?」
母はそれ以上は言えませぬ。と言って部屋を出て行った。薫子からの断りの返事に母は、「我が息子は蘭学は不向きですので、お相手としては無理なようです」と送ったらしい。多少の意地悪に感じたが、岡 征十郎はこれ以上見合いをさせられるのは勘弁してもらいたいので、おとなしくしていた。
母親は、更科尼に声をかけられた息子のことをどうも引きずっているようだが、なぜそうも気にするのかは言わなかった。
「あら、お暇なお上」
更科尼のことが気になっていたので、行くべき場所は六薬堂しかなかった。だが、どう切り出そうか迷って店先に立っていると、出先から帰ってきた詩乃に声をかけられ、いつも通りの顔で振り返る。
―弟よ、お前の顔は解り易い―と言った姉の声が思い出され、眉をひそめた。
「何よ?」
「いや……、うん」
「はぁ? いつにもまして変だよ」
詩乃は暖簾をくぐって一歩足を入れてから、
「入るの? 帰るとこ?」
「あ、あぁ……、聞きたいことが、」
と詩乃に続いて中に入った。
中に入って眉を顰める。
「なんだそれ、」
「あ? 運び屋が持ってきたチラシだよ。南蛮屋って店が長崎屋のあとにできるそうな」
「南蛮屋?」
「そう。蘭学書物に、南蛮小物を取り扱うのだと」
「蘭学」
岡 征十郎が嫌そうな顔をする。
「何?」
「いや……、どうも、あの一件―女誘拐事件―以来長崎だとか、南蛮とか、蘭学だとかがやたらと聞くのでな、」
「……確かに、あたしもうんざりする……ところで、聞きたいことって?」
「あ、……いや、大事ない」
「そう……宗次郎は見つかった?」
「まったく見当がつかぬ。どこかに匿われているのだろうが、話を聞けば聞くほど人付き合いをしなかったようだから、行く当てがないのだ」
「庭師の親方の処は?」
「姿を消す前に現れたそうだが、親方が明日から行けると言ったら、待っているとそれっきりだそうだ」
「どこへ消えるというんだろうねぇ。会ったら聞きたいんだけどね」
「何をだ?」
「えすぷりまりす」
「なんだ?」
「仮説がないわけじゃないんだけど、あたしなりに探ってみているけど、そんな様子は今のところないし、」
「おい、」
「Espiritus malignosエスパニア語で悪霊退散という意味なんだけどね」
「え、えすぱにあ?」
「そう……、貿易開港していない国の言葉だよ。だけど、まったく居ないというわけじゃないようなんだけど、」
「居ないだろ? オランダ人か、清国かしか、」
「傀儡師が聞いたんだよ、Buen bayeって」
「な? なんだと?」
「いいよ、もう、聞こえないんだから。ともなく、それをしゃべる私塾を探せと言っているのだけど、傀儡自体も気にせずに歩いていて聞いたんで、どこで聞いたか解らないというんだ」
「ちょっと待て、じゃぁ、そのエスパニアの私塾に宗次郎が居るというのか?」
「いや、表向きは蘭学塾だと思うね。エスパニアの塾なんて役人に目につけられるどころか、大罪じゃないか、バカ」
詩乃の言葉に番頭のほうが顔をしかめる。―岡様は、まったく。詩乃さんに暴言を言われてうれしがっているようでは、もう、周りにバレバレなんですけどねぇ―意地悪に鏡でも見せようかと思うほど、岡 征十郎は詩乃と話している時楽しそうなのだが、本人は、いたって冷静に話していると思っているらしい。それが面白いので、詩乃は放っておけという。
番頭が店の外に若い娘を見つけた。中に居る岡 征十郎を見て不機嫌そうな顔をしている。
「岡様? お知り合いですかい?」
番頭が声をかけると、岡 征十郎が振り返る。暖簾がはためく隙間から見えたのは、
「薫子殿?」
見合い相手の、勝手に岡 征十郎を振った相手だった。岡 征十郎に見つかった途端、薫子は走っていった。
岡 征十郎は「はて?」と首をかしげて店の中に戻る。
「お知り合いで?」
「あ……、まぁ、かまうな。それで、傀儡はどのあたりで聞いたかという見当も全くないというのか?」
「無いようよ。あいつもあちこちへ行くからね」
「人が多いか、少ないかだけでも探す手引きになるのにな」
「奇妙な言葉だと思ったのだから、人は多くないのじゃない? 人が多ければ、言葉は聞こえにくいからね」
「確かに。……河川敷、田畑地区を探ってみるかな」
「それがいいわ。どうせ暇なんでしょ」
「忙しいわっ」
岡 征十郎はそう言って生気を養ったように出て行った。
―単純―番頭はそう思いながら、帳簿へ目を落とした。
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