016  不協和音⑤Ⅲ

「よし、つべこべ言わずに始めるぞ! それでは三番勝負、第一試合スマ〇ラタッグバトル。レディー・ゴー‼」

「ノリノリだな。とにかく、りん。ここはひとまず休戦といこうや」

「おうネ。そうちゃん、足引っ張る名アルヨ」

「それは俺のセリフだ。ダメージ喰らわせるぞ、コラァ!」

 ゲームが始まっても一向に喧嘩が収まる気配すらない。

「言っておくが、このタッグ戦は味方に攻撃したらダメージをくらうから注意しておくのだぞ。それを分かった上でやりたまえ」

「あれ? そんな設定ってこのソフトには入っていなかったような……」

「ああ、俺がこの前こっそり改良しておいた。心配するな。バグは発生しない」

「あんたが改造したんか! それにしもどうやって改造できるんだよ!」

 後ろを振り返って、自慢そうに話している慎一しんいちが強く頷いていた。

 同時に、颯介・鈴のペアがダメージを共に与え合っているのがすぐに分かった。

「おい、慎一。てめぇ、余計な事をしてくれやがって、戻せ! 元に戻せ!」

「無理だ。リスクがないと、面白く無い。プレイヤーの誰もが思うことだ。戻したら面白さが半減してしまうだろ?」

 颯介に言われて、慎一は笑って答える。どうみても、彼から見て俺たちはテストプレイヤーとして利用されているのかもしれない。

優翔ゆうと君、仕掛けるなら今じゃない?」

「だな。今だったら強力な二人を倒せるのかもしれない……」

 最初にダメージを与えておけば、そのまま有利に試合を運んでいけるかもしれない。

「颯ちゃん、優翔たちが襲い掛かってくるアルネ。どうする?」

「ああ? そんなのは避けてからカウンターすればいいだろうがぁ!」

 AとBボタンを連打し、十字ボタンを素早く押していく。

 操作しているキャラクターが、指示通りに動いていくのだ。

「おお、これは裏技回避システム」

 目を輝かせながら慎一は、立ち上がって興奮している。

「はい?」

「あれはネットで見たことがある『AとBを正確に十字キーも同時に押すと、低確率で発動する技』だ。まさか、ここにきて出てくるとは……。颯介、お前相当やりこんでいるらしいではないか。どうした? あまり、ゲームもしないお前が……」

「うるせぇ。今は、集中させろ!」

 必死に画面を見ながら颯介が指を動かす。そのまま敵の懐に入り、カウンターを仕掛けてくる。だが、優翔たちも負けていない。

 第一試合目は、あっけなく颯介・鈴が勝ってしまった。

「よし、お前ら、終わったからもうやめるぞ。こいつに付き合っていると次、どんな面倒な道具が飛び出してくるか分からないしな……」

 と言って真っ先に颯介が戦線離脱せんせんりだつしてしまった。

 鈴も欠伸をしながら頭を掻き大広間から出て行く。

 そして、明日奏あすかは疲れたようで、「先に、部屋に戻るね」と言って、姿を消した。

 そして、優翔と慎一だけがこの場に残った。

 さすがに二人だけだと居心地が悪い。それもそうだ。

 慎一は残り二試合をさせるつもりだったのだ。

「なあ、優翔」

「なんですか? 慎さん」

「なんで、俺ってこういう態度を取られるの?」

 画面を見ながら慎一がぼそりと言う。

「あんたがそういう性格だからですよ。ま、いまさら直せって言われても皆、対処法には慣れていますからね」

「あ、そう。俺の性格がね……」

「そうですね」

「あーそうか、俺か、でも、今更直せる気もしないからな。面倒だな……。ねぇ、続きやらない?」

 優翔は立ち上がって、何も言わずにそのまま自分の部屋に戻った。

 慎一は一人残って、涙が出そうで出なかった。

「もう、いいわよ! 俺一人でもやっているわ! みんなして冷たいんだから!」

 慎一は、大広間で独り言を叫んだ。

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