015  不協和音⑤Ⅱ

「くそっ! 優翔ゆうとごときに負けるなんて、ありえない。ありえない!」

「颯さん、いじけないでくださいよ。たかが、ゲームごときで……」

 優翔は、颯介そうすけの右肩に優しく手を乗せて慰める。

「颯ちゃん。何、優翔に負けているアルか!」

「いやいや、負けていないって! ちょっと手が滑っただけだ。大丈夫、たぶん次は勝てるはずだ! ネバーギブアップ」

 颯介は、応援ソングみたいな言い方をして自分に自分を追い詰めるようになっていた。りんは颯介からコントローラーを取り上げると、颯介をその場から退かせる。明日奏あすかも、テレビ台の下のスペースに余っていたコントローラーを手に取って接続を開始した。颯介も同じく、体を起こしながらしぶしぶと手に取る。

「鈴、目の前に使っていないコントローラーがあるんだから、そっちを取れよな」

「嫌アル!」

「うるせぇ! お、お前。それでもいいのか? 脳筋のうきん娘にゲームができるのか?」

「それ、私を馬鹿にしているのか?」

「ああ、そうだ。現実では強いかもしれなーい。だが、仮想空間ではお前の自慢であるその力は使えないんだよ!」

 睨みつけてガンを飛ばした後、鈴はキャラクター選択に真剣になり、どれが自分に合った戦闘スタイルなのかを今日の気分で細目に調べた。優翔は溜息をつきながら、自分が使い慣れているキャラクターを選択した。

「それ、私が先に選んでいたのになんで同じにするの?」

「なんでと言われても、さっきも見ていただろ? 俺は自分が慣れている物しか使いたくないんだよ」

 隣で他に文句を言ってきた明日奏が、頬を膨らませながら優翔に対してコントローラーで軽く叩いてくる。だが、その隣では颯介と鈴が親子喧嘩をしているのだ。これは事態の収拾がつかないと思ったが、

「うん? 颯介、お前らは何をしているのだ?」

「なんだ、慎一か……。ゲームだよ、ゲーム」

「それはもしかして、あのファミコンなのか?」

 慎一しんいちが腕を組みながら畳に座った。

「ふっりーよ! ファミコンと言っている時点で時代遅れの人間だ!」

「それじゃあ、プレステなのか?」

「どっちも十年以上前のテレビゲームだ! 今時の子供はまず知れねぇ!」

「冗談だ。とにかく、遊ぶなら仲よく遊ぶのがゲームの基本だろ?」

 最先端の技術を持ちながら、頭の中は空というか、古いと言ってもいい慎一は笑った。

「慎一にしては、いい事を言うな」

「なら、こうすればいい。題して、『第二十一回キチキチ男女ダブルスゲーム大会』を始めようと思う」

 なぜか、当然のように企画者兼司会者になりきっている慎一は、信仰を始めた。

「では、ルールを説明する。お前ら二人がペアを組み……」

「って、なんでお前が仕切ろうとしているんだよ! つか、なんで俺達が二人で組んで戦わないといけないんだ!」

「そんなに焦るな、颯介。言っただろ? ゲームは仲よく遊ぶのが基本だって……。お前らに欠けているのは団結力だ。いくら個人能力が高いからと言って、それだけではこの先、生きては行けんぞ」

 お前が言うか。明日奏以外の三人がそう思った。

「だが、俺と鈴が組んだところで暴走する小娘をサポートできる自信はねぇーよ」

「暴走って何ネ。颯ちゃんだって、私より暴走するときがアルヨ」

 颯介と鈴は、また親子喧嘩を始める。口喧嘩は、いつも通りだがたまにはシンクロして、息が合うときもあるのだ。

「慎さん。あんた、このまま二人を喧嘩させておきたいんですか?」

「ふん。そう焦るな。俺だって、昔は颯介とは結構喧嘩していた方だけど、今となってはこういう付き合いになってしまったものだ」

「明日奏、仕方ないから慎さんの意見に乗っかった方がいいらしい。今日だけは、この人はいつもより真面目に考えているらしいからな」

 優翔は、明日奏を見ると、彼女は小さく頷きながらこの話に乗っかった。

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