017 才能なしのピアニスト①Ⅰ
四月の朝はまだ、肌寒くて布団から起き上がるのに一苦労する。
目覚まし時計を確認すると、丁度、午前五時だった。
いつもだったら六時半には起きるはずなのにそれよりも一時間半早く目覚めてしまった。昨日は、いつも通りに十二時には眠りにつき、それから一度も起きていない。目を覚ましたのはいいが、布団の中から起き上がるにはまだ早すぎる。
まだ、朝の五時なのか空の明かりは未だに薄暗く、新聞配達のバイクのエンジン音が聞こえてくる。奥の部屋から聞こえてきそうなピアノの音は聞こえない。二度寝をするのもあまり体に良くない。
時間が来るまで布団の中でスマホを触りながら暇を持て余す。充電が満タンになった状態でコードと繋がっている。
電源を入れ、パスワードのロックを解除する。そして、浮き上がって出てくるのは無数のアプリである。
日用アプリからゲームアプリまでびっしりと埋まっていた。
天気予報のアプリを起動させて、自分の地域の天気やアメダス、雨雲レーダーなどを細目にチェックをしていた。
今日の天気は午前六時以降から雨マークが表示されている。雨雲レーダーを見ても小さな雨雲が丁度、掛かっているのだ。
一時間の雨量三mm。
一週間の予報でも晴れの日よりも雨の日が多い。
こういった天候に楽器の音は、少しのズレを起こすのだ。湿っぽさや乾燥、あらゆる状況から弾き方などを変えなければならない。雨の日は特に音が響かない。どんなことにも雨の日というのは誰もが迷惑と思ってしまう日である。
SNSを開き、今現在のニュースやトレンドを見た。特にスポーツの記事を見ていると面白いのだ。成績順位や勝利者コメント、敗者コメントを見ていると何となくその人物の気持ちや今後の成績を予想してしまう。
世間のニュースは一通り確認しておくが、結局は同じことの繰り返しで面白さなど全くない。むしろ、つまらないのだ。
政治家や犯罪を犯した人間の特集を永遠に繰り返して報道し、結局は視聴者にとって何の得があり得るのだろうか? クズな人間がやっただけで早く終われよとしか思えない。同情なんてない。アホにしか思えないのだ。
————
と、いきなり誰かからメッセージが届いた。
LI〇Eのアプリを起動させて、送信者の名前を確認する。そこには漢字二文字で
————こんな時間に何ですか? 怖いものでも見たんですか?
————見るかボケ! 俺が怖いのが苦手なわけがねぇーだろ?
メッセージからでも伝わってくる。颯介の幽霊嫌いは、今に始まったことじゃない。でも、もう、朝の五時なのだからそれは違うだろう。
————はい、はい、分かりましたからそれで本当は何なのですか?
————二度寝が出来ない。どうすればいい? お前ならどうするんだ?
————知りませんよ。二度寝したら次起きる時どうなっているか分かりませんからね。音楽か、テレビでも付けて寝ればいいんじゃないんですか?
————そうだな。ああ、でも、いま朝のニュース番組以外何もやってねぇ。
————朝ってそういうものじゃ……。
————音楽って何を聴けばいい?
————クラシックは絶対ダメですね。聴くならテンポのいいJ―POPとかですかね……。
————分かった。ところで、お前は何をしているんだ?
————ZZZ……。
そう言うやり取りをして、優翔は消えるように静かにアプリを消した。
既読もつけずにそのまま————
布団から起き上がり、体を震えさせながら部屋を出てトイレに向かった。
「あら、おはよう。もう起きてきたの?」
顔を洗い、タオルで拭く。水が頭を覚ますのに適度な冷たさだ。
「はい。少し眠れなくて……。トイレに行きたくなったんですよ」
と、欠伸をしながらトイレの扉を開け、明かりを点ける。
「ふーん。あ、そうだ。今日は弁当いるんだっけ?」
「入ります。すみません。毎朝こんな時間から作ってもらって……」
「別にいいのよ。私の仕事はいつからでも始められるし……」
姫花もいい年で彼氏もおらず、今までずっと、ここの大家を任されている。朝の朝食と高校生の弁当を作ってくれて面倒見のいいお母さん的な人だ。
彼女の裏の顔は、人気作家であり、メディアにも顔を出さないほどの謎に包まれていると言ってもいい。その正体を知っているのが、ここの住人だけである。
だから、この荘は、金持ちという面、安心して生活が送れるのだ。
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